映画 日記   FILM REVIEW     池田 博明 


 
 これまでに映画日記で扱った作品

2009年5月-6月に見た 外 国 映 画 (洋画)
見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2009年5月14日

DVD
ロンゲスト・ヤード

USA
1974年
(日本公開1975年)
121分
 アルドリッチ監督の傑作。興行的に大ヒットしました。
 ポール・クルー(バート・レイノルズ)はもとプロ・フットボールのクォーター・バック。女(アニトラ・フォード)のヒモに成り下がって生活していたものの、そんな生活から抜け出そうと女の車を奪って飛び出す。しかし、女は警察に通報、烈しいカー・チェイスの翌日に逮捕されたクルーは刑務所に入る。18ケ月の刑期をさっさと終らせて釈放を考えていたクルーだったが、所長(エディ・アルバート)はクルーの知恵を万年2位の看守チームの強化に役立てようとしていた。一方、チーム・リーダーの看守長(エド・ローター)はクルーの存在が面白くない。
 所長はクルーとの会話から囚人チームを作ってセミプロとして登録、そのチームと八百長試合をやって一勝させようと計画する。やがて、クルーがいかさまでプロを追われたことが判ってくる。いかさまの理由は父親の老後の生活を保証するためだったが、父親は死んでしまったのだ。正々堂々と看守を殴れるとあって次第に囚人チームには怪力のメンバーが集まります。
 所長は試合の途中で、クルーに21点差で負けろと指示、反抗すれば密告屋アンガー(チャールズ・タイナー)の便利屋(ジム・ハンプトン)殺人の共犯にして20年はくらいこませるぞと脅します。
 前半で互角に闘っていた囚人チームはクルーの気のないプレーでズルズル負けていき、21点以上差がつきます。それをきっかけにクルーは看守チームが囚人チームへ暴力を振るわないという条件で所長と取引をしたはずなのに、所長は看守長に逆の指示を出していました。看守長は堂々と戦って勝つつもりだったのに鼻白みますが、所長の指示には逆らえません。
 差がついたうえに看守たちの暴行で傷つくチームメイト、黒人グランヴィル(ハリー・シーザー)が退場するときの捨てゼリフ「お前を信用したのが間違いだった」がクルーを目覚めさせます。
 再びグランドに戻ったクルーは、一途な突撃をくり返し、次第にチームメイトの意気を高めていきます。とりわけ暴力的な看守ボグダンスキー(レイ・ニッツケ)の急所を狙ってボールをぶつけて倒し、終了寸前にタイムアウトの繰り返しで差をつめていき、劇的なタッチダウンを決めて1点差で勝利します。
 所長を殴って30年服役しているオヤジ(ジョー・カップ)と肩を組んで会場を去るクルーの後ろ姿がストップ・モーションになってエンド・タイトル。
 キャストは、もとアメフトのプロという設定のネイト(マイケル・コンラッド)、ポップ(ジョン・ステッドマン)、ラセムッセン(マイク・ヘンリー)、アイスマン(ジム・ニコルソン)、刑務所秘書(バーナデット・ピータース)、マワベ(パーヴィス・アトキンス)、ロトカ(トニー・カチオッティ)、アナウンサー(マイケル・フォックス)、ボス(ジョー・カップ)、巨人サムソン(ディック・キール)、ウォーデン(モート・マーシャル)、レヴィット(トニー・リーズ)、インディアン(ソニー・シックスキラー)、怪腕ショックナー(ボブ・テシエ)、スプーナー(アーニー・ホイールライト)、店員(ペッパー・マーティン)。
     映画川柳「殴る蹴る ラフ・プレーにも ルールあり」飛蛛
2009年5月11日

DVD
賭博師ボブ

フランス
1956
(日本公開1989)
98分
 ジャン・ピエール・メルヴィル脚本・監督、オーギュスト・ル・ブルトン共同脚色・台詞、アンリ・ドカエ撮影、モニク・ボノ編集、エディ・バークレイとジョー・ボワイエ音楽の秀作。白黒作品。
 賭博師ボブ(ロジェ・デュシーヌ)は既に引退していました。強盗の疑いをかけられた事件もあったのですが、体を張って人を助けたことから警察署長(ギイ・ドゥコンブル)はボブに一目置いていたのです。モンマルトル界隈でボブを知らない者はいません。ボブはある日、ひとりの若い女アンヌ(イザベル・コーレイ)を拾います。女給からダンサー、娼婦へと不満も言わずに転落していく娘に魅かれたボブは、自分を慕っている若者ポール(ダニエル・コーシー)を紹介します。
 やがて、ボブはカジノの一晩の上がりが8億フランになり、それが早朝、金庫に収蔵されるという情報を耳にします。最後の大仕事と、ボブは旧友の金庫破りのプロフェッショナル、ロジェ(アンドレ・ギャレット)と組んでスポンサーを依頼し、人を集め、リハーサルをして臨みます。
 しかし、ほんの小さなほころびが事態を大きく動かします。ポールはアンヌに軽い気持ちで計画をしゃべっていました。チンピラのマイクはアンヌと情事を共にしたときに、アンヌから情報を聞きます。金に困り情報屋になっていたマイクは警察署長に通報しようとします。
 マイクの様子に不安になったアンヌはボブにすべてを話します。ボブはポーロを叱り、ポーロは裏を取ろうと動いていたマイクを射殺します。しかし別に、金の情報をもたらしたカジノで働くジャン(クロード・セルヴァル)は愛人からエレベータを停止する仕事の大金の出所を聞かれて襲撃計画を話してしまいます。女は取り分が少ないのに不平を言い、匿名で警察署長への密告を勧めます。署長はボブの大仕事を信じることができませんが、裏を取りに動きます。
 一方、ボブは久し振りのカジノで博打に手を出してしまい、勝ちつづけます。夢中になったボブがふと気づくと襲撃予定の時間になっていました。あわてて換金を申し出て表へ出ると、ちょうど仲間が着き、到着した警察との銃撃戦があり、ポーロが撃たれて倒れたところでした。
 ボブの腕のなかで息を引き取るポーロ。署長に逮捕されたボブ。いい弁護士なら無罪放免もありうると警察官に言われて、ボブはスター弁護士なら損害賠償が請求できると呟きます。
     映画川柳「署長来た 伝言はなじみの店の イヴォンヌに」飛蛛   
2009年5月日

DVD
グッバイ、レーニン!

ドイツ
2004年
117分
 グッバイ、レーニン川本三郎さんの『現代映画』(2009)のなかで、力を入れて紹介されている映画のひとつ。ベルリンの壁の崩壊を昏睡で知らなかった母親(カトリーン・ザース)に知らせまいと奔走する息子アレックス(ダニエル・ブリュール)の姿を描きます。ヴォルフガング・ベッカー監督。
 心臓発作で倒れた母親は8ケ月の間、昏睡状態。その間に東西ドイツの様子は一変してしまいます。意識を取り戻した母親に再び発作をおこさせないように、ショックを与えないため、息子はテレビのニセ番組を友人と一緒に作成して母親をだまし続けます。西側に人々が出たニュース映像に西側から難民が来たというナレーションを付して、意味を反対にしてしまったり。しだいに息子自身が虚構の世界で理想の社会主義社会を創り上げていきます。
 母親が娘や息子に夫のことでウソを言っていたことを告白する場面があります。夫は好きな女性ができて西側に亡命したのではなかった、妻や子ども達宛ての手紙もひっきりなしに来ていたことが分ります。それらの手紙を母親は読まずに戸棚の裏に隠していたのでした。夫を追いかけて亡命する予定だった母親は子供を連れての亡命をあきらめてしまったのです。その告白の直後に母親は倒れます。そして危篤の床に父親が訪れます。その前に病院で母親はベルリンの壁が崩壊していたことを息子の恋人に聞いています。
 母親が最後まで息子のウソを信じていたような描写がされていますが、おそらく母親は最後に息子にだまされたふりをしたのだと思います。それが思いやりだと思ったでしょうから。
     映画川柳「旧マルク 交換日を過ぎ 紙切れに」飛蛛
【参考文献】
川本三郎『現代映画 その歩むところに心せよ』(晶文社、2009年)
2009年5月1日

