映画 日記   (2001年から)     池田 博明 


 
 これまでの日記(このページの下段に作品名)

2008年8月〜9月に見た 外 国 映 画 (洋画)
見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2008年9月16日

録画
(9月14日11:05〜WOWOWにて)
JAWS/ジョーズ

1975年
USA
124分
 スティーヴン・スピルバーグ監督の大ヒット作。
 サメ退治に出かけた漁師クイント(ロバート・ショー)とサメ学者フーパー(リチャード・ドレイファス)がお互いの傷を見せ合って自慢する場面があります。クイントの腕には刺青を消した痕があります。刺青はインディアナポリス号という軍艦のもの。広島に落とした原爆を基地に運んだ船です。帰りに日本軍の魚雷にやられ、海に投げ出された将兵がイタチザメの餌食になったと話します。1100人もの将兵のうち、サメの餌食にならなかった者は316人だけ。最初の朝に100人がやられたと。サメに対するクイントの怨みの理由が明かされます。
 『JAWS』は、巨大なホオジロザメがなかなかその姿を現わさないため、恐怖感を煽ります。銛を打ち込まれても、空樽を引き寄せながら、船に迫ってくる怪物のスピード感は並大抵ではありません。
  映画川柳 「船のそば 空き樽浮かぶ モンスター」飛蜘
2008年9月16日

DVD
フロスト警部

狙われた天使

英国
(1997年2月16日放映)
102分
 フロスト警部ミステリー第18作「狙われた天使」 House Calls (家の呼び声)の原作は『フロスト気質』。脚色マルコム・ブラッドバリー、監督グレアム・シークストン。
 石炭置き場で数ヶ月前の撲殺死体が発見されます。こそ泥のレニーでした。妻のマギー(キャロライン・オニール)の許を出て行ったのは3ケ月前、そのまま帰宅しなかったというのですが、カードが使われていました。彼のカードを使用したのは泥棒仲間のドニー。
 一方、赤ン坊が侵入者に注射される事件が相次ぎ、フロスト警部は手口から7年前に逮捕し、最近出所したシドニー・スネル(ピーター・ガン)の犯行と当りをつけます。スネルを訪ねてみると、スネルを溺愛していた母親は死に、家は取り壊される寸前、警部は聖書に誓って子供には近づかない、デントン市には戻って来ないと約束させます。リズ部長刑事は再犯の恐れがあるスネルを見逃すフロストの意図が理解できません。フロスト警部の「直感」でした。
 デパートのカーペットを張った作業員マーク(トム・ラドクリフ)の家で二人の子供が殺され、妻ナンシーが行方不明になる事件が起こります。ナンシーは刺されて死亡し、トンネル内で発見されます。子供の腕に注射痕があったことから容疑はスネルにかかり、スネルを見逃したフロストの立場は危うくなり、捜査斑から外されます。取り壊される家に戻っていたところを逮捕されたスネルは自白。けれども、フロスト警部が問い詰めたところ、スネルが注射したとき既に子供たちは死んでいたことが分かります。
 警部とリズ部長刑事は、子供好きのマークのアリバイを証言した同僚のフィル(イアン・ペック)やデパートの警備員デンに再度聞き込みをします。
 レニーが水道局員を装って泥棒に入り、出て来なかったという屋敷にはキャロライン(メラニー・ジェソップ)と看護士のジュリー(エマー・ギレスピー)のフレミング姉妹が住んでいました。二人はレニーには見覚えが無いと言います。
 事件が解決した後、リズ部長刑事はもとの所属に戻ることになります。
  映画川柳 「住む人に 忘れられたる 住宅街」飛蜘
2008年9月15日

DVD
フロスト警部

孤独な復讐

英国
(1997年2月9日放映)
102分
 英国のヨークシャーTVが1992年から現在2008年までに13シリーズ、37本製作したフロスト警部ミステリー A Touch of Frostの第17作と第18作が宝島社からDVDで発売。英国ミステリーの隆盛に貢献しようと早速購入。日本ではミステリー・チャンネルで放映された。
 第17作は「孤独な復讐」 Penny for the Guy (少年の身代金)の原作はR.D.ウィングフィールドの『フロスト気質』。脚色マルコム・ブラッドバリー、監督ポール・シード。撮影ピーター・ジャクソン、音楽バーバラ・トンプソンとジョン・ハイズマン。
 休暇を取ろうとしていたフロスト警部(デヴィッド・ジェイソン。声は大塚明夫)のもとにゴミ置き場で少年の死体発見の通報が入ります。新任の部長刑事リズ・モード(スザンヌ・ドイル。声は田中敦子)と組むことになったフロスト警部は死体の身元は捜索願が出ていたボビー・カークビー(フランチェスコ・ブルーノ)と判断しますが、カークビー家(母はジーン・マリー・コフェイ)でボビーの写真を見せられて別人と分かります。翌日になって捜索願いが出たディーンでした。少年は麻酔後に食物が喉につまった窒息死で、小指が切り落とされていました。
 数年前に不正経理で逮捕寸前に火災で証拠を消滅させたスタンス・フィールド夫妻(マイケル・エンジェルス、キャロル・ハリソン)の娘キャロル(サラ・スマート)の誘拐事件を狂言だと断ずるフロスト。
 ボビーの行方不明事件の方は身代金が大手スーパーを経営するコールドウェル卿(ミルズ・アンダーソン)に要求されます。警察に頼らずに身代金を支払うことでこの事件を店の宣伝に利用しようとするコールドウェル。フロスト警部は捜査はしないと約束しますが、それは単なるうわべだけのこと。身代金受け渡し場所を特定して、犯人を捕縛しようとします。ところが、張り込んだディントンの森で雨の中、犬を散歩させに来たフィンチ氏(フィリップ・ストーン。声は塚田正昭)が金の入ったカバンを拾おうとしたところを殴られてしまいます。マレット署長(ブルース・アレキサンダー。声は納谷六朗)はカンカン、大失態と思えたのですが、真犯人にあと少しのところまでフロスト警部は迫っていました。
 女房に死なれたフロスト警部に親切なもと売春宿のおかみにキティ(グウィネス・パウエル)。フロスト警部の片腕にバートン(ステフェン・モイヤー)とトーラン(ジョン・リオンズ)。友人の新聞記者サンディ(ビル・スチュワート)。
  映画川柳 「食堂で シェフに秘密の お弁当」飛蜘 
2008年9月13日
15:30〜
BS日本テレビ
モーパッサン短篇より
『いなか娘』
『首飾り』
フランス
JMプロダクション
2007年
 モーパッサンの2短篇の映画化、“モーパッサン・プレシャス・タイム”として放映。
 『いなか娘』のローズ(マリー・クレマー)は青年ジャック(ヴィンセント・ジャンクゥエ)の子供をこっそり産みますが、ジャックは最初から結婚する気が無く、ローズの妊娠を知ると逃げてしまいます。農場主(オリヴィエ・マルセル)が求婚して、無理やり結婚を承知させられたローズでしたが、子供ができないため、夫から暴力をふるわれます。とうとう暴力に耐えられず、「子供ができないのはあなたのせいよ。私にはジャックとの間に子供がいる」と口走ってしまいます。夫は自分の責任を痛感し、息子を引き取って育てることにします。監督デニス・マレヴァル、脚色ドミニク・ガルニエ。60分。
 『首飾り』を友人ジャンヌ(シャーリィ・フォークエット)から借りた文部省役人シャルル(トーマス・シャブロル)の妻マチルド(セシル・ド・フランス)は、夜会の帰りにそれを紛失してしまいます。宝石店で同じものを作ってもらい友人に返却しましたが、その支払いに10年間働きづめに働きました。すっかりやつれた妻と偶然再会した友人は自分が貸した首飾りはニセモノだったと話します。
 『首飾り』はクロード・シャブロール監督、脚色は製作者のジェラール・ジュールドゥイとジャック・サンタマリア。30分。
  映画川柳 「十年も 夢まぼろしの ごとくなり」飛蜘 
2008年9月10日

DVD
アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵

2005年
(日本公開2006年)
フランス映画
107分
 トミーとタペンスものの秀作『親指のうずき』をパスカル・トマ監督が製作・演出したフランス映画。ちなみに、ジェラルディン・マクイーワン主演のマープルものの1本としてテレビ化された作品『親指のうずき』はグレタ・スカッキの好演もあり、傑作でした。
 脚色はフランソワ・カヴィリオリ、ナタリー・ラフォーレ、パスカル・トマ。撮影ルナン・ポレス、編集カトリーヌ・ドゥヴォー、音楽ラインハルト・ワグナー。親指のうずき フランス映画
 プリュダンス(カトリーヌ・フロ)は夫ベリゼール(アンドレ・デュソリエ)の叔母アダを老人ホーム「陽だまりの丘」に訪問した際に、老夫人ローズ・エヴァンジェリスタ(ジュヌヴィエーブ・ビジョルド)と出会います。彼女は暖炉の奥にいる子供はあなたのお子さん?という奇怪な質問をします。空想癖のある老人が多いホームではどんな発言も重大な意味にとられることはないのですが、好奇心旺盛なプリュダンスは叔母が急死したと同時にマダム・ココアが死亡、ローズ夫人も知り合いに連れられてホームを出てしまったと聞いて、この一連の事件の背後に何か謎があると感じます。叔母はホームでは用心のためにわざと偏屈なふりをしていました。ローズにもらったというボスコヴァンの絵に描かれた屋敷はどこか見覚えのある風景でした。
 娘夫婦が家族で押しかけて来て、面倒がるプリュダンスでしたが、娘が小さい頃寄宿舎から帰宅する思い出話をしたときに、あの家を列車の窓から見た記憶が蘇って来ます。矢も盾もたまらず、列車に乗り、窓外を見張るプリュダンスはとうとうサヴォイ地方の村シャトラールにその家を発見します。さっそく駅に降り、調査を始めるプリュダンス。地元の人はペリーの家と呼んでいました。ペリー夫妻は家の半分しか使用しておらず、残りの半分は空家だというのです。
 村の教会の司祭は昔あった子供の連続殺人事件の話をします。手伝いのブレイ(ヴァレリー・カプレスキ)は独身女性。墓地で子供の墓を見つけたプリュダンスは誰かに殴られて、一時記憶喪失になります。
 出かけたきりで帰宅して来ない妻を気遣ってベリゼールはローズを連れ出したという弁護士アネット(ローラン・テルジェフ)を尋ねますが、ほとんど情報は得られません。けれども、警察が彼を未解決のダイヤ強盗団の一味として捜査していることが分かります。自分の記憶を取り戻したプリュダンスがペリーの家の空家側から持ち出した古い人形のなかに盗まれたダイヤが隠されていました。証拠を突きつけられて自白を促されたアネットは小用をたすといって聴取室から出て窓から飛び降り、自殺してしまいます。彼のほかに女首領がいたようです。
 プリュダンスは村で弁護士を見かけたような気がします。村に戻ってみるとお祭りの真っ最中、彼女が見かけたと思ったのはアネット弁護士の双子の兄セルニエでした。
 平和でのどかな村、善人たちの村に見えますが、背後には何か邪悪なものが潜んでいるように思われます。再びひとりで屋敷を訪れたプリュダンスは空家の側でローズを見つけます。快く迎えてくれたローズは少しずつ話し始めます。
  映画川柳 「ミステリー からくりピアノに 遺したり」飛蜘  
2008年9
月4日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

もの言えぬ証人

カーニヴァル・フィルムズ・プロ

英国LWC
103分
英国1996年放映
 もの言えぬ証人 Dumb Witness。原作『もの言えぬ証人』。脚色ダグラス・ワトキンソン、演出エドワード・ベネット。制作総指揮ロブ、撮影監督サイモン・コソッフ。湖畔の屋敷と霊媒が効果的な傑作です。

 夕暮れの桟橋。湖畔に立つリトル・グリーンハウス。フォックス・テリアのボブは階段にネジを仕掛ける誰かを目撃します。
 ポワロとヘイスティングズ大尉は友人のチャールズ・アランデル(パトリック・ライカート。声は中尾隆聖)が水上ボートでスピード記録に挑戦するのを見学しようと、ウィンダミアに来ました。汽車から乗り換えの船に乗り遅れた二人は親切な人の自動車で駆けつけます。多くの取材陣や村人の他、チャールズの叔母のエミリー(アン・モーリッシュ。声は鳳八千代)、付き添いのウィルミーナ(ノーマ・ウェスト)、チャールズの妹テリーザ(ケイト・バッファリー。声は高島雅羅)、エミリーの姪のベラ・タニオス(ジュリア・セント・ジョン。声は藤田淑子)とその夫ジェイコブ(ポール・ハーツバーグ。声は屋良有作)が集まって来ています。さらに、霊媒のトリップ姉妹、イザベル(ポーリーン・ジェイムソン)とジュリア(ミュリエル・パヴロウ)も駆けつけて、ポワロに“将軍の霊が湖に血が流れる”と警告したと告げます。チャールズのボートは火を噴き、彼は脱出して無事。
 祝賀会の予定だったディナーは単なる夕食会になります。エミリーの主治医グレンジャー医師(ジョナサン・ニュース)も参加。席上、イザベルに霊が乗り移り、M.P.からポワロに警告、力はエミリーに集まると。
 その晩、エミリーが階段から転落。ジェイコブの娘カティヤ(ライラ・ハリソン)は踊り場に犬のボブのボールを見つけます。息子アレクシス(トニアス・サンダース)はこれにつまづいたんだと言います。しかし、ポワロはネジの跡を発見し、階段上にワイヤーが張られていたと推理します。  
 エミリーから相談を受けたポワロは遺産を目当てに狙われるなら、遺言状を書き換え、身内にはあげないことにするという提案をし、エミリーは良案だと受け入れ、すぐにそれを実行します。
 ジェイコブは調合薬をエミリーに渡します。夕方、エミリーはそれを飲み、外の空気を吸いに出ると、口から緑色の煙を吐いて倒れ亡くなります。霊媒もウィルミーナもエミリーの口から魂が外に出るのを見たと思い込みます。地元の警察キーリィ巡査部長(ジォフリー・フレッシュウォーター)は肝臓障害による死亡と判断し、検死解剖を拒否します。
 降霊会を行うというトリップ姉妹の提案をポワロは受け入れます。降霊会でイザベルはエミリーの言葉では、殺人者はロバート・アランデルだと告げます。そんな人はいません。しかし、犬のボブがロバートです。
 新しい遺言状では遺産すべてはウィルミーナに贈られることが分かります。ウィルミーナ自身もそのことを知らなかったのです。彼女はボブが騒いだ夜、夢うつつで見た“誰か”のナイトガウンにTAと縫い取りされていたことを思いだします。ボブが殺人者を知っています。犬はポワロに預けられます。続いての犠牲者は緑色の煙とリンの関連に気づいたグレンジャー医師でした。
 他のキャストはメイドのセーラ(パット・オトゥール)、スチュワード(ジェスティン・フィリップス)。
  映画川柳 「犬が見る 緑屋敷の 降霊会」飛蜘
2008年9
月3日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ゴルフ場殺人事件

