サイキンのタケウチ


〔身辺雑記〕

1月30日(月)
 またしても寒波襲来ですっかり雪景色の中、風呂が沸かせなくなった。
 今住んでる家ではぬるめの温泉を沸かし直して入浴するシステムなのだが、自動追い焚きシステムの風呂釜が故障したらしい。液晶画面に循環異常っていうエラーメッセージは出るが、マニュアル読んで出来る限りの処置をしても直らないので、管理事務所を通して業者の人に修理にきてもらう。
 午前中にガス会社の制服を着た2人の兄ちゃんがやってきたが、彼らもよく分からないらしく、マニュアルを読んだりメーカーに電話で問い合わせたり。メーカーいわく、この寒波で湯沸かし器内部の凍結のために使えなくなる事例が多発してるんだそうな。
 我が家でも、風呂場のパネルを操作したり風呂に張ってあった温泉水を一端抜いたりのあげく、やはり室外機内部の凍結ではないかとの結論に達した。兄ちゃんたちからその氷を解かすためのお湯をくれとのこと。風呂は沸かせないものの台所の給湯器は作動するので、ヤカンにお湯くんで託す。なんとも原始的な修理というか、ヤカンを持って雪の積もった庭に向かうお兄ちゃんの背中は実に頼りない。
 ヤカン持参で外に出て作業したり、風呂場と外で携帯電話つかって連絡とりあったりしているが、相変わらず直る気配はない。今度は浴槽にお湯を張って動かしてみるってことになったがダメ、またお湯抜いて浴槽と風呂釜のジョイント部分を分解掃除するがダメ、結局「今度はエラーメッセージも出なくなったんで、これは本体の故障だと思います」という結論に達していた。
 だけど僕にしてみりゃあ、故障なのは分かってるし、それが本体の故障だと告げられたところで嬉しくもなんともない。兄ちゃん2人は「今度はメーカーさんの方から人が来ると思います」と言って帰っていったが、さていつになったら直ることやら……

(後日付記)
 結局、翌日「メーカーさん」がやってきて、全く同じように浴槽に水はってたり本体を分解したりしたあげく、「やはり凍結でした」といって直してくれた。
 頼りなさそーだなーと思った兄ちゃん2人は間違ってたわけである。サラリーマンというか、企業に属する人と接する場合、その人の職能に何か問題あるとこっちが損することが多くて困るよなあ……

〔タケウチDJ〕

 今回のおたよりも、朗読『カレーライフ』を見てくださった方から。
 公演から一か月近くたっちゃってるけど、とても素敵なご感想なので紹介しておこうと思います。

こんばんは(^o^)vさきほどTwitterを見ていたらこういうコーナーがあるんだと
知ったのでメールしてみました!!

 こういうコーナー、あるのです。むしろこっちがメインで、ツイッターの方は偽名でこっそりやるつもりだったはずなんですが……結局あっちがメインになってるわ正体ばればれだわ、ツイッターの浸透力おそるべし。

私もカレーライフの朗読劇を見に行かせてもらいました(>_<)
前回の舞台は見に行くことができず、初の朗読劇&初の舞台でしたが楽しませて
いただきました。でも、本音を言うなら舞台よりも映画が合ってるような気もします。

 うん、『カレーライフ』って小説には映画の方が合ってるんじゃないかってご意見はよく分かります。そういう声もたくさん聞こえてくるし、なにしろ僕だってもともとそう思ってましたから。
 だけど僕としては、小説ってメディアには小説ならではの良さがあるように、映画には映画の、舞台には舞台の良さがあると思うんですよね。そして今回の舞台化と朗読劇化で、僕はいろんな素晴らしいものに触れさせてもらったし、小説家としてもたくさん勉強させてもらったと思ってます。
 それに映画で作るとなると、アメリカ編やインド編を撮るだけでも軽く何億円もかかるって世界らしいですからね(インディーズ系の監督さんは監督と役者だけでハンディカメラ持参でインドに渡るなんて案を話してくれましたが)。もちろんそれでも実現してくれたら嬉しいかぎりだけど、これまでいくつも企画が上がってはぽしゃってる模様を見ると、この底なし不況のもとでは映画の製作費を確保するのもなかなか大変なようです。
 その点、今回のような舞台や朗読劇、そして以前あったラジオドラマとかだったら、どんな場所であっても軽々とそこに移って話を進められるってのが利点ですよね。製作費よりも役者の力と観客やリスナーの想像力を頼りに物語が展開できるってのは、それはそれで素敵なことだなーと思います。
 あとね、今回の舞台の準備段階で、演出の深作健太さんと初めてお会いした時、闇市の場面にすごくこだわりがあるんだって話をしてくれたんですよ。原作ではさらっとした説明しかしてないんだけど、深作さんはお父さん(深作欣二監督)から闇市の話をいろいろ聞いていて、それを舞台に活かしたいっておっしゃってて。
 これだって映画で撮ろうと思って『肉体の門』ばりのセットを組んだら数億円の世界でしょうけど、舞台表現では軽々と時間と空間をジャンプすることができるし、ケンスケとケンザブロウという二つの役を中村蒼さんが演じることで生まれる表現ってのもある。個人的には、それを目にすることができただけでも舞台化してもらえて幸せだったなと思うんですよね。僕が「これはやはり映画化すべきだ!」と言い張って舞台化のオファーを断ってたら、そういう素敵な表現にはお目にかかれなかったわけで。
 そしてそんな思いは、いただいたメールの中のこんな文章を読んでても強くなりました。

