寝室ものがたり ★★☆
(Bedtime Story)

1964 US
監督:ラルフ・レヴィ
出演:デビッド・ニブン、マーロン・ブランド、シャーリー・ジョーンズ


<一口プロット解説>
ある海浜リゾートで有閑マダムからお金を騙し取るのを生業としているデビッド・ニブンの元に若いライバルのマーロン・ブランドが現れ、どちらがそのリゾートに残れるか賭けをする。
<雷小僧のコメント>
マーロン・ブランドのコメディ出演というのはあまりないように思いますが、これはその数少ない1本です。しかし、相手が歴戦のつわものデビッド・ニブンですので、やはりというか当然のことというかここでは少し分が悪いと言わざるを得ないでしょう。ニブンのような独特な雰囲気を持っている俳優は、最近あまり見かけないのですが、これは恐らく映画を見る側の見方が変わってしまったということでしょうか。その辺は、あとで説明してみたいと思います。それから、この2人がペテンにかけようとする相手をシャーリー・ジョーンズが演じています。この人は確か「エルマー・ガントリー」で、バート・ランカスターとともにオスカー(助演女優賞)を頂戴している程の演技派なのですが、あまり日本では知られていないのではないでしょうか。どこか、いかにもアメリカの健康美人という感じがよく出ていて(但し「エルマー・ガントリー」ではちょっと違いましたね)私目には好きな女優さんの1人なのですが、少しく残念です。
さて「寝室ものがたり」のプロットですが、ある南仏の保養地に、有閑マダムからお金を巻き上げて社会に還元するというロビンフッドのような(まずい!こういうことを言うと女性に嫌われますね)生活をしているベテランペテン師(デビッド・ニブン)が住んでいるのですが、そこへ若きペテン師(マーロン・ブランド)がやって来ます。2人とも金持ちの女性がターゲットなので、そこは過当競争必死な状況になってしまうわけです。そこで彼らはある賭けをしてこの状況を解決しようとします。すなわち、ある女性(シャーリー・ジョーンズ)から先にある金額を騙し取った方がその保養地にとどまることが出来るという賭けです。最初の内は、ベテランのニブンがことごとくブランドを出し抜くのですが、ある時実はこの女性は金持ちでないことに気がつきます。最後は結局ブランドが賭けに勝つのですが、実はこの女性が思いやりのある素晴らしい女性であることにブランドが気が付いてこの女性と結婚してしまい、賭けに勝った権利を放棄してしまうわけです。
要するに、最後は何か教養小説か何かを読んでいるような結末になってしまうのですね。この辺の取扱いは見る人によっては、いかにも古臭いように写るかもしれません。この映画のリメイクである「ペテン師とサギ師」を見るとそれがはっきりします。「ペテン師とサギ師」は、ニブンの役をマイケル・ケインが、ブランドの役をスティーブ・マーチンが演じています。プロットは、ラストシーン迄はほぼ「寝室ものがたり」と同じであると言うことが出来ますが、ラストシーンが決定的に違うのですね。要するに、2人が騙していたと思っていた女性(グレン・ヘドリー)の方が実は1枚も2枚も上手のペテン師で、ケインもマーチンも共にこの女性にまんまと一杯食わされてしまうのです。正直言えば、私目はラストシーン迄は「寝室ものがたり」の方が好きなのですが、このラストシーンに限ってはこのリメイクの方がはるかに優れているように思えてしまいます。それは、先程も言ったように、古臭さというものをオリジナルの方に感じてしまうからだと思います。恐らくこれは現代の方が物の見方が冷めているということなのかもしれませんが、要するにオリジナルの中庸的な取扱いは今の観客には合わないのかもしれないということです。たとえば、昔確か「これが青春」とか何とかいう竜雷太(森田健作だったかな?)が主演していたテレビドラマがあったかと思いますが、今あれを見たとするときっと背中がむずがゆくなってくるに違いありません。或いは漫画の「巨人の星」でもいいかもしれません。今は、冷めた目でこの漫画の登場人物はよく泣くななどと思うかもしれませんが、そう言っている人が昔は真剣にこの漫画を見ていたりするものです。ところで、デビッド・ニブンという俳優は、いかにもこういう中庸という美徳を全身から漲らせているような俳優さんなので、このタイプは今ではあまり受けないかもしれませんね。
また、もう1つ言えるのは女性に対する物の見方がここ30年で大きく変わったのかもしれないということです。1960年代の初頭では、女性が男性を騙すというプロットでは余程うまくしないとコメディが成立しなくなる怖れがあったということです(私目の大好きな「男性の好きなスポーツ」(1964)等はかなり例外的でしょうね)。勿論、「寝室ものがたり」が制作されたのは1964年であり、私目はまだ4歳でそういうことは分からなかった訳ですがこの可能性は十分あると思います。それに対し、「ペテン師とサギ師」が制作されたのは1980年代であり、女性が男性を騙したとしても何ら不思議はなく、それが理由でコメディとしての地位が危うくなるというようなことは最早なくなったということではないでしょうか。
いずれにしても、古い映画を客観的に見ているとこういう現代との見方・感覚のずれというものがよく分かるものが多くあります。けれども、これをただ古いと言って切捨てていては何の得もないように思います。逆に、古い映画に古さを感じることによって、実はそういう見方が生きた見方として存在していた時があるということを知ることにより、現代の我々の見方を相対化することが出来るのではないでしょうか。後50年もすれば(いや10年かもしれません)今の我々の見方も背中がむずがゆくなるような代物になっているかもしれないのです。

1999/04/10 by 雷小僧
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