カーニヴァル・フィルムズ・プロ

英国LWC
103分
英国1996年放映
 ゴルフ場殺人事件 Muder on the Links。原作『ゴルフ場殺人事件』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、演出アンドリュー・グリーヴ。制作総指揮ロブ、撮影監督クリス。ポワロものの長篇第2作め。
 ベロルディ殺人事件のニュース映画を編集中の編集者アダム(ジェイムズ・ヴォーハン)。ベロルディの妻は夫を恋人と共謀して殺したという罪で裁かれようとしています。彼女には当時9歳の娘がいました。
 それから10年後、フランスのドーヴィルを訪れたポワロと大尉。大尉が予約したのは「ゴルフ・ホテル」、もちろんポワロはゴルフをしません。ポワロを見かけた社長ポール・ルノー(ダミアン・トーマス)が声をかけて来ます。脅迫されているので相談にのって欲しいというのですが、詳しい内容は翌日話すと言います。秘書ストナー(テレンス・ビースリー)と共に運転手ローレンスの車で帰っていきました。義理の息子ジャック(ベンジャミン・ダレン。声は宮元充)は自転車レースに出ようとしていたのに、突然父親からチリ行きを命ぜられ、怒っています。ジャックは隣りの娘マルト(ソフィー・リンフィールド)と恋愛中ですが、今度の南米行きは表向きはビジネスでも真の狙いは自分とマルトの仲を裂くことにあると考えています。息子と父は激しくいい争いますが、結局ジャックは出発することになり、屋敷を後にします。
 翌日、ポワロがルノー家を訪れると様子がおかしいのです。ルノーの妻エロイーズ(ダイアン・フレッチャー。声は寺田路恵)が縛られて猿ぐつわをされており、南米の二人組に襲われて夫は誘拐されたと言うのです。ポワロは自信満々の警視庁のジロー警部(ビル・ムーディ。声は大平透)と張り合う羽目になります。そして、ヘイスティングズ大尉がゴルフ場で打ったボールの先でルノーの死体を発見します。ルノーは下着の上に大きなコートを羽織っており、コートのポケットにはB.Dと署名のある恋文が入っていました。シロー警部は自分の担当だと主張してことごとくポワロの邪魔をします。遂にはどっちが早く真犯人を捕まえるかの競争で、ポワロのヒゲとジローのパイプを賭けることになります。
 マルトの母ドーブレ(ケイト・フェイ)に出会ったポワロは彼女にどこかで会っているような気がします。ジャックの前の恋人の歌手イザベル(イアチンタ・マルカフィー。声は小山芙美)の悲しい歌に大尉は心を打たれ、彼女に恋をします。犯人が二転三転します。
 他のキャストはメイドのレオニ(ヘンリエッタ・ヴォイツ)、警察署長ベックス・ルシアン(ベルナルド・ラサム)、ホテット医師(アンドリュー・メルヴィル)。

 映画川柳 「庭先で 恋を語らふ ひともあり」飛蜘
2008年9
月3日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ヒッコリー・ロードの殺人

カーニヴァル・フィルムズ・プロダクション

英国LWC
103分
英国1995年放映
 ヒッコリー・ロードの殺人 Hickory Dickory Dock。原作『ヒッコリー・ロードの殺人』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、演出アンドリュー・グリーヴ。制作総指揮はロブ、撮影監督はクリス。
 ネズミが歩き回るヒッコリー・ロードの学生寮。夜、パトリシアの宝石箱から指輪を盗む娘がいました。
 ジャップ夫人が休暇のため一人身の警部は、ポワロの進めで肉屋(テリー・ダッガン)から、ヒレ・ミニョン肉を買いましたが、6シリングの値段に驚き。
 オランダ旅行から帰国した留学中の英文学のサリー(パリス・ジェファーソン。声は戸田恵子)と医学のレオナルド(ダミアン・ルイス。声は辻谷耕史)は学生寮に戻って来ました。仲間は中世史・考古学のナイジェル(ジョナサン・ファース。声は家中宏)、政治学のパトリシア(ポリー・ケンプ。声は安達忍)、心理学のコリン(ギルバート・マーティン。声は水野龍司)、化学のシリア(ジェシカ・ロイド。声は藩恵子)、服飾のヴァレリー(エリナー・モリストン。声は勝生真沙子)。
 学生寮の管理人はミス・レモンの姉フローレンス・ハバード(サラ・バデル)で、最近、いろんな物(聴診器、電気の片方、シガレット・ライター、靴など)が無くなるのに心を痛めています。学生寮の家主ニコレティス(レイチェル・ベル)は気難しく、宝石店のジョルジオス(アンディ・リンデン)のもとにダイヤを届けています。密輸品のようです。
 ポワロは書類を見て、あり得ないことだと驚いています(日本語版ではカットされています)。1ページに3つもスペル・ミスをしたミス・レモンの心配は姉の心配でした。ポワロは学生たちにデイナー・レクチャーを計画します。コリンは動機なき殺人なら完全犯罪が可能だという持論を展開します。
 シリアがコリンと一緒に来てポワロに病的盗癖を告白します。ただし、聴診器・リュックサック・電球・ホウ酸はシリアの盗難物ではありません。けれども、シリアはリュックの盗難者が誰かを知っていると言います。その晩、シリアは過剰なモルヒネを飲み、毒殺されました。
 モルヒネの出所はシリアがアルバイトをしていた病院の薬局でした。事件の当夜、レナードはシリアの部屋に侵入していたし(ナイジェルの目撃)、サリーは深夜、非常階段を使って寮を抜け出していました(パトリシアの目撃)。
 反ファシズムの論客で若者に人気があるスタンリー卿(ディヴィッド・バーク)が病院に入院。キーツの詩を研究しているというサリーはポワロが唱えたシェリーの詩《死にいくレディのように》をキーツだと言います。 
 夫人が休暇中にジャップ警部を宿泊させることになったポワロ。ジャップ警部はトイレのビデで顔を洗ってしまいますが、ポワロはあれは壊れているんですと誤魔化します。また、ポワロは夕食に豚足料理を出します。日本語版ではカットされていますが、学生たちには共通の秘密があり、ニコレティスが警察に行くと言います。
 その晩、ニコレティスが刺殺されます。 
 コリンが、毒物を誰にも知られず、盗み出せると言って、みんなで賭けをしたことが分かります。コリンは白衣と聴診器で偽装してモルヒネを盗んだのです。モルヒネは洗面所に流したはずでしたが、内容がホウ酸に取替えられていたことが考えられます。学生寮の家宅捜索でコリンの部屋からモルヒネが発見され、彼は逮捕されます。
 ジャップ警部は10年前にスタンリー卿の妻がモルヒネの過剰摂取で死亡した事件を昔扱ったことがあります。スタンリー卿は、メイド2人と息子と同居、妻は一包多く飲んでしまい、死亡。ジャップ警部がこっそり覗き見た部屋で、スタンリー卿は弁護士エンディコット(バーナード・ロイド)に何か秘密を打ち明けていました。 
 学生寮の向かいのカバン屋の従業員キャスタマン(グランヴィル・サクストン)は、ポワロにサリーとダイヤの密輸のおとり捜査をしていたと話します。
 病床のスタンリー卿のアルバムから写真を一枚抜き取ったパトリシアが撲殺されます。ポワロと警部は、せっかくミス・レモンが作ってくれた舌ビラメのミルク煮とゆで野菜を食べ損なってしまいます。
 映画川柳 「盗癖を 故意に装う 想いびと」飛蜘
2008年9
月2日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ポワロのクリスマス

カーニヴァル・フィルムズ・プロダクション

英国LWC
103分
英国1995年放映
 第六シーズンは長篇四作品から成る。これ以降は長篇作品のみ。プロデュースはブライアン・イーストマン、エグゼクティヴ・プロデューサーはサラ・ウィルソン、撮影監督サイモン・コソッフ、制作総指揮ロブ・ハリス

 ポワロのクリスマス Herucule Poirot's Christmas。原作『『ポアロのクリスマス』。脚色クライブ・エクストン、演出エドワード・ベネット。ミス・レモンとヘイスティングズ大尉は登場しません。
 南アフリカ1896年。シメオン・リー(ヴァーノン・ドブチェフ。声は大塚周夫)は発見したダイヤを友人を殺して独占し、さらに暑さで倒れたところを救ってくれた女を抱いた後で姿を消します。
 40年後の12月21日、ポワロはチョコレートをクリスマス用のチョコを作っていました。セントラル・ヒーティングが壊れて困っているところにシメオン・リーから電話で泊まりの仕事の依頼が来ます。屋敷にセントラル・ヒーティングがあることが分かって、ポワロは承知します。
 翌12月22日、列車でリー家に向かうポワロは、スペイン人の女性ピラー(サーシャ・ビハール)やハリー・リー(ブライアン・ガスパリ。声は大塚周夫)と一緒になりました。シメオンは金持ちになり、次々と女に手を出し、子供をたくさん作っていました。今回はその子供たちを集めていました。ピラーは娘ジェニファーの子供ですし、ハリーはずっと家を離れていた息子だそうです。屋敷には長男のアルフレード(サイモン・ロバーツ。声は安原義人)とその妻リディア(キャサリン・ラベット田島令子)、次男ジョージ(エリック・カルテ。声は堀勝之祐)とその妻マグダレーナ(アンドリー・ベルナルド)、執事トレシリアン(ジョン・ホースレィ)、使用人ホルベリー(アユブ・ハン・ディン)、ザグデン警視(マーク・タンディ)と役者が勢ぞろいしたところで、主人シメオンが密室で殺害され、銀行から届けさせていたダイヤが紛失します。いったい誰が犯人なのか。犯人が不明なまま、ピラー殴打事件が起こります。
 映画川柳 「《リディアの趣味》 静寂や 日本石庭 小さくも」飛蜘
2008年8月30日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第8話 グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件 The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan。原作「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」『ポアロ登場』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、演出ケン・グリーブ。
 1908年の映画『サロメ』でロシアの女優がつけていた30万フランの真珠のネックレスを買ったオパルセン(トレヴァー・クーパー。声は滝口順平)は女優で妻のマーガレット(ソーチャ・キューザック。声は谷育子)につけさせて舞台に。舞台劇は『豚に真珠』。
 女優志望でマーガレットの付き人セレスティーン(ハーマイオニ・ノリス)は劇作家アンドルー(サイモン・シェパード。声は中尾隆生)と恋仲。劇初日の夜のオパルセンのパーティに首飾りをつけるのが煩わしいマーガレットは金属箱に入れて鍵をかけ、箪笥の棚に入れていきます。セレスティーヌが番をします。ところが、パーティを終えて、夫妻が戻ってくると、箱の中は空でした。ホテルのメイド、グレース(エリザベス・ライダー)が夕食を運んだ後、セレスティーヌと話しをしていました。そして彼女が部屋を空けたのは二度、どちらもたった5秒ほどでした。ギャンブルがやめられず、借金取りに追われるアンドルーもなんだか怪しい。
 オパルセンの運転手ソンダース(カール・ジョノソン。声は家弓家正)は客の送迎が仕事です。他のキャストはベル・ボーイ(ティム・スターン)、ハバート・デヴァイン(アンドルー・カー)。制作総指揮ロブ、撮影監督クリス。
 映画川柳 「本物を ニセと見立てて 星を釣る」飛蜘
2008年8月30日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

