悪女のたわむれ ★☆☆
(The Big Bounce)

1969 US
監督:アレックス・マーチ
出演:ライアン・オニール、リー・テイラー−ヤング、ロバート・ウェバー、リー・グラント

左:ライアン・オニール、右:リー・テイラー−ヤング

「悪女のたわむれ」の目玉は何と言ってもリー・テイラー−ヤング演ずる悪女ナンシーである。後半のあるシーンでは、やって来た訪問者をピストルで撃ち殺してしまうが、基本的には悪女と言ってもたとえば「深夜の告白」(1944)のバーバラ・スタンウィック演ずる悪女のようなフィルムノワール的にスタイリッシュな悪女ではなく、ノンシャラントでカジュアルな悪女を演じていて、明らかにカウンターカルチャー文化が全盛であった頃の1960年代後半の風潮が彼女のキャラクターに色濃く反映されている。「深夜の告白」のバーバラ・スタンウィックが怜悧に計算し尽くされた狡知によって、金儲けはしたいけれどもデカイことは出来ないという小市民的保険セールスマン(フレッド・マクマレー)を自在に操るのに対し、「悪女のたわむれ」のナンシーは、5分先のことすら考えずに気のむくままに我勝手に振舞い、周囲の人々を幻惑し振り回す。言ってみれば「悪女のたわむれ」の悪女とはフィルムノワール的悪女のアンチテーゼのような悪女でもあり、フィルムノワール全盛時代の映画とカウンターカルチャー文化に強い影響を受けている1960年代後半の映画の違いをここに明瞭に見出せる。フィルムノワールのノワールとは勿論、黒であるとか暗いとかいうような意味だが、カウンターカルチャー文化の影響を強く受けた1960年代後半の映画は、色で言うならば収斂的な傾向を持つ「黒」とはまったく逆の発散的な傾向を持つ「白」のイメージがある。「黒」が太陽の光を吸収しブラックホールのように周囲の光を底無しの闇に吸い込んでしまうのに対し、「白」は周囲の光を乱反射させて近くに立つ者の目をくらませ混乱に陥れるのであり、前者が「深夜の告白」のバーバラ・スタンウィック演ずる悪女のメタファーであるとするならば後者が「悪女のたわむれ」のリー・テイラー−ヤング演ずる悪女のメタファーである。この点に「悪女のたわむれ」の魅力が潜んでいて、山の天気のようにコロコロと気分が変わり周囲をカオス化させるナンシーは、これが現実世界であれば「いやな女、ピリオド」ということになってしまうかもしれないが、少なくともそれがスクリーン上に現れると妙な悪の魅力を発散させる。加えて、もう1つこの映画の魅力は、いかにも1960年代ポップスという響きのある主題歌及びそのオーケストレーションされたバージョンが全編に渡ってバックグラウンド音楽として流されていることであり、サッカリン的(或いは1960年代後半当時の駄菓子に砂糖の代りに含まれていたチクロ的)にチープな音楽であるとは言え、そのノンシャラントな響きがこの映画の雰囲気に調和していて素晴らしい。この映画は最近同じアレックス・マーチ監督によりリメイクされていることも考慮に入れると、必ずしもプロの批評家の評価が芳しいとは言えないが一種カルト的人気があるようである。

※当レビューは、「ITエンジニアの目で見た映画文化史」として一旦書籍化された内容により再更新した為、他の多くのレビューとは異なり「だ、である」調で書かれています。


2004/09/12 by 雷小僧
(2008/11/09 revised by Hiroshi Iruma)
ホーム:http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_actress.htm
メール::hj7h-tkhs@asahi-net.or.jp