追想 ★★★
(Anastasia)

1956 US
監督:アナトール・リトバク
出演:イングリッド・バーグマン、ユル・ブリナー、ヘレン・ヘイズ、アキム・タミロフ


<一口プロット解説>
革命の為に処刑されたと思われていたロシア皇帝の娘アナスタシアが、ロシア皇帝の家族によって懸けられた懸賞金を狙う山師ユル・ブリナーの前に現われる。
<雷小僧のコメント>
最近これと同じテーマを扱ったアニメが出ていたのではないでしょうか。けれども、ここに取り挙げるのはそのアニメ版ではなく1956年に制作されたものの方です。私目の持っている「追想」のビデオは、多分最新の技術を駆使してビデオ化されているのでしょうが、1950年代中盤の映画にしては驚く程奇麗なカラー画面になっており、この年代のカラー映画のビデオ化によくありがちな、遠景が色あせて白黒のように見えてしまうというような症候群に陥るということがありません(尤もこの映画は、屋外シーンがほとんどない為、遠景がほとんど存在しないのも事実ですが)。特にこの映画は、視覚的効果というものが重要な要素の1つをなしているので画面が奇麗であるということはかなり重要なことであるように思います。
この映画のポイントは2点あります。1つは、先程述べた視覚効果であり、もう1つは、パフォーマンスです。視覚効果に関して言えば、こういう準歴史物の映画にはつきものの衣装であるとか宮殿内のインテリアであるとか、そういったゴージャスなアセットを如何にゴージャスに見せるかという点が大きなポイントになると思いますが、この映画はこの点に関して非常によく出来ているのではないでしょうか。そういう意味では、この映画はビデオで見るよりも映画館の大画面で見た方がいいんでしょうね。まあ、今更この1956年制作の映画を映画館で見るというのはほとんど不可能でしょうが、もし間違ってどこかでやっていたら札幌あたりでも見にいってもいいですね。尚、基本的に私目はそんなに映画は映画館の大画面で見なければいかんとは思わないのですが、こういう映画を見ている時だけは別で、この映画はやはり映画館で見るべきであるように思われます。それから、アルフレッド・ニューマンの音楽がまた素晴らしいですね。こういう映画には、ゴージャスなフルオーケストラの大袈裟な音楽が不可欠であるように思うのですが、ニューマンはここでも素晴らしくドラマチックな音楽を作曲しています。近年の映画音楽の傾向は、どちらかというと音楽がなるべく突出しないように配慮されているように思われます(ジェームズ・ホーナーやジェームズ・ニュートン・ハワードらの音楽を聞けば明瞭です)。確かに映画音楽としてはその方がいいのかもしれませんが、やはり映画の印象まで変えてしまうような音楽を期待するのは私目だけではないのではないでしょうか。
パフォーマンスについてですが、主人公のアナスタシアを演じるのはかのイングリッド・バーグマンなのですが、この映画で「ガス燈」(1944)に続いて2つ目のオスカーを獲得しています。この人は、どうもこの映画の直前の5年間はイタリアの映画監督ロベルト・ロッセリーニを追いかけてイタリアに行ってしまっていたようで(この時に出来た娘が女優のイザベラ・ロッセリーニ(あの「ブルー・ベルベット」(1986)でカイル・マクラクランが覗き見していた人ですが、妙に色が白い人ですねこの人は)です)この映画でハリウッドカムバックということになるわけです。けれども、私目にはこの映画でのバーグマンはオスカーを頂戴する程素晴らしい出来であるようには思われないのですが、冒頭でのうらぶれた格好での登場といったようにこういう人がこういうことをするときっとこうなるのだろうなというような方程式をきちっと遵守しており、まあ手堅くまとめたといったところでしょうか。但し、もうちょっと本当らしい咳をしてほしいですね(アナスタシアが本物だということを祖母の老女王(ヘレン・ヘイズ)が確信するのが、咳をしながらバーグマンが、咳をする時はいつも脅えてしまうと言うくだりによってです)。
ところで、オスカーを受賞したこのバーグマンよりも素晴らしいのが、スキンヘッド俳優のはしりユル・ブリナーとギネスにも載った女優ヘレン・ヘイズです。ユル・ブリナーは、この映画撮影時はまだ映画デビューしてからそうは経ってはいないと思うのですが、もう100年位映画界で釜の飯を食ってきたというような存在感がありますね。兎に角この人は強烈な視線を持っています。又、これは英語で聞かないと分からない点なのですが、ブリナーの台詞がなんというか非常に現代の口語的な日常会話的表現とは違ってある意味で文語調的な表現なのですね。それがまたなかなかの重厚感を醸し出しています。それから、ヘレン・ヘイズですが、威厳のある女王という役をここでは見事に演じています。この人は、この映画の当時も相当な高齢だったはずですが、何とこの後更に20数年たって100歳近くなってもまだ映画出演しているというすさまじい女優さんなのです。その間、1970年には「大空港」という映画(あのエアポートシリーズの最初の映画)で飛行機に無賃乗車する老女というけったいな役でオスカーの助演女優賞を受賞しています。また、最も長持ちした俳優ということで、リリアン・ギッシュとともにギネスに載っています。
ということで、この映画はまさに50年代的な意味でのエンターテイニングな映画だと言えます(但し、この手の映画としてはもう少し長くてもよかったかなという感じがありますが)。50年代的な意味においてというのは、時代が違えば何がエンターテイニングであるかという捉え方も大きく変わってくるということです。そういう意味において現代のエンターテイメントの代表である「タイタニック」のような映画とこの映画とを見比べてみるのも面白いかもしれませんね。

1999/04/10 by 雷小僧
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