It Happened to Jane ★★☆

1959 US
監督:リチャード・クワイン
出演:ドリス・デイ、ジャック・レモン、アーニー・コバックス

左:ドリス・デイ、中:ジャック・レモン、右:アーニー・コバックス

リチャード・クワイン(Richard Quine)という監督さんは、一風変った作品を数多く手掛けており、個人的にお気に入りの監督の一人ですが、日本劇場未公開作品である「It Happened to Jane」もその例外ではなくユニークで楽しい作品です。基本的にはドリス・デイ&ジャック・レモンのロマンティック・コメディであり、殊に前者に関しては、クラーク・ゲーブル、ケーリー・グラント、ロック・ハドソンなどのいかにもトップヘビーに陥りそうな俳優達とは異なる等身大風のジャック・レモンが今回は相手なので、肩に力を入れる必要がなかったからか、いつもより一層新鮮な印象を受けます。また、殊に愉快なのは、コメディアンでもあったアーニー・コバックスが鉄道会社のボスを演じ、いかにも地方の小物という風情で権威をかさにして威張っているところです。彼独特のブツブツとつぶやくスピーチパターンと太った体躯は、田舎の大将のごとく振る舞うキャラクターにはピタリとマッチします。加えて、カラーフォトグラフィーが素晴らしく、作品を最初に見た折に、陽光に映える木々の緑があまりにも美しいので、フロリダかどこかの南国が舞台になっているとばかり思っていました。実際はメーン州のアン岬付近でロケが行われたそうであり、地図で調べればニューヨークより遥かに北の地が舞台であることが分るはずです。作品を見ながら不思議に思ったのは、鉄道が重要な輸送手段であると見なされている点です。アーニー・コバックス演ずる社長が経営する鉄道会社のミスによって、ドリス・デイ演ずる主人公が注文した何百匹というロブスターが死んでしまい、彼女は弁護士(ジャック・レモン)と共に鉄道会社を訴えるけれども、田舎の大将のように振舞う鉄道会社社長は、怒り心頭に発して彼女の住む町への鉄道の発着を差し止めてしまい、困った彼女はくだんの弁護士の助けを借りて引退した古い蒸気機関車を再生してロブスターの輸送を行うというストーリーが繰り広げられます。少なくとも20世紀の半ば頃までには、アメリカは、それほど鉄道の輸送力に依存しない国になっていたのでないかという思い込みがあったので、鉄道輸送の有無が町の死活問題であることを示すストーリー展開には少し意外な気がしたというわけです。確かに西部劇などを見ていると、鉄道が町にやって来ることが、開拓時代の終焉を象徴するイベントでもあるものとして描かれていることが多く、開拓時代に鉄道が果たした役割の大きさがそのことからも伺えるとはいえ、「It Happened to Jane」が公開された当時、アメリカで依然として鉄道がそれほど大きな意味を持っていたとは考えてもみませんでした。アメリカでも最も早い時期に開拓された東部が舞台であり、文化的にもヨーロッパ的なものが多く残っている地域であったということかもしれません。ということで、「ハッピー・ロブスター」というかなり間抜けなタイトルで日本語版DVDも発売されたようであり、リチャード・クワインファンにはお薦めの作品です。


2005/05/07 by 雷小僧
(2009/01/23 revised by Hiroshi Iruma)
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