海に帰る日 ★★☆
(Turtle Diary)

1985 UK
監督:ジョン・アービン
出演:ベン・キングスレイ、グレンダ・ジャクソン、マイケル・ガンボン、リチャード・ジョンソン

左:グレンダ・ジャクソン、右:ベン・キングスレイ

これはいかにもイギリス的に地味な映画で、基本的には動物園の亀を海に逃がすだけのストーリーです。まあ、何故亀ばかり逃がしてイカやタコは逃がさないんだなどというつっ込みを入れるのはやめましょう。とは言えども、亀を逃がすことが映画のテーマになる程イギリスでは動物愛護の習慣が徹底しているのかと感心するよりも(やつらはその傍らでキツネ狩りやキジ撃ちなぞに打ち興じていたりするのですね、でもまだキツネ狩りなどやっているのかな?)、人物描写が実に繊細であるという点に注目するべきであり結構日本人的感性ともマッチするのではないかと思われます。イギリスは日本と同じく島国で大陸からやや離れている(が、太平洋のド真ん中にあるサモアやトンガとは違って、大陸からの影響に無縁でいられる程は離れていない)為に、日本と同じような感性が発達するのかもしれません。カズオ・イシグロの原作が基になっている「日の名残り」(1993)のような映画が受けるのもイギリス的感性が日本的感性にかなり近いことを証明しているのかもしれません。この「海に帰る日」でも主演のベン・キングスレーとグレンダ・ジャクソンは、決して亀を逃がすという動機を越えた関係にはならないのですね。アメリカ人がそういう男女の関係を捉えるとしたらきっとそれはビジネスライクな関係に違いないと考えるのかもしれませんが、実はこの映画のこの二人の関係はビジネスライクなものでもなく、いわば互いの関心(亀を逃がすこと)に対するリスペクトが基調になっているわけです。ある意味でこの2人は共に孤独な生活をしているわけでありそういう点がいかにも現代的であると言えるのですが、そういう中である1つのことに対する共通の関心及びそれに対する互いのリスペクトを通じて自らの居場所や生きていることに対する意味を見出していくというストーリー展開は実に繊細で、これはちょっと大陸に住む人種には思い付かないだろうなという気がします(少しオーバーかな?)。それからこの映画で面白いのは、ベン・キングスレーの住むアパートに関してです。独身中年のおっさんやおばさんばかり住んでいて、台所や風呂が共同使用になっているのですね。イギリスには現代でもこういう形式のアパートが数多くあるのでしょうか?アメリカ映画などではほとんど見かけないので、これもまた島国イギリス的な生活様式なのかもしれませんね。いずれにしても全体的には極めてイギリス的にローキー(low-key)で抑揚がほとんどない映画なのですが、逆に言えばまさしくそこに味があるような映画であると言えるように思います。


2001/12/16 by 雷小僧
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