DVD
ジェイン・オースティンの読書会

USA
2007年
106分
  20年も連れ添ってきたのに突然夫から新しい女ができたからと離婚されてしまったシルヴィア(エイミー・ブレネマン)を慰めようと、友人のジョスリン(マリア・ベロ)やバーナデッド(キャシー・ベイカー)はオースティンの小説の読書会を始めます。オ-スティンには6冊の長篇があるので、6人のメンバーを集めます。シルヴィアの娘アレグラ(マギー・グレイス)はすぐに決定、フランス語の教師でフランス風を意識しオースティンには一家言をもつブルーディ(エミリー・ブラント)を加えて、あと一人。偶然ジョスリンに魅かれてオースティンを読む決意をしたSFオタクの男性グリッグ(ヒュー・ダンシー)。読書経験を社会的なものにする読書会のような試みは日本ではあまり活動がありませんが、アメリカでは広く行なわれている活動のようです。
 2月『エマ』、3月『マンスフィールド・パーク』、4月『ノーサンガー寺院』、5月『自負と偏見』、6月『分別と多感』、7月『説得』とおもな担当者を決めて読み進むうちに、それぞれの事情や人間関係が変わってきます。小説から学んだり、影響されたり、実人生と関わらせながら6人は小説を読みこんでいきます。
 結婚をめぐるドラマは古くて新しいものです。シルヴィアと夫ダニエルはいったん離別してお互いに新生してよりをもどします。アレグラは同性愛者でスカイ・ダイビングで知り合ったコリンを友人にしていたのに、コリンが作家教室で自分たちや友人たちをネタに小説を書いていることを知って別れ、イエップ先生を相手に変えます。独身主義のように見えたジョスリンはグリッグを受け入れて結婚、ブルーディは教え子と一線を越えそうになりますが、「ジェインならどうする?」と考えて思いとどまり、繊細さとは無縁だった夫をオースティン読者に変えます。バーナデットは七人目の夫を得ます。
 ちなみに『高慢と偏見』が、『自負と偏見』と訳されているあたり、訳者の見識だと思います。中野好夫の『自負と偏見』がとびっきりの名訳ですし、高慢というのはそれぞれの心理を考えますと語感が違います。
 グリッグが熱心にジョスリンに薦めるSFはル・グインの『闇の左手』や『天のろくろ』です。他にクラークやスタージョン、ディックもいいと話します。好みの傾向から、グリッグのややフェミニスト傾向のある、優しい性格が感じられます。ノートンやティプトリー・ジュニアなど男名前なのに女性作家もいると紹介されます。
 このような脚本ならば書いたひとは絶対に女性と思ったらやはり、監督も初挑戦のロビン・スウィコード。カレン・ジョイ・ファウラーの原作もあるそうです。
       映画川柳 「読書会 いまにも生きる 婚活を」飛蜘

2009年5月-6月に見た 日 本 映 画 (邦画)
見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2009年6月25日

DVD
人斬り与太
狂犬三兄弟

1972年
東映
86分
 監督・深作欣二、撮影・仲沢半次郎、音楽・津島利章の『現代やくざ・人斬り与太』のスタッフが、『人斬り与太』同様にノーメイク、ノーレフ、手持ちカメラで製作した意欲作第二弾、助監督に沢井信一郎。脚本は松田寛夫・神波史男。37年ぶりに再見。
 六年前のことだ。村井組の暴れもの・権藤(菅原文太)は対立する組の組長(須賀不二男)を刺殺してムショ入りした。刑期を終えて出所すると、出迎えたのは弟分の大野(田中邦衛)だけだった。出所すれば大幹部と目論んでいたのに、村井組(内田朝雄)は新生会会長・佐竹(渡辺文雄)と手打ちをして、すっかり暴力沙汰を避けていたのだ。
 面白くない権藤は大野と一緒に組の店のあがりを略奪、代貸・五十嵐(室田日出男)から注意されると、バーを無理矢理支配下に置いて売春、稼ぎをかすめとっていた。六年前に権藤に顔を切られた志賀(今井健二)は復讐の機会を狙っていた。賭場で出会った蛇使いのフリーのやくざ・谷(三谷昇)を仲間に入れ、強姦した素人娘・道代(渚まゆみ)を店に置く。娘に客を取らせようとしても拒否して暴れまくる。道代から着物を取り上げて素裸にしたものの、翌日、気がとがめ、着物を与えて追い出す。しかし、道代は勤めていた工場がつぶれていて、谷に連れられて戻ってくる。道代にラーメンのチャーシューを分けてやる権藤。
 大野が新生会からの借金の取り立てで困っている鉄工場社長(河合絃司)を連れてくる。取りたてにきた新生会の連中を暴力で追い払った三兄弟は社長から礼金50万円をふんだくる。外に出ると新生会が意趣返しに駆けつけて来ていた。追われて、谷は新生会員に捕えられ、拷問に会い、殺される。ボロ切れのようにバーの前に棄てられる谷、死に際に権藤に「わいは列組んだの初めてや、面白かったぜ」と言う。
 村井組に抗議に来る佐竹。権藤は代貸に指をつめろと言われて、ドスを甲に突き立てる。仰天する組員たち。佐竹は「面白い見世物を見せてもらったが、こんなことではすまない」と言い捨てて去る。権藤は村井組長に佐竹を殺せと言われりゃ、すぐにでもブっ殺しますぜと迫るが、村井にそんな気は無い。
 怪我の治療の途中で酒を飲もうとする権藤、止める道代と大野。とうとう大野とも喧嘩して彼を追い出してしまった権藤は、どしゃ降りのなか、志賀を待ち伏せ、さしの勝負をする。結局、志賀を撲殺する。巨乳の女を連れ帰った権藤は娘の前で女を抱く。朝になると娘は去っていた。あげた着物がきちんとたたまれていた。
 志賀殺しで、佐竹の許に村井が金を持ってわびを入れに来る。村井は権藤を始末する段取りも付けたと言う。
 一方、バーの権藤の許へ大野が来る。大野は権藤に銃を向けるが、撃たずに組長からの命令だと明かす。権藤を匿おうとする大野は自分の家に帰り、金を工面しようとする。TVからは天地真理「ひとりじゃないの」が流れ、母親(菅井きん)は南無妙法蓮華経を唱える。不具の弟が稼いだ金を持ち去ろうとして大野は弟と母親に殴り殺される。そこへ入って来た権藤。言葉も無い。
 村井組長の自宅。権藤が忍び込む。「大野は母親に殺された。親が子供を殺すなんて」と権藤。組長を射殺。逃げて、閉館した映画館・銀映座に逃げ込む。佐竹は村井組に権藤の隠れ場所を通報。村井組が武装して映画館を取り囲む。権藤の銃は弾切れした。撃ちこまれる銃弾。やがて運び出される死体をじっと見つめる道代。ちなみに映画館の破けた看板は深作欣二監督「博徒外人部隊」。
 ラーメンを食べる道代。テロップが出る。「数ヶ月後、この女は狂犬の血を引く子供を産んだ」と。渚まゆみに一言もセリフが無いし、道代という名前も呼ばれることが無い。
     映画川柳「横町へ 裸で飛び出す 田舎娘」飛蛛
2009年6月20日・21日

