フィスト ★★☆
(F.I.S.T)

1978 US
監督:ノーマン・ジュイソン
出演:シルベスター・スタローン、ロッド・スタイガー、ピーター・ボイル、メリンダ・ディロン
上:シルベスター・スタローン

アメリカ映画には労働組合を扱った映画はほとんど存在しませんでした。確かにエリア・カザンの「波止場」(1954)では労働組合的要素が扱われてはいましたが、しかしながら個人的にはあの作品はその点に主眼あったというよりもむしろマーロン・ブランドのパーフォマンスのバックグラウンドとして労働組合的要素が取り入れられたと言う方が正解であるものと考えています。つまり労動組合を正面から取り上げようとしたわけではなかっただろうということです。別にこれは労働組合に限った話ではなく、要するにアメリカ映画には「クラス(階級)」がセンシティブに扱われること自体が極めて稀であり、この点が同じ英語圏の作品でもイギリス映画とは大きく異なるところでした。まあそもそもアメリカは個人主義的傾向の強い国(但し誤解してならないことは、その反面アメリカは根強い宗教心情が存在する国のようであり、原理主義的な側面が表面化する度合いは非イスラム圏の先進諸国の中ではアメリカがナンバーワンでしょう)であり、横関係ではなく縦関係が注目されることが極めて稀であったということなのかもしれません。しかし70年代の後半になると労働組合を題材とした映画がアメリカにも出現するようになります。有名なところでは、サリー・フィールドがオスカーを受賞した「ノーマ・レイ」(1979)やこの「フィスト」が挙げられます。勿論捜せば他にもあるかもしれませんが、いわば「フィスト」はアメリカ映画によってまともに労働組合が取り上げられた最初の作品の1つであると言えるかもしれません。実はこのように言い切ってしまうと、1950年代以前の映画は多くは見ていないので、ほれ!かくかくしかじかの映画があるじゃんと言われてしまうと、すすすすんましぇんと言いながら頭を抱えて逃げるしかありませんが、しかし恐らく1950年代いや1960年代も含めてそれ以前に製作された映画の中で労働組合がまともにテーマとして取り上げられたことはまずないだろうというのは、様式の変遷を考慮に入れればほぼ誤りはないのではないかと思っています。何故1970年代後半になってそのような映画が出現し始めたかについては簡単には返答出来ないところですが、これはむしろ何故それまではそのような作品が製作されてこなかったのかと問い直す方がベターであるように思われ、そう考えてみるとシドニー・ルメットがわざわざ社会派と名指されたことからも分かるように、労働組合のような社会的な主題が扱われることそのものが1960年代までは稀であったことが分かります。「フィスト」は、ジョニー・コバックという労働組合をオーガナイズした人物にモロに焦点が当たっており、その意味では後のジャック・ニコルソンが主演した「ホッファ」(1992)と似ているかもしれません。強烈なカリスマ的パワーによって労働組合を組織化するジョニー・コバックを演じているのが、なななななんと!かのスタローンさんではないですか(彼はこの映画の脚本も共同で手がけています)。彼は、この作品以後は全くと言っても良い程、アクション映画ばかりに出演していますが、このような社会派ドラマの主人公をガチンコで演ずることも出来たのですね。彼と同世代のもう一人のアクションスーパースターであったアーノルド・シュワルツネッガーに関して言えば、凡そ彼が社会派ドラマに出演するとは考えられず、まあ肉体が衰えてくればカリフォルニア州知事にでもなるしかないだろうということがよく分かりますが、スタローンは必ずしもアクション分野でなくともそこそこいけたのではないかということが「フィスト」を見ていても分かります。確かに社会的なテーマであるはずの労働組合が扱われると必ず暴力という側面がクローズアップされ(この作品でも最後にスタローン演ずる主人公が破局に追い込まれるのはマイフィアとの黒い繋がりによってです)、その点必ずしもアクション映画とは無縁でない展開になることもありますが、しかしながらいずれにしてもそれらの暴力はランボーやターミネーターの暴力とは全く異なるわけです。正直言えば労働組合が焦点になっている映画は、個人的にはどうもあまり面白いようには思えないところがありますが、しかしながらこの映画に関して言えばやはり好奇心的なものも含めてスタローンに注視せざるを得ないところで(まあ上掲画像のようにネクタイを締めたスタローンは他ではあまり見ることがないかもしれませんね)、それ故興味深いところがあります。労働組合などという地味なテーマ且つ2時間半という長めの作品ですが、スタローン主演のスピーディな展開によって冗長になることから免れていると言ってもよいでしょう。裏を返すと、彼の存在がなかったならばテーマ的にもこの作品は持たなかったのではないかという気もします。それにしても最近はあまり見かけなくなってしまいましたね。何年か前に「追撃者」(2000)という映画で見かけましたが、入間の山の中の映画館で深夜に見たということもあってか確か観客は私めを含めて2人だったような・・・。まあスタローンではもう客はこないということでしょうか。まだまだ老け込む歳でもないように思いますが、どうしているのでしょうか?そうそう、それから「フィスト」には、「波止場」ではマーロン・ブランドの兄貴役を演じていたロッド・スタイガーが、スタローンを追い詰める議員役で出演しています。


2006/08/20 by Hiroshi Iruma
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