サイキンのタケウチ


〔身辺雑記〕

5月1日(水)
 くろべー12歳の誕生日。十二年といえば十二支が一回りするわけで、犬における還暦ってことにした。僕の個人的なルールだが、とにかくめでたい。
 ちなみに人間の場合は十干十二支で考えて、10と12の最小公倍数だから60年で還暦ってことになってるそうだ。しかし十二支ってのは「子丑寅卯……」ってやつで動物キャラだからイメージわきやすいけど、十干ってのは「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」ってことでどーもピンとこない。「甲乙丙丁……」ってのは古いタイプの等級分けに使われてるけど、他は日常的に使う日本語にはあんまり出てこないもんな。ずらっと並んだ十干十二支の表の読み仮名欄を眺め、何か聞き覚えのある言葉はあるかなーと思ったら、目についたのは「ひのえうま」って言葉くらいだった。いやこの言葉だって、決して一般的な用語はいえず、ごく特殊な場合しか使わないともいえそうだ。漢文読みなら「シンガイ」とか「ボシン」とかは革命やら戦争やらの名前についてるけど、これも固有名詞みたいなもんだもんなあ。
 で、十干ってのは何かといえば五行×2(陰と陽の2つ)で十干なんだそーで、じゃあ五行って何かといえば世界の五大構成要素である「木火土金水」なんだとか。なんだかフィフスエレメントみたいな話だが、一週間の七曜日から日月の天体を抜かした5要素ってことになるようだ。そういや日曜と月曜は地球外の天体で、他は地球上にあるもんなんだなー。
 まあ、何はともあれ。――十二支の方は犬も入ってるけど、十干の方は犬は入れてくれてないんだから、そっちを考慮してやる義理はない。大型犬は10年も生きれば御の字といわれてる中、12年も生きてるんだから、くろべーは今日で還暦ってことで祝ってやってもいいではないかと思うのだ。

 僕が彼を引きとったのは2歳になった直後だった。茨城で生まれて徳島で育ち、千葉へとやってきて僕と暮らし始めたのだ。僕と出会うまでもいろいろ変転いっぱいの生活だったわけだし、僕も何かと問題のある飼い主だったわけだけど、そんな中で明るく気さくな性格で暮らしてくれて、今も元気でいるのは何よりありがたい。
 顎の下とか眉のあたりとかはすっかり白髪も増えたし、去年の夏はエプリスの手術もあったし、このところ老けこんできたなーってところも目につく。散歩の時も、興奮したり好奇心がうずいたりしてる時のほかは随分と歩くペースが落ちた。坂道や階段が負担なようにも見えるし、わざとのそのそしてるように歩いてるようにも思えたりする。それでも散歩には行きたがり、他の動物を見るとすりよりたがり、雌犬を見ると目の色を変えるのは、気が若いってことなのかな。
 町暮らしの時はそうもいかないけど、山荘に戻ってからはなるべくノーリードで散歩することにしていて、マイペースで歩かせてやっている。進むのは遅くなったけど、あたりのにおいを嗅ぎつつ楽しげに歩いているのは何よりで、距離や坂道の傾斜具合を考慮してコースを決めている。こうして一緒に山道を歩いていられるのもいつまでかなーと思うと切なくなるが、そのぶん今のうちにたっぷり楽しんでおかんとな。

 つうわけで、午前中だけ仕事してたけど、昼頃に宅配便の配達が来たのを潮に切り上げた。届いたのは犬用おもちゃのコングってやつで、冬の間に壊れたので新品を買って誕生日に届くようにしといたのだ。――これまでは新品のおもちゃを買うと、なるべく壊さず長いこと使ってくれよと思ったもんだが、還暦を過ぎた以上は、元気なうちにたっぷり噛んでどうぞぶっ壊してくれという気持ちでプレゼント。
 で、そういうもんが届いたた以上、こっからはお遊びの時間である。執筆なんざ放り出し、くろべーと共に車に乗り込んだ。昼飯もまだだし買い出しもしときたいし、ちょいと下山するかって気持ちで出発、まずは川に向かう。
 この川にかかる橋が老朽化してて、随分前から新しい橋をかける工事をしてたんだけど、最近ようやく開通したらしい。おニューの橋を渡ってこりゃあ走りやすくなったなーと感動、川原におりてぶらぶらと渓流散策。新しい橋を見上げたり、ここは今頃桜が咲いてるなーと思ったり。まだ水が冷たくて泳ぐには早いけど、それでも眺めのいいとこで歩くのは気持ちいいもんだ。
 もっとも、くろべーの方は特に風景に興味はないようだ。川原でもやることはもっぱらにおい嗅ぎのようだけど、川原のにおいはまた違うもんなのかなー。