土曜ロードショー

21:00~23:05(後篇は23:20)
刑事一代


2009年
テレビ朝日
3時間半位

 副題は「平塚八兵衛の昭和事件史」。脚本は長坂秀佳・吉本昌弘、演出は石橋冠。一度も昇進試験を受けなかったが、警視にまでなった警視庁捜査一課・平塚八兵衛(渡辺謙)の事件簿を八兵衛が記者に語る。妻役は原田美枝子。二夜連続で描く。
 「帝銀事件」の名刺捜査から八兵衛は平沢貞通(榎木孝明)へたどりつく、平沢の長女(木村多江)の証言を得るために自分の子供の写真を利用し、妻に死なれたとウソをつく。本部から名刺班には小樽への旅費を出さないといった妨害を受けるが、捜査主任が金を工面してくれる。しかし、逮捕後は八兵衛の手を離れてしまう。
 銀座そごうデパートの「警備員殺人事件」(1958年)で容疑者を勘でシロと判断し、同じ職場の別人(杉本哲太)に当たりを付けた。相棒となった石崎(高橋克美)も一緒だった。犯人の妻(余貴美子)からアリバイ証言を崩す。しかし、物証のはずのコートからルミノール反応が出ない。コートは防水加工だったこと、その場合は反応が出ないことを実験で明らかにする。後ろ盾に常に、八兵衛を信頼してくれる課長代理・加山(柴田恭平)がいた。
 「吉展ちゃん事件」(1963年)で身代金を渡す地点で犯人を逃した後、捜査本部は解散、継続捜査班に八兵衛が呼ばれる。第一容疑者・小原保(萩原聖人)は幼少時の破傷風で片足が不自由なうえ、完璧なアリバイがあった。ここまで前篇。
 権威と闘う刑事だったが、徹底的な地取り捜査が八兵衛の基本。ひとつひとつ事実に当たっていくとアリバイは崩れていった。別件逮捕で小原の拘置可能期間はたった10日間、自供に追い込むことができない。しかし、最後の最後で宿泊地点の供述を翻したところで、突然の本庁からの取り調べ中止命令。人権に配慮してのことだった。FBIへの声紋鑑定の案が出た。その録音の雑談のなかで小原は日暮里の火事を山手線から見たと言う。その日が脅迫電話の日だった。小原が自分で東京にいたことを認めてしまったのだった。「もし人の道に外れたことをしていたのなら、保に天罰を下して下さい」という母親(佐々木すみ江)の言葉を伝えると、小原が自白を始めた。母親にこれ以上迷惑をかけたくない一心で小原は罪を認めなかったのだ。八兵衛は小原のために握りめしとナス漬けを持参する。刑の執行直前に小原は八兵衛に伝言を残した。「真人間になって死んでいきます。ナスの漬物おいしゅうございました」と。
 相棒だった石崎が末期ガンで入院。吉展ちゃん事件の功労で石崎は警視総監表彰をうけたが死んだ。後篇はほとんどこの事件を描く。
 「三億円強奪事件」(1968年)にも中途から関わったが、単独捜査を主張する八兵衛と複数犯を主張する本部はくい違い、時効前に捜査指揮官を辞した。
 退官後、八兵衛は小原保の墓参りに行く。保は小原家の墓の脇に埋められていた。母親と一緒の墓に埋葬されなかったのだ。八兵衛は保に謝る。八兵衛は昭和54年、66歳で永眠。
    映画川柳「犯人に 心もあれば 親もある」飛蛛
2009年6月2日-6日

DVD
トリック2
第1話~11話

2001年
テレビ朝日・東宝

23:15~

各28分~60分
 『トリック』第2シーズン。DVDは「やむ落ち」場面を復活した超完全版。
 第1話から第3話はepisode1「六つ墓村」。脚本・蒔田光治、演出・堤幸彦。
 第1話「六墓」。上田教授(阿部寛)のもとに六つ墓村の旅館、水上荘の主人・田島(石井宣一)が毎年1月11日に宿泊客に死人が出るという謎を解いて欲しいという依頼が来る。無理やり、奈緒子(仲間由紀恵)を誘って旅館に出向く二人。なんにでも「お」を付ける番頭・平蔵(渡辺いっけい)に迎えられた。他にも推理作家・栗栖貞子(犬山犬子)とアシスタント・藤野(堀つかさ)、県会議員の亀山(徳井優)と鶴井(長江英和)が泊まる。
 四百年前に村に逃げ込んだ落ち武者を殺した、そのたたりだと話す山伏(和田勉)と手まり唄を唱える女(あき竹城)も出現。実際は臆病だという栗栖を守ろうと部屋の外に張り込んだ二人だったが、栗栖は死亡。さらにその助手・藤野もしばらくあとで急死する。

 第2話「落ち武者の謎」。訪れた医師(白木みのる)の診断では栗栖は心臓麻痺、藤野は毒殺だという。矢部刑事(生瀬勝久)と石原刑事(前原一輝)が捜査に入る。平蔵が隠している秘密とは旅館の主の娘・美佐子が許婚者を振って失踪した事件らしい。美佐子の恋愛相手は平蔵だったが、身分違いをおそれて待ち合わせ場所に行かなかった平蔵の前から、彼女は忽然と姿を消してしまったのだ。座敷わらしの怪のトリックは二酸化炭素、絵の落ち武者の人数が減るのは機械的なトリックだった。手まり唄の「おわらしの戸開き」はわらし淵だと見当をつけて、その場所の洞窟内を探検する二人だった。

 第3話前半「手毬唄の謎」。洞窟では酸素が薄い。穴に落ちた二人を救出に来たのは旅館主・田島だった。これまでの事件のトリックを明らかにする二人。そして真犯人があきらかになる。穴の中で発見された白骨は女性だった。

 第3話後半から第5話はepisode2「100%当たる占い師」。脚本・蒔田光治、演出・堤幸彦。
 第3話後半。百発百中の占い師・鈴木吉子(銀粉蝶)はある男に右に行きなさい、左に行けば不幸になると告げている。彼女は未来が見えるという。信じない男は左に曲がる。すると、居眠り運転の車にはねられる。
 奈緒子は商店街の福引で一等を当てた後、上田の訪問を受ける。上田は占い師の正体を暴こうと提案する。占い師に言われたのと逆のことをやってくれというのだ。もちろん奈緒子は断る。しかし、上田は福引には一等の金の玉はもともと入っていない、しかし一等を当てた女がいたと追及。奈緒子は調査せざるを得ない。
 占い師は石段を登ってはならない、さもないと大事なものを無くすと奈緒子に告げる。奈緒子は石段を登るが何も起きない。しかし、上田が失踪してしまった。矢部刑事に連絡して一緒に占い師のいた場所へ行ってみると、吉子の家に招かれたという長部(伊藤俊夫)に会う。長部に同行して占い師の家に行くと、未来説明会で吉子は未来を予言したというビデオを見せる。

 第4話。奈緒子はビデオに操作の後を発見。邸内を探索した奈緒子と矢部は台所で縛られているマツ(絵沢萌子)を救う。カバンの中のお金を横取りしたというのだ。奈緒子は最初、カバンの中にはドライアイスが入っていたと推理する。ウソ発見カードを利用して、やくざを脅し、マツを助ける奈緒子。奈緒子は自分にも予知能力があるとみんなに奇術を見せる。上田が一瞬出現する。現在から未来への抜け穴、つまり時間の穴を見つけようという瀧山(光石研)が二人に協力を申し出、鈴木吉子の後をつけ、離れの蔵で「怨」「呪」の箱を開く。吉子が開けるなと予言した「叫」の箱を開いた瀧山は無線機に叫びを残して消えた。吉子は箱は全部今夜中に運び出すことになっていると言う。奈緒子と矢部は「叫」ぶの箱を発見できない。長部に奈緒子は先を読むトリックを説明する。
 納屋では箱が戻っていて、瀧山が倒れて死んでいた。吉子は時間の穴に落ちたのだと言う。奈緒子は叫ぶの箱が消えたトリックを解明する。吉子の提案で奈緒子とと吉子の予知能力対決が行われる。毒入りのコップを当てるという対決だ。最後に残った毒入りコップを奈緒子が飲む羽目に。

