月蒼くして ★★★
(The Moon Is Blue)

1953 US
監督:オットー・プレミンジャー
出演:ウイリアム・ホールデン、マギー・マクナマラ、デビッド・ニブン、ドーン・アダムス

左:デビッド・ニブン、中:マギー・マクナマラ、右:ウイリアム・ホールデン

オットー・プレミンジャーと言えばシリアスな作品が多い監督さんですが、「月蒼くして」は舞台でヒットした劇をベースとしたコメディです。この作品でマギー・マクナマラ(ちょっとジーン・シモンズとデビー・レイノルズを足して2で割ったような雰囲気があります)はオスカー主演女優賞にノミネートされますが、まあこの手の映画で実際にオスカーを手にするのは難しいでしょう。ということでこの年は、「ローマの休日」のオードリー・ヘップバーンが主演女優賞を受賞しました。ところで「月蒼くして」は、公開当時奔放な会話表現でかなり物議を醸したそうです。まあ「seduce」とか「virgin」とか「sex」などのそちら関係の単語が女優さんの口をついて飛び出てくるということはありますが、そもそもたとえば「fucking」という単語(「mxtxxxfxckxr」とか「cxxksxcxxr」とかもっと凄まじいやつがありますが、Web公開禁止用語です、何のこっちゃ?)が1回も出てこない映画など存在しないに等しい現代のアメリカ映画を見慣れていると、何じゃそりゃと思えてしまうのは仕方のないところでしょう。同年製作の「地上より永遠に」(1953)の例の海辺のシーンが大胆であると見做されていたような時代なので、むべなるかなという気がします。そもそもプレミンジャーのような監督さんが、当時においてすらおふざけとも見なされるようなマテリアルを取り上げた理由の1つも、その頃のモラルスタンダードを越えた今までにはない要素がこのマテリアルには含まれていると判断されたが故かもしれません。まあ現在の視点から見ればマクナマラの演ずるキャラクターは、奔放であるどころか極めて貞淑としか言いようがないのは確かでしょう。あちらの映画評を読むとその点を捉えてこの作品を低く評価しているものが多いようですが、あまりそのような点は気にしないで見た方がよいでしょう。多分監督がプレミンジャーだからこそ、プレミンジャーでもこの程度の斬新さかというわけで、わざわざそのような点を指摘する評者が多いのかもしれませんが、いわば当時多かったシチュエーションコメディとしてこの作品を見ると結構今でも楽しめます。エンパイアステートビルディングの展望所でホールデンが、マクナマラをナンパして自分のアパートに連れてきますが、そこへ下の階に住むホールデンのガールフレンド(ドーン・アダムス)と、彼女のお父っつあん(デビッド・ニブン)がやって来て4つ巴のコメディを繰り広げる様子が結構可笑しいのです。殊に「悲しみよこんにちは」(1958)での彼を髣髴とさせるデビッド・ニブンのカサノバ的親父がいいですね。ニブンのいつものソフィスティケートされたコメディセンスがここでも際立っています。全体的には舞台劇が元になっているだけに会話が主体になる映画であり、冒頭とラストのエンパイアステートビルディングでのシーンを除くとほとんどのシーンはホールデンの住むアパートの一室(及びニブンの住む部屋)で繰り広げられます。まあこの手の映画に滅法弱い小生には結構いける映画ですね。


2001/12/30 by 雷小僧
(2008/10/06 revised by Hiroshi Iruma)
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