サイキンのタケウチ


〔身辺雑記〕

6月8日(金)
 午前中、さて仕事はじめるかーと思ったらメールが届いた。差出人はひとつ峠を越えた先に済んでる友人で、内容は今夜のみにいかないかってお誘いである。
 おまけに車で送迎してくれるということで、田舎暮らしで外飲みしづらい身には何ともありがたい。二つ返事でOKして、このところ手こずってた小説を今日で仕上げて気持ち良く飲みいくぞーと意気込む。
 んがしかし、パソコン向かってファイルを開いてびっくり。昨日書いた分が残ってないではないか! どーやら一仕事終えた後でデータをセーブするのを忘れてたらしい……原稿用紙にして10枚くらいは書いたはずのもんが消えてしまった。
 普段だったらこーゆーショックを受けた時点で創作意欲もふっとぶところだが、今日はめげない。書いた内容は頭に残ってるし、もっといい形に書き直せばいいんじゃーいと頑張り、消えた分を取り戻した勢いで最後まで書ききってお仕事終了。無事に飲みにいけることになった。
 こーなると、カボチャの馬車を待つシンデレラの気分だが、ここでうっかりしてはいかんと今日はしっかりセーブしとく。――長いこと使ってた親指シフトワープロからパソコンに執筆環境をうつしたのはいいが、パソコンのトラブルやらおいらの操作ミスやらで余計な弊害が増えたよなあ。

 で、人の運転で美味しい飲み屋へ。
 こないだどっかで、メープルシロップのカクテルがあると小耳に挟んだので、マスターにそのことを尋ねてみる。カクテルのレシピは調べないと分からないとのことだったが、そもそもメープルのリキュールがあるというのでそれを注文。ロックで出してもらった。
 このアンバーリキュール、スコッチのマッカランをベースにカエデとクルミの木を漬け込んで香りを出したリキュールってことで、いかにもメープルな香りがする。リキュールだけあって最初の口当たりはいささか甘いが、氷が溶けてくるといい感じだし、飲んじまった後も残り香のついた氷がおいしいほどだった。
 こりゃあボトルで買って、水割りにするとかウイスキーで割るとかして甘みを抑えて飲んでみたいなーと思い、ネットでチェックしてみた。しかし楽天の全店で売り切れとのことで、よっぽど人気の品なのかそれとも限定出荷とかなのか。どっかで1本買えないかな〜。

6月12日(火)
 朝から雨である。梅雨は嫌だなーと思いつつ、もたもたと準備してくろべーと朝の散歩……と、くろべーがテラスから庭に向かってだだだっと飛び出した。
 何だろうと思ったら、くろべーが鼻面をつっこんだ茂みのあたりから、こっちに小さな生き物が逃げてきた。とっさにネズミかなと思ったが、よく見りゃ子ウサギである。まだ耳も短く、ネズミ並みに小さいが、ちゃんとウサギの顔をしている。必死で逃げてるしウサギだけあってすばっしこいのだが、よっぽど慌ててるのか時々転んだりしてる。
 北方謙三『水滸伝』では、豪傑たちが旅の中で兎を獲って食糧にするシーンがたびたび出てくる。前脚が短くて後脚が長いため、坂の上から下に追い立てるとすぐに転がって簡単に捕獲できるって書いてあった覚えがあるが、その通りの光景だった。うちの庭は傾斜地になってるし、たまたま子ウサギが逃げ込んだ小道(そーいや道を作ったときは陶宗旺のことを連想したっけなあ)が下に向かってたため、ちょっと走るってえと見事に転ぶのである。
 その隙にくろべーが追いつく。老いたりとはいえレトリバーの血筋、普段ボールを追いかけてるのはこの時のためだと言わんばかりに興奮している。かといって、追いついてもどうしていいか分からず、子ウサギのにおいを嗅いでるだけ。野生のウサギにしたら食われると思うんだろうけど、僕としては目の前でスプラッターなシーンは見たくないので、くろべーに声かけて制止。こっちはこっちで、普段から散歩の時に3DSを持ち歩いてるのはこういう時に撮影するためなのだ。
 もっとも、悪天候の朝のせいで光量が少ない上、いざ撮影を始めたらあっという間に逃げられたので、まともな映像も画像も撮れなかったんだけどね……

 そーいえば先週、夕方の散歩の帰りにうちの近所で大人のウサギと遭遇した。一番近い人間宅より近くに兎の巣があるようで、こりゃあ御あいさつもしませんでと思ってたのだ。今朝の子ウサギはその巣で育ったのではなかろーか。
 大人ウサギは僕とくろべーに気付いたらぱっと姿を消しちゃったけど、そいつが僕らに見つかったのも、子ウサギを守るためだったのかもしれない。そろそろ巣立ちのシーズンってことで親が周囲を警戒したり囮になったりしてるせいで、普段だったら見つかるはずのない相手(間抜けな人間と黒犬のことね)の目にも触れたって推理もなりたつような気がする。
 その大人ウサギに比べると今朝の子ウサギはだいぶ頼りなかった。僕とくろべーからは逃れても猛禽類やキツネには捕まっちゃうんじゃないかと心配だけど、頑張って生き延びてまた遊びに来てほしいなーと思う。
 ちなみに、朝にウサギを獲り逃がしたレトリバーの末裔はというと、夕方散歩のときもなごり惜しげに庭のにおいを嗅ぎまわっていた。子ウサギ発見地点や転倒地点を重点的にチェックしてるのは、獲物のにおいが残ってるのか狩りの記憶を辿ってるのか……

6月29日(金)
 昼前から来客、みんなで水を入れたペットボトルを携え、モミジイチゴ狩りに繰り出す。
 天気予報じゃ天気は下り坂ってことだったが、いい方に外れて上天気。今年は実が熟すのが遅いかなーと心配してたモミジイチゴもそこそこの量が収穫できた。現地ガイドとしてはほっと一安心である。
 なにしろここらは7月に入ると草刈り業者が入って機械でがーっと道沿いの下草を刈りとるので、日当たりのいいところに茂るモミジイチゴはまとめて伐採されちゃうのだ。僕は日々の散歩で適当に収穫すりゃあいいけど、わざわざ採りにくる人は今日を外すとタイミングがないわけで、山道を案内する僕としては収穫を楽しんでもらえるかどうかってのは結構気がかりなのである。

 モミジイチゴ酒を仕込めるくらいには収穫したとこで、ちょっと遅めの昼ごはんをとりに囲炉裏料理の店へ移動。この地ならではの川魚を満喫してみんな喜んでくれたし、おいらも人の運転で出かけて平日の昼間から酒飲んで満足。
 気持ちよく酔って帰宅して、夕方の散歩を済ませてシャワーを浴びる。コーヒー飲んで酔いをさまし……たのは仕事の電話がかかってくる予定だったからで、示し合わせたみたいに2本立て続けにかかってきて今後のスケジュールがちょっと固まった。
 えーと、なんだかんだと先延ばしになってたウェブ連載の新作小説ですが、8月上旬からスタートってことになりそうです。詳しいことはまた後日告知しようと思いますが……タイトルは『司書室のキリギリス』。学校図書館を舞台にした、本にまつわる連作ミステリー小説です。『図書館の水脈』以来のブッキッシュなストーリーですんで、どうぞお楽しみに!

「タケウチDJ」に投稿する

過去の「サイキンのタケウチ」を読む

HOMEに戻る