死人の鏡

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第7話 死人の鏡 Dead Man's Mirror。原作「死人の鏡」『死人の鏡』及びその原型「二度目のゴング The Second Gong」『黄色いアイリス』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、演出ブライアン・ファーナム。
 競売でポワロが90ポンドで落札しようとした鏡を120ポンドで横取りしたジャーヴァス・シェヴニックス(イアイン・カスバートン。声は富田耕生)は、ポワロに横柄な態度で詐欺調査の仕事を依頼します。詳しい事項を聞こうと翌日、シェヴニックス家へ向かう汽車に乗ったポワロとヘイスティングス大尉は、若き女性スーザン(ツシカ・バーゲン)と乗り合わせます。彼女はシェヴニックスの甥でデザイナーのヒューゴ(ジェレミー・ノーザム)と婚約しようとしているのでした。しかし、ヒューゴは養女のルース(エンマ・フィールディング。声は戸田恵子)と結婚を強制させられているというのです。実はルースは既に建築家ジョン・レイク(リチャード・リンターン)と密かに結婚式を挙げていたのですが。
 絵画収集のシェヴニックス家には助手のリンガード夫人(フィオナ・ウォーカー。声は北村昌子)の他、心霊術に凝っている妻ヴァンダ(ゼナ・ウォーカー)、養女ルース、開発計画に1万ポンドも出資したにもかかわらずレンガ1個も積んでいないという建築家ジョン・レイク、ヒューゴ、スーザンと勢ぞろい。
 ヴァンダはエジプトの預言者サフラが「誰かが死ぬと予告した」と言います。夕食の合図の8時8分の最初の銅鑼、主人の姿が見えないので書斎のドアを破ってみると、主人は左手にピストルを持ちこめかみを撃って死んでいました。弾は貫通したのか鏡にヒビが入っています。完全な密室殺人。居合わせたポワロは慎重に捜査を進めていきます。
 他のキャストはシェヴニックスの執事スネル(ジェイムズ・グリーン)、ヒューゴの助手ローレンス(ジョン・クロフト)、競売のレジストラー(ジョーン・ロルフ)
 制作総指揮ティム、撮影監督ノーマン
 映画川柳 「銅鑼が鳴る カフスボタンと 銃弾と」飛蜘
2008年8月29日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

チョコレートの箱

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第6話 チョコレートの箱 The Chocolate Box。原作「チョコレートの箱」『ポアロ登場』。脚色ダグラス・ワトキンソン、演出ケン・グリーヴ。ポワロの“ベルギー警察時代の捜査失敗事件”が語られます。傑作。
 1911年、ブリュッセル。大臣ポール(ジャエイムズ・クーンビー)は、妻のマリアンヌ(ルーシー・コフ)と口論、敬虔なカトリック信者の妻は部屋を飛び出し、階段を転落して死亡。ポールの母デルラール夫人(ロザリー・クラッチェリー。声は鳳八千代)が目撃していました。
 20年後、ベルギーのブリュッセル駅。ベルギーから“黄金の枝”(オリーブの枝で無敵の象徴)勲章を受けることになって、招待されたジャップ警部は同伴の妻の代わりにポワロを同行させています。ベルギー警察時代の同僚シャンタリエ(ジョナサン・ハケット。声は仲村秀生)と再開したポワロは、昔のポール・デルラール病死事件について話します。シャンタリエは心不全で解決だとしていますが、ポワロは真相を話し始めます。 
 ある晩、サン・タラール伯爵(ジォフェリー・ホワイトヘッド。声は阪脩)とポールは政治と信仰について口論になります。ディナーに同席していたのはマリアンヌの従妹ヴィルジニー(アンナ・チャンセロール。声は鈴木弘子)、デルラール夫人、隣人のガストン・ボージュ(ディヴィッド・ド・カイザー)などでした。友人が帰宅した後、仕事をしていたポールは好物のチョコレートを食べ、急に亡くなったのです。
 検死審問でポールは心不全という結果になりましたが、ヴィルジニーは「病死なんておかしい。審問がいい加減よ」と発言。ポワロとシャンタリエは捜査担当のブシェール警視(マーク・エデン)に独自の捜査を申し出ますが、既に終わった事件だと禁じられます。ヴィルジニーはポワロに私的に捜査を依頼します。
 サンタラール伯爵の会社のチョコレート箱はピンクの蓋と緑の箱。蓋と箱が不一致でした。チョコのかけらを薬剤師ジャン・ルイ(ジョナサン・バーロウ)に分析を依頼、残りは老執事フランソワ(プレストン・ロックウッド)が緑の蓋とピンクの箱で女友達に送っていました。 
 ガストン・ボージュが分析が終わったチョコを盗もうとします。高血圧の薬トリニトリンが使われたのです。自分に処方された薬が盗まれたのだとガストンは言い、ある秘密のために身分を隠していることを打ち明けます。空のトリニトリンの瓶は伯爵のポケットから発見されました。いまや第一の容疑者になった伯爵にヴィルジニーは自白させようと計画します。その自白を立ち聞きするはずのポワロ。大詰めが近づいてきます。
 他のキャストは政治上のアンリ(リチャード・デリントン)、デニーズ(リンダ・ブラウトン)、ジャネット(キルステン・クラーク)、大佐(マイケル・ベイント)。
 制作総指揮ロブ、撮影監督クリス。
 映画川柳 「信頼の証し 想い出のペンダント」飛蜘
2008年8月28日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

イタリア貴族殺人事件

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第5話 イタリア貴族殺人事件 The Adventure of the Italian Nobleman。原作「イタリア貴族殺害事件」『ポアロ登場』。脚色クライブ・エクストン、演出ブライアン・ファーナム。
 車会社エリソの専務ヴィッツィーニ(ディヴィッド・ニール。声は内田稔)はアスカニオ(ヴィンチェンツォ・リコッタ)にある指示をします。
 ヘィスティングス大尉は新車を購入しようかどうか迷っています。一方、ミス・レモンに男友達エドウィン・グレイブス(レオナルド・プレストン。声は羽佐間道夫)ができたようです。大尉は車会社でファブリ嬢(アンナ・マゾッティ・声は吉田理保子)に車の契約をします。ファブリのもとにフォスカティーニ伯爵(シドニー・キーン)が現れ、言い争っていました。グレイブスはポワロを訪問し、自分の主人が恐喝されているとほのめかします。ホーカー医師(アーサー・コックス)宅でポワロが夕食中、伯爵から電話があり、宿泊先のホテルに駆けつけると、伯爵は撲殺されていました。召使のグレイブスによるとアスカニオが訪問していたようです。
 アスカニオは犯罪結社マスナダの一員。ミス・レモンの調査で伯爵は偽物。イタリア大使館員(アルベルト・ジャネッリ)はアスカニオが大使館に書類を売りに来たと伝えます。ホテルでアスカニオを逮捕、しかし、解決は序の口です。
 ヴィッツィーニはポワロにアスカニオには手紙を買い戻させたのだと答えます。その手紙には自分が反ファシスト組織を支援していることが記されており、ムッソリーニ支持者の社長エリソに知られればただちに潰されます。問題の手紙はアスカニオが逮捕される直前燃やしてしまいましたが、金は一体どこに消えたのでしょうか。偽の伯爵自体が恐喝者だったのです。客と夕食を食べたはずの伯爵の胃は空っぽ。偽の証言をしたグレイブズが自慢していた船“ファンタジア・フェリーチェ(happy dream)”がチチェスター港に停泊しているはずでした。
 グレイブスの正体をミス・レモンに伝える辛い仕事をポワロは引き受けます。ところが・・・。
 他のキャストは一等書記官(ヴィットリオ・アマンドーラ)、ベドーズ(ベン・バゼル)、ホテルの料理長(ディヴィッド・ヴェリー)、ライダー嬢(ジャネット・リーズ・プライス)。制作総指揮(Production Designer)にティム・ハッチンソン。撮影監督ノーマン。
 映画川柳 「シャム猫を 始末したがる 悪党は」飛蜘
2008年8月27日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

なぞの遺言書

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第4話 なぞの遺言書 The Case of the Missing Will。原作「謎の遺言書」『ポアロ登場』。脚色ダグラス・ワトキンソン、演出ジョン・ブルース。
 大晦日のカウントダウン。1926年の新年に際してアンドルー(マーク・キングストン)は遺言書の内容を話しました。医療基金のプリチャード博士(リチャード・ダーデン)に75%、残りは弁護士のシダウェイ夫妻、家政婦のベイカー夫妻、女性学長のフィリダ、そして子供のピーターとロバートに与えられる。後見人をしているヴァイオレットには遺されていない。ピーターかロバートと結婚すればよい、女だからというのです。
 10年後、ケンブリッジ大学で、女性に男性と同じ権利を与えるべきではないという討論会をしています。もと議長アンドルーが人種・宗教や性別によって役割が異なるのは当然と主張、ロバート(エドワード・アタートン)が独裁者が選ばれて欧州大戦が近い、女性を家庭に閉じ込めておいてすむのかと反対意見を述べます。傍聴席からヴァイオレット(ベス・ゴダード。声は島本須美)が「国のために死ねというのならまず評議会に参加させよ」と発言。議場は混乱します。日本語版ではロバートやヴァイオレットの演説がカットされています。
 アンドルーはその言葉とは裏腹にヴァイオレットに全財産を遺すよう遺言書を書き換えるつもりだとポワロに打ち明け、成績優秀なヴァイオレットを自慢し、ポワロを執行者に依頼します。ところがその晩、何者かに離れに呼び出されたアンドルーは死亡。弁護士ジョン・シダウェイ(テレンス・ハーディマン)が公開しようとすると、前の遺言書が紛失しています。遺言書無しの執行では法定相続人に遺産が行きます。
 プリチャード氏はアンドルーには息子がいたらしいと言い、セイラ・シダウェイ(ロウェナ・クーパー。声は麻生美代子)はロバートが息子だと話します。ピーター(ニール・スチューク)かロバートがアンドルーの息子なのか。家政婦マーガレット・ベイカー(ジリアン・ハンナ)や、その夫で警官のウォルター巡査部長(ジョン・ローリムーア)にポワロは過去を尋ねます。ジャップ警部の捜査で、アンドルー殺害現場に落ちていたインスリンの空瓶はプリチャードの保管物と判明、博士は容疑者となります。
 一方、フィリダ(スーザン・トレイシー。声は藤波京子)はポワロに相談に来る途中にエスカレーターから突き落とされて重傷。入院した病院の医師(ステフェン・オクスレィ)が、ポワロとジャップ警部にフィリダは「ミセス」で帝王切開で出産したことがあると話します。車椅子からたちあがれるまでに回復したフィリダは個人で女子の卒業式を行っています。ケンブリッジは女子卒業生には学位授与式を行わないのです。ポワロは関係者を集めて真相を明らかにします。ヴァイオレットが発刊を計画する新雑誌名は「新しい展望」でした。
 映画川柳 「女とて 学をきわむる 型は無し」飛蜘
2008年8月27日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

黄色いアイリス

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第3話 黄色いアイリス Yellow Iris。原作「黄色いアイリス」『黄色いアイリス』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、演出ピーター・バーバー・フレミング。
 フランス料理店ル・ジャルダン・デ・シーニョ(白鳥の庭)が開店した日、ポワロのもとに黄色いアイリスが届けられます。ポワロは、2年前の1934年、ブエノス・アイレスでの未解決事件を思い出します。
 同じ名前の店での晩餐の夜、実業家バートン・ラッセル(ディヴィッド・トルートン。声は小林修)の妻アイリス(ロビン・マキャフリー)が青酸カリの毒入りシャンペンを飲んで死んだ事件です。翌日起こった軍事クーデターで、急きょ自殺と処理され、ポワロ自身はスパイ容疑で逮捕され国外追放になりました。
 妻の死が自殺ではないと確信するバートンは事件当夜のテーブルに集まった人々を再度集めます。アイリスの妹ポーリン(ジェラルディン・ソマーヴィル。声は小山芙美)、ジャーナリストのアンソニー(ドリアン・ヒーリィ。声は鈴置洋孝)、踊り子ローラ(ヨランダ・ヴァスケズ)、共同の実業家カーター(ヒュー・ロス)です。バートンとカーターが共同で経営するソヴリン石油は、経営危機に陥っています。国内向けの補助金を軍事政権に不法に援助したことがあるようです。クーデターの指導者ピェレイラ(ステファン・グリフ)は、最近公金横領で処刑されました。
 歌手(2年前はキャロル・ケニヨン、当夜はトレィシー・ミラー)が同じ歌を歌います。そして乾杯した後、今度はポーリンが突然倒れます。脈が無い。別室で関係者に対してポワロは存在を意識されない人間を指摘します。
 映画川柳 「《アイリス=瞳》 アイリスに 映る計画 綱渡り」飛蜘
2008年9月8日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ
負け犬

