スーパーマン ★☆☆
(Superman)

1978 US
監督:リチャード・ドナー
出演:クリストファー・リーブ、マーゴット・キダー、マーロン・ブランド、ジーン・ハックマン

左:マーゴット・キダー、右:クリストファー・リーブ

最近、「スパイダーマン」(2002)を筆頭として劇画キャラクターを主人公とする作品が数多く製作されていますが、ターゲットとされるオーディエンス年齢層が今日ほど低化していなかった70年代においては、家族揃って見ることが前提とされるテレビ番組においてはいざしらず、スクリーン上にスーパーマンのような劇画コミックキャラクターが登場することはまだ極めて稀でした。その意味において、「スーパーマン」は、アメコミキャラクターを主人公とする映画が我が世の春を謳歌する現在の趨勢を予兆するエポックメイキングな作品であったと見なしても必ずしも大袈裟ではないはずです。バラエティ紙のコメントに「ジェームズ・ボンドの持つ尋常ならざる肉体的パワーを拡大しつつ、彼の持つ性衝動を抑制すると、ワンダフルでくすくす笑いを誘う途方もなくエキサイティングなファンタジーであるスーパーマンのエッセンスが得られる(Magnify James Bond's extraordinary physical powers while curbing his sex drive and you have the essence of Superman, a wonderful, chuckling, preposterously exciting fantasy)」と述べられていますが、性衝動の抑制うんぬんを除けばまさに言い得て妙です。性衝動の抑制というコメントに関していえば、評者はボンドシリーズは大人向けであるのに対して「スーパーマン」はお子ちゃま向けだと言いたいのかもしれませんが、むしろ一般的には人間にしろ動物にしろ四六時中さかりがついているわけではなく、普段はなよなよしたクラーク・ケントがひとたびことが起きるとファイト一発リポビタンD的なスーパーマンに変身するのは、セクシャルな隠喩としては抑制どころかむしろあまりにもノーマルであるとすら思われます。また、悪漢レックス・ルーサー(ジーン・ハックマン)が、スーパーマンの首に不思議なパワーが秘められた宝石で飾られた首輪をかけた途端、スーパーマンのパワーがしぼんでしまうところなど、セクシャルな色合いを帯びた精神分析の方向から強引な解釈を適用しようとすればいくらでも可能に違いありません。いずれにしても、作品のポイントは、安手の精神分析によって無理矢理こじつけられた解釈に見出されるはずはなく、徹底的に劇画的であるという事実に見出されるべきです。その点、バラエティ紙のコメントに「くすくす笑う(chuckling)」とあるのは極めて適切であり、コミックブックの「comic」とは、おかしいとか滑稽であるという意味を持つことが忘れられてはなりません。それゆえ、「スーパーマン」に登場する悪漢二人、すなわちレックス・ルーサーとその相棒(ネッド・ビーティ)が漫才コンビであるかのごとく振舞う様子も、極めて自然に見えます。そのような設定は、「スーパーマン」のルーツが劇画コミックにあるからこそ可能なのであり、そうでなければ本当に作品全体がコメディと化すはずです。また、「スーパーマン」の中でも最も非現実的で馬鹿馬鹿しいシーンをラストのクライマックスに見ることができます。そこでは、なんと!スーパーマンは地球を逆回転させて時間を遡行させ、死んだはずのガールフレンドのロイス(マーゴット・キダー)を生き返らせるのです。なぜこのシーンが、一見するとかくも非現実的で奇怪に見えるかというと、優に2時間半近くもある作品の最後に、星新一のショートショートにしばしば見られるようなオチがつけられたかの印象を受けざるを得ないからであり、いくらSF映画では途方もない設定がかなりの程度まで許されるとしても、少しでもシリアスな意図があればとても許容できる代物ではないからです。しかしながら、「スーパーマン」は、SF小説ではなく劇画コミックが下敷きとされていることを考慮に入れれば、そのような奇怪さはさほど不思議ではなくなり、ラストの途方もない荒唐無稽さによって当作品のルーツが劇画コミックであることをはっきりと思い出させてくれるとすら評せます。フラッシュ・ゴードンのようなコミックキャラクターを題材とした映画はそれまでにも存在したとはいえ、「スーパーマン」は、現在隆盛を誇っている劇画調映画の直接の先駆者であったと評価できるでしょう。


2005/10/30 by 雷小僧
(2008/12/08 revised by Hiroshi Iruma)
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