そして怒られそうですが、実は最後の方をあまり聞いていませんでした。
昔はカレーライスは高級な食べ物で、あまり食べることができなかった・・・
その辺りから、震災のことを思い出してました。

実は私は岩手県山田町という所に住んでいて、津波により被災したのですが
あのときの自分の状況となぜか重ね合わせていました。全然、違うんですけどね(>_<)
あのとき、数週間ぶりに暖かいお味噌汁を飲んで涙がでそうなくらい感動したなぁなど。
といっても普段はお味噌汁は食べなくて、両親が食べるから仕方がなく作っていたのです。
暖かい食べ物が久々だから感動したのかもしれませんが、あのときのお味噌汁の味は
忘れられないよなぁなど考えていたら、今度はまた別のことを思い出しちゃいました。
そういや、あのころってカップラーメンは貴重品で、食べれたとしても家族で一つとか
だったのに、今じゃ贅沢になったよなぁとか。

 そういう、記憶を呼び覚ます力みたいなのは、今回の舞台と朗読劇だからこそ生まれたもののような気がしています。それは役者さんたちの演技がお客さんの心を揺り動かした証拠でしょうし、スタッフ陣の中にも、震災の後だからこそそういう思いを重ねて作っていこうって思いがありましたし。だから「最後の方をあまり聞いてませんでした」と言われても怒ったりしませんし、少なくとも僕は嬉しいような気持ちが涌いてきます。
 震災が起きたのは今回の脚本の第二稿が上がった直後だったと思うんですが、その時点で本公演の中止も危ぶまれたそうです。劇場や稽古場が確保できるのかってことからプロジェクトが見直されたし、計画停電下で稽古場の電源が確保できるのかっていう問題もあったみたい。そういう実務については門外漢な僕ですが、見学させてもらった稽古場で、稽古中にも余震あったことを生々しく覚えてます。――揺れがひどくて天井に吊られた機材が落ちてきたら命だって危ないような稽古場の中、役になりきって『カレーライフ』の世界に入り込んでた役者さんたちは、揺れてることすら気づかないほど集中してたんだよね。
 そうやって、こんな状況でもこの舞台を実現させるんだって頑張ってくれた人々の力があったからこそ本公演が実現して、その成功を受けて朗読劇が決まったわけですし、その節目節目でいろんな人が「こんな状況だからこそ、この舞台を通して届けたいものがある」とおっしゃってたのが僕にはとても印象的でした。そしてきっと、「あのときのお味噌汁の味」っていうのも、「届けたかったもの」の一つだと思うんですよね。
 闇市でカレーにめぐりあえた人たちの嬉しさや、そのあたたかさを尊く思う気持ちっていうのは、今回の舞台があったからこそ描かれたものです。原作では現代を生きてるケンスケを通して物語が展開するので闇市のシーンは直接は出てこないし、脚本に口出しさせてもらった僕も闇市のシーンにはあまり手をつけなかった覚えがあります。むしろそのシーンがある種の感情の山場になると思ったからこそ、そこから逆算して第一場のケンスケとシミズのやりとりを書いた……っていうような裏話はともかく、そうやって描こうとした「あたたかいカレーのありがたさ」っていうのを、「あのときのお味噌汁の味」として受け止めてもらえたことは、とても幸せなことだと思っています。

なんかそんなことを、観劇しながら考えていたら、あっという間に終わってしまいました(ToT)
そして、カレーライスよりも、お味噌汁を食べたくなってしまいました。

だから今度は、映像でまた見てみたいです(*^^*)なんてことを言ったら、怒られそうですが、
正直な観劇の感想をお伝えしたく、書かせていただきました。
あまりにも本音すぎて不快な気分にさせてしまったら、すみませんでした。

でもまた、カレーライフの舞台があるのであれば、また見に行きたいと思っています。
今度は最後まで集中して見ますので(。-∀-)

 不快なんてとんでもない。実はこのメールを拝読して、僕もお味噌汁を食べたくなって作っちゃったくらいです。今回の舞台に携わった方々とまた機会があったら、ぜひそんな味噌汁話を伝えたいです。
 映像なり舞台なり、また何かしら実現するといいですね。自作の二次使用に関して、納得いかないと譲らない性格のせいである種のサラリーマンたちと衝突することの多い僕ですが、今回のことでいろいろ勉強させてもらったので、少しは大人な対応を心がけたいと思っております……

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