オルカ ★★☆
(Orca)

1977 US
監督:マイケル・アンダーソン
出演:リチャード・ハリス、シャーロット・ランプリング、ウィル・サンプソン、ボー・デレク

左:ウィル・サンプソン、中:シャーロット・ランプリング、右:リチャード・ハリス

この作品が「ジョーズ」(1975)の二番煎じであると見なされがちなのは仕方のないところでしょう。70年代といえば、鮫やピラニアやタコなどの水産物に人間がパクリと食べられるところをゾクゾクしながら鑑賞できる随分とマゾヒスティックな作品が頻繁に公開されていました。確かに、「ジョーズ」はメジャーな作品でありゲテモノと呼ぶにはそぐわない面もあるとはいえ、内容的には良くも悪くもゲテモノであると言わざるを得ません。「オルカ」もその例外ではなく、哀れボー・デレクがシャチのオルカにパクリなどというシーンもあります。とはいえ、「オルカ」にはそれらのゲテモノ嗜好の作品とはやや異なるところがあります。「ジョーズ」の鮫が身体能力に物をいわせる体育会系キラーであるとすると、「オルカ」のシャチは緻密な計算によって相手を徐々にのっぴきならない状況に追い込むインテリキラーであるという違いは別としても、作品全体の扱いとして、「ジョーズ」では、鮫に対して何らかの性格付けが行われることなど微塵もないのに対し、「オルカ」では、一頭のシャチが擬人化され、パーソナリティを持った主人公として扱われており、この点に両者の大きな違いがあります。何しろ「ジョーズ」とは「あご」のことであり、そのような部分で全体を表すメトニミックな比喩がタイトルに付されているところに、「ジョーズ」という作品の何たるかが見事に示されています。それに対して、「オルカ」には、緻密なドラマ要素を加味しようとする意図が見られ、その点に「ジョーズ」や他のゲテモノ作品との違いが見て取れるのです。但し、緻密なドラマを描くには、登場人物にそれなりの深みが必要とされることは敢えて言うまでもなく、その点で「オルカ」には不満が残るのも確かです。まず、主演のリチャード・ハリスは、いくらそうならないよう彼自身が頑張ったところで、どうしてもモノトーンに見えるのが避けられないタイプの俳優さんです。彼の名誉の為に一言付け加えておくと、必ずしもそれが悪いというわけではなく、「ジャガーノート」(1974)のように彼の単調さが生きる場合もあります。また、プラクティカルというよりもデカダントな雰囲気を濃厚に発散させるシャーロット・ランプリングが演ずるフィールド海洋学者も、そもそも場違いな印象を受けます。それよりも何よりも、作品中で最も理解し難いキャラクターは、ウィル・サンプソン演ずる原住民です。たぐい稀なる土地感を持つ地元の賢人のような様子で登場するにも関わらず、肝心のオルカとの対決の場面で沖に出た後は、ただただ船の操縦をしているばかりで、挙げ句の果てに崩れてきた氷山の下敷きになって呆気なく死んでしまうのには、思わず目を疑わざるを得ません。それならば、「オルカ」はドラマとして完全な失敗作かというと、そうではありません。というのも、閉鎖的で且つビューティフルなアメリカ北東部(それともカナダ?)の一寒村を舞台として主人公(リチャード・ハリス)とオルカの対決が描かれ、いわば静と動の対比によってヘビーなドラマが見事に浮き彫りにされているからです。普段は時間が止まったような地方の小さな港町に主人公は擾乱をもたらしますが、それは、太古以来の静寂を守る為に変化が許されないが故に余計なことをしてはならぬとする地元の掟を破ったよそ者の主人公が、たとえ自らは意識せずとも、地元の共同体の維持する微妙な平衡状態を徹底的に破壊してカオスをもたらすことを意味するのです。従って、主人公は村人からアウトカーストと見なされるようになり、実はこれはオルカが昔から村人によって置かれていた位置と等しくもあるのです。すなわち、勿論主人公はオルカと対決するにしても、同時に村人達とも対峙しなければならないのであり、その点においては彼とオルカとの間にはむしろ共通点すらあることになります。従って、最後はアウトカースト同士の壮絶な対決で幕を閉じるというのが、「オルカ」という作品の持つ大きな構図なのです。かくして、「ジョーズ」などの作品に見られるように、獰猛な動物と人間の単純な力比べに還元されるワンディメンショナルな展開に堕していない点が、「オルカ」の大きな特徴であり、そこに1つの緻密なドラマが見出されるのです。「ジョーズ」では、最後に鮫は退治されねばならなかったのに対し、「オルカ」では、最終決着でシャチが勝利しても作品全体としての構図は全く崩れ去らないのです。なぜならば、主人公が敗北することにより、地元共同体の均衡が再び取り戻されることに変わりはないからです。映画評論家のレオナード・マルティン氏は、「ボー・デレクの足が食いちぎられるところを見るのがエンターテインメントであると考えている味噌糞一緒なアクションファンの為の映画」というような本気で言っているのか疑いたくなるコメントを加えていますが、確かに「オルカ」には多くの欠点があるとはいえ、これは余りにも浅はかな見解です。


2004/11/20 by 雷小僧
(2008/12/03 revised by Hiroshi Iruma)
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