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第2話 負け犬 The Under Dog。原作「負け犬」『クリスマス・プディングの冒険』。脚色ビル・クレイグ、演出ジョン・ブルース。制作総指揮ロブ、撮影監督クリス。
 アストウェル化学会社の化学主任トレフューシス(ビル・ウォリス)の研究室にチャールズ(ジョナサン・フィリップス)が侵入、見つかって器具を壊し火災を起こして逃走します。
 ポワロは会社社長ルーベン・アストウェル卿(デニス・リル。声は川久保潔)に会うのを楽しみにしています。彼がベルギー製ミニチュア・ブロンズのコレクションを持っているからです。ヘイスティングス大尉は友人のチャールズのゴルフ・コンペの応援です。
 コンペの後のディナーは不愉快なものでした。アストウェルのドイツの会社と組んでの儲け主義に弟のヴィクター(イアン・ゲルダー)が反対し、戦争に加担する姿勢を夫人(アン・ベル。声は小沢寿美恵)も批判したのですが、ルーベンはまったく聞く耳を持っていなかったからです。夫人の話し相手として雇われたリリー(アディー・アレン。声は土井美加)は社長の部屋に入って書類を捜しています。それに気付いた社長は翌朝リリーを解雇すると告げます。ポワロはブロンズ像の芸術的価値を誉めますが、ルーベンには単に金の代わりにすぎません。高く売れればその後融かしてしまおうと構わないと言います。ポワロはその姿勢に腹を立てます。
 二人はゴルフ・クラブでチャールズと話します。その後、酔って帰宅したチャールズは叔父の部屋に行き、あわてて部屋から出たところを執事パーソンズ(ジョン・エヴィッツ)に目撃されます。翌朝メイドのグラディス(ルーシィ・ディヴィッドソン)は主人の撲殺死体を発見します。
 容疑は血のついたシャツを部屋で洗い、逃げ出したチャールズにかかります。一方、リリーは盗み出した書類をエキシビジョン・ロードのハンフリー・メイラー氏(アンドリュー・シイーア)に届けます。彼女は張り込んでいた大尉に見られていたことに気付きません。ミス・レモンが凝っている催眠術を用いて、ポワロは夫人が事件当夜目撃したことを語らせます。夫人が夫の部屋に入ったとき、カーテンの陰に誰かがいたようだったと話します。その後、ポワロはリリーを尋問し、彼女の着ていた着衣の一部が部屋に残されており、血が付いていたことをこっそり示唆します(実際にはその血はメイドがテーブルに刺さったナイフの切り裂きで怪我したときのものにすぎないのですが)。リリーはあわてて逃走し、彼女の兄であるメイラー氏に出会ったところをポワロは押さえます。合成ゴムの新素材アストプレンの開発が関係しているようです。
 一同がそろったところでポワロは事件の真相を明かします。
 他のキャストは巡査(マイケル・ヴーハム)等。
 映画川柳 「ブロンズに 生命を吹き込む 芸術家」飛蜘
2008年9月8日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

エジプト墳墓の謎

英国LWC
52分
英国1993年放映
 第五シーズンは1993年放映の短編8作品。
 第1話 The Adventure of the Egyptian Tomb。原作「エジプト墳墓の謎」『ポアロ登場』。脚色クライヴ・エクストン、演出ピーター・バーバー・フレミング。制作総指揮ティム・ハッチンソン、撮影監督ノーマン。
 エジプトのメン・ファラオの墓の発掘で、埋葬室の封印を破壊した瞬間、発掘を指揮していたジョン・ウィラード卿(ピーター・リーヴス)は死亡します。心臓麻痺でした。王の呪いが囁かれるなか、発掘は続けられます。
 ミス・レモンがタロット占いをしています。不吉な死のカードが出ました。ポワロにウィラード卿の夫人(アンナ・クロッパー)から夫の後を継いで調査をする息子ガイ(グラント・サッチャー。声は江原正士)の安否が心配だと告げられますが、ガイ本人は迷信を信ずる気などありません。ちょうどニューヨークに滞在中のヘイスティングス大尉に発掘の費用を出している資産家フェリックス・ブライブナー(ビル・ベイリー)の甥ルパート(ポール・バーチャード)を訪問してもらいます。大尉が会ったルパートは元気がなく、数日後に拳銃で自殺してしまいました。「不治の病気で死を選ぶ」と遺書がありました。叔父のフェリックスも親指の傷から敗血症になり死亡してしまいます。次々と関係者が死亡するなか、ポワロと大尉は急遽エジプトに渡り、王家の谷へ乗り込みます。二人が到着した日にメトロポリタン博物館のシュナイダー博士(オリヴィエ・ピエーレ)が破傷風の激しい発作を起こして死亡。エィムズ医師(ロルレ・サクソン。声は堀勝之祐)がカイロから持って来た血清も効果が無かったといいます。エジプト人の助手ハッサン(モザファー・シャファリー)は大尉に「ガイをここから連れ出せ。悪霊がひそんでいる」と忠告します。
 ポワロ自身も「死者に共通のメン・ファラオの不敬に当たるものはないか」と聞きます。大英博物館のホスウェル博士(ジョン・ストリックランド)は毎日、博物館の管理局長ケアンズ卿に報告を送っています。ブライブナーの秘書ナイジェル・ハーパー(シモン・コウェル-パーカー)とエィムズ、ルパートはイェール大学の同窓生。
 ポワロはミス・レモンにルパートの遺言状の内容を調査してもらいます。ポワロは病気になったエイムズ医師のテントを調べます。そして、遂にポワロにも毒が盛られます。
 ミス・レモンは愛猫キャサリンの死で気落ちしていました。ポワロはエジプト土産に発掘品の猫の置物を贈ります。
 映画川柳 「王家の谷 天幕に映る 犬の影」飛蜘
2008年8月26日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

愛国殺人

英国LWC
103分
英国1992年放映
 第13話 愛国殺人 One, Two, Bucle My Shoe。『愛国殺人』はアメリカでの発売タイトル。脚色クライブ・エクストン、演出ロス・デヴェニッシュ。マザー・グースが流れ、子供が石けりをする。歯科医が銃で撃たれる場面がスローモションされます。
 時が変わって、1925年、英国皇太子がインドを訪問した頃。インドのある劇場でシェイクスピアの『空騒ぎ』が上演されています。女優のひとり、主役級のガーダ・アレグザンドラ(ジョアンナ・フィリップス・レイン。鈴木弘子)は、この地の観客に嫌気がさしているのですが、端役のメイベル・セインズベリー・シール(キャロリン・コルクホーン。声は加藤みどり)はそれほどでもありません。皇太子と顔を合わせるパーティの席でガーダは実業家アリステア・ブラント(ピーター・ブライス。声は天田俊明)と結婚すると宣言し、メイベルに祝福されます。      
 それから12年後のロンドン。ポワロは歯医者のモーリー先生(ローレンス・ハリントン)に治療してもらっています。最近メイベルはインドから帰って来ました。歯科医の前で偶然ブラントに出会ったメイベルは彼に挨拶します。メイベルと船で一緒だったインド人のアンベリオティス(ケヴォルク・マリキャン。声は小林清志)は歯痛に苦しんでおり、メイベルがモーリー医師を紹介します。メイベルは自分の友人のガーダがブラントと結婚した話をします。アンベリオティスはブラントの結婚相手が異なるので不審に思います。彼は電話を前に考え込んでいます。一方、メイベルはガーダがシルヴィア・チャップマン夫人として住んでいる部屋を訪ね、ガーダと再会します。
 歯科医には案内係アルフレッド(ジョー・グレコ)がいて、階上にはモーリーの妹ジョージア(ロザリンド・ナイト)が住んでいます。事件の日、歯科医の秘書グラディス(カレン・グレッドヒル。声は宗形智子)は偽の電報で呼び出されており、不在でした。予約客はポワロ、アリステア、メイベル、アンベリオティスなどです。ポワロは治療を終えて帰るときにタクシーを降りたメイベルとぶつかりそうになり、取れたメイベルの靴のバックルを拾う羽目になります。
 午後になって予約客が待たされたと騒ぐので様子を見に行ったアルフレッドは歯科医が拳銃を握り締めて自殺しているのを発見します。お客や関係者に事情を聞くジャップ警部とポワロ。客のひとり、アンベリオティスは心不全で死亡していました。死因は麻酔薬ノヴォカインとアドレナリンの過剰投与で、歯科医師が誤って与えたものと判断されました。責任を感じたモーリー医師は自殺したのではないかというのです。
 国を動かす財閥の長となっているブラント氏の亡くなった妻レベッカの母ジュリア・オリヴィエラ(ヘレン・ホートン)は頻繁に金の無心に来ています。ジュリアの娘ジェイン(サラ・スチュワート。声は藩恵子)も同行しています。あれ? ブラント氏はガーダと結婚したはずでは?視聴者にはそんな疑問がわいてきます。ガーダの友人メイベルのおしゃべりはブラント氏にとって不都合ではないでしょうか。
 検死審問に出頭せず、メィベルが行方不明。チャップマン夫人の部屋の家主ヘンドリー(オリヴァー・ブラッドショー)と妻(ジーン・エインズリー)は失踪者の記事を見て、最近音沙汰の無いチャップマン夫人を訪ねて来た人だと気がつきます。セインズベリー・シールという奇妙な名前に覚えがあるのでした。警察官を呼んで部屋を調べると納戸に顔をつぶされた女性の死体がありました。モーリー医師の後を継いだベネット医師(ジョーン・カーリン)は診療カルテの記録から死体はシルヴィア・チャップマンだと判断されると証言します。
 グラディスの婚約者フランク(クリストファー・エクルストン。声は大塚芳忠)は仕事を無くして困っていましたが、黒シャツ党に入り、忙しい様子です。その後、ブラント氏の庭師として雇われました。
 ポワロは死体のバックルの付いたエナメル皮の靴を点検します。階上のジョージアは家を整理。彼女のメイドのアグネス(トリビー・ジェイムズ)がポワロに、事件当日、グラディスとの婚約に反対しているモーリー医師に意見しようとフランクが診療室に入ったのを目撃したと話します。 
 モンタギュー・ホテルにチャップマン夫妻(ブルース・アレクサンダー、メリー・ヒーリー)が逗留していることが判明しますが、この二人事件とは無関係の別人でした。
 ブラント氏の庭でブラント氏を狙って銃声がします。秘書のヘレンが庭師のフランクが撃ったと証言します。フランクは過激派の動向を探る目的で黒シャツ党への入党や、庭師になって下僕の話を探れと命令されていたと言います。もちろん信ずる者はいません。ポワロは留置所のフランクを訪ね、正直に話すように促します。
 そして、ポワロは事件を解決します。制作総指揮ロブ、撮影監督クリス。

 江戸川乱歩は本書と『白昼の悪魔』を「惜しげもなく大きなトリックを幾つも織り込んだ、よく考えた複雑な筋」と絶賛しています。(『アガサ・クリスティー百科事典』より)
 
 映画川柳 「《シェイクスピア》 “空騒ぎ” 仮面を取れば 死んだ妻」飛蜘 
2008年8月26日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

雲をつかむ死

英国LWC
103分
英国1992年放映
 第12話 雲をつかむ死 Death in the Clouds。『雲をつかむ死』、脚色ウィリアム・ハンブル、演出スティーヴン・ウィティカー。
 モンマルトルを訪れたポワロはガイドブックを落としたスチュワーデスのジェイン(サラ・ウッドワード。声は高島雅羅)と出会います。今回は異国のため、ヘィスティングズ大尉もミス・レモンも登場せず、魅力的なジェインがポワロの協力者を務めます。博物館では、テニス観戦中心の観光に不満をもらす尊大なセシリー(キャスリン・ハリソン。声は戸田恵子)を見かけます。セシリーはカジノでスッてしまいます。夫のスティーヴン・ホーバリー(ディヴィッド・ファース。声は伊藤和晃)と知人のヴェネシア(アマンダ・ロイル)は馬やテニスが好き。ホーバリーはもと女優のセシリーとの結婚を後悔しています。一方、テニス場で、ジェインは歯科医ノーマン・ゲイル(ショーン・スコット声は田中秀幸)に声をかけられます。セシリーは金貸しのマダム・ジゼル(イヴ・ピアース)のホテルに行き、「私につきまとうな」と怒ります。翌日、夫はロンドンに帰国し、セシリーとヴェネシアが一緒にテニスを観戦することになります。ポワロはジェインとシュールレアリスム博物館で出会い、「シュールレアリスムは論理で見てはいけません、心を開いて経験するんですと解説します。
 パリ見物を終えて、パリ発クロイドン行きの航空機一等に乗ったポワロ。他にはゲイル、セシリー、ヴェネシア、ジゼル、考古学者デュポン(ガイ・マニング)、探偵作家クランシー(ロジャー・ヒースコット)等が乗っていました。スチュワーデスはジェイン、スチュワードはミッチェル(イヴス・オーバート)です。コーヒー・タイムの後、マダム・ジゼルが死亡していることにスチュワードのミッチェルが気づきます。一見、ジゼルはハチに刺されて死亡したようでした。しかし、南米の吹き矢が落ちていました。先には毒が塗ってあったようです。
 飛行機が大嫌いなポワロは眠っており、その数メートル後ろで殺人が行われたのです。ポワロは名探偵のプライドを賭けてジャップ警部、そしてパリ警視庁のフルニエ警部(リチャード・イアーソン)と共に捜査します。
 ポワロの座席から矢筒が発見され、ポワロも容疑者のひとりになります。ポワロはジェインに依頼して作家クランシーの本を図書館で借りて来てもらい、クランシーに尋問。クランシー家の棚から矢筒を回収します。
 フルニエ警部のもとにジゼルの娘アン(ジェニー・ダウンハム。声は勝生真沙子)と名乗る女性が現れます。結婚したばかりで、遺産相続を申し立てます。ジゼルのメイドのエリーズ(ガブリエル・ロイド)はジゼルは私生児の娘を産み、23年前に里子に出したと証言します。その後、アンはいったん姿を消します。
 スチュワードのミッチェルは片付けのときソーサーにスプーンが2本あったことを思い出します。そして再びアンが姿を現したとき、彼女には危険が迫っていました。ポワロはアンと以前にどこかで会っているのですが、思い出せません。一方、セシリーは英国から失踪し、俳優ヴァラクラフ(ハリー・オードリー)と共にフランスのカジノに現れます。ポワロは関係者一同を集め、謎を解きます。
 制作総指揮マックス、撮影監督イヴァン、EPニック、制作ブライアン。 
 映画川柳 「《フランスの警察》 捜査より 昼食が大事 フランス流」飛蜘
2008年8月25日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ABC殺人事件