 第5話。毒が入っているかもしれないコップを飲めない奈緒子。対決に負けてしまった。しかし、実は毒ではなかったのだ。吉子のトリックに引っかかったのである。信者たちに責められて、奈緒子は破れかぶれの予言をする。それが外れれば磔だ。しかし、予言は当たる。かくれて見守っていた上田が助けたのだった。信者たちに詰めよられて絶対絶命のとき、幹部・清水(升毅)が自分に任せてくれと奈緒子らを引き取る。清水はすべては仕組まれたウソだった、もう止めると言う。しかし、逃走途中で吉子に見つかる。清水は時間の穴に落ちて、身体がねじえれて死亡。いつも長部が抱えていたカバンの中身はニセ札だった。いったい彼は何ものか?問いただす奈緒子に長部は占い師によって殺された婚約者の復讐に来たのだと言う。
 吉子に見つかり、会場に引きずりだされる。マツが吉子にもうもう止めるように助言する。育ての母親だったのだ。マツは吉子を反省させようと毒を飲む。吉子と奈緒子は信者の前で再び毒入りコップの賭けを行うことになる。奈緒子が無毒なコップを取る。次いで長部も無毒のコップを・・・のはずだったが、彼は苦しみ出す。残ったコップを吉子は安心して飲む、奈緒子が止めるのも聞かず。
 自分の手を汚さず吉子と清水を殺すという長部の復讐は遂げられたのだった。脚本・太田愛、演出・木村ひさし。

 第6話-7話ハepisode3「サイ・トレイラー」。脚本・太田愛、演出・木村ひさし。
 第6話。人面タクシーに乗り込み失踪した婚約者・京子を探してくれ、物質に残った意識の痕跡をサイ・トレーリングを喧伝している深見(佐野史郎)が本物かどうかを確かめてくれと商社員・岡本(池内万作)の依頼。深見は上田が拾った財布の落とし主を当てさせる。奈緒子のマジックは馬鹿にされる。テレビの上田の番組「どんと来い超常現象」に出演、京子は既に殺害されている、四人の失踪者を発見する代わりに一千万円を支払えと言う。金の工面に困る一同のもとに、小早川京子の叔父(田山涼成)が現われ、生死に関わらず見つかるなら金を出すという。
 深見は京子以外の三人の死体をサイ・トレーリングで発見する。死者の意識が残るゾーンがあり、不本意に死んだ場合はゾーンに意識が強く焼きつけられると説明する。死と恐怖を追跡する悪魔の力がある、京子の身近な人間に殺人者がいるのだと・・・。京子の捜査を遅らせる深見。霧の夜、一同の前に人面タクシーが出現し、すり抜けて消える。

 第7話。タクシー消失のトリックを解明する奈緒子。タクシーを運転したのは深見だと推理するものの、深見はそんなことをしても利益が無いと主張する。奈緒子は各人の行動から深見と岡本の共犯説を主張、しかし、岡本が窓から落下死、深見も椅子の上で脈が無かった。死の力におびえた叔父は京子の死体を発見し、快楽殺人鬼の正体が明らかになる。深見は京子の父親だったのだ。そして、全体が壮大な計画的復讐だったことが明らかになる。

    映画川柳「手のこんだ 復讐の罠 つぎつぎと」飛蛛  
2009年5月27日-29日

DVD
トリック
第1話~10話

テレビ朝日・東宝
2000年7月7日~
23:09~
金曜ナイトドラマ

各47分
 テレビ朝日の連続ドラマ。辛口の映画評論家・小林信彦が絶賛していました。確かに面白い。

 第1話から第3話」(脚本・蒔田光治、演出・堤幸彦)は「母之泉カルト教団事件」とでも名付けるべき回。枕はフーディニーの透視術暴露。
 第1話。奇術師・山田奈緒子(仲間由紀恵)はドサ回りの舞台を解雇されてしまった。「人前で笑ったこともない」という愛想のなさでは客受けが悪いのだ。そんなとき、雑誌で、日本科学技術大学(ニホン・カギダイと略される)の物理学者・上田次郎(阿部寛)がほんものの超能力者を賞金付きで求めていると知って、応募してみることにする。奈緒子は封筒から百円玉を抜き取る手品を見せる。彼女の能力に感心した上田は大学の事務長・大森の娘・美和子(伊藤裕子)を新興宗教「母之泉」から取り戻すために、教祖の霧島澄子こと“ビッグ・マザー”(菅井きん)のインチキを暴いて欲しいと持ちかける。もちろん奈緒子は断る。「あんたがやればいいじゃないの」という訳だ。虚勢を張っている上田は超能力の裏を見抜く能力が無いのだった。上田の目の前で30万円の小切手を破り捨てた(奇術で)奈緒子だったが、明日返しに行こうかなと思っている矢先、上田は奈緒子のアパートに来て、滞納していた下宿代まで支払っていた。しかたなく、奈緒子は上田と一緒に田舎の「母之泉」へ乗り込むことになる。
 教祖は新参者が封筒に書き入れた悩みを次々に当てて信頼を得ていたが、奈緒子はこれを「ワン・アヘッド・システム」という奇術だと説明する。事務長の娘は息子の死は自分に責任があると自責の念にとらわれており、教祖の能力に疑いを持っていないため、説得に耳を貸そうとしない。それに、山を降りた元信者が不可解な死を遂げているのだ。上田も中空に出現した教祖から四日後に死ぬと宣告されていた。
 奈緒子は明日もう一度封筒の内容を当てる試験を申し出て不正を暴くという。そして、その時がやって来た。
 
 第2話。奈緒子が急に出した封筒の中に書いた内容“貧乳で困っています”を教祖は見事に当てた。彼女は本当に超能力者なのか。会場で何かの匂いがしていたことに奈緒子は気づいていた。探ってみると、それはアルコールだった。封筒をアルコールでなぞっていたのだ。
 息子の呪いを気にする美和子に奈緒子は亡くなった息子さんの言葉を聞いてみればいいじゃないですかと提案し、天国の息子へ宛てて手紙を書かせる。しばらくすると同じ封筒の中に息子からの返事があった。けれども、奈緒子はこれは封筒を二重にした奇術だったと説明する。
 二人は美和子を連れて脱出、上田は追手を空手で倒す。車で逃走したはいいが、車は途中でガス欠。逃げ込んだ民家の主・青木(河原さぶ)は息子が教団に入信し、脱出しようとして死んだという経験から、三人を匿ってくれた。「今夜死ぬ」と宣告された美和子を守って寝ずの番をした二人だったが、深夜急に眠気を覚えた奈緒子が翌朝隣で寝ていた美和子を起こそうとすると、彼女は亡くなっていた。警官たち(生瀬勝久、前原一騎)たちは部屋に一緒にいた奈緒子にいったんは手錠をかける。しかし、美和子の遺書が発見され、毒物を飲んだ自殺だったということになる。

