大空の凱歌 ★☆☆
(Battle Hymn)

1957 US
監督:ダグラス・サーク
出演:ロック・ハドソン、マーサ・ハイヤー、ダン・デュリア、アンナ・カシフィ

左:ロック・ハドソン、右:マーサ・ハイヤー

「大空の凱歌」は、50年代のメロドラマの巨匠と呼ばれたダグラス・サークの監督作であり、最もサーク的なテーマが最もあからさまに体現されている作品であると見なせるかもしれません。★☆☆という評価は、そのような傾向が時に顕著になり過ぎ、他のサーク作品のダイジェスト版のようにも見えるところがあるからです。しかしながら、このことは、サークの作品が初めてであれば、一種の入門的な作品として適当であることをも意味します。第二次世界大戦中、誤ってドイツの孤児院を爆撃してしまった主人公(ロック・ハドソン)が、贖いを求めて苦心惨澹するというストーリーが展開され、自分ではどうにもならない運命に抵抗しながら、必死に救済を求めようとする主人公が登場する点においてまさしく典型的なサーク作品だと云えます。しかも、救済を求める主人公の行動にしても、これこれを為してかくかくしかじかの目的を達成すべしなどというような昨今ビジネスの世界で流行のMBO(目標管理)のような明確な基準に基くのではなく、自分でも何をすれば良いのかが分からないままに、ギリシア悲劇の英雄でもあるかのごとく半ば運命に身を任せながら為されるのです。牧師をしてみたり、再び戦場に戻ったりしても、運命によって失われたものを取り戻すことはかなわず、いわば過去に引きずられたまま主人公が右往左往する様子がここには描かれています。このような典型的にサーク的なプロットを追っていると、当初アメリカでダグラス・サークがそれ程大きく評価されなかった理由に気付くことができます。文芸評論家のテリー・イーグルトンがどこかで述べていたように、自らの力のみによって大事を成し遂げることが美徳であると考えられていたアメリカでは、「運命」のような消極的な考え方は高く評価されないどころか、かえって蔑まれる傾向があり、そのようなアメリカの思考様式にサークの作品が全くフィットしなかったのではないかという点にふと思い当たるのですね。ダグラス・サークがヨーロッパの出身であるという事実は、まさに象徴的であると云えるかもしれません。しかしながら面白いことに、運命に弄ばれるというよりも、カリスマ性が高くどちらかと云えばアメリカンヒーロータイプに近い俳優であるロック・ハドソンを、サークはしばしば主演に迎えていることであり、これには少し奇異な印象すらあります。しかし、よくよく考えて見るとその方が効果的であることをサークは見越していたのかもしれません。すなわち、いかにも運命に従わされるのが当然であるように見えざるを得ないひ弱な印象のある俳優が主役を演じていたならば、それでは単なるペシミスティックで厭世的な、或いは諦念的なテーマが敷衍されていると受け取られても仕方がないからです。サークは世捨て人でもなければペシミストでもなく、それが証拠に、最後に主人公は自分の運命と折り合うことに成功します。いずれにせよ、海の向こうでダグラス・サークが再評価されつつある理由は、誰かの本のタイトルにあるようにアメリカンドリームが終焉を迎えたとまでは言わないにしても、それの実現が極めて困難になった今日にあって、アメリカンドリームの実現がまだ可能であると考えられていた時代にありながらも、敢えてそれとは相容れないテーマを扱い続けてきたダグラス・サークという人物に、予言者的感心が持たれるようになったからということかもしれません。


2005/05/22 by 雷小僧
(2008/10/10 revised by Hiroshi Iruma)
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