英国LWC
103分
英国1992年放映
 第四シリーズは1992年放映で長篇3本の制作。

 第11話 ABC殺人事件 The ABC Murders。『ABC殺人事件』、脚色クライブ・エクストン、演出アンドリュー・グリーヴ。
 あまりにも有名なミステリーなのであらすじを紹介するまでもないでしょう。前後篇で放送。
 半年ぶりに大尉が南米から帰国、カイマンの剥製をお土産に持ち帰りました。ちょうどポワロにはA.B.C.という匿名の人物から手紙が来ていました。その手紙の予告通り、21日にアンドーバー市で煙草店のアリス・アッシャーが撲殺されます。死体の傍に『ABC鉄道案内』が置かれていました。妻アリスと不仲だった夫フランツ・アッシャー(マイケル・メリンジャー)、姪でメイドのメアリー・ドロウアー(キャスリーン・ブラッドショー。声は吉田理保子)は到底、犯人ではあり得ません。ジャップ警部とともに地区のグレン警部(ディヴィッド・マッカリスター)が捜査を担当。
 2通目は25日にベックスヒル市を予告。厳重な警戒のなか、海岸でベティ・バーナードが絞殺されていました。ベティの恋人ドナルド・フレイザー(ニコラス・ファレル。声は玄田哲章)とは男友達をめぐって時々喧嘩、ベティの父親(ジョン・ブレスリン)と母親、そして姉のミーガン(ピッパ・ガード。声は榊原良子)も容疑者にはなり得ません。カーター部長(ピーター・ペンリー=ジョーンズ)が捜査に加わります。
 警察は連続殺人事件として公開します。「ポワロ困惑」と見出し。3通目が来ます。29日にチャーストン村と予告していますが、もう29日です。急遽ポワロやジャップ警部は駆けつけますが大富豪サー・カーマイケル・クラークが撲殺されていました。富豪の弟フランクリン(ドナルド・ダグラス。声は内田稔)は美貌の秘書ソーラ・グレイ(ニナ・マルク。声は弥永和子)と共に、AとBとCの関係者で捜査チームを作って協力しようと申し出ます。ポワロもその案に賛同します。
 ところで、図書館の男(アンドリュー・ウィリアムソン)はストッキングの行商人カスト(ドナルド・サムプター。声は矢田稔)と事件について話しますが、カストは急に笑い出したりします。カストはミステリ映画に興奮したり、怪しい行動を取ります。
 不知の病気をもつレディ・クラーク(ヴィヴィアン・バージェス)は事件当日に秘書のグレイが不振な男と会っていたと話します。グレイを「嘘つき女」と非難しますが、グレイはその男が特別な“特徴を持たない人”だったため、忘れていたのだと証言します。
 4通目は9日、ドンカスターと予告。9日には競馬があり人でごったがえします。犯行現場は競馬場と予想して警察と私的捜査チームは張り込みます。ところが殺人は映画館で起こり、しかもDで始まる男の隣りの席の人が誤って刺殺されました。カストが男の近くにいて、ホテルに帰宅するとポケットに血の付いたナイフと布がありました。血のついた手を洗っているところを安ホテルの部屋係マーベリー夫人(ルチンダ・カーティス)に目撃され、彼女の通報で、カストはABC殺人事件の犯人として逮捕されます。しかし、カストにはBの事件でアリバイがありました。真犯人はいったい誰なのか。また連続殺人事件の動機は何なのか。
 他のキャストはメリオン(アン・ウィンザー)、カストの家主タートン夫人(ミランダ・フォーブス)、富豪の執事デヴリル(ジェレミー・ホーク)、カー博士(アラン・ミッチェル)、富豪の医師(フィリップ・アンソニー)、巡査(クリフォード・ミルナー)、ホテルの捜査をするドンカスターの巡査部長(クロード・クローズ)。
 オーソドックスなアップと切り返しの映像が多い。
 映画川柳 「何も無い 見れども見えず 行商人」飛蜘
2008年8月24日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

猟人荘の怪事件

英国LWC
52分
英国1991年放映
第10話 猟人荘の怪事件 The Mystery of Hunter's Lodge。原作「狩人荘の怪事件」『ポアロ登場』。脚色T.R.ボウエン、台本助言クライブ・エクストン、演出レニー・ライ。
 ライチョウ撃ちの集まりに参加した大尉とポワロ。大尉の友人ロジャー(ジム・ノートン。声は樋浦勉)の叔父ハリー(ベルナルド・ホースフォール)が持つ猟人荘は猟のときしか使いません。ゾイ(ダイアナ・ケント。声は田島令子)は猟場から先に戻ります。猟人荘では家政婦ミドルトンが家事いっさいを取り仕切っています。甥のアーチー(ショーグハン・シーモア)の誤射でハリーはかすり傷を負います。アーチーは自転車で帰宅し、寒さですっかり凍えたポワロも帰宅して発熱して寝込んでしまいます。ロジャーも帰宅して、手薄になった夜、ハリーが深夜の来訪客によって射殺されました。翌日、客について証言していたミドルトン夫人が失踪します。
 ハリーは仲間を陥れてのし上がり、戦争で儲け、私生児ではあるが弟のジャック(ロイ・ボイド)を猟場の番人にしながら、彼とメイドのジョーン(クレア・トラヴァース=ディーコン)の婚約にもまったくお金を出さない、ひどい人間だったといいます。ロジャーが乗った汽車を途中で降りて途中駅で駅員アンストルーサー(アーサー・ワイブロー)の自転車を盗んだひげの人物がいました。
 他のキャストはメイドのエリー(ヴィクトリア・アルコック) 
 制作総指揮マイク、撮影監督ノーマン。
 映画川柳 「《殺人犯》 冬の日に 身を隠しては 鳥を待つ」飛蜘
2008年8月24日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

戦勝舞踏会事件

英国LWC
52分
英国1991年放映
 第9話 戦勝舞踏会事件 The Affair at the Victory Ball。原作「戦勝記念舞踏会事件」『教会で死んだ男』。脚色アンドリュー・マーシャル、演出レニー・ライ。
 即興劇から生まれた6人のマイセンの陶器人形を購入したユースタス(ディヴィッド・ヘンリー)にはもう資金がありませんでした。BBCのラジオ放送の看板女優ココ(ヘイドン・グウィン)は今日も遅刻。
 戦勝舞踏会は仮面舞踏会の趣向です。BBCの製作者ジェイムズ(アンドリュー・バート)はポワロと出会えたことを喜んでいます。6人の人形にあやかって扮装しているのは、パンチネッロ・ユースタスと彼の甥、アルレッキーノ・クロンショー子爵(マーク・クロウディ)、ピエロ・クリス(ナサニエル・パーカー)、ピエレット・その夫人(ナタリー・スレイター)、コロンビーナ・マラビー夫人(ケイト・ハーパー)、プルチネッラ・ココ。ココはクロンショーと喧嘩し、帰宅。
 午前0時に仮面を脱ぐ趣向です。そのとき、ある部屋でクロンショー卿の刺殺死体が発見されます。死体が持っていたのはCの頭文字の小箱にコカイン。「麻薬撲滅協会」の代表でもあった子爵なのに。
 新聞はポワロがいる現場で殺人事件が起こったことを報道。続いて、ココの死体が発見されます。コカインの過剰摂取でした。子爵の死後硬直で握られていた手にはポンポンが・・・
 ポワロはラジオで事件を再現します。他のキャストはBBCアナウンサー(チャールズ・コリングウッド)。
 制作総指揮マイク、撮影監督ノーマン・ラングレィ、音楽ガンニングのみ。
 クリスティーが書いた最初のポワロもの短篇。
 映画川柳 「《ポワロの英語》 放送後 反響は訛り 耳ざわり」飛蜘
2008年8月24日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

盗まれたロイヤル・ルビー

英国LWC
52分
英国1991年放映
 第8話 盗まれたロイヤル・ルビー The Theft of the Royal Ruby。原作「クリスマス・プディングの冒険」『クリスマス・プディングの冒険』及びその原型「クリスマスの冒険 Christmas Adventure」『マン島の黄金』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、台本助言クライブ・エクストン、演出アンドリュー・グリーヴ。
 エジプト国王の息子、ファールーク殿下(タリク・アリバイ)は泥酔して、出会った女アイリスにラムセス王朝伝来のルビーを付けさせたのですが、そのまま女は失踪してしまいました。デュプレの店でクリスマスのチョコを購入していたポワロは外務次官ジェズモンド(ディヴィッド・ホウェイ)に呼ばれます。ミス・レモンと大尉は休暇で、ポワロはひとり。
 愚かな殿下の失敗を助ける仕事などポワロの仕事ではないと断りますが、殿下自身はポワロの悪口を気に入って依頼したいと言います。殿下が宝石の話をしたことのある考古学者レイシー大佐(フレデリック・トレヴェス。声は福田豊士)の家で、ポワロはクリスマスをすごさざるを得なくなります。レイシー大佐の妻(ステファニー・コール。声は瀬能礼子)は、孫のセアラ(ヘレナ・ミッチェル。声は藩恵子)が正体不明のデズモンド・リー=ワートリィ(ナイジェル・リ・ヴェイラント。声は羽佐間道夫)に夢中で困っていると訴えます。ワートリィは妹のグロリア(ロビン・ムーア)を連れています。大佐はデイヴィッド・ウェルウィン(ジョン・ヴァーノン)に売る美術品の鑑定を依頼しています。
 ポワロは枕元の書置き「プラムプディングは食べるな」を読みます。プディングの中にはいろんなギフトが仕込まれていますが、大佐のプディングからは赤いルビー、ポワロはガラス玉だと偽って殿下に届けます。しかし、殿下は犯人を見つけよとポワロを罵ります。エジプトの反勢力、民族主義者ワフド党のシンパを叩き潰すのだと。
 ポワロはルビーをおとりにします。クリスマス・イヴの翌朝、子供たちマイケル(エドワード・ホルムズ)とコリン(ジョナサン・S・バンクロフト)の悪戯だったはずのブリジエット(アレシア・グゥインター)刺殺事件では、ブリジェットの脈がありません、夫のレイシーは目を覚まさないし、セアラはベッドに居ない。いったい何が起こっているのでしょうか。
 他のキャストはレイシー家の執事ペヴァリル(ジョン・ダンバー)、ポワロに忠告したメイドのアニー(シオバン・ガラヒィー)、コックのロス夫人(スーザン・フィールド)。
 映画川柳 「《ポワロの謝意》 陰謀を 聞いたメイドに 機転あり」飛蜘
2008年8月24日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

スペイン櫃(ひつ)の秘密

英国LWC
52分
英国1991年放映
 第7話 スペイン櫃(ひつ)の秘密 The Mystery of the Spanish Chest。原作「スペイン櫃(ひつ)の秘密」『クリスマス・プディングの冒険』及び「バグダッドの大櫃の謎  The Mystery of the Bagdad Chest」『黄色いアイリス』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、台本助言クライブ・エクストン、演出アンドリュー・グリーヴ。
 開巻早々は床にチョークで白い中心印を描くキイキイいう耳障りな音。セピア調の画面でフェンシングによる時代錯誤な決闘をする二人。女を争っての決闘だったことが後で分かります。決闘のきっかけは冗談だったとか。
 場面変わって歌劇『リゴレット』のリゴレットとジルダの侯爵邸での二重唱を見るポワロと大尉。大尉がパンフレットを読むポワロに随分熱心だなと言うと、ポワロはリゴレットだけは別格だと言う。「嫉妬深い父親が娘を辱めた男を殺そうとする。だが、女心への理解が足りず破局を迎える。そこが面白い」と。
 会場でポワロに声をかけたレディ・チャタートン(アントニア・ペンバートン)は、翌日会い、友人のマーゲリート・クレイトン(キャロリン・ラングリッシュ。声は萩尾みどり)の夫エドワード(マルコルム・シンクレア。声は田中信夫)の最近の行動が不振だと訴えます。美人のマーゲリートをめぐっては10年前に決闘もあったそうです。エドワードは刃物を求めたり、エジンバラに出張を命じたカーティス大佐(ジョン・マッキナリー。声は中村正)に夫人の不倫疑惑の相談をしたりしています。
 妻を亡くした後、夫人を思慕するリッチ少佐(ピップ・トレンス。声は中田浩二)を訪問したエドワードは少佐の帰宅を待つはずだったのにいなくなってしまいました。その晩のリッチ少佐の家のパーティにも彼は欠席でした。ポワロはエドワードと会うはずでしたが、欠席なので、チャタートン夫人とチャールストンを踊ったりします。その部屋にあったスペイン風の彫り物のあるチェスト(大型の収納箱)から翌朝、刺し殺されたエドワードの死体が発見されます。容疑者として少佐が逮捕されます。少佐は留置所に来訪したマーグリートに「すべて真実を話せ」と助言しますが、彼女は「できないわ」と答え、帰宅した後、大量の睡眠薬を飲んで自殺を図ります。彼女は少佐に「夫が死んでくれたら」と話したことがあり、それが原因になったと自責の念にかられたのでした。
 ジャップ警部はタイプライターと格闘しています。ポワロは警部に依頼して夫人を逮捕させますが、それは真犯人をおびき出すための罠でした。
 夫人に「最高」と評価されたポワロは「たいしたことではありません。私はツイていたんです」と答えて、ヘィステlングスを驚かせます。ポワロはイギリス的な謙虚さを身につけようとしているのだそうです。
 他のキャストは執事ブルゴーニュ(ピーター・コプリー)、スミシー(サム・スマート)、ラウジー役に役名と同じエドワード・クレイトン氏がキャスティングされています。今回はミス・レモンは休暇で不在です。
 制作総指揮ロブ、撮影監督クリス、テーマ音楽はクリストファー・ガンニングだが、付随音楽にフィアチラ・トレンチが初めてクレジットされました。
 映画川柳 「嫉妬から 自分を滅ぼす 道化師が」飛蜘
2008年8月23日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