 第3話。奈緒子は前夜キジ汁を出した青木が教団の信者だったことを突き止め、この自殺は巧妙な殺人であると告発する。「お前らがやったこと、ぜんぶお見通しだ」と。三たび奈緒子と教祖の対決、奈緒子が書いたふたケタの数字を当てようというのだ。右手のひとさし指を賭けた奈緒子はまたも敗北する。空手を使って上田は逃げ出し、奈緒子も続くが、二人はすぐに捕まってしまう。上田は奈緒子をここに引き込んだのは自分だ、代わりに自分の命を取れと申し出る。そんな提案の理由は・・・「俺にも世間体があるだろ」、奈緒子「悪人相手にミエ張ってどうするんですか!」。奈緒子は縛られた手を縄抜けの術を使って抜け出す。数字当ての会場で二人はなぞ解きを試み、上田は無意識の心理操作で説明する。上田は教祖に会いに行く。奈緒子の母、書道家の里見(野際陽子)は故郷で原因不明の熱病に苦しんでいた。
 一方、青木と会った奈緒子は上田を自分が殺すことになると伝えられる、その直後に、吹き矢で青木は殺された。夜の式場で、再び奈緒子と教祖の対決。空中浮揚させられた上田を猟銃で撃てという。奈緒子は鏡のトリックだと喝破する。鏡を撃ち割った瞬間、教団の参謀・津村(山崎一)は幹部に集会の中止を宣告、教祖は津村に「もう止めよう」と告白、毒を噛んで自殺する。死ぬ間際に、教祖はほんとうに人の心を読める人間がいるのだと言い、仕立てあげられた組織について話し、奈緒子の思い出を見る。奈緒子の奇術師の父親(岡田真澄)はほんものの霊能者に殺されたんだと言う。
 警官は水道管から毒物を発見したと伝える。津村はビッグ・マザーを失った人々に何が残ったんだと言い捨てて連行されていく。奈緒子「ほんものの霊能力者はいるんでしょうか」、上田「あれは彼女の負け惜しみだよ」。
 途中で寝てしまった奈緒子を背負って家まで送った上田は空中に浮かされていたときに自分が送ったサイン(嘘をつくとき鼻を動かす)に気づいてくれたことに礼を言う。奈緒子は「?」。なぜ鏡のトリックと気づいたかと問う上田に、奈緒子は「時計をしている手が反対だったから」と。
 別れ際の二人のセリフは「貧乳のことは忘れたほうがいいぞ」、「巨根の弊害に比べれば小さな問題だ」。可笑しい。

 第4話・第5話は「宝女子(ほうめご)村民消失事件」とでも名付けようか。枕はエッフェル塔消失。
 第4話。演出・保母浩章。村から突然ひとが消えた。警察公安課長(中丸新将)が上田へ相談に来た。食堂に勤めていた奈緒子は上田から調査の相談を受ける。橋を隔てて、離れ島にその村はあった。村民消失の報告をした前田巡査は、この村出身の超能力者・ミラクル三井(笹井英介)が村民を消失させたのだという。
 前田巡査と上田、奈緒子は村へ入るが、やはり家には誰もいない。ストーン・ヘンジがある。上田は子袋を表したものだという。奈緒子は少女を目撃し、ミラクル三井に出会う。三井は前田巡査を消してみせ、彼の過去も一緒に消してしまった。連絡を受けて矢部刑事が応援にやって来る。あまり役には立たないのだが。夜中に上田は古い曼荼羅図を発見、しかし窓越しに仮面の者を見て気絶。
 翌朝 ビデオテープに三井が上田の首を消すトリックが映って映っていた。奈緒子が押入れの引き戸を開くと、そこには上田の首なし死体があった。
 
 第5話。逃げ帰ろうとした二人は橋が消えているのに気づく。奈緒子は本当に死体が上田だったかどうかいぶかしむ。矢部と二人で死体の○根ぶりを比べてみるが、よく分からない。再び現れた三井を前に奈緒子はカードを消すマジックを見せるが、三井は嘲笑し、ストーンヘンジを一挙に消してみせる。さらに奈緒子も消すと言う。マントをかぶせられた奈緒子はどこか知らない処へ来ていた。奈緒子は例の少女に出会うが、少女は「わたしは死んでいなければならない」と告げて逃げる。民家に戻ると、家には上田が居た。彼は監禁場所から見知らぬ女によって助け出され、家に戻って来たと言う。二人は事態を推理する。女が重大な秘密を打ち明けると指定した約束の場所へ行くと、女は話しかけたものの急に恐怖に駆られて消えてしまう。
 村民は消えてはいない。常に自分たちは監視されているのではないか。上背のある死体は前田巡査で、自分たちと行動を共にした前田巡査は実は偽物だったのではないか。実はミラクル三井は村民によって操られているのではないか。いったい何のために。
 25年ごとに起こるという災禍を防ごうと村民たちは少女の生贄を捧げる儀式をしていたのだ。真相に迫った二人に村民たちが迫る。どうやって、この危機を脱出すればいいのだろう。そして生贄に捧げられた少女はなぜ生きて、逃げまどっているのだろうか。

 第6話・7話は「呪術殺人事件」とでも呼ぶべきもの。枕は、大正時代に牛の刻参りで男を呪殺したとされた女は呪いによる殺人は不可能とされ罪を問われなかったという話。脚本・林誠人、演出・大根仁。
 第6話。母からの速達が奈緒子に届いた。その直後、上田に呼ばれた奈緒子は結婚紹介所から来たという女の写真を見せられる。ばかばかしくなり帰ろうとしたとき、矢部刑事が黒坂美幸(佐伯日菜子)を伴い、霊能力でこれから人を殺すから、警察に監禁して欲しいと言ってきた、ついては彼女を保護してほしいと依頼に来た。美幸を大学内の上田の秘密の実験部屋に監禁すると、突然、美幸は梅木龍一を絞め殺す仕草をして、崖の下を探せと指示する。上田は5km先の崖下で絞殺された死体を発見。ベルトから指紋が出るし、被害者が握っていた髪の毛は美幸のものだった。現場でトラックにひかれそうになった奈緒子はゴミ収集トラックを利用した殺害方法を推理するが、美幸に偶然に頼り過ぎた推理の欠陥を指摘される始末。午前5時に空間から取り出した1本のナイフで誰かを刺す仕草をして、全身に返り血を浴びた美幸は男の名を竹下文雄と言った。  

 第7話。同日同時刻に刺殺された男は竹下だった。指紋も返り血も被害者のものと一致したという。奈緒子は共犯者がいると推理。血液を入手したのは竹下が採血されたクリニックらしい。血液が盗まれていた。刺殺の目撃者の老婆は美幸を犯人と指摘する。
 第三の鉄パイプによる松井和彦の殺人を上田は止める。
 奈緒子の母が上京して来た。奈緒子はオートロックのマンションに住んでいるとウソを言っていたので、上田のマンションを一時借用。部屋中の健康器具をマジックのため体を鍛えると言い訳。上田が部屋に来て、TVで「哲この部屋」を見た。上田は双子の番組を観て真相に気づく。美幸には双子の姉妹がいるはずだ。美幸本人を呼び出して質すと、あっさり認める。姉の美幸は霊能力を信じないなら二人を監禁すればという提案をする。そして、監禁された部屋で松井を銃殺がふさわしいと狙う。矢部刑事が用意していた携帯電話に松井から「殺さないでくれ」と連絡が入る。そして銃弾の音。携帯電話に殺人の瞬間が録音された。
 奈緒子は電話機にジーッという音が入っているのに気づく。松井の部屋に行ってみると、飼育中のナマズに餌をあたえるタイマーの音だった。タイマーの設定時刻は午后1時。奈緒子は美幸が犯行を行ったのは1時だったと断定する。その後、パソコン操作で2時45分に電話が入るように仕掛けたのだ。美幸は「この場、全員を殺してやる」とすごむ。十年前に保険金殺人で父親を殺された。私たちは復讐を誓ったのだ。
 妹は姉は自分に霊能力があると信じていただけだ、妹は犯行は自分がやったと自白する。すると、姉は冷たく言い放つ。「その通りよ。私はやっていないわ」。裏切られた表情を見せた妹は血を吐いて死んでしまった。妹を毒殺したのか。姉は自責の念で自殺したんでしょと言う。どこまで美幸の犯行を立証できるものだろうか。
 帰宅した奈緒子のボロ・アパートに母の手紙が残されていた。「元気に暮らしているようで安心しました」と。なぜ母は本当の寄宿先が分かったのだろうか、いぶかしむ奈緒子であった。このボロアパートは池田荘と言って、家主が池田ハル(大島蓉子)。
 
