This Could Be the Night ★★☆

1957 US
監督:ロバート・ワイズ
出演:ジーン・シモンズ、アンソニー・フランシオサ、ポール・ダグラス、ジョーン・ブロンデール

左:ジーン・シモンズ、右:ポール・ダグラス

映画監督の中には限られたジャンルの作品しか撮らない人もかなり存在し、どのようなジャンルでもどんと来いというオールラウンダーは極めて少ないように思われます。その少ない後者の典型がロバート・ワイズであり、ホラー、SF、シリアスドラマ、ミュージカル、戦争ものとまさに何でも来いの監督でした。「This Could Be the Night」は、ナイトクラブを舞台としたコメディ調ドラマといったところで、彼のバラエティに富んだ作品群に一層のバラエティを加えるような作品です。昼間は小学校の先生を勤めているヒロイン(ジーン・シモンズ)が、夜間にナイトクラブで働くようになり、ナイトクラブのオーナー(ポール・ダグラス)や、オーナーの右腕(アンソニー・フランシオサ)、或いはナイトクラブのメンバー達(ジョーン・ブロンデールetc.,)と交流する様がコミカルなタッチで描かれています。ヒロインである小学校の先生は、いわば典型的な中産階級出身のお嬢さんであるのに対し、ナイトクラブのメンバーは勿論中産階級出身であるはずはなく、意識的にしろ無意識的にしろ両者の間には階級意識に基く落差があるところに作品のポイントがあります。このようなテーマが扱われると、シリアスなドラマになるのが普通であるにも関わらず、「This Could Be the Night」は、そのようなシリアスな素材がコミカルに加工され、むしろ楽しい作品に仕上げられており、さすがは職人ロバート・ワイズと賞賛したくなります。そのような階級意識を抱いているのは、非日常的な世界であるナイトクラブでエキサイティングな体験を味わいたいと考えているヒロインの方ではなく、ナイトクラブのオーナーやその右腕達の方であり、たとえば後者はナイトクラブなどで働いていないで故郷のニューイングランドに帰った方がいいのではないかと仕切りにヒロインに忠告したり、前者は前者で、彼女が自分の部下である後者を好きになったと打ち明けると、ヤツは自分が拾わなければ今頃どこで何をしていたか分からないような付き合うに値しない男だといって誡めたりするのです。また彼らが階級意識を抱いていることは、オーナーを筆頭としてナイトクラブのメンバー達がヒロインをベイビーと呼んでいるところからも分かります。すなわち、他所の世界からやって来たヒロインが、自分達の住む世界に関しては何も知らないので、彼らは彼女をベイビーと呼んでいるわけですが、それは彼らの方が彼女が中産階級に所属することを強く意識していることの裏返しでもあります。繰り返しになりますが、そのようなテーマが扱われると通常はシリアスなドラマになるはずであるにも関わらず、それをコメディ的なシチュエーションドラマとして扱い、そうかといって異文化間或いは異階級間に存在する慣習やしきたりのギャップを利用した、よくあるスラップスティックコメディにしてしまうのではなく、いわばほのぼのドラマとして仕上げられている点は注目に値します。また、ナイトクラブの雰囲気が生き生きと伝わってくる点もプラスです。


2003/06/14 by 雷小僧
(2009/01/15 revised by Hiroshi Iruma)
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