二重の手がかり

英国LWC
52分
英国1991年放映
 第6話 二重の手がかり The Double Clue。原作「二重の手がかり」『教会で死んだ男』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、台本助言クライブ・エクストン、演出アンドリュー・ピディントン。
 列車が到着しました。ロシアの伯爵夫人(キカ・マークハム。声は久野綾希子)が降りてきてカールトン・ホテルに着きました。彼女のテーマである穏やかなピアノ曲が背景に流れます。今回は伯爵夫人が現れるときは常にこのテーマが流れます。
 ポワロとヘイスティングズ大尉が車の中で会話しています。結婚式を見かけて「これまでに妻が夫に殺された事件を5件扱っています。そして夫が妻に殺された事件を22件。したがって結婚は遠慮します」ちポワロ。ポワロの事務所に来たジャップ警部は窮地に立っていました。名門の屋敷で起こった宝石盗難事件を解決しないとクビになるというのです。そして、宝石コレクターであるハードマン氏(ディヴィッド・リオン。声は前田昌明)のパーティでメディチ家のエメラルドの首飾りが盗まれました。二重の手がかり、金庫内には手袋が残されており、金庫の前にはシガレットケース(BPの頭文字)が落ちていました。
 ポワロはロシアの伯爵夫人ヴェラに紹介されました。祖国を離れた身の上、二人はすっかり意気投合します。ポワロは伯爵夫人と毎日デート。警部のために大尉とミス・レモンは、パーティのとき屋敷内に入ったジョンストン(ニコラス・セルビー)、レディ・ランコーン(チャーミアン・メイ)、バーナード・パーカー(ディヴィッド・バンバー)に会い、証言を取ります。ランコーンの旧姓はベアトリス・パーマストーンでした。ポワロは私立探偵レッドファーン(マイケル・パッカー)とブイレイク(ウィリアム・チャッブ)に自分にはできない友人を助ける仕事を依頼します。ハードマンのパーティで目撃された浮浪者が何をしていたかを調査した大尉とミス・レモンの二人は突然出た浮浪者に銃撃されスリ傷を負います。ポワロが事務所を止めることになったらと大尉は身の振り方を心配します。大尉は「南米で農場をやるのが夢」。ミス・レモンは「考えたくありません」。
 ジャップ警部もまじえた推理で、ポワロは浮浪者が忍び込み、コートを取りに入った伯爵夫人に目撃され、逃走途中にネックレスを落としたと言います。警部は窓の下を調べて木に引っかかったネックレスを発見します。手袋はパーカーに罪を着せるため、シガレット・ケースはランコーンがハードマンに売ろうと持ち込んだものと解釈します。無事ネックレスが戻って警部のクビはつながったのです。
 アメリカに行くという伯爵夫人をポワロは見送ります。ポワロはBPのシガレット・ケースを餞別に送ります。ロシア語ではBはV、PはRですから、ヴェラ・ロサコフの頭文字にもなります。制作総指揮ロブ、撮影監督クリス。
 映画川柳 「さよならを 故国を亡くした 貴婦人に」飛蜘
2008年8月23日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

マースドン荘の惨劇

英国LWC
52分
英国1991年放映
 第5話 マースドン荘の惨劇 The Tragedy at Marsdon Manor。原作「マースドン荘の悲劇」『ポアロ登場』。脚色ディヴィッド・レンウィック、演出レニー・ライ。
 胃潰瘍手術後のジョナサン(イアン・マッククロウチ)と若妻スーザン(ジェラルディン・アレクサンダー。声は戸田恵子)。スーザンは大木の上に笑い顔の女の幻像を見ると言います。マースドン荘では50年前に娘が自殺していました。屋敷には『レベッカ』を連想させる秘書ローリンソン(アニタ・キャリー)が居ます。ポワロは殺人事件の疑いがあるという手紙を受け取り、ヘィステイングス大尉と一緒にこの田舎町にやってきましたが、事件は旅館主ノートン(デズモンド・バリット)の創作小説でした。解決に困ったノートンはポワロに自分の創作の決着を考えて欲しいというのです。ポーカー・フェイスを装うものの、怒りが収まらないポワロ。大尉は地元のロウ人形館に入場します。地元の殺人犯のデス・マスクが飾ってあります。なんとポワロの人形もありました。
 スーザンに恋しているブラック大尉(ニール・ダンカン。声は小川真司)は彼女にケニヤの木彫を新聞紙に包んでプレゼントします。ジョナサンは午前中に突然死亡してしまいます。自殺か、病死か、他殺か。地元の警察でもポワロは有名で、警察官に頼まれて、この事件の捜査を開始します。国民防衛集会でスーザンのガスマスクには麻酔薬が仕掛けられます。
 秘書が怖いと訴えるスーザンのために夕食を一緒にすることになるポワロ。死んだはずのジョナサン氏が夜の庭を歩み寄って来ました。他のキャストは医師ベルナルド(エドワード・ジュースベリー)、デンヴァーズ(ラルフ・ワトソン)。制作総指揮マイク、撮影ノーマン・ラングレー。
 映画川柳 「殺人の 示唆を与える 新聞紙」飛蜘
2008年8月23日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

スズメバチの巣

英国LWC
52分
英国1991年放映

 第4話 スズメバチの巣 Wasp's Nest。原作「スズメ蜂の巣」『教会で死んだ男』。脚色ディヴィッド・レンウィック、演出ブライアン・ファーナム。
 ヘイステイングズ大尉は手に入れたカメラに夢中です。ポワロやジャップ警部と一緒に行ったバザー会場で「ヴォーグ」のモデル、モリー(メラニー・ジェソップ。声は高橋雅羅)を見かけます。モリーの恋人、作家ジョン・ハリソン(マーティン・ターナー。声は津嘉山正種)はポワロと知り合いでした。紅茶占いでポワロは二人に危険が迫っていると言います。ジャップ警部が突然の腹痛を訴え入院。大尉は「占いなど当てにならない」と言いますが、ポワロは紅茶カップの口紅がモリーの口紅の色と違っていたことを指摘します。モリーの昔の婚約者で、造形作家クロード(ピーター・キャパルディ)がハリー家のスズメバチ退治に来てくれた日、モリーの自動車はブレーキが故障して事故を起こします。薬局のヘンダーソン夫人(ケイト・リン=エヴァンス)から青酸カリを購入したクロード。水槽に混ざったガソリン。ガソリンも青酸カリもスズメバチ退治に使用される薬剤です。一方、ファッション・ショー会場からモリーを連れ出す怪しい老人(ジョン・ボズウォール)。その後、モリーは泣き崩れて寝込んでしまいます。日記帳のページをくるジョンの姿が挿入され、ポワロは「まだ起こっていない殺人」の捜査に悩みます。傑作。
 制作総指揮マイク、撮影監督ジェイソン・リーヘル。
 映画川柳 「残されし日々を形見に かみしめて」飛蜘
2008年8月23日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

プリマス行き急行列車

英国LWC
52分
英国1991年放映
 第3話 プリマス行き急行列車 The Plymouth Express。原作「プリマス行き急行列車」『教会で死んだ男』。脚色ロッド・ビーチャム、台本助言クライブ・エクストン、演出アンドリュー・ピディントン。
 列車の中で刺殺死体となって発見されたのは億万長者ハリディ(ジョン・ストーン。声は小林昭二)の娘フロレンス・キャリントン夫人(シェラ・マックロード)。彼女が携えていた十万ドル相当の宝石が盗まれていました。夫人は浪費家の夫ルパート・キャリントン(ジュリアン・ワッドハム)と別居中でした。夫人に同行していた召使ジェーン(マリオン・ベイリー。声は大方斐紗子)によると、プリマスで夫人は客室に謎の男性とともにいたというのです。ポワロとヘイスティングスは列車に乗り込み、夫人の足取りをたどります。ウェストン駅で新聞売り子(スティーヴ・マッキントッシュ)から青いコートの夫人が「遅番の新聞を求めて大騒ぎした」という証言を得ます。フロレンスに求愛接近していたロシュフォール伯爵(アルフフレード・ミチェルソン。声は西沢利明)は株操作で詐欺の容疑が出てきます。ミス・レモンのファイルから闇の宝石商マッケンジー(ケネス・メイー)を探し出したポワロは証拠を確認するために彼の店へ行きます。
 ミス・レモンの名言「困難は克服の母 difficult is met bute come(こう聞こえるんですが・・・)」(困難であるほど達成しがいもあるという意味)。制作総指揮ロブ、撮影監督クリス。
 映画川柳 「英国人 完全な召使いは 先を読む」飛蜘
2008年8月22日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

100万ドル債券盗難事件

英国LWT
52分
英国1991年放映
 第2話 100万ドル債券盗難事件 The Million Dollar Bond Robbery。原作「百万ドル債券盗難事件」『ポアロ登場』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、台本助言クライブ・エクストン、演出アンドリュー・グリーブ
 ヒッチコックの『海岸特派員』を連想させる黒い傘をさした歩く男たちの間に車が突っ込んで来ます。全篇を通じて夜のシーンが多く、人々の衣装も黒を基調にした異色作です。ロンドン・スコティッシュ銀行の部長ショー(ディヴィッド・キルター)が自動車で狙われたのです。アメリカとの取引で百万ドルの債券が豪華客船クィーン・メリーの処女航海で銀行からニューヨークに運ばれます。ショーが行けないときには部下のリッジウェイ(オリヴァー・パーカー)が行くことになっています。彼の婚約者でヴァヴァソア部長(イーワン・フーパー。声は富田耕生)の秘書エズミー(ナタリー・オーグル)はポワロに婚約者を見守って欲しいと頼みます。ショーのコーヒーに毒が盛られ、治療で彼は債券運びが無理になります。船酔いがひどいので興味なしと言っていたポワロは債券の番人といて船に乗り込みます。クィーン・メリーに乗ったヘィスティングズは船酔いで寝込んでしまいます。当人は牡蠣に当たったと言い張っていますが。リッジウェイの船室から債券が盗まれました。謎の女性ミランダ(リッジー・マッキネリー。声は一柳みる)が海に捨てたのでしょうか。債券の入ったトランクは鍵で開かれていました。犯人は合鍵を持っていたのです。
 銀行では警備責任者マクニール(ポール・ヤング)が鍵を確認し、ヴァヴァソア部長の鍵が無くなっているので、部長を容疑者として逮捕します。ロンドンに戻ったポワロはリッジウェイを債券盗難の犯人として連行させます。婚約者エズミーは大憤慨しますがポワロには深謀遠慮がありました。他のキャストは船長(クリストファー・オーウェン)。ヘイスティングズ大尉は女性の変身ぶりにショックを受けます。
 制作総指揮ロブ・ハリス 撮影監督クリス・オデール。
 映画川柳 「黒い傘 揺れる人波 崩れたり」飛蜘
2008年8月21日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

あなたの庭はどんな庭?