 第8話は「千里眼」と呼ぶべきか。枕は三船千鶴子の千里眼実験。脚本・林誠人。演出・木村ひろし。
 第8話。家賃を滞納している奈緒子は家主から「ラドンびっくり人間コンテスト」に出演して優勝し、伊香保温泉一泊二日の旅を譲るよう強要される。町の共同浴場のイベントで、他愛もない芸人が次々登場、奈緒子はゾンビ・ボールで好評を博するが(客は奇術より奈緒子の脚線に関心を集中している)、途中で音楽を入れたテレコを蹴とばしてしまい、テンポが乱れ、隠れ糸が切れてしまう。その後に登場した千里眼・桂木弘章(橋本さとし)は客の書いた数字を次々に当てて拍手喝采。審査員でなぜか参加していた上田に奈緒子は数字当てのトリックを教える。
 桂木の千里眼はそれに留まらなかった。無料相談と称して相談者の家の様子を透視し、分銅を売りつける。「コールド・リーディング」という誘導尋問を利用した読心術。インチキ透視だと分銅を50万円で買わされた老人の告発があり、老人がお礼にと用意している福引当選の伊香保温泉二泊三日の旅の魅力もあり、桂木に勝負を挑んだ奈緒子だったが、自分の家の間取りまで透視され、しかも確認に観客が押しかけ、すっかり恥をかく。奈緒子は一昨日に出た幽霊による事前調査のせいだと判断する。間取り図を見ていた上田は豊胸パッドの位置が違うのに気づく。机上に置いておいたのはゾンビボールの半球だったのだ。それが置かれていた時に部屋に来たのは宅配便業者だけ。
 奈緒子は上田に囮になってもらう。間取りを宛てて欲しいと申込をした後で部屋に来た宅配便業者を拉致し、連絡不能にして勝負を挑むのだ。ところが、それでも桂木は上田の間取りを当ててしまう。
 奈緒子は間取り図を見てある間違いに気づいた。そしてその原因を推理し、三たび桂木に挑戦する。上田と奈緒子の描いた絵を当てさせるのだ。次々と当てて最後の図、桂木の描いた図は「箸」、しかし奈緒子の図は「橋」だった。助手(大坪佳代)がアイマスクに仕込んだ通信機を通じてメッセージを送っていたのだ。 関西弁の助手の「橋」を「箸」と聞き間違えたのだ。不正を暴かれて矢部刑事に連行されていく桂木の傍に、千里眼で病気が治ると宣託され分銅を買っていった車椅子の少年が近づく。少年「ぼく死んじゃうの」、桂木はこう答える。「そうだよ、先生はインチキだからね」。その様子を目撃した上田と奈緒子の二人は唖然とする。

 第9話・10話は「黒門島のシャーマン」とでも呼ぶべきか。枕は沖縄のユタはシャーマンであるという話。脚本・蒔田光治、演出・堤幸彦。
 120年に一度東の海からシニカミが出現するという伝説のある島がある。
 上田は島の霊能力者は薬草を利用しているという文化人類学者からもらった媚薬をジュースに入れて、奈緒子に飲ませる。けれども、奇妙だと思った奈緒子はジュースをすり換えていた。媚薬を飲んだのは上田だった。
 アパートの部屋で亀にレースをさせている奈緒子のもとに死んだはずの父親から電話がかかってくる。さらに奇妙な封書が届き、文面には“びっくりするような未来をあなたにもたらす”男が現れると予言してあった。スタンプ偽造のトリックを解いて奈緒子が向かった先にいたのは予知能力ブラザーズと名乗る黒津次男(鴻上尚史)・三男(正名僕蔵)であった。彼らは沖縄の黒門島(“獄門島”のもじり)から来た。その島は母の出身地で、奈緒子に償いを求めるという。また、16年前の父親が死亡した事件の犯人は君がよく知っている人だと言う。奈緒子は島への誘いを断るが、二人はまたの再会を期待するという。
 母親に電話で問い合わせるがその答えは要領を得ない。父親は昭和59年に水中脱出マジックで脱出に失敗したのだ。アパートの奈緒子に父親からの電話が来る。父親は電話を通してトランプ手品をやってみせる。外に出ると暗闇に父の姿が浮かび上がり、そして消えた。
 奈緒子は上田に会って事情を話す。上田は媚薬がカリボネという花から採取されると言い、その島は最近死にかけているらしい、理由は不明だと話す。さらに、父親の声は誰かが最近、君に刷り込んだもので、姿はプロジェクターによるものだと推理する。
 黒瀬兄弟は奈緒子に巫女が逃げ出して霊たちを怒らせたのだが、その巫女は奈緒子の母親で決められた結婚相手を嫌って逃げだしたのだ、君たちはカミヌウリ(巫女)の家系なのだ、母親の代わりに君に戻って欲しい、アナーキーな儀式を経て巫女になるのだと話す。 
 奈緒子は長野県へ里帰りをして母親に会う。母親は父と駆け落ちしたことを認める。奈緒子は水中脱出の失敗は扉を開く鍵を盗まれたことだと推理して、問いただすが母親は「昔のこと忘れたの」と答えるのみ。母親が開いてはならないといった土蔵のなかの宝箱のなかで脱出箱のカギと「剛三が里見へ出した手紙」を発見する。その手紙には島の復讐で、自分はいちばん愛する者、娘に殺されるだろうと書いてある。
 カギを盗んで父親を殺したのは自分だった! 奈緒子は東京で上田に会った後、黒津兄弟とともに飛行機で島へ飛ぶ。

 第10話。上田は奈緒子の母親に尋ねる。書道家の母親は門がまえの中に「火」がある漢字を書き、これは聖地を表しますと言う。
 奈緒子は島(ロケ地は宮古島)で黒い衣装を着せられ、香をかがされ、儀式にのぞんでいた。相手は島一の根をもつ本家の元男、二人は島民から酒をかけられ、まぐわいの儀式に進む。しかし、初夜の寝どこで奈緒子は元男の股間を蹴り、逃げだす。
 島には上田が来ていた。さらに、バカンスを楽しむつもりの矢部刑事と石原刑事も来ていた。そして母親の里見も戻って来ていた。
 黒津次男は「この世には汚してはいけないものがある」と言う。奈緒子たちは昔の海賊が隠した島の財宝にからむ暗号札をめぐって、黒津の本家と分家の争いがあるのに気がつく。元男は奈緒子は自分とは相性が悪いといい、秘密の暗号札を奈緒子に託し、自分は偽物を持つ。
 脱出用に用意されたゴムボートでいったんは逃げようとする上田と奈緒子。しかし、大事を託された奈緒子はその責任感から浜へ戻る。すると、浜には殺された元男の死体があった。不審に思ったとき、島民たちが現れ、元男殺害の犯人にされてしまう。
 暗号札を並べるとSの門に火の文字となった。そして、札を裏返すと、「元男を殺したのは次男と三男だ」とあった。矢部刑事も駆けつけて事件は解決。
 正しい暗号札を並べてひっくり返すと財宝の隠し場所が示された。財宝は120年に一度潮が引いて出現する砂浜だ。早速掘る上田が見つけたものは「財宝は争いをもたらすので処分した」という文字の刻まれた石碑だった。浜が海に沈む時刻が迫る。
 エンド・タイトルに主題歌を歌う鬼束ちひろが登場し、テーマソング「月光」を歌う。

