日本映画データベースより増補   森崎東アーカイブズ

日本ゲリラ時代

製作=松竹(大船撮影所) 
1968.08.03 
7巻 2,441m カラー ワイド
製作脇田茂 藤川忠勝  
監督渡辺祐介
脚本森崎東
撮影荒野諒一
音楽八木正生
美術重田重盛
録音小林英夫
照明飯島博
出演なべおさみ 犬塚弘
緑魔子 西村晃
有島一郎 渥美清

犬塚弘=飯場の忠太郎、なべおさみ=金太、緑魔子=紅魔子、草野大悟=ハゲバラ
南道郎=黒木、真理アンヌ=ジュリー、高橋とよ=おたけ、曽我廼家明蝶=戸長・辰五郎、
正司歌江=お雪、正司照江=おきん、正司花江=女房、久里千春=忠助の女房・お熊、
清川玉枝=産婆トラ、吉田義夫=親分・波越徳兵衛、北村和夫=べ平論事務局長、
有島一郎=田辺監督、斎藤竜鳳=助監督、大坂志郎=木山アナ、渥美清=交番の刑事、
人見きよし=珍艦長、西村晃=島の駐在、住吉正博=ディレクター


池田博明,2009.≪現代≫の挽歌 森崎東の脚本『日本ゲリラ時代』pdfファイル版 中京大学『アリーナ2009』(風媒社)より
 森崎さんの単独脚本で、しかもオリジナル。とんでもない話らしいが、未見。シナリオは別にあり

Variety Japan より あらすじ
 (シナリオとは、かなり異なっているが、Variety Japanの出典はキネマ旬報で、キネ旬のあらすじは完成作品とは違うのが普通だった。)

 生粋の日本人だが、清国人に育てられたため徴兵令を受けた金太は、昔の恋人雪子に逢いたい一心で日本に密航。
 上陸した金太は新宿をうろうろするうち、フーテン族のハプニングに巻きこまれ、留置場に入れられた。同じ留置場に入れられたヤクザの忠太郎や女優の紅魔子は、金太密航の次第を知り、助力することになった。
日本ゲリラ時代 だが、やっと見つけた雪子は街の女に転落していた。ガックリする金太を慰めたのは魔子だった。そのころ、雪子探索に金太を助けたフーテンのハゲバラは、文明否定論をぶち、人間を疎外する物質文明に対してゲリラ戦術をとれ、と主張していた。
 だが、金太は密抗がバレて、逮捕されてしまった。
 翌日、魔子、忠太郎、ハゲバラたちは、金太奪回作戦をたてた。彼らは奇略を使ったゲリラ作戦でまんまと金太奪回に成功し、また清国の軍艦を奪って、南方洋上の一孤島に向った。
 彼らは他のフーテンと共に文明世界を脱出して、人間らしい原始生活を営もうとしていた。
 やがて、ある孤島に着いた金太たちは、その島をフーテン共和国と命名し、フリーセックスはもちろん、ロビンソン・クルーソーのような生活を始めた。
 だが、魔子はフリーセックスについて行けず悩んだ。そんな魔子に金太、忠太郎、ハゲバラはすっかり惚れてしまい、自由の楽園のはずの孤島にも、暗雲がただよい始めたのだ。魔子はやっとフリーセックスを決意したが、ハゲバラはそんな魔子を愛するあまり、絞殺し、死体を舟に乗せて海に流した。
 ハゲバラは泣いた。そして、金太と忠太郎も、この楽園を去っていった。時あたかも、世界はいま、第三次世界大戦に突入しようとしていた。

     シナリオから梗概を作成  (池田博明記。小見出しをつけて読みやすくした)

 (1)プロローグ。
 戦争のニュース映像の後に原子爆弾のキノコ雲。
 廃墟の映像に若い女の声(緑魔子)がかぶる。
  「もしいま、あなたに徴兵令状が来たらあなたはどうしますか」
 新宿のグリーンベルトでテレビの街頭インタビューが行われている。
 女優(緑魔子。役名は紅魔子)がマイクを突きつけたなかに、フーテン風の金太(なべおさみ)がいた。彼は、日本には無いはずの徴兵令状を持っていると言う。
 地回りらしいやくざ・忠太郎(犬塚弘。『吹けば飛ぶよな男だが』のやくざを連想させる)が忠君愛国を唱えるのに対し、フーテンの青年・ハゲバラ(草野大悟。庄屋の婿養子禿造のひ孫で、名前は「ゲバラ」のもじり)は令状を奪い取って燃やしてしまう。
 大乱闘になり、警察が出動して、タイトル「日本ゲリラ時代」が出る。  

