日本人の勲章 ★★☆
(Bad Day at Black Rock)

1955 US
監督:ジョン・スタージェス
出演:スペンサー・トレイシー、ロバート・ライアン、アーネスト・ボーグナイン、リー・マービン

左:スペンサー・トレイシー、右:アーネスト・ボーグナイン、後方:リー・マービン

「日本人の勲章」は、太平洋戦争が終ってからまだ10年しか経過していない頃合いに製作された作品であり、「Remember Parl Harber」というフレーズに代表される排日感情が、いまだアメリカ人の心の中には燻っていたのではないかという印象を多少なりとも受ける内容を持つ作品です。とはいえ、作品自体に日本人が登場することはありません。かつて日本人に助けられた主人公(スペンサー・トレイシー)が、その日本人の持っていたメダルを彼の父親に返す為に、まるで西部劇の舞台のような移民先のアメリカの田舎町にやって来ると、何故かその町の住民は主人公に対し敵対的な感情を剥き出しにしてある事実を隠そうとします。つまり、この作品では、日本人に対する憎悪が日本人に会おうとするアメリカ人の主人公に対する憎悪として代理表象されます。この作品には、くだんの日本人の父親はいったいどうなったのだろうかという点を巡って、ミステリー要素が見出せないでもありませんが、この疑問に関しては、余程鈍感でない限り早い段階でおおよその見当がつくはずです。従ってむしろ、四面楚歌の状況から主人公がいかに脱せるかを巡って、サスペンス的な緊張感が高まっていく作品であると捉えるべきでしょう。とにかく、周囲を砂漠に閉ざされた町がどれ程閉鎖的になり得るかに関しての思考実験をしているのではないかとすら思われる程、陰湿な人物が次々に登場します。中でも絶品は、アーネスト・ボーグナイン演ずるキャラクターで、たとえば主人公がレストランに入ってスープを注文しようとすると、彼が主人公に様々ないやがらせをするのですね。いわく、「その席は俺の席だ」、主人公が彼に席を譲ると今度は「この席は座りが悪いからそっちの席の方がいい」、挙げ句の果ては主人公の注文したスープの中にケチャップをドクドクドクとぶちまけます(上掲画像参照)。これでは、まるで小学校のいじめですが、アーネスト・ボーグナインのようないかつい顔をした俳優さんが演じると、こんな奴ならばそういうことをしてもなるほどそれ程不思議ではないなとオーディエンスを強引に納得させてしまうものがあります。また、アーネスト・ボーグナインに負けず劣らずいかつい顔をしたリー・マービンも、同様にいかにもいやらしいことをします。後年、この二人が「北国の帝王」(1973)で無賃乗車を巡って壮絶な死闘を繰り広げるとは、この当時は思っていなかったことでしょう。彼らは、過去に関する町の秘密を守る為には何でもするロバート・ライアンの手先であり、アメリカの田舎町の閉鎖性が彼らの存在を通じて128倍にもなって伝わってきます。一説によれば、この作品には、当時嵐を呼んでいた赤狩りに対する抗議表明的ニュアンスが含まれているとのことですが、真偽のほどはともかく、特定の集団が閉鎖的になった場合の危険性がよく分かる作品であることに相違ありません。「日本人の勲章」は、ほぼ野郎のみが登場する作品ですが、紅一点アン・フランシスが出演しており、「こんなアメリカの田舎町にこんなカワイコちゃんがいてもいいものか(これはこれで、何という偏見でしょう)」と思わせてくれます。驚いたことに、タイトル前にクレジットされるスペンサー・トレイシー、ロバート・ライアンは別格としても、アーネスト・ボーグナイン、リー・マービン、ディーン・ジャガー、ウォルター・ブレナン等の名優達を押しのけて彼女の名前が真っ先に現れます。アルファベット順かなと最初は思いましたがそうでもないようなので、きっと紅一点の彼女に敬意を払ったのではないかとすら思えます。


2001/05/26 by 雷小僧
(2008/10/08 revised by Hiroshi Iruma)
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