5月10日(金)
 くろべーと暮らして丸10周年。めでたい!
 大型犬を飼う場合、“寿命は10年と覚悟して、それより長く生きてくれたら神様からの贈り物だと思うべし”って話を聞いたことがある。くろべーの場合は2歳で僕のとこに来たので、それから10年よく長生きしてくれたと思う。
 僕もいろいろ問題ありつつ10年は飼い主をしてきたわけで、これは自分を褒めてやりたいもんだ。自分自身がこの10年に何をしたかなって考えるとこころもとないけど、少なくとも10年間はくろべーの世話をしつづけてきたのだ。そのご褒美として、今日からは贈り物の日々を楽しんでいきたい。
 つうわけで、10周年祝いの今日は終日一緒にすごし、早い時間からビールで乾杯。くろべーの数ある美質の中でも最大のものの一つは、僕と一緒に楽しく酒を飲めるってことだよな。

 とはいえ、10周年祝いで最初にしたことは、くろべーの嫌いなシャンプーだった。単にしばらく洗ってなかったのと、今日の気温が高めだったからなんだけども。
 午後のあったかいうちに洗ってベランダで天日干し、それから散歩に出かけてアスファルトの上でごろごろ。この山荘でのシャンプー後の行動もすっかりパターン化してきて、くろべーもそのつもりで動いてるのが面白い。
 ふと思い立ち、10年前の日記(http://www.asahi-net.or.jp/~hi3m-tkuc/d0305b.html)を読んでみたところ、僕もまだくろべーの風呂嫌いをちゃんとは把握してなかったようだ。くろべーが階段が苦手だったこともすっかり忘れてて、10年前の記録を読んでふっと目が潤む。子供を育ててる人もこういう感覚を抱くもんなのかなー。

5月20日(月)
 ごく一部から、「せっかくの十周年なのに、その記念がくろべーの嫌いなシャンプーとは何事か」というお叱りを受けましたが……
 そんじゃあ言わしてもらいましょー。実のところ、十周年記念だか還暦祝いだかのため、車を買い換えました。過保護だと言われそーなんで黙ってたけど、足腰の衰えが隠せないくろべーは、これまでの荷室の床の高い車だと自力で乗り降りできなくなってきたのだ。
 そんじゃあもっと床が低くて楽に乗れる車ってのを第一条件、車中泊しやすいのを第二条件にして車種決定。それがこのほど納車され、めでたくくろべーも乗り込んで初ドライブも無事に済ませたのであった。
 車を受け取って帰宅したその日にちょっとした朗報があったりもして、なんだか縁起のいい車になりそーである。あとは犬連れドライブ旅行に繰り出して車中泊も試してみたいが、さてどこにいこーかな。
 車中泊場所は道の駅やサービスエリアになると思うけど、「うちの敷地に停めてもいいぞ」って方がいらしたらご一報ください。近くに水場とトイレさえありゃあ、とりあえずどこでも泊ってみる予定です。

5月26日(日)
 午前中、車に乗っていそいそとお出かけ。
 つっても恋愛方面の用事ではなく食欲方面の用事である。最近気に入って通うようになったラーメン屋のご主人から、自慢の裏メニューの特製塩ラーメンを食べてみてほしいと誘われたのだ。ついこないだ、水曜日には炭火焼屋さんに「イセエビの具足煮」って裏メニューを食べに行ったし、なんか裏メニューづいてるなあ。
 で、某ラーメン屋さんの裏メニューの塩ラーメンってのが、注文の多い料理店的にいろんな条件を満たさないと食べられないらしい。「気に入った客にしか出さない」「ちょっとしかとれない部位を使うので1日1杯限定」「比内地鶏を用意するので2日前に要予約」「1杯作るのに手間がかかるので開店直後に来てほしい」などなど。事前にご主人からいろんな情報を聞いてたので、それだけで期待が高まる。知らんうちにアクセルふかしてたのか、予定より5分ほど早めに着いたりなんかして。
 いったいどれほどのラーメンだろうと思って食べてみたのだが、確かに言うだけのことはあり、2日前予約して楽しみにして来るだけの価値はあった。予想を超える美味さの塩ラーメンに、予想のつかない味の演出が加えられてたのだ。総合的な演出までひっくるめて、僕が今まで食べた中で一番美味かった塩ラーメンだといっていい。未体験の人には是非食べさせてあげたい――いや一日一杯限定だから人にすすめるなら俺が食いたいくらいだけど、どーしてもって人には教えてあげます。
 どういう味かというと、まず第一丼には麺とスープとネギだけの塩ラーメンが盛りつけられている。もともと手打ち麺の見事な味わいと食感が気に入って通うようになった店なので、このシンプルな状態でまず美味い。そして鶏ダシスープだが、好きな麺をすする前にレンゲで何杯も飲んでしまったほどの味わいだった。よく塩ラーメンをほめる際に「あっさりしているのに深い味」とかいうけれど、まさにその究極である。
 ただし、「あっさりしてる」と言うと語弊があるかもしれない。レギュラーメニューの塩ラーメンより明らかに油分が多めで、スープが黄色っぽく見えるほどなのだ。なのに脂のしつこさを感じないのが不思議だなーと思ったのだが、それこそが比内地鶏の力なんだそうな。自身ラーメンマニアなご主人は、この比内地鶏を手に入れるために山形まで通いつめてたんだとか。前にラーメン行脚をしたり地鶏農家と交渉したりしてたって話を聞いた時には、ふーん熱心だなーと思う程度だったけど、実際その食材の凄さを味わわせてもらうとそれを入手するためまでの努力の凄さが垣間見えた気がした。
 で、その第一丼だけでも充分に満足だったんだけども、丼はもう一つ出された。その第二丼に入ってたのは、豚肉の希少部位のバジル焼き。希少部位ってのがどこだかは聞かなかった(つうか聞いたって知識ないので分からない)が、軟らかくて脂は少なめなんだけど旨味たっぷりな部位である。それを塩とバジルで味付けして焼いた感じで、第二丼だけでもビールを飲みたくなるんだけど、第一丼がある程度減ったらそこにバジル肉を投入して味代わりを楽しむという演出だった。
 試してみると、これがまたよく合う。イタリアンからオリーブオイルを抜いても成立してるような料理というか、どの国の料理とも言えないような不思議な無国籍塩ラーメンである。つうか、僕はもともとバジル味のパスタって好きだったんだけど、同じバジル料理でどっちか選べと言われたらこの塩バジルラーメンを選ぶ。鶏も豚も一級品なおかげでまるで脂っこくなくて、するすると腹に入ってく感じ。まるで腹にもたれないし、手間がかかるんじゃなかったらもう一杯頼みたいくらいだったなあ。

