A Thousand Clowns ★☆☆

1965 US
監督:フレッド・コー
出演:ジェーソン・ロバーズ、バーバラ・ハリス、マーチン・バルサム、ジーン・サックス

左から:ジェーソン・ロバーズ、ウイリアム・ダニエルズ、バーバラ・ハリス

「A Thousand Clowns」は、ブロードウエイ舞台劇の映画化であり、会話に大きなウエイトが置かれている作品です。確かに屋外シーンも少なくはありませんが、セリフのある登場人物を演じているのが、ジェーソン・ロバーズ、バーバラ・ハリス、マーチン・バルサム、ジーン・サックス、ウイリアム・ダニエルズ、バリー・ゴードンの6人にほぼ限られるところなどは、舞台劇に由来する作品であることを思い出させてくれます。当作品は、幾つかの部門でオスカーにノミネートされ、マーチン・バルサムが助演男優賞に輝いています。但し、私見では、マーチン・バルサムのパフォーマンスは、オスカーに値するほど際立っているようにはどうしても見えず、むしろ四角四面のソーシャルワーカーを演じているウイリアム・ダニエルズのパフォーマンスの方が、たとえその役人調の鯱ばったしゃべり方でオスカーが受賞できるはずはないとしても、実に秀逸であるように思われます。無職で天衣無縫のキャラクターを持つ主人公のマレー(ジェーソン・ロバーズ)と小学生の甥っ子ニック(バリー・ゴードン)が一緒にニューヨークの下町で暮らしているところへ、マレーがニックの保護者として適格かを調査するために、二人のソーシャルワーカー、すなわちアーノルド(ウイリアム・ダニエルズ)とサンドラ(バーバラ・ハリス)がやって来るところからストーリーは始まります。個人的には、オスカーを受賞したマーチン・バルサムや、やたらにやかましいジーン・サックスが登場する後半よりも、生真面目な二人のソーシャルワーカーと天衣無縫の主人公が滑稽なやり取りを繰り広げる前半の方が気に入っています。タイトルの「A Thousand Clowns」、すなわち「千人の道化師」(因みにTV放映時の邦題は「裏街・太陽の天使」)とはどのような意味であるかが気になるところですが、それは、前半のあるシーンでのマレーとサンドラの会話から推測できます。そのシーンでは、マレーとニックに同情し、情に流されてソーシャルワーカーとしての自分の義務を果たせなかったと思い込んだサンドラが、ソーシャルワーカーとしての資格に欠ける自分はクビに違いない思い込み、わんわん泣き出します。それを見たマレーは、「たくさんのサンドラがいて、それがあたかも千人の道化師のようにわっと飛び出してきたらどんなに素晴らしいか」などと言いながら彼女を慰めます。勿論、これは分裂病への招待などではなく、ソーシャルワーカーというたった1つのあり方に縛られているサンディに、自分の生き方には様々な可能性があることを示そうとしているのであり、まさにかく言う無職のマレー自身が、そのような多彩な生き方の権化のような存在なのです。とはいえ、「千人の道化師」を全く反対の意味に取ることも可能である点にふと思い当たりました。というのも、作品の冒頭で、ニューヨークのオフィスに通う通勤客達がまるで軍隊でもあるかのごとく整然と歩いている様子が映し出されますが、その光景は、見方によっては千人の道化師が行進しているようにも見えることを思い出したからです。個性を全く持たないマシンの大軍が歩いているかのようなその光景は、逆説的にも、いかにも大勢の道化師によって滑稽なパフォーマンスが繰り広げられているようにも見えるのです。同時に、同じような姿格好で毎日道化師のように通勤している自分の姿をも彷彿とさせます。この作品は、そのような点が極めて巧妙に扱われており、大都会ニューヨークの街中で繰り広げられるシーンが多いにも関わらず、冒頭に挙げた6人の間を除いては、何らかの意味のある会話が行われることはなく、単なる無個性なバックグラウンド以上に6人以外が扱われることは決してありません。というわけで、会話中心の作品が好きなオーディエンスにはうってつけであり、IMDbのユーザレーティングもかなり高いとはいえ(これを書いている時点では7.7/10)、前述のように後半がやや前半の妙味に欠けるきらいがあり★1つの評価としました。


2001/12/08 by 雷小僧
(2009/03/11 revised by Hiroshi Iruma)
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