My Sister Eileen ★★☆

1955 US
監督:リチャード・クワイン
出演:ジャネット・リー、ベティ・ギャレット、ジャック・レモン、ロバート(ボブ)・フォッシー

左より:ロバート(ボブ)・フォッシー、ジャネット・リー、ベティ・ギャレット

リチャード・クワインが監督し、ブレーク・エドワーズと監督兼任のリチャード・クワインが脚本を担当し、更にボブ・フォッシーが振付けを担当しているとあらば、全く面白くない作品に仕上がることはまずないでしょう。基本的にはミュージカルであるとはいえ、歌がそれほど突出するミュージカルではなく、ミュージカルが好きではない小生も比較的よく見る作品です。まだ都会が悪の巣窟であるとは見なされていなかった頃の都会に対する屈託のないオプティミズムが作品全体を支配しているところが、「My Sister Eileen」の大きな特徴であり、現代のオーディエンスは一種のノスタルジーすら覚えるかもしれません。ニューヨークやロサンジェルスなどの大都会を舞台とする最近のアメリカ映画を見ていると、いわゆる三種の神器、すなわち暴力、麻薬、セックスの内の少なくともいずれかが題材とされていない作品はまず皆無といってよく、よくもまあこんなにネガティブでペシミスティックな作品ばかり撮れるものかと感心させられ、映画を見てまで毎回毎回悲惨な気分を味わいたいのならば、現代のオーディエンスは皆マゾヒストなのかとすらふと思ったりもします。それに比べると、50年代に公開された「My Sister Eileen」は恐ろしくポジティブでオプティミスティックなのです。オハイオの田舎(なぜかアメリカ映画では、カッペというとオレゴンやユタやアラスカやニューメキシコなどの辺境州の出身ではなくオハイオ出身であり、日本でいえば失礼ながら茨城県人や栃木県人にかなり近いものがあるのかもしれません)からやってきたルース(ベティ・ギャレット)とアイリーン(ジャネット・リー)がニューヨークのオンボロアパートに住むところからストーリーは始まります。現代のアメリカ映画を見慣れた人は、そのように聞いただけで、きっと都会の生活に馴染んでいない二人はヤクの売人に騙されて哀れにもヤク中になるに違いないと想像するかもしれませんが、50年代半ばに製作された「My Sister Eileen」ではそのような次第にはなりません。それどころか、ゴタゴタに巻き込まれながらも二人は終始都会の生活を満喫し、最後はべっぴんさんのアイリーンも少々エキセントリックなルースもお相手が見つかって目出度し目出度しで終わります。ストーリーの概略はそれが全てである、或る意味で極めてお気楽な作品ですが、映画とは必ずしもストーリーが全てであるはずはなく、主人公達が暮らす時代の持つ雰囲気がいかにビビッドに伝わってくるかも1つの大きなポイントになるはずです。その意味では、当時の都会生活に対するオプティミスティックな憧れが見事に伝わってくる「My Sister Eileen」は、見ているオーディエンスの心の奥底をも仄かな憧れの感情で充たし、エンターテインメントとしての映画の楽しさを余すところなく伝えてくれます。リチャード・クワインは、何がオーディエンスにとってエンターテイニングであるかを直感的に悟っていた優れた監督の一人であると個人的に考えていますが、「My Sister Eileen」でも彼の持つそのような資質が見事に活かされているように思われます。それから、俳優としても作品に姿を見せているボブ・フォッシーの振付けは、やはり誰が見ても良くも悪くもユニークである印象を受けざるを得ないでしょう(上掲画像参照)。また、最近亡くなったジャック・レモンも出演していますが、彼はこの作品ではかなり控え目であり、主演女優二人の邪魔になっていないところに好感が持てます。


2001/08/18 by 雷小僧
(2009/01/03 revised by Hiroshi Iruma)
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