 (2)出会い
 交番の留置所には忠太郎とハゲバラがいる。金太は刑事(渥美清)に取り調べられている。
 金(きん)太(ふとし)は日本人だが、五年前に清国人の老人に連れられて清国人となったため徴兵令状を受け取ったのだ。令状が来たショックで老人が死んだ後、金太は幼馴染の雪子に逢いたい一心で日本に密航して来たという。
 話を聞いた忠太郎も同様に孤児の身の上なので、すっかり同情し、金太の恋人探しを手伝おうと申し出る。おまけに、刑事も戦災孤児だったと訴える。
 刑事は「鐘の鳴る丘」を歌って、みんなを追い出してしまう。
 忠太郎は黒木組の親分・浪越徳兵衛(吉田義夫)に金太をかくまってくれと頼むが、親分から断わられる。しつこく頼むと、忠太郎は組の者たちにひどく殴られてしまう。
 場面変わって、おびえて蛇男から逃げる半裸の魔子。怪奇映画『蛇男と蛙女』の撮影中である。
 殴られて顔を腫らした忠太郎が来た。監督(有島一郎)が撮影を急いでいるのに、魔子は「女優である前に一個の人間に戻って」撮影を中止、金太を手伝うという。忠太郎も組をやめる決意をする。

 (3)臆病ものの血統  
 貧乏長屋の一室、忠太郎の母おたけ(高橋とよ。山田洋次監督作『二階の他人』の母親役のように憎憎しく)の不甲斐なさを憤っている。
 かくまわれている金太は忠太郎を弁護する。おとよは戦争中の夫の出征風景を思い出す。
 昭和十九年、村人に出征祝いをされているおたけの夫・忠吉(犬塚弘)は忠太郎そっくりである(以降、登場人物の祖先はすべて同じ俳優が演じる。まるで井上ひさしの芝居のようである)。
 憲兵(南道郎)は現代のときの黒木組の組員そっくりである。暴力団員と憲兵を同じ役者が演じることに意味があるのだ。
 忠吉は天皇陛下の御為に必ず白木の箱で帰りますというべきところを、「必ず生きて帰ります」というような「非国民」である。
 夜になると忠吉は脱走兵として、金作(なべおさみ)と一緒に家に戻って来る。金作は金太にそっくりである。しかし、二人とも憲兵に捕えられてしまい、逆さ吊りにされ、拷問される。
 その後、忠吉も金作も南方で戦死したという。
 おたけは二人とも「国賊の血筋だった」と金太に話す。
 さらに時代を遡って、明治六年、徴兵令発布の年。
 若者たちが素っ裸で並んでいる。村のお寺の本堂前に幕が張られて、臨時の身体御改め処が出来ているのだ。幕のすき間から女房たちが中をのぞいて、男たちをアラタメでいる。
 生き血を以って国に報ずるという布告を字義通り解釈して恐れおののく村人たち。
 もと庄屋で戸長の辰五郎(曾我廼家明蝶)が忠助(犬塚弘)を牛小屋から引き出す。臨月の忠助の女房・お熊(久里千春)がたった一人の働き手を徴兵しないでくれと頼むものの、戸長はお上の命令だとはねのける。
 辰五郎の娘・吹雪(緑魔子)がお熊の味方になり、父を非難する。吹雪はもし自分が忠助の亭主だったらと仮定するが、父親は実際には次男で女房持ちの忠助のことだからと、取り合わない。
 金太の曽祖父・金二郎(なべおさみ)とハゲバラの曽祖父・禿造(草野大悟)は巡羅たちを六尺棒(いわゆるゲバ棒である)で打ち、一揆だと裏山に立てこもる。
 握り飯を差し入れに来た吹雪は忠助と金二郎に「今夜私の家に忍んできて」と声をかける。
 夜も更けて庄屋の家に忍んでくる忠助と金二郎。けれども吹雪の部屋で寝ていたのは介抱されていたお熊だった。忠助は吹雪だと思ってお熊に抱きつくが、自分の女房のお熊だと分かって逃げ出そうとする。隠れていた金二郎にぶつかり、あわてるところを、駆けつけてきた辰五郎や黒木に召し取られる。
 一方、吹雪は禿造と外で密会していた。
 黒木が捕縛せよと命令するのに対して、吹雪は「(禿造は)私の亭主だ」と言い張ったため、禿造は懲役を逃れることとなる。引っ立てられていった忠助と金二郎は田原坂で名誉の討ち死にをしたと言う。
 おたけは言う、「得をしたのは庄屋の婿養子になった男だけじゃ。もっともその男はそれを気にして、それっきり男として役立たずになったそうだどもな」と。

