カサンドラ・クロス ★☆☆
(Cassandra Crossing)

1976 US
監督:ジョージ・P・コスマトス
出演:リチャード・ハリス、ソフィア・ローレン、バート・ランカスター、マーチン・シーン



<一口プロット解説>
致死的な細菌に侵されたテロリストの一人が、ヨーロッパを縦断する国際列車に乗り込んでしまう。
<雷小僧のコメント>
ある本にこの映画には決定的なエラーがあると書かれていました。そのエラーとは、走行する列車の方向が一瞬で変わってしまうというものです。これは、窓の景色の流れる方向が、ある一瞬の1ショットをはさんで反対になっている為なのですが、私目など劇場、TV、ビデオで少なくとも5回はこの映画を見ているはずですが、そんなことには一度も気付きませんでした。そこで、改めてビデオでもう一度見たわけですが、確かにその通りであるように思います。けれども、これはほんの一瞬の出来事であり、こんなことに気が付く方がおかしいのではないでしょうか。そもそも、わざわざそんなことを持ち出さなくても、捜そうと思えばこの映画には理屈に合わないところが無数にあります。たとえば、これだけの大事件(治療不能と思われている細菌に感染したテロリストがヨーロッパを縦断する列車に乗ってしまったという筋書き)なのに、バート・ランカスター、イングリッド・チューリン、ジョン・フィリップ・ローの3人しか事に当たっていないのはどう考えても変であるし、罹患率が60%という伝染病に何故かマーチン・シーン以外の主要登場人物は罹患しないのも変です(罹患率30%と言っておけばかなり信憑性が上がるはずですがね)。又、列車が予定のルートを通らない理由を対策本部のランカスター達がでっちあげるのですが、それはフランス国内各所に爆弾が仕掛けられたというものです。しかし、いくらフランス国内で爆弾が仕掛けられたと言っても、ノンストップでドイツに向かって突っ走るのはいくら何でも変であり、乗客の誰一人それに気付かないとすればあまりにもお粗末と言わざるを得ないでしょう。又、最後の方のシーンで、マーチン・シーンが武装した兵士を避けて先頭の機関車に屋根を這ってたどり着こうとするのですが、屋根に兵士がいるなどと口実をつけビビって出来ないのですが、そのすぐ後で何を思ったか列車の外側面にへばりつきながらじりじりと進んでいけば何とかなると言って実行するのです。何なんでしょうかねこの人は。誰がどう考えても列車の側面にかじりついて蟹のように横ばいに進むより、屋根を這った方がはるかに簡単なのではないでしょうか。いずれにしても、この手の理不尽が他にも色々とあります。
それから、もう1つ付け加えておきたいのが、70年代のパニック映画には素晴らしい主題歌を持ったものがいくつかあります。たとえば、「ゴールド」(1974)の「Wherever Love Takes Me」、「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)の「The Morning After」、「タワーリング・インフェルノ」(1974)の(We May Never Love Like This Again)で、後の2者はオスカーを獲得しているはずです。この映画もそれにあやかろうとしたのか、歌を歌うシーンが登場するのですが、この歌がお粗末で歌っている女の子も下手くそなので、無い方が良かったのではないでしょうか。この映画の音楽を担当しているのは映画音楽界では有名なジェリー・ゴールドスミスですが、まさかこの人が作曲したのではないでしょうね。特にタイトルバックのフルオーケストラによるゴージャスな音楽が素晴らしいのに比べると、同じ人が作曲したとはとても思えないのですが。
ここ迄どうも悪いことばかり書いてしまったようですが、それでは何故この映画をここにわざわざ取り上げたのでしょうか。その理由は、私目が列車を舞台にした映画が大変好きだからです。特に高速で走る列車の上でサスペンス溢れるストーリーが展開するのは、その緊張度が倍増すると言っても過言ではないでしょう。たとえば、ヒチコックの「北北西に進路を取れ」(1959)で最も好きな場面と言えば、私目の場合には例の最後のシーンよりも列車内でのシーンの方です。ところで、それならばもっと高速で移動する飛行機を舞台にしたパニック映画はもっとスリル溢れる映画になるのではないかと思われるかもしれませんが、そうはなりません。何故ならば、飛行機は空に浮いて動くので映像上では止まっているのと一緒だからです。つまり、静止しているものとの対比がなければ、スピード感など出るはずもないということです(よく写真などで提示している物体の大きさがわからない場合、普段馴染みのハイライトの箱を横においたりしますが、あれと似たようなもので比較対象物がなければ人間の知覚など大して意味をなさないのですね。とはちょっと大袈裟かな)。そう言えば比較的近作の「エア・フォース・ワン」(1997)では最後の方でそういう点に関してえらく無理をしていたような気がします。恐らくそういう空の映画は、実際基本的にはスタジオ録画なんでしょう?その点、列車の場合は、車窓の景色等を通して実際のスピード感を出すことが出来るわけです。いわば知覚的に現実レベルの緊張感が出せるということです。それは比較的近作の「スピード」(1994)等を見てもわかります。この作品がタイトル通りスピード感溢れた素晴らしい作品になっていたのも、我々の生活とは比較的疎遠な関係にある飛行機だとかロケットだとかいうようなものではなく、エレベーターやバスや地下鉄等のより日常的で我々のすぐそばを走る乗り物が使用されていたからであるように思われます。二匹目のどじょうを狙った「スピード2」(1997)が全然面白くないのも、景色が遠景的にならざるを得ないクルーザーが舞台とあっては、スピード感などどこかへ消し飛んでしまうに決まっているからです。
さて「カサンドラ・クロス」に戻りますが、ヨーロッパ各地のロケも大変ビューティフルで、ジェリー・ゴールドスミスの音楽(先に述べた歌は除いて)とあいまって非常にドラマティックな効果を引き立てていると言えます。ヨーロッパの風景というのは、アメリカの風景と違ってどこか馴染みのところがあるような気がします。壮大さではなくて、何か箱庭的な風景が日本の風景と似通っているのかもしれませんね。それとやはり、米英伊典の国際的な豪華キャストでしょう(そうそうエヴァ・ガードナーもすっかりお年を召されましたね。それからあのO.J.シンプソンが出ています)。まあ結論的に言えば、先に述べたような細かいミスに目をつぶれば、サスペンス映画としてはなかなかよく出来ているのではないかと思います。Mick Martin のビデオガイドでは七面鳥(サイテー映画)になっていて、たった一行のコメントしか書いていないのですが、確かにこの手の映画が傑作と言われることはまずないとしても、これはチョット手厳しい評価というか、はっきり言って手抜きですね。

2000/07/22 by 雷小僧
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