四季 ★★☆
(The Four Seasons)

1981 US
監督:アラン・アルダ
出演:アラン・アルダ、キャロル・バーネット、ジャック・ウエストン、サンディ・デニス
左から:アラン・アルダ、キャロル・バーネット、リタ・モレノ、
ジャック・ウエストン

ニール・サイモン調の対話主体の作品ですが、ニール・サイモンが原作ではなく、主人公の一人を演じ監督も務めるアラン・アルダが脚本を担当した作品です。3組の中年カップルが主要登場人物であり、春、夏、秋、冬という移り変わる季節をモチーフとした4つのパートから構成されます。ポイントは、3つのカップルの内、レン・キャリオーとサンディ・デニスが演じているカップルが離婚し、前者がうら若きギャルと再婚するところから3組のカップルの間のインタラクションが微妙に変化するところにあります。ニール・サイモン戯曲の映画化作品においても、実際には極めてシリアスであるはずの題材が、シニカルで且つユーモラスにハンドリングされるケースが多々ありますが、「四季」にもそれに近い傾向があり、この手の作品を好む映画ファンには、確かにDVDライブラリの1本として加える価値のある作品です。また、ビバルディの「四季」が作品全体のバックグラウンドに流されている点と、各季節に見合ったロケーションが選択されている点は、会話主体の作品のオーディオ、ビジュアル両側面を強化する意味で極めて効果的です。Variety紙によるコメントには「作品の構成はあまりにも「Same Time Next Year」のそれと似通っている(Pic's structure is too strkingly similar to that of Same Time Next Year)」及び「物語は厳密に普通の人々で満ちている(Tale is poplulated strictly with Ordinary People)」と述べられています。後者の普通の人々(Ordinary People)は、先頭が大文字になっている点と、斜体で記されている点を考慮すれば、単なる普通名詞として使用されているわけではなく、ロバート・レッドフォードが監督した「普通の人々」(1980)がそれによって仄めかされていることが明らかになります。前者の「Same Time, Next Year」(1977)との類似に関してはその通りであるように思われ、多分そちらにも主演していたアラン・アルダはロバート・マリガンのこの素晴らしい作品の影響をかなり受けていたのかもしれません。しかしながら、後者の「普通の人々」への言及に関しては、「四季」が「普通の人々」に類似していることをそれが意味するのであれば、少し違うように思われ、単に「普通の人々」が徹頭徹尾シリアスなドラマであるのに対し、「四季」はニール・サイモン調のコメディ映画であるという表面的なレベルにおいてのみではなく、両者の間には本質的な相違があると言わざるを得ません。この点は、前者が徹頭徹尾シリアスドラマでなければならなかったのに対して、後者がニール・サイモン調のコメディ映画であり得たのはなぜかという問に置き換えられるでしょう。その回答は、次の点にあると考えられます。すなわち、「普通の人々」においては、専ら核家族という社会問題が取り上げられているのに対し、「四季」においては、レン・キャリオーとサンディ・デニスが演じているカップルの離婚と、それが彼らの娘に与える影響に関して確かに核家族問題が見て取れないことはないとはいえ、決してそれがメインの問題として取り上げられることはなく、あくまでも3組のカップルの間のインタラクションに焦点が置かれているからです。では、なぜ核家族問題が取り上げられるとシリアスなドラマにならざるを得ず、そうではないとコメディたり得るかという点が大きな疑問になりますが、それはつまりこういうことです。すなわち、「普通の人々」の場合には、主人公達の立場に同化させることにより、主観的な観点から核家族問題をオーディエンスに意識させようとする意図が少なからずあるのに対して、「四季」の場合には、徹頭徹尾オーディエンスを第三者の立場に置き、主人公達の間のインタラクションをシニカルな目で見させようとする意図があるからです。つまり、オーディエンスが作品を見る立場の想定に関して、前者においては主観的観点が、後者においては客観的観点が前提とされているのです。かくして、「普通の人々」には、社会問題を鮮明化させる目的があり、それを達成する為にオーディエンスの主観的な視点が前提されているのであれば、基本的にコメディであってはならないことになります。それに対して、「四季」においては、もともと社会問題の鮮明化が目的とされているわけではない上、オーディエンスを批評家という第三者的立場に置く意図が存在するのであれば、内容的にはコメディが最も相応しい次第になります。総括すると、「普通の人々」が極めて現代的な作品であるのに対して、その1年後に製作された「四季」は、むしろニール・サイモン戯曲の映画化が受けていた60年代や70年代に心情的に近い作品なのです。


2005/08/28 by 雷小僧
(2008/12/17 revised by Hiroshi Iruma)
ホーム:http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_actress.htm
メール::hj7h-tkhs@asahi-net.or.jp