 (4)フーテンの自由論
 フーテンたちが踊るアングラ酒場で演説するハゲバラ。
 強烈な音の洪水の中、会話は絶叫される。
 ハゲバラは、フーテンたちよ、社会の排泄物とみなされて、単なる風俗に堕するなかれ、物質化された疎外的な文明に対する戦いを挑むゲリラであれとアジる。
 魔子は演説に感動し、「大昔、いまみたいに激しい口調で口説かれたことがあるみたい」と感想をもらす。明治時代の禿造と吹雪の記憶である。
 ハゲバラはチェ・ゲバラの言葉を引用する。
 「アジテーションは民衆に対するラブレターであり、口説きである」と。
 ハゲバラには"淫蕩な白豚"といった感じのフーテン娘ジュリー(真理アンヌ)がしなだれかかっていて、魔子にフーテンは理解できないわよ、「フリーセックスできるか。誰とでも寝ることよ。自由を求める人間なら誰でもできるはずだ」と、挑戦的な言葉を投げつけ、忠太郎を誘惑する。
 男のメンツにかけてジュリーを抱こうとする忠太郎だが、なかなかズボンが脱げない。
 ハゲバラはそんな忠太郎を止めて、みんなにゴハン(薬のこと)を薦める。
 錠剤をコーラで飲み込むフーテンたち。
 魔子はハゲバラに組織ベ平論(ベ平蓮のもじり)の紹介を依頼する。
 ハゲバラはベ平論事務局長・太田(北村和夫)を魔子に合わせるが、急に太田はアメリカの警官に捕縛される。ハゲバラは魔子の手を引いて逃走する。
 魔子はハゲバラの気持ちが分からず、彼の腕にかみついたり、抱きつくハゲバラを平手で打ったりと抵抗する。
 魔子のマンションにフーテンたちが寝ている。あちらこちらで愛し合うカップル。
 ベッドの下からはい出す金太を相手にハゲバラは演説する。
 「生きてる者の本能さ、男が女を求め、女が男を求める。この美しい愛の姿が人間性を破壊する戦争へのもっとも痛烈な抵抗の姿なのさ」と。ジョン・レノンとオノ・ヨーコのベッド・インのようだ。
 金太には、この理屈がよく分からない。いつのまにか部屋に帰って来た魔子も、金太に「自由のために生きる。とらわれた自分を解放するために」と演説し、金太のために生きるのだ、あなたを愛する私を抱いてくれと言い出して、金太を仰天させる。
 そこへ突然、ハプニング・ショーのアナウンサー(大阪志郎)やディレクター(住吉正博)が乱入。魔子が雪子探しを依頼したショーのスタッフは、金太の幼馴染・雪子を見つけてきたのだ。雪子(正司花江)は金太の顔をすっかり忘れており、間違ってハゲバラに抱きついてしまう。ちょうどそこへ入って来た忠太郎は、雪子を見て驚く。以前自分がヒモだったアオカンお雪だったからだ。
 金太は泣きながら、「日本人みんな嘘つき。僕ベトナム行ってしまう」と、絶叫する。
 警官たちが金太を拉致して、去る。
 ハゲバラはアナウンサーのマイクを奪い、
 「俺は日本のチェ・ゲバラだ。これから俺たちは奪われた我が同志、金君を奪回するためにゲリラ戦に移る」と宣言する。さらに、曽祖父は徴兵逃れの百姓一揆で戦い、祖父は日露戦争当時、ゲリラ的反戦運動を続けた社会主義者、禿徳秋水(幸徳秋水のもじり)だと話す。

 (5)敵前逃亡
 明治三八年、日露戦争当時、ロシアの塹壕の中である。
 金太の祖父・金蔵(なべおさみ)と忠太郎の祖父・忠市(犬塚弘)がベソをかいている。黒木大尉(南一郎)は半刻後の突撃を命じるが、人民新聞の記者・禿徳(草野大悟)は、ロシアの民衆も日本の農民も戦争で疲弊していると伝え、今すぐ戦争をやめ、銃を捨てて日本に帰ろうと誘う。
 二〇六高地の死体の山を這うように歩く三人は中国娘の魔花(緑魔子)に水と食物をもらい、怪我の治療をしてもらう。魔花は横穴にロシア兵を隠まっていて、「タワーリシチ(同志)」と呼びかけられて出てきたヒゲモジャのロシア兵は禿徳と知り合いのようだ。
 革命的無産者の同志よ、一緒に死のうと忠市と金蔵は呼びかけられるが、二人は怖くなって逃げ出す。
 二人は部隊長に捕まり、銃殺されることになる。撃たれて死にもの狂いで塀を越えるとそこでも禿徳と魔花の銃殺刑が執行されようとしていた。銃声が響く。

