アンドロメダ・・・ ★★★
(The Andromeda Strain)

1971 US
監督:ロバート・ワイズ
出演:アーサー・ヒル、デビッド・ウエイン、ジェームズ・オルソン、ケイト・リード

左:アーサー・ヒル、右:ケイト・リード

ロバート・ワイズのSF作品といえば、「地球の静止する日」(1951)を思い出しますが、70年代初頭に監督した素晴らしい作品「アンドロメダ・・・」を忘れてはなりません。「地球の静止する日」では、いかにもフィクションであるような外観が終始保たれていたのに対して、「アンドロメダ・・・」は、ドキュメンタリータッチが強調され、前者とは異なるリアルなサスペンス感が醸し出されています。ロバート・ワイズは、「地球の静止する日」でも、当時のアメリカのオーディエンスには馴染みの薄いマイケル・レニーという俳優さんを起用していましたが、「アンドロメダ・・・」でも実に地味なキャスティングが施されています。ドキュメンタリータッチが強調された「アンドロメダ・・・」では殊に、キャスティングの地味さが極めて有効に機能し、また出演俳優ばかりではなく、大作SF作品に通常期待される人目を惹く派手なシーンすら皆無であり、いかにもシリアスで重厚な正統派SFであると見なせます。「アンドロメダ・・・」には、目に見えない地球外生命体が人類存亡の危機をもたらすという極めてSF的な大前提が勿論存在しますが、外界から完璧に密閉された地下研究施設に閉じ篭って未知の生命体と対峙しなければならない4人の科学者達の視点に同化すれば、SFよりもむしろサスペンススリラー的手法により、密室の恐怖感が浮き彫りにされていると見なした方が実情に適っています。また、リアリティにこだわった細かな背景描写が極めて特徴的です。しかしながら、その点は、ウリであると同時に、見る人によっては欠陥にもなるはずです。何しろ、徐々にセキュリティレベルが高くなる研究施設の地上階から地下5階まで厳重なチェックを受けながら主人公達が降りていく様子が長々と描写されているほどであり、展開の早いビジュアル効果中心の昨今のSF映画を見慣れたオーディエンスの目からすると、恐ろしくスローな印象を受けることは必至でしょう。また、そのような点においてだけではなく、公開された時期を考えても「アンドロメダ・・・」には特異な点があります。というのは、管理社会批判的なテーマが敷衍されることが極めて多かった70年代前半のSF映画の中にあって、そのような側面がほとんど強調されることのない当作品は異例であると見なせるからです。その点に関していえば、むしろ研究施設の管理者の方が科学者達の決定に従順に従っており、管理社会批判テーマとは全く逆のシチュエーションが描かれているのです。ところで、「アンドロメダ・・・」の原作者は、かのベストセラー作家マイケル・クライトンですが、初期の作品であることもあってか、後年のたとえば「ジュラシック・パーク」のような娯楽性の高い作品とは全く違った妙味があり、シンプルではあるけれども無駄な装飾が一切施されていない為、あらぬ方向に気を取られずストーリー展開に純粋にのめり込める作品です。有名なSF映画「宇宙戦争」(1953)同様、最後には人間の努力を越えたところで勝手に危機の方が去っていく展開は、後年のヒーローアクション主体のクライトンSFとは大きく異なっており、興味深いところです。実は、彼のベストセラー小説が原作である映画の中で個人的に最も好きな作品が「アンドロメダ・・・」であり、他の作品の多くが確かにエンターテインメント性に優れていたとしても繰り返し見たくなることはないのと異なり、繰り返し見たくなる要素の多い作品であると評せます。話題に上ることが必ずしも多くはない地味な作品ですが、傑作とまでは言わずともSF映画の秀作の1つであることには間違いがありません。


2005/07/17 by 雷小僧
(2008/11/14 revised by Hiroshi Iruma)
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