    映画川柳「ヒンニュウ? 言葉の意味が 一瞬飛んだ」飛蛛
2009年5月26日

DVD
69 sixty nine

東映
2004
114分
 脚本は宮藤官九郎、監督は『フラガール』の李相日。原作はエンタープライズ入港反対闘争の後、佐世保で高校3年生だった村上龍の『69』(1987)。時代の雰囲気が良く出た原作です。四方田犬彦に、高校紛争を描いた映画は『高校さすらい派』以外、ほとんどないと指摘されていましたが、本作が付け加えられました。
 コーヒー牛乳がまぶしい時代だった。佐世保北高校の3年“ケン”こと矢崎剣介(妻夫木聡)は、「ランボー」「クリーム(ロックバンド)」「フェスティバル(フォークソング)」などのアイテムに魅かれ、バンドのドラマーで、女と遊んだという作り話の名人。「ゴダール」ばりの映画を作ろうという計画を思いつき、主演女優を引き抜きに英語劇部に押しかけ、「シェイクスピアなんかつまらん」と宣言して、英語劇部の“レディ・ジェーン”松井和子(太田莉菜)の関心を引くことに成功する。太田は宮崎あおいを洋風にしたような日本人とロシア人の混血。
 撮影器を借りに高校の社研に行くが、長崎大学生に映画のテーマを聞かれ、口ごもっていると馬鹿にされ、屋上の「バリ封」(バリケード封鎖)を計画し、全共闘ではなく「バサラ団」と命名して深夜に学校に忍び込むことを計画する。仲間を集めた当日、女子更衣室により道してしまう一党ではあったが、学校中に《想像力が権力を奪う》などの落書きをし、屋上に垂れ幕を掲げ、便意を催した仲間には校長室でウンコまでさせた。翌朝、登校してきた生徒や教員たちは仰天する。
 全校生徒が後片付けするなか、ケンや山田正ことアダマ(安藤政信)はウンコに思想はあるかなどと論じていた。
 事件当夜、赤いペンキだらけで帰宅した途中を不審尋問された時計屋の岩瀬学(金井勇太)から芋づる式に一味が明らかになってしまう。取り調べの刑事(国村隼)はなかなか自白しないケンを説得する。絵描きの父親(柴田恭平)は、「卑屈になるなよ、真摯でしたことだ。堂々と処分を受けて来い」と助言、母(原日出子)がついて行って、ケンは無期謹慎の処分となる。
 学級担任(岸部一徳)はときどき家庭訪問に来る。謹慎中のアダマの自宅に英語劇部の“アン・マーグレット”佐藤と“ジェーン”松井が来たと聞き、怒ったケンだったが、恋文を出したのは佐藤の方だった。
 アダマは真剣に卒業式粉砕闘争を計画していた。ケンはフェスティバルを企画していた。アダマたちが大学生に利用されていると知ったケンはその計画をぶっ壊す。大学生に追われたケンとアダマ、BGMは由岐さおりの「夜明けのスキャット」で、橋から川へ飛び込んで逃げる。
 ケンの口癖は「楽しく生きたもんが勝ちばい」。
 フェスティバルの幕あきで佐世保工業の美人(水上あさり)のエロ・ダンスを企画したケンは、彼女のパトロンを気取る工業の番長(新井浩文)にスゴまれ絶対絶命。父親に助けを求めると、父親は知り合いの誰かに連絡してくれた。ほんもののヤクザが間に立ってくれて、トマト・ジュースで手打ち。ヤクザはケンの父の昔の教え子だった。
 校内でバンドのチケットを売って教師たちに咎められたケン。そこへ全校放送が入る。いつもパシリの岩佐の声だ。学校側に、マス・ゲームと運動場の掃除中止を要求する。続いかけた曲が“オー・チン・チン”。体育教師(嶋田久作)は「お前たちはクズ。死んでも治らん」と評する。しかし、マスゲームと運動場の掃除は中止された。
 フジカシングルエイト(8ミリ)で映画の撮影中。松井「冬になったら海に行かん? いまの気持も消えてしまうとやろか。うちはキスしたことなかとに、恋の歌、好いとっとよ」と言う。ケンは一緒に冬の海を見に行こうと承諾する。
 9月の学校祭の名称は「朝立祭」だった。
 その後、岩佐は歌手を目指したが挫折、アダマは全共闘に入て活動の後、佐世保商業の醜女“ゴリラ”と結婚、俺は“レディ・ジェーン”と結婚、アメリカで生活・・・・・というのも創り話か。
    映画川柳「69年 いちご白書と ベトナム戦」飛蛛
2009年5月11日

ビデオ
喜劇・女売り出します

松竹
1972
88分
 森崎東脚本・監督の傑作を、シナリオ採録のため再見しました。
 家内に見せていなかったことが判り、一緒に見たところ、普段は森崎作品を見たがらない家内も気に入ったようです。「人情話だね」と言い、特に市原悦子の「かあさん」のセリフ回しに感動していました。
 私見では森崎さんの作家性とともに映画のリズムが見事に合った最高傑作だと思っていますし、どの場面も生き生きとしており、目が離せません。BGMとして使われている音楽も見事です。撮影(吉川憲一)と美術(佐藤之俊)はいつもと同じなのですが、録音・調音・照明・編集がいつものスタッフと違っています。ただ、それがどのくらい作品に変化を与えているのかは判りません。
 ヒロイン浮子(うわこ)を演ずる夏純子の美しさは際立っています。それにふだんは脇役でしかない、鳥子役の瞳麗子や、礼美役の秋本ルミも好演しています。ちなみに、1972年は森崎さんは『生まれかわった為五郎』(1月)、本作(2月)、『女生きてます・盛り場渡り鳥』(12月)と傑作を輩出した年でした。
 見ると元気が出る作品です。DVDでシネマスコープ版を出して欲しいのですが。
    映画川柳「左きき 知らずに 財布をスリ取られ」飛蛛
2009年5月9日

録画
配達されない三通の手紙

松竹
1979年
130分
 原作エラリー・クイーンの『災厄の町』を、日本に置き換えた脚本は新藤兼人。監督は野村芳太郎。撮影は川又昂。この作品の前に野村監督は 『砂の器』(1974年)、『八つ墓村 』(1977年)『事件』(1978年)『鬼畜』(1978年)を撮り、後で『震える舌』(1980年)『わるいやつら』 (1980年)『真夜中の招待状』(1981年)『疑惑』(1982年)など松竹大作映画を製作・演出しています。
 山口県を舞台に長門銀行の頭取・唐沢家で起こる事件と殺人。出演者は、かなり豪華で、唐沢家の当主・佐分利信、その妻・乙羽信子、長女麗子・小川真由美、次女紀子・栗原小巻、三女恵子・神崎愛、次女の夫・片岡孝夫、その妹智子・松坂慶子、従弟ボブ・蟇目良、記者・竹下景子、検事・渡瀬恒彦、医師・小沢栄太郎、署長・滝田裕介、判事・稲葉義男、警部・蟹江敬三、善吉・米倉斉加年、智子の母・北林谷栄。娘たち三姉妹の名前になんの関連もないのが不自然な感じがします。麗子・紀子・恵子という名前には命名した親の一貫した考えが反映されていません。原作は読了済みでしたが、内容はすっかり忘れていました。
 また、後で素人探偵のコンビが、調査してすぐに分る事実、つまり失踪中だった婚約者・夫の事情がはっきり確認されないままドラマが進み、殺人事件が起こってしまうのはいかにも不自然ですが、なにごともスキャンダルを恐れて表ざたにしようとしない父親の威力ということで、強引に納得させられるものでしょうか。
 本作のみどころは、悪女役を演じている松坂慶子です。ミステリーとしてはすぐに仕掛けが判ってしまいますが、謎解きで見る映画ではないと思います。
    映画川柳「帽子箱 危険な手紙 入れたまま」飛蛛
2009年5月8日