 (6) 金太奪回作戦
 売春容疑で独房に入った魔子は金太が強制送還される情報を得たのち、隠し持った金切りノコで脱獄して来た。
 金太は九州の日南海岸まで汽車で護送され、緑島で清国に引き渡される計画だ。汽車を止めるのにラブイン・オンザ・レールロードをやろうという魔子の計画に、ハゲバラの演説には、ゴーゴーダンスを踊っていて、まったく耳を貸さなかったフーテンたちが賛同する。
 線路の上で抱き合うフーテンたち。
 忠太郎とハゲバラは牽制し合ってウロウロする。魔子に「早くして!」と促され、あわてる二人。
 そこへジュリーが近所の薬屋でハイミナールをたくさん売ってくれるという情報を持ってくる。フーテンたちは線路から離れ、一斉に薬屋へ向う。
 汽車が接近してくる。ハゲバラと忠太郎も飛びのき、魔子の手足を引いて線路から下ろす。
 金太は日南海岸沖で日本のボートから清国軍艦・珍遠号に引き渡される。
 筏に乗ったフーテンたちは漂流者として軍艦に救出される。
 フーテンたちに誘惑される水兵たち、乗っ取りは平和的に行われた。南太平洋の島々を回り、やがて燃料が切れて漂流したあげくに、フーテン丸は無人島に流れつく。

 (7)フーテン共和国
 無人島で半年間、文明から遮断されて原始的生活を送るフーテンたち。
 ある日、忠太郎の兄貴分の黒木がやって来る。黒木はフリーセックスに憧れたといい、魔子を強姦しようとする。けれども、魔子はフリーセックスを実践してはおらず、まだバージンだった。忠太郎はそんな黒木を殴り倒してしまう。
 黒木を介抱する忠太郎は、黒木の来島の目的が、浪の華一家と落葉組の決戦のための迎えだったことを知る。島を出て喧嘩に参加しようと決意する忠太郎。
 魔子は忠太郎が島から出て行くことを知り、フーテン共和国の終焉が近いと感じる。そして、フリーセックスを実践していない自分が、真に解放されていないと考える。
 ハゲバラのニッパハウスで、魔子はハゲバラにフリーセックスを宣言するが、なぜかハゲバラは激しく動揺する。いつのまにか聞いていた金太は、魔子に求愛する。魔子は金太を受け入れる準備ができたと感ずる。しかし、金太は急に外へ飛び出し、魔子がフリーになるのはイヤだと叫ぶ。
 海岸や砂浜では愛し合うフーテンのカップルたち。
 一方、黒木はジュリーからハゲバラが性的不能だと聞く。
 船の上で月をながめていた忠太郎は海へ入っていく金太を止める。金太から魔子がフリー宣言をしたと聞いた忠太郎は、魔子が本当は自分を愛していたんだと誤解する。忠太郎の解釈では、喧嘩に出て行く自分に未練を残させてはいけないと、金太を最初の男に選んだんだというのだ。
 その実、同じ頃、魔子はハゲバラに愛を告白していた。この四角関係は明治六年の忠助・金二郎・禿造・吹雪と同じ構図である。
 魔子の最初の男に選ばれたハゲバラだったが、目を閉じて魔子の首を絞める。二人は美しい恋人のようである。
 入江から魔子の死体を筏に乗せて沖へ押し出すハゲバラ。

 (8)別れ
 南方で戦死したはずの忠吉と金作はいまだに聖戦完遂を信じて、ジャングルを彷徨していた。島の娘がパパイヤなどを持ってくる。二人は目も弱っているらしく、果物に気付かず、戦車訓を唱えつづけている。
 南の海はどこまでも美しい。
 魔子の乗った筏は漂流している。
 忠太郎は船に乗って出て行く。渚で見送る金太。夢遊病者のように現れるハゲバラ。
 ポンポン船で島の巡査がやって来る。自首するかのように両手首を差し出すハゲバラに、巡査は特別自衛隊法による徴兵令状を渡す。
 金太は清国に帰って自首し、徴兵されたらベトナムでまた会おうと言う。「また一緒にフーテンしようよ。それでゲリラやるんだ。今度は本式にやれるぜ。鉄砲もあるしよ」と、名前を強そうなトゲバラに変え、戦うフーテンになると宣言する。
 ポンポン船に飛び乗って去っていく金太の姿に「兄弟仁義」が重なる。ハゲバラは渚でじっと動かない。
 島のフーテンたちに徴兵令状を渡そうとする巡査だが、フーテンたちはゴーゴーに夢中。徴兵令状はひらひらと風に舞いながら、海へ飛んで行く。
 忠太郎の乗った船と金太の乗った船が東西に進んでいき、まんなかには魔子の筏がゆらゆらと揺れていた。