大いなる勇者 ★★☆
(Jeremiah Johnson)

1972 US
監督:シドニー・ポラック
出演:ロバート・レッドフォード、ウィル・ギア、ステファン・ギラシュ、ポール・ベネディクト

上:ロバート・レッドフォード

前回、シドニー・ポラックが監督しロバート・レッドフォードが主演した作品「コンドル」(1975)を取り上げましたが、二人が共に関係する作品は他にもたくさんあり、その1つがここに取り上げる「大いなる勇者」です。因みにこの2本以外にも「雨のニューオーリンズ」(1966)、「追憶」(1973)、「出逢い」(1979)、「愛と哀しみの果て」(1985)、「ハバナ」(1990)と合計7本もあり、きっと二人はお友達同士なのでしょう。「大いなる勇者」のテーマは、一言でいえば大自然の中でのサバイバルです。大自然の中でのサバイバル映画といえば、たとえば「アドベンチャー・ファミリー」(1976)などが思い出されますが、サバイバルをテーマとした作品が急増するのは70年代になってからではないかと思われます。なぜそうであるかに関しては、様々な理由があるのでしょう。たとえば最も単純なものでは、大自然を描くことが第一の目的である作品は、やはり白黒よりもカラーの方がインパクトが強いはずであり、白黒映画が主流であった時代にそのような作品がほとんど製作されなかったのはむしろ当然であった点が挙げられます。注意する必要があるのは、勿論たとえば50年代のカラー映画には大自然を背景とする作品はありますが、その当時のそのような作品の舞台の多くはアフリカやアジアに設定されており、大自然というよりもむしろエキゾティックな新奇さの方に焦点が置かれ、リアルにサバイバルを描く意図はなかったように見受けられます。西部劇の中には確かに大自然を背景にサバイバルを描いた作品もありますが、しかしそれらはフロンティア開拓という大きな物語の中の一齣としてサバイバルシーンが描かれているに過ぎず、個人や一家族のサバイバルそのものに焦点が置かれているわけでは決してありません。これに対して、70年代以後のサバイバル映画は、個人や一家族のサバイバルそのものにスポットライトが当てられています。また勿論、舞台はわざわざアフリカやアジアなどに設定される必要はなく、「大いなる勇者」や「アドベンチャー・ファミリー」のように地元北米であっても全く構わないのです。要するに、50年代の西部劇やエキゾティックな異国を舞台とする作品と、70年代の大自然を背景とする個人単位のサバイバル映画ではベクトルの向かう方向が全然違うのです。また重要なポイントとして、70年代以後のサバイバル映画は、都会に対するアンチテーゼとして大自然が描かれている場合が多いことが指摘されねばなりません。「大いなる勇者」についていえば、必ずしもその点は明確ではないかもしれませんが、「アドベンチャー・ファミリー」などはその典型です。すなわち、都会に対する不信感から、それとの対比において大自然の中でのサバイバルを描く作品が増えてきたのが70年代だということです。そのような作品にあっては、サバイバルは、困苦という意味ではマイナスであると捉えられていると同時に、都会からの脱出という意味ではプラスであると捉えられていることにもなり、そこには大きなアンビバレンスが含まれています。しかしながら、「大いなる勇者」は、70年代の作品であるにも関わらず、そのような思想性のないことが1つの特徴として挙げられます。思想性がないという言い方は誤解を招きそうなので簡単に説明しておきましょう。「大いなる勇者」には、主人公ジェレマイア・ジョンソン(ロバート・レッドフォード)がなぜ人里離れたロッキー山脈でサバイバル生活を送るようになったかに関する肝心要のWhyの説明が全く欠落しているのです。60年代後半のカウンターカルチャーを経たロードムービーなどの70年代の作品においては、たとえそれが人生に対する諦観のようにネガティブなものであっても、何らかの人生哲学が語られることが普通であったのに対し、「大いなる勇者」には言外の意味までをも含め、そのような人生哲学とは無縁であるどころか、「なぜ主人公はかく行動するか」という問いすらも立てられることがないのです。冒頭いきなり主人公がロッキー山脈の麓の町にやってくるところからラストに至るまで、たとえば回想のような形態にしろ彼の過去が語られることはただの一度もありません。その為、都会に対するアンチテーゼとして大自然が描かれるようなこともないのです。そのような思想性の無さが、サバイバルというテーマにも関わらず、良い意味で重みの感じられない前半の雰囲気に結果しているように思われ、厳しい自然に慣れていない主人公が四苦八苦する様子は、むしろユーモラスですらあります。ところが、途中から雰囲気が急に変わってしまうのです。殊に、気が狂ったオバサンから息子を譲られ、とあるインディアンの酋長との贈り物の交換を通じて、酋長の娘をしぶしぶと手に入れ、主人公が一匹狼ではなく、いわば家族持ちになってからはストーリーが徐々にあらぬ方向に向かい始め、家族がインディアンに殺されてからは、マカロニウエスタン張りの復讐劇に変貌します。家族ができれば一匹狼でいるのとは訳が違うということかもしれませんが、それにしても前半と後半のギャップが大きすぎる印象を受けざるを得ません。映画評論家のレオナード・マルティン氏は作品の価値は認めながらも「Unfortunately, film doesn't know where to quit, rambling on to inconclusive ending(不幸にも、どこで終わりにしたら良いのかが全く分からないようであり、とても満足出来るとは言い難いエンディングに向けてストーリーがだらだらと展開する)」とコメントしており、そのような印象があるのはこのギャップの故ではないかと考えられます。とはいえ、殊に大自然の描写には賞賛すべき点もあり、最後の1/3を除けば満足度は高い作品であると評価できます。尚、大自然を背景にする「大いなる勇者」はやはりDVD向きの作品であり、国内版でも既にDVDが発売されているのはラッキーです。


2004/01/24 by 雷小僧
(2008/11/19 revised by Hiroshi Iruma)
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