 せっかくの限定ラーメンだったので、持参のケータイのデジカメ機能でラーメン写真をぱしゃぱしゃ撮影。ネットにアップしてラオタ(ラーメンの好きな人たちはそう自称するのだそうな)とラー友(ラーメン好きの世界では同好の士をそう呼ぶのだそうな)たちにも見せたいと思ったのだ。
 普段は食べる前に撮るだけなんだけど、今日は味代わりの前後も撮っておきたいので、いつもより多くシャッターを切る……と思ったら、ケータイストラップから根付がぽろっと落ちた。
 趣味の木彫りで作ったくろべー根付、ストラップにする際にくろべーのシャンプー直後の毛を紡いだ紐を使ってとめてたんだけど、その紐玉がほつれちゃってたのだ。とりあえず根付は無事だったんでよかったけど、この留め方は無理があるかなーと思いつつラーメン屋を後にした。
 今日はちょっとしたイベントがあって、友人たちが出店したりワークショップを開いたりスタッフをしたりしてるというので、一通り回ってみようと思ってたのだ。出店の屋台は大賑わいの行列状態、ワークショップのブースは昼食休憩らしくて留守って状態で、天気のいい中でみんないい感じにお祭りを楽しんでるようだった。
 ぐるっと一回りした後、合流できたラーメン好きの友人に、いやーさっき行ったラーメンが美味かったーなんて話を吹き込む。ついでにケータイストラップの件を話すと、ほつれた紐玉を今日のワークショップで補修できるというか、改良することができるとのこと。絶妙のタイミングだなーと驚きつつ、そのワークショップに参加させてもらうことに。
 草木染めの羊毛を使い、テーマに沿って各種アクセサリーを作るっていうワークショップだったんだけど、僕は小さなテニスボールを作ってみることに。くろべー根付と組み合わせて使うもんなので、くろべーの好きなものがいいかと思ったのだ。
 ほつれたくろべー毛玉を芯にして、それを若草色の羊毛で包みこみ、専用の針でちくちくとフェルト加工。先生に教わりながらおっかなびっくりやってたけど、うまいこと黒い毛を覆ってテニスボールっぽい球形になっていくことに感心した。最近はやってるフエルト細工の手芸ってのはこういう仕組みだったのかー。
 テニスボールの柄に見せるためには白い羊毛を紡ぎつつ絡ませていくって感じで、どういう模様だったけなーと思い出しつつ再現していく。うまいこと立体化できたのは、黒いクラッシャー犬が何個となく噛みまくっては分解していく様を見てきたおかげだろうなあ。
 で、一般のお客さんが次々に訪れてはテーマに沿った作品を完成させて去っていく中、一人で別路線のものを目指して粘る。何倍もの時間をかけた結果、どーにか納得いくものできて満足。先生どうもお世話になりました。
 今後はこのミニミニテニスボールを活用して、くろべー根付と携帯電話をつないでおこうと思います。これまで黒と茶色だったものに鮮やかな色彩が加わるだけで、随分と雰囲気ちがうもんだねー。

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