英国LWT
52分

英国1991年放映
 第1話 あなたの庭はどんな庭?How Does Your Garden Grow?。原作「あなたの庭はどんな庭」『黄色いアイリス』。脚色アンドリュー・マーシャル、台本助言クライブ・エクストン、演出ブライアン・ファーナム。
 新種のバラがポワロと名づけられ、それが紹介されるチェルシー園芸博覧会に出かけたポワロは、車椅子のバロビー夫人(マージェリー・メイソン)に贈り物だと種の袋を渡されます。ところが袋の中には何も入っていません。ポワロは未読の手紙の中にバロビー夫人のものがあり、奇妙な家のなかの疑いについて書いてありました。姪のメアリー(アン・スタリブラス。声は新橋耐子)とその夫(ティム・ウィルトン)、1年前に雇ったロシア娘のカトリーナ(キャサリン・ラッセル。声は池田昌子)、夫人が誰を疑っていたのかがはっきりしません。翌日、秘書レモンと夫人を訪ねたポワロは、夫人がストリキニーネを服用して亡くなっていたことを知らされます。ストリキニーネは大変苦いため、どうして飲ませたのかが不明です。遺言で遺産はカトリーナに遺されるため、カトリーナが第一容疑者です。シムズ医師(ラルフ・ノーセック)は夫人に胃腸薬を処方していました。カトリーナは失踪してしまい、ますます怪しい。家を訪ねると素晴らしい庭がありましたが、ポワロはマザー・グースの歌“メアリー、メアリー、へそ曲がり、あなたの庭はどんな庭?”を思い出し、何かが違うのに気がつきます。ロシア大使館の青年ニコライ(ピーター・バーチ)はカトリーナという娘は存在しいないと言います。事件を解く手がかりや証拠は秘書レモンの言葉にありました。スターリンに迫害された貴族の娘という状況が現れて来ます。二度見ると、毒の入った容器や庭の牡蠣殻など映像による伏線が分かり、伏線の張り方が巧みな一篇です。ポワロとミス・レモンが二人で死体検診に行く場面で、ポワロがミス・レモンを気づかったセリフの後で、ミス・レモンは「戦争中に死体置き場で働いていたので死体は見慣れています」というセリフが出てきます。他のキャストはマリソン夫人(ジョン・バージェス)、料理メイドのルーシー(ドーカス・モーガン)、商人トランパー(トレヴァー・ダンビー)。
 映画川柳 「牡蠣の白 薔薇が鮮やか 縁取りに」飛蜘

 ロンドン・ウィークエンド・テレヴィジョンが制作放送した名探偵ポワロの1991年第3シリーズ。この第3シリーズは演出者に新しい顔ぶれも加わり、構成も演出もかなり凝っていて、全体にレベル・アップしていると言えましょう。制作総指揮マイク・オクスレー、撮影監督ジェイソン・リーヘル、音楽クリストファー・ガンニング、第一製作者はニック・エリオット、製作者はブライアン・イーストマン。
 配役のレギュラー・メンバーとして、ポワロをディヴィッド・スーシェ(声は熊倉一雄)、友人ヘイスティングス大尉をヒュー・フレーザー(声は富山敬)、ジャップ警部をフィリップ・ジャクソン(声は坂口芳貞)、ミス・レモンをポーリン・モラン(声は翠準子)が演じている。日本語版台本は宇津木道子、演出は山田悦司。

[参考図書]
 数藤康雄(編)『アガサ・クリスティー百科事典』(早川文庫,2004年)
 早川書房編集部『アガサ・クリスティー99の謎』(早川文庫,2004年)

2008年8月〜9月に見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と媒体 作 品        感  想         (池田博明)
2008年9月27日

(200年
月23日WOWOW放映)
泥棒番付

1966年
大映
82分
 勝新特集「勝新十本勝負」の1本。司馬遼太郎原作、伊藤大輔の脚本を池広一夫が監督しました。
 題名の意味は最後になって明らかになります。主人公は大泥棒の貞八(勝新)ですが、幕末の勤皇派や攘夷派、改革派の面々こそがもっと大きな泥棒だったというもの。貞八が泥棒技術を途中でまったく発揮しない、ほとんど事件が終わってしまってから登場、女も抱かないという具合で、定石を外した展開が進む。
 冒頭、池田屋事件が起こる京都の町。物騒な世の中だぜと屋根から顔を出した泥棒・貞八がつぶやきます。オープニング・タイトル。
 さて、渡し船が桟橋に着く直前、船頭から上陸後、天満与力の田中(内田朝雄)による人別改めがあると言われた貞八、海に小判の包みを投げ捨て、半眼の按摩のふりをして、改めをやり過ごそうとします。しかし、胡桃の実をすり合わせながら検分する与力の目は誤魔化せず、お白州へひき出されてしまいます。田中与力は左手の人差し指の先が切り落されているのに注目、長崎奉行の時にオランダ館を荒らした盗賊だろうと言うのです。無理に開けようとすると仕掛けで指をはさまれる錠前が原因だろう、と。泥棒稼業を見抜かれた貞八は覚悟をしますが、田中与力は放免するから三日後に大番屋へ出頭せよと告げます。
 そして、貞八は大番屋では盗みで捕らえられたそうめん屋の清七(青山良彦)の請け人となるように言われます。二人でうどん屋「七八(しっぱち)屋」をやるようになります。
 うどん屋の屋台の前で新撰組の斬り合い。組員は五味龍太郎、戸浦六宏、内藤武敏など。なかでも暴力的なのは内藤武敏演ずる五代。殺人劇にも動じない貞八の度胸が買われて組の壬生の屯所前でも商いができるようになります。
 田中与力からスリのおけい(小林哲子)の身元引請人になるように依頼が来ます。汚かった娘も着替えさせて働くようになれば、こざっぱりしたいい娘になります。貞八は清七と夫婦にさせようという与力の考えだと判断します。
 清七が熱病で寝ているある夜、新撰組の面々が雨の中を出発します。組員のひとり荒木田(伊達三郎)から預かった文を清七に渡すと、病気の体をおして清七は出かけようとします。田中与力は実は大塩平八郎の陽明学を奉ずる倒幕の士で、自分はその一党。新撰組は残党狩りに大阪へ出発した、おけいは田中の娘(実際には姪)だと言うのです。今から言っても間に合わないし、その身体では無理だと、貞八は清七を留め、おけいには清七と夫婦の契りを交せと言って出発します。「明日は無い、またという日は無いぞ。戸締りして(二人で)寝や、ちゃっちゃとせんと、夜があけまっせ」とおけいに言葉を残して。
 大阪では小倉藩士が新撰組に殺され、田中も行方不明に。貞八は後を追ってきたおけいから、田中が長崎オランダ屋敷の真犯人が天草の島ぬけ者だとつかんでいたこと、その者が新撰組内にいることが分かったと聞きます。貞八は驚きます。自分が犯人だと思われていなかったことに。真犯人に欠けているのは右手の指だというのです。そういえば、新撰組でいつも手袋をしている五代が怪しい。
 貞八は無頼仲間から難波の水車場に証拠があることをつかみます。水車場では五代が荒木田を拷問し、田中を逆さ吊りにして、軍資金にと隠していた金・銀・銅のありかを白状させようとしていました。貞八とおけいが駆けつけるのも間に合わず、水車場は爆破されてしまいます。
 五代は資金を近藤勇に献上、屋根裏で聞いた貞八は危うく捕まりそうになります。追手がうどん屋に迫って来ます。貞八は囮になって清七とおけいを逃します。
 時が経っておけいと再会した貞八。藪のなかの一軒屋に身を潜めますが、そこで聞いてみるとおけいはまだ未通娘(おぼこ)。おけいは天下国家を案ずる清七ではなく、「おじさん」貞八に抱いて欲しいと告白します。貞八は惚れていたおけいの告白に心を打たれますが、いや、待てと自分をおしとどめ、おけいには「生来の泥棒根性から他人様のおなごを横取りしようとしてしまった。だが、おまえは清やん一人をたよりきって生きていけ」と話し、姿を消します。そして、最後の復讐にかかります。立春大吉の日、新鮮組の屯所に忍び込み、藤岡琢也を針で貼り付けにし、五大を井戸のつるべにかけ、床に油をまき、含み針を放って金属相当の金を盗みます。
 捕り方に屋根に追い詰められた貞八は待てよ、俺が盗ったこの金はいったい誰のものだろうと考えます。田中のだんなが盗り、五代が盗り、倒幕だの勤皇だの薩摩だの長州だの、結局、大泥棒ではないか、いや、俺様はそれ以上、泥棒番付の横綱だ。
 貞八は屋根の上から小判をまき続けます。追手が迫ってきました・・・。
 スタッフは奥田久司企画、武田千吉郎撮影、林土太郎録音、加藤博也照明、西岡善信美術、鏑木創音楽、山田弘編集、宮内昌平擬斗、太田昭和助監督、村井昭彦製作主任。
   映画川柳 「明日は無い またという日は 無いのだと」飛蜘
2008年9月27日

(2007年10月22日WOWOW放映)
あぶく銭

1970年
大映
88分
  森一生監督(写真の左)、星川清司脚本、森田富士郎撮影。スタッフは太田誠一美術、大森盛太郎音楽、八尋大和企画、伊藤貞一照明、谷口登司夫編集、海原幸夫録音、楠本栄一擬斗、大洲斉助監督。期せずして、当時の東映仁侠映画のパロディになってしまっています。
 花札賭博の盆の上、突然黒いジャンパーに身を包んだ勝新の拳銃が鳴り、勝新は賭場の金をさらって逃げます。スタイリッシュなオープニング。けれどもこの後の展開はチグハグで盛り上がりに欠けています。そもそも東映仁侠映画のような忍耐・カタルシスという映画作りを初めから放棄しているような感じさえあります。
 昭和の初め頃でしょうか、ヒゲ松(勝新)・爺さま(藤岡琢也)・ガキ(酒井修)の三人は港町で、橋本組の二代目襲名の花会の噂を聞きつけ、テラ銭の横取りを計画。襲撃直前に人力車で運ばれた金は別の博徒に襲われます。しかし、三人はなんとか金をかっさらって、鶴亀楼という女郎屋の便所わきに隠しました。ひとつ風呂で男三人がジャレ合う姿が!
あぶく銭 森一生  その金は磯部組からの借金返済用のもの、先代に世話になったというものの、いまさら恩義はないと、磯部弥一(成田三樹夫)は返済を迫ります。期日は5日後。女将(北城真記子)と代貸・七蔵(高城丈ニ)はしっかりした侠客ですが、若旦那の宗吉(水上保広)は頼りが無い。ヒゲ松は丸安食堂の亭主(五味龍太郎)やその娘お民(丘夏子)から大体の事情を聞きます。飲み屋で磯部組の若衆にからまれた二代目を救ったヒゲ松は「金を返す」決意を固め、他の二人に理由は話さず、鶴亀楼へ行きますが、不思議なことに金の袋は消えていました。いったい誰が盗ったのか、見当がつきません。三人は新たな賭場荒らしで金を作ろうとしますが、奪った金庫にはほとんど札が入っていませんでした。
 芸者姿で働くしま(水野久美)に一目惚れしたヒゲ松は子供連れで人を探しているというしまに有り金を渡し、「夜中に来い。俺は人の弱みにつけこむ悪党だ」と言います。浜辺で待っているヒゲ松。おしまが来ると、「男の誘いに応じちゃいけない」と諭し、自分の身の上話をします。3年前に旅先で知り合った女と出来てしまったが、その女が病死・・・おしま「それって、三日前に見た活動写真の筋書きじゃ・・・」。ヒゲ松「あんたも見てたのか」。ヒゲ松は指もふれずにしまを返します。決めゼリフが映画そのままというパロディ。(森一生監督談“脚本にはなかったように思いますなあ。勝ちゃんが言うたのかなあ。うん、勝ちゃんでしょうね”) 
 ヒゲ松に惚れている女郎の蝶子(野川由美子)が鶴亀楼で賭場が開かれるという情報を持って来ます。しまは探していた男「さむらいの政」こと流れ者の政吉(天知茂)と食堂で会います。政吉はヒゲ松が荒らした賭場の用心棒で、ヒゲ松を追っていたのです。ドスの勝負で負けそうになったヒゲ松は拳銃を出します。しまが中に入って争いを止めさせます。
 鶴亀楼での磯部組の賭場から奪った金をヒゲ松は橋本組の玄関先に置いて来ます。女将が東京に金策に行って、代貸の七蔵がその金を拾ったとき、磯部組が金を取り返しに来ていました。「流れものをつかいやがって」と七蔵は刺殺されて線路に転がされます。その現場を目撃したしまも刺されます。瀕死のしまは食堂で政吉に七蔵が殺されたこと、下手人は磯部組と言い残して息絶えます。どしゃぶりの雨のなか、真っ赤な傘をさした政吉が磯部組の屋敷へ向います。ヒゲ松も政吉と肩を並べて・・・殴り込み、なら東映任侠映画ですが、黒ジャンパーのヒゲ松は着流しの政吉を追い越して乗り込んで行きます。殴り込みの乱闘シーンもフィックスのカメラ目線で終始し、躍動感や昂揚感はありません。
 片がついた後、最初に金を盗ったのは蝶子だったことが分かります。決着が残っているという政吉にヒゲ松は「残っているのはおメエの子だよ」と答え、香典代わりだと金を渡します。
 爺さまとガキが早発ちから戻ってきていて、ヒゲ松に分け前をせびります。無声映画の怪盗ものの語りが流れて一巻の終了です。中途半端な奇妙な作品。
  映画川柳 「稚気ありて 活動写真を 真似たるも」飛蜘

