キング・ソロモン ★★☆
(King Solomon's Mines)

1950 US
監督:コンプトン・ベネット、アンドリュー・マートン
出演:スチュワート・グレンジャー、デボラ・カー、リチャード・カールソン

左:スチュワート・グレンジャー、中:デボラ・カー、右:リチャード・カールソン

 1950年代と言えばカラー映画がいよいよ本格化しつつあった時代であり、何はともあれ総天然色カラー映画が持つ独自の新しいエンターテインメント性を最大限に引き出すことを狙った映画が少なからず製作されるようになった。では総天然色カラー画像により得られる効果を最大限に活かせるジャンルとは一体どのようなジャンルを指すのだろうか。その回答の1つがこの「キング・ソロモン」という映画である。「キング・ソロモン」は、全編がアフリカで撮影された映画であり、アフリカが持つ大自然を余すところなく捉えようという意図が透けて見えるような作品である。この映画を皮切りに「アフリカの女王」(1951)、「キリマンジャロの雪」(1952)、「モガンボ」(1953)等のアフリカが舞台となる映画が続々と製作されるようになったのは、色彩豊かなエキゾチックなバックグラウンドを利用してカラー映画の最大の利点を引き出そうとしたが為であろう。いわば登場人物を中心としたフォアグラウンドのみではなく、バックグラウンドもますます大きな重要性を帯びるようになったと言えるだろう。因みに1950年代の映画の中には、エキゾチックな異国の地が舞台でなくとも色彩のゴージャスさが強調される作品が少なからず見受けられ、たとえばカラー映画の申し子とも言うべきビンセント・ミネリの作品などがその典型例である。

 勿論それ以前の時代から冒険活劇においては重要な要素であったとはいえ、色彩だけではなく動きもより大きな意味を持つようになった。それは何故かというと、単純に言えばカメラが捕らえるべき空間が拡がったからであり、冒険活劇といえどもスタジオ内で撮影されたものとアフリカのような広大なバックグラウンドが背景となる場合とでは、動きそのものの意味合いも変わってくるからである。すなわち単なる個々の登場人物のフォアグラウンドにおける視覚的な動きのみならず、バックグラウンドまでをも巻き込んだ大掛かりで圧倒的な臨場感を伴った動きが1950年代に入ると重要視されるようになる。たとえば1950年代に数多く製作されるようになったスペクタクル史劇では、ローマの精鋭軍団の兵士の行進は言うまでもなく、群衆ですら圧倒的な臨場感を伴って捉えられるべき対象として扱われるようになる。臨場感が取沙汰されるには、臨場感の有無によってオーディエンスに与える効果が全く異なるような環境がバックグラウンドとして提示されなければ全く意味をなさないが、その典型例が「キング・ソロモン」での雄大な自然をバックとした動物達のスタンピードシーンであり、このシーンの持つ臨場感が当時の観客の度胆を抜いたであろうことは想像に難くない。大袈裟に言えばスタジオ内でのチャンバラ劇とは次元の異なる世界がここに拓けたと言えるかもしれない。このシーンは、現代の映画が臨場感を重視し視覚効果や音響効果を駆使するのと或る意味で軌を一にするところがあり、エンターテインメントとは何かという点に関して未来先取り的な面すらあったと言えるだろう。

 ところで、この映画が製作された1950年という年は、本格化していなかったとはいえカラー技術に関しては既に商用化されてから10年以上が経過していたが、ワイドスクリーン技術に関しては最初のワイドスクリーン映画「聖衣」(1953)が出現するよりも数年前であった。従ってもし数年後にこの作品が製作されていたならば、遠景をワイドに活かせる横縦比2.35:1或いは2.55:1のワイドスクリーンで撮影されたであろうことは間違いないように思われるが、残念ながらそれには時期尚早であった為にスタンダードサイズにより撮影されている。時折アフリカの持つワイドな遠景を捉えきれてはいないように見えるシーンを見ていると、この作品がワイドスクリーンで撮影されていたならばより素晴らしかっただろうと思わせるが、それはないものねだりというものだろう。勿論ワイドスクリーンの白黒映画も存在するが、カラー映画が本格化してこそワイドスクリーン技術も最大限の効果を発揮出来るはずであり、それには数年早かったというのはこの映画にとっては不運である。しかしながらいずれにしても、後の「インディ・ジョーンズ」シリーズ等の冒険活劇映画に少なからず影響を与えたであろうことが容易に想像され、この作品がエポックメイキングな映画の1つであったことには間違いがない。

※当レビューは、「ITエンジニアの目で見た映画文化史」として一旦書籍化された内容により再更新した為、他の多くのレビューとは異なり「だ、である」調で書かれています。


2005/04/23 by 雷小僧
(2008/10/06 revised by Hiroshi Iruma)
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