夢のチョコレート工場 ★★★
(Willy Wonka and the Chocolate Factory)

1971 US
監督:メル・スチュワート
出演:ジーン・ワイルダー、ピーター・オーストラム、ジャック・アルバートソン、ロイ・キニア

上:ジーン・ワイルダー

文字通り「ショコラ」(2000)というタイトルを持つ作品が最近も公開されていたように、食べ物の中でもチョコレートが関連するとなぜかファンタジー映画が出来上がるようです。どうやら、少なくとも映画の中においては、チョコレートには秘めたる魔力があるようです。それに対し、たとえばケーキがわんさか出てくる映画があれば、ファンタジーどころか見ている途中でゲップが出るかもしれず、要するに「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家は、あまり映画的ではないかもしれません。チョコレートファンが必ずや泣いて喜ぶ「夢のチョコレート工場」もチョコレート映画の例外ではなく、上掲画像のような恐ろしくファンタスティックなシーンが楽しめます。奇人ウィリー・ワンカ(ジーン・ワイルダー)が経営する謎のチョコレート工場に5人の子供達(とその同伴者)が招待されますが、まずこの5人が選ばれる前半のシーンが、選ばれた子供達がチョコレート工場を見学する後半のファンタスティックなシーン以上に滑稽で面白いのです。ゴールデンカードが入ったワンカ社のチョコレートバーを幸運にも引き当てた5人が工場に招待されるということで、世界中の人々が挙ってワンカ社のチョコレートを買い集め始めます。イギリスのオークションでは何と女王陛下が1ケースのワンカバー(ワンカ社のチョコレートバー)を競り落としたり、誘拐犯が身代金の代わりにワンカバーを要求したりします。また、主人公チャーリーの家に、父方と母方の4人の祖父祖母が揃ってベッドで寝ている様子は、下手をするとブラックになり得るあらゆる可能性があるにも関わらずいかにも無邪気でユーモラスです。実は、「夢のチョコレート工場」は、一応ミュージカルであるとはいえ、歌われる曲数もそれ程多くはなく、歌を披露する為にストーリーが存在するのではないかと疑いたくなるミュージカルとは違って堅固なストーリーを補強する為に時折歌が挿入されるタイプのミュージカルに属します。ところで、原作がイギリス人のロアルド・ダールであることもあってか、殊に後半部はイギリス的なブラックユーモアに満ち溢れています。5人の子供達の内、主人公のチャーリーを除いた4人はいわばどうしようもない悪ガキであり、この悪ガキどもが、ブラックユーモアによって味付けされたシーンで、いかにも悪ガキに相応しい運命を辿るのです。たとえばガムをくちゃくちゃ噛んでばかりいる女版悪ガキは、口に入れてはいけないとウィリー・ワンカに念を押されたガムを噛んだ途端に、ブルーベリージュースが体に充満し始めビヤ樽のように膨れてしまい、ジュース室に転がされて行きます。このような或る意味で子供の虐待を描いているとも取れるシーンがある為か、アメリカの映画評論家の間では、残虐な面がファンタスティックな効果を打ち消していると評され、評価があまり高くないようですが、やはりブラックユーモアの伝統のあるイギリスの評では最高の評価が与えられているようです。ブラックでシニカルな部分と、それとは裏腹なモラリスティックな部分が同居している作品であるとも見なせ、本来おとぎ話には、赤ずきんちゃんが狼にパクリという具合に、全体としてモラルを語る為に部分的に残虐なシーンが利用される傾向があり、個人的にはあまりアメリカの評者の意見には同調できないところです。いずれにしても、奇跡的に国内版DVDが存在し、お値段も最近のバカ高DVD程には高くないので、ファンタジー映画が好きな人には絶対的にお薦めの作品です。


2002/01/19 by 雷小僧
(2008/11/18 revised by Hiroshi Iruma)
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