[参考書]
 森一生ほか『森一生 映画旅』(草思社,1989)
2008年9月26日

(2007年10月21日WOWOW放映)
やくざ絶唱

1970年
ダイニチ映配

94分
 黒岩重吾原作『西成山王ホテル・崖の花』より、池田一朗脚本、小林節雄撮影、増村保造監督。特集「勝新十本勝負」の一本。
 大映と日活が崩壊直前、二社が合わさって作ったダイニチ映配が配給した作品には狂い咲きのような破れかぶれの作品がありました。そのなかの傑作は勝新監督の『顔役』、長谷部安春監督『野良猫ロック・セックスハンター』、沢田幸弘監督『反逆のメロディー』等でしたが、増村監督も『やくざ絶唱』『でんきくらげ』などで気を吐きました。『やくざ絶唱』で、勝新は妹のためならどんな悪いこともするワルを演じていて、気味が悪いほどです。そんな兄に対峙する妹役の大谷直子も生硬なセリフ回しが次第にはまってくる「狂った」演技を見せます。
 石川組のやくざ、立松実(勝新)の家には異父兄妹のあかね(大谷直子)と情婦の可奈枝(太地喜和子)がいます。立松は妹の保護者を自認していて、近寄る男を殴り倒しています。石川組の組長(内田朝雄)は勢力を伸ばそうと縄張りを荒し始めている東風会の斬りこみ隊長の始末を命じますが、立松は殺しは引き受けたもののムショ行きは代わりの者を立ててくれと頼みます。妹のことが心配なのです。
 妹に買った浴衣がきっかけで、立松は可奈江と大喧嘩。可奈江は兄妹で一緒に暮らせと捨てゼリフを残して出て行きます。兄の支配からなんとか逃れようと、あかねは新任教師の貝塚(川津祐介)を誘惑し、抱かれます。兄にその事実を突きつけると兄は狂乱、妹を殴ります。妹は「殴り殺してよ、兄ちゃん」と挑発し、自分は大学に行かずに思い通りに生きると言い出します。
 勝手にしろと言い捨てて、立松は家を出て、可奈江の働くキャバレーに行き、勢力を伸ばそうと送り込まれた東風会の斬り込み隊と大喧嘩、障害罪などで刑務所に入ります。あかねは高校を退学し、働き始めます。
 あかねの母は父・犬丸(加藤嘉)の妾。その父の死をきっかけに養子の裕二(田村政和)とデートをするようになるあかね。一方、刑務所の立松は舎弟(青山良彦)から、組員が立松は鉄砲玉の暗殺という仕事がイヤでわざと警察に捕まったのだと笑っているという話を聞き、保釈金で出してもらいます。
やくざ絶唱  そして、まず第一にあかねの父の正妻(荒木道子)を裕二の身体をネタに恐喝して、遺産の一部をあかねのためにもぎ取ります。しかし、あかねはそんな汚いお金は一銭も要らない」と拒否。「(母のように)妾になる」と言い、飛び出していきます。
 あかねは勤め先の社長にホテルの部屋を用意させるものの、社長が押し倒そうとすると「兄ちゃんに言う」と言って拒否。裕二を呼んで彼に抱かれます。
 翌日、あかねは兄に裕二と一緒になると宣言、立松はドスを出し、裕二を殺すと脅します。あかねは裕二に「兄を殺して」、裕二「できない」、あかね「じゃ帰って。あなたがキライになった。男らしくないもの」 。裕二が去ると、あかねはドスで兄を刺そうとします。「兄ちゃんを殺して、あたしも死ぬ」。立松「お前、俺が好きか」。あかね「好きよ。死んで」。もみあう二人、あかねからドスを奪った立松は「お前を死なすわけにはいかねえよ」と出て行きます。外で立ち尽くす裕二に「あかねを幸せにしろ」と立松は言います。そのままトルコ風呂に現われた立松は個室に乗り込み、斬り込み隊長に弾を撃ちこみます。そこに東風会組員の拳銃の弾の嵐。倒れた立松に「完」。
 大谷直子は、岡本喜八監督の「肉弾」に続く第2作目。
 スタッフは藤井浩明・林万夫企画(藤井は大映)、須田武雄録音、渡辺長治照明、矢野友久美術、林光音楽、中静達治編集、石井岩太郎助監督、真鍋義彦製作主任。
   映画川柳 「《可奈江に》 情愛は 指輪の安い ガラス玉」飛蜘
2008年9月25日

(2007年10月25日WOWOW放映)
とむらい師たち

1968年
大映
89分
 野坂昭如原作を藤本義一が脚色、宮川一夫が撮影、三隅研次監督が映画化。特集「勝新十本勝負」の一本。企画は辻久一。
 区役所の戸籍係(藤本有弘)の窓口を訪ねた“顔面”(勝新)は、死亡の届が来るなり、急いでその枕元に駆けつけました。河内の穏亡の倅れに生まれたガンめんはデスマスク屋。死人の顔に石膏をちぎってはなげつけ、できたデスマスクを葬式で飾ります。死人の傍らには葬儀屋もニ社、正葬社(遠藤辰夫)と安楽社(財津一郎)が駆けつけてきて仕事の取り合いを始める始末。ガンめんの家にはこれまでに取ったデスマスクが陳列されています。ガンめんには助手役の霊柩車運転手の“ラッキョ”(多賀勝)がいましたが、新たにガダルカナルの戦場帰りの美容整形医の“センセ”(伊藤雄之助)を仲間に加えて、死顔美容を施す商売を軌道に乗せます。正葬社から賄賂を貰って優先的に死亡先の連絡をしていたことが判明して区役所の戸籍係を辞めた“ジャッカン”(藤村有弘)もマネージャー役で加わります。「死んだらルンペンも大統領も一緒や」というガンめんの考えに共感する金持ちの社長も現れます。
 死顔美容、デスマスク、死後体操などを備えた“国際葬儀協会”、略して“国葬”を設立して事業は順調に発展します。“国葬”の電話番号は「307-4942(みんな、よく死に)」。センセは“徐洲徐洲と人馬は進む”と軍歌、ジャッカンは「小指の思い出」の節で“あなたが死んだ、柩がいるね”と替え歌を歌っています。生前の葬儀予約も社長(藤岡琢也)から取れます。
 ある日、センセがヒトを殺したと電話してきます。服飾屋とく(西岡慶子)に中絶手術を施して罪の意識に悩んでいるセンセを見たガンめんは、水子の供養を思いつきます。この計画には取材も多く、ヘリコプターから落として膨らました特大ビニール製水子地蔵も効果満点、一大イベントになった中之島公園での水子供養は大成功、ガンめんたちは大儲けをします。さらに、ガンめんはテレビで、葬儀コマーシャルも流します。
 ラッキョ、センセ、ジャッカンは次に葬儀会館を建て、葬儀を完全なビジネスにする計画を立てますが、ガンめんは「葬式は心でするもの」という自分の信念に背いていくこの計画に乗れず、三人と別れ、出直す決心をするのでした。
 ほとんど一文なしになったガンめんは1970年に大阪で予定されている万国博覧会の向こうを張ることを思いつきます。死者の祭典である葬儀博覧会を開催しようというのです。けれども、資金提供者を呼びかけても得られず、雑踏で呼びかけても協力者は得られません。協力者は紙芝居の絵描きだけ。ガンめんは地下に広場を作り、デスマスクの陳列や戦没者絵図、地獄絵作りなど死の世界の再現に打ち込みます。
 ジャッカンが館長となった国葬会館では冷凍室まで設置されています。死顔様教団を作ったセンセやラッキョと会ったガンめんは死の厳粛さが薄れているのを痛感します。
 ある日、地下のガンめんが衝撃を感じて地上に出ると、地上は水爆が落とされて、一面瓦礫と化していました。世界全部が葬博やと呟くガンめん。「オンボの穴に風が吹く、風が死びとを連れてゆく」という歌が流れ、ボカっと黒い大穴があき、ガンめんも呑み込まれたようです。雨が降って来ました。あたり一面、死の静寂・・・・。
 スタッフは大谷巌録音、中岡源権照明、内藤昭美術、谷口登志夫編集、鏑木創音楽、倉嶋暢音響効果、鍋島敏弘助監督、小沢宏製作担当。
   映画川柳 「死に顔を 美しくあれと とむらい師」飛蜘

 [参考書]とむらい師たち
 近年、野坂昭如の1960年代から1970年代の作品が再評価されて国書刊行会や岩波書店から復刊されています。この時代に野坂作品を愛読していた私としてはうれしい限りです。野坂作品の映画化でもっとも成功したのは高畑勲のアニメ『火垂るの墓』です。
 この『とむらい師たち』は後半、映像として具現する葬儀博覧会のイメージが貧弱なのが難点、前半もスマート過ぎて猥雑さ不足なのが残念です。原作はもっと猥雑で、屍姦の話題さえあります。映画はかなり原作とは違っています。原作では霊柩車でぶっ飛ばしてラッキョが言う“いきな”セリフも、映画ではみなガンめんが言うセリフになっています。また、原作の後半では、ガンめんは、センセと一緒に立ち上げた死顔様教団の教祖で、地下の墓に入って蘇生する行事を仕掛け、地下の墓にいるときに水爆が爆発します。
 他に野坂原作の映画化は、今村昌平監督1966『人類学入門』(今村プロ・日活。原作は『エロ事師たち』)、千野皓司監督1969『極道ペテン師』(大映、原作は『ゲリラの群れ』)、石田勝心監督1970『頑張れ!日本男児』(東宝。原作は『アメリカひじき』)、増村保造監督1971『遊び』(ダイニチ。原作は『心中弁天島』)など。残念ながら私はどれも見ていません。

 野坂昭如『とむらい師たち』(講談社,1967)
 野坂昭如『好色の魂』『骨蛾身峠死人葛』『とむらい師たち』(岩波現代文庫)
2008年9月25日

WOWOW
8:00〜
帝銀事件死刑囚

1964年
日活
108分
 熊井啓脚本・監督の白黒作品。熊井監督の第一作です。力作ながら、場面によって視点が移動するのと、時系列が変化してしまうため、居心地の悪い作品になっています。特に平沢逮捕や平沢の様子は裁判前にはあまり描かれず、裁判が始まった後になって取り調べ室での様子が再現されるのには違和感がありました。裁判の陳述で平沢が自白を全面否定した後で、取り調べ室での供述が再現されて出てくるのですから、どうしても平沢無実の立場の一方的な見解という印象になってしまいます。それでは、仮説の検討にならず、無実論の押し付けでしかありません。
 冒頭に帝銀事件の再現が置かれ(真犯人役を後ろ姿ながら演じているのは加藤嘉)、その後は昭和新報の記者たち(中心は鈴木瑞穂、内藤武敏、井上昭文。他に垂水悟郎など)の取材と分析を主に描かれます。毒物に関する専門的知識とその入手の困難さから、真犯人は軍関係者という当初の警視庁の捜査方針が、関係者・佐伯少佐(佐野浅夫)の記者に対する告白もあり、731部隊に追求が入りそうになったところで、進駐軍の横槍が入り、結局、画家・平沢貞通(信欣三)の単独犯に収斂していってしまいます。平沢の供述調書の内容も再現され、自白は毎日責められる辛さから気持を楽にしようとする平沢が捜査官の誘導によって作ったものと解釈されます。女性行員の生存者役に笹森礼子と山本陽子、平沢の母役に北林谷栄、娘・俊子役に柳川慶子。
 最高裁の上告棄却によって死刑が確定したのが1955年、1962年11月4日に平沢は東京拘置所から仙台拘置所に移されます。仙台には死刑台があり、平沢はいよいよ死刑の日が近いものと覚悟します。映画製作当時の熊井監督の思いも多分そこにあったでしょう。平沢の娘が日本にはいられないと日本国籍も捨ててアメリカへ行く直前に面会に来ます。二人の別れと悔しさが場違いなほど「劇的に」描かれます。一見ドキュメンタリー風ではあるのですが、作劇がわざとらしく、やや興ざめです。そんな傾向が特に目立つのは新聞記者たちがガヤガヤしているあたり、誰かが重要な言葉を発すると、全員がすぐに黙ってしまいその人に寄る場面です。同様の非自然な場面は何度もあります。熊井啓は、昭和新報という新聞社を中心にして、デスク役の鈴木瑞穂に「(進駐軍から横槍が入った)あの時、もっとしっかりしていれば。平沢を真犯人だという心証を作ったのは我々マスコミだ」と反省の言葉を吐かせています。また、ナレーターに「人間は真実を求めたがる。だが、真実をつかんだことがあっただろうか」としめくくらせています。
 森崎東監督・新藤兼人脚本の1980年のテレビ朝日作品『帝銀事件』が傑作だったので、熊井啓作品の方がずっと先ではありますが、つい比べてしまいました。
 スタッフは柳川武夫企画、岩佐一泉撮影、寺田脇佐照明、古山恒夫録音、千葉和彦美術、伊福部昭音楽、丹治睦夫編集、渡辺昇助監督、栗橋正利製作担当者。
   映画川柳 「防疫の 共同井戸に 疑惑あり」飛蜘
2008年9月23日

録画
(2007年10月24日WOWOW放映
乞食大将

1964年
大映
93分
 勝新特集の一本。原作は大佛次郎、脚本は八尋不二、監督は田中徳三。
 スタッフは浅井昭三郎企画、木浦義明撮影、奥村雅弘録音、中岡源権照明、内藤昭美術、伊福部昭音楽(タイトルバックの音楽は黒田節)、土井茂助監督、山田弘編集、吉岡徹製作主任。
 戦国時代。黒田長政(藤巻潤)の家臣・後藤又兵衛(勝新)は敗戦の直後に夜襲を提案して宇都宮静馬(城健三郎)との戦さに勝ちます。人質として鶴姫(藤由紀子)と半若(田村政和)を取りますが主君・長政はその命と引き換えに静馬を呼び、だまし討ちにしようとします。又兵衛は卑怯な手段を断りますが、静馬に斬りかかった主君の身が危なくなり、助太刀して静馬を討ち取ります。鶴姫と半若の命請いを主君・長政に聞き入れてもらった又兵衛はお家退散し、長政のもとを離れます。怒った長政は家来に又兵衛の首を取れと命じます。鶴姫と半若からも父の仇と狙われる又兵衛でした。隙が無い又兵衛を討ち取る度胸と技量は黒田の家来にはありませんでした。
 時は流れて、又兵衛を慕い、ついてきた家来が54名も乞食同然の暮らしをしていました。池田家から召抱えの話が出たときに又兵衛は家来たちだけを引き受けてくれと頼みます。家来は異議を唱えますが、又兵衛は家来たちに窮乏生活はさせられないと別れを決意し、槍を持って「黒田節」を舞います。
 又兵衛に従うのは百姓出身の馬造(丸井太郎)と実は宇都宮の間者の弥惣(五味龍太郎)だけになってしまいました。弥惣(やすけ)は本来、姉弟に父の仇を打たせる機会を狙っていたのですが、又兵衛の静馬の供養を欠かなさい姿に心打たれてしまいます。さらに、又兵衛は半若の仕官さえ知己の和尚に依頼しているのでした。静馬の七回忌に回向を依頼した