日本テレビ
金曜ロードショー
東京タワー、オカンとボク、時々、オトン

製作委
2007年
144分
 フジテレビがドラマ化した田中裕子がオカンを演じた西谷弘演出作品を見ていました。映画化は傑作『バタアシ金魚』の松岡錠司監督、そして撮影が名手・笠松則通だったので、期待して見ました。
 松岡監督は、ゆっくりした時間を描こうとしたように思えます。東京の喧噪ぶりは描かれませんし、「ボク」(オダギリジョー)の多忙な様子も後景に退いて出てきません。
 テレビ版では流行歌の「東京」が繰り返し使われていましたが、映画には出てきません。
 むしろ、オカン(母親)が東京へ出て来てからよりも、出て来る前の場面、樹木希林が演じる前の、樹木希林の娘である内田也哉子が演じている部分の方に比重があります。
 さびれてゆく筑豊の炭鉱町に対するノスタルジーを強く感じました。ただ、それは東京の生活とあまりにも異なるものなので、断絶してしまっています。したがって中途半端な浮遊感で終ってしまいます。後半では、抗ガン剤治療の苦しさが印象的でした。
    映画川柳「借金を 全額返済 大祝い」飛蛛 
2009年5月1日
~6月20日

テレビ朝日
23:15~
名探偵の掟

テレビ朝日
2009年
54分
 東野圭吾原作の珍ミステリーをテレビ化。本日はすでに第3章。毎週金曜日深夜に放映。
 原作の味をテレビでかなり出そうと努力していますが、それが成功しているかどうかは微妙です。名探偵の推理やミステリーのパターンを笑いのめそうとする作品なので・・・・・。
 捜査側のコンビ、天下一大五郎(松田翔太)と警部・大河原番三(木村祐一)、女刑事・藤井茉奈(香椎由宇)、森山瑞希(ちすん)、慶太(入江甚儀)。
 第一章「雪原独居老人殺人事件」壁神小枝子(奥貫薫)、壁神辰哉(森本亮治)。
 第二章「口の字館 会社社長愛人密会殺人事件」町田恵子(伊藤かずえ)、桃川好美(黒坂真美)。
 第三章「遺体のそばに何やらアレっぽい文字が書き残されていた殺人事件」王沢友美恵(伊藤裕子)、王沢洋子(紫吹淳)
 脚本は大石哲也(1章・2章)、山岡真介(3章)、演出 は宮下健作、常廣丈太。
 チーフプロデューサー(五十嵐文郎:テレビ朝日)、プロデューサー(関拓也:テレビ朝日、高野渉:テレビ朝日) 、協力プロデューサー(菊池誠:アズバーズ)、制作協力・アズバーズ、制作 ・テレビ朝日。
 最終夜は
    映画川柳「ミステリーの 約束が生む 迷推理」飛蛛
2009年5月1日

録画
(4月23日0時
CS東映映画チャンネル)
北陸代理戦争


東映

1977年

105分
 深作欣二監督、高田宏治脚本、中島徹撮影の、先の展開が読めない傑作。
 公開当時、見ていませんでした。『仁義なき戦い』後に適応放散した作品のなかの一本で、実録ヤクザ映画路線の最終作品。福井を舞台に大阪と京都のやくざの代理戦争に進んで身を呈して暴れまくる川田登(松方弘樹。モデルは川内弘で本作完成後に射殺された)を中心に個性豊かな脇役総出演で画面から目が離せません。女優も野川由美子(川田の女きく)や高橋洋子(きくの妹)、中原早苗(安本の妻)が強気の女を演じて目が離せません。日本海の荒海と寒風きびしい雪が華を添えます。
 深作さんも『現代やくざ・人斬り与太』ばりに、スタッフと一緒にアイデアをつめこんで、嬉々として撮っている感があります。臆病で情けない地元北陸の親分衆は「和服姿」なのに対して、大阪や京都から乗り込んでくる暴力団は「スーツ姿」、対比が際立ちます。
 昭和43年、川田ノボル(松方)は、親分・安本(西村晃)を首まで雪に埋めて周囲をジープで走り、利権を独占する親分を脅喝。安本は万谷(マンタニ。ハナ肇、好演!)に登の始末を命令、万谷は北陸進出を目論む大阪の金井組(千葉真一、組長なのに『広島死闘篇』の大友勝利みたいです)と手を組み、喫茶店で川田を襲撃。警察が駆けつけて一命をとりとめた川田は葬儀車の棺桶で脱出、小料理屋の女将・仲井きく(野川由美子)とその弟・隆士(地井武男)の計らいで輪島に匿われる。隆士の属する金沢を仕切る谷中組組長(織本順吉)は大阪のやくざと闘う気はない。万谷は川田の救命を条件にきくを抱く。一方、雪を体にすりこむ川田は重傷の身を案じて止めるきくの妹ノブ(高橋洋子)と結ばれる。
 傷が回復した松方は富安組を襲撃、組員(岩尾正隆。西田良は誤記)をリンチして万谷の居所を突き止める。京都の吉種組(中谷一郎)の賭場に乗り込み、川田は日本刀で万谷の左手を切断、中谷一郎は刀を素手でつかんで川田を止める。川田はすごむ組員(成瀬正)を斬殺して刑務所入り。
 服役中に刑務所内でもと金井組員にリンチされそうになった川田は、もと谷中組組員・竹井(伊吹吾郎。最初は渡瀬恒彦だったが、最後のシーンを撮影中の事故で運転していた渡瀬は瀕死の重傷を負って降板)に助けられ、竹井から組長谷中が暗殺され、隆士が金井組の支部長になったと聞かされる。
 金井組幹部(曽根晴美)から出所後にノボルを殺れと命じられた隆士。登は時間をズラして出所し、竹井と花巻(矢吹二朗)を仲間に加え、万谷に詫びを入れると同時に、ノブと結婚、金井組と対立する浅田組傘下の岡野組(遠藤太津朗、成田三樹夫、林彰太郎ら)を味方につける。岡野は川田に自分の名前は出すなと釘をさすが、川田らは適宜、岡野の名前をチラつかせて相手を脅し、勢力を拡大していく。
 金井組幹部(曽根晴美・野口貴史ら)を車ごとユンボで潰し、最後には爆殺。川田は龍ケ崎組長(天津敏)に兵隊を借りようとするが断わられるので、日雇い労務者を集めて、見せ組員で金井を脅す。銃を準備して出入りに備えた金井組を岡野は警察に通報し、凶器準備集合罪で逮捕させる。
 隆士は、金井組組員(小林稔侍・広瀬義宣・榎木兵衛)にノブを拉致させ、川田を呼び出すが、川田に返り討ちに遭う。縄を解かれたノブはそばにあった出刃包丁で隆士を刺殺。ノブは警察に自首する。
 きくは隆士の墓参りで母親代わりに育てた弟妹の運命を嘆く。川田は岡野の盃を受け舎弟となるが、万谷には岡野への裏切りを唆す。ノブを拉致した金井組の残党を金で釣り、岡野組長の女となったきくの店で大暴れさせ、岡野に事件の裏に万谷ありと匂わせる。川田は岡野に心臓発作の仮病で入院した万谷を訪ねさせる。報復を恐れた万谷は、川田に跡目を譲り引退。さらに、川田は金井組の残党を雪に埋めた海岸に岡野を案内、竹井に命じて“雪で運転を誤り”、ひき殺させた。岡野 は、「こんな芝居にはだまされんぞ。オノレは盃ゆうもんをどない思とんねん」と詰め寄るが、川田は「飢えた狼にゃ、盃も茶碗もありゃせんですよ。事と次第じゃ親兄弟だって食い殺しますわ」と答える。
 岡野たちが去った後、きくは川田に「うちの負けや。でも、なんか・・・・スッキリしたわ」と去って行く。死体をスコップで掘り出し始末しようとする川田たち。
 ナレーションがかぶさる。「俗に北陸三県の気質を称して越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師と言うが、この三者に共通しているのは生きるためにはなりふり構わず、手段を選ばぬ特有のしぶとさである」。唖然とする幕切れである。
       映画川柳 「風呂アチチ 飛び出す親分 肝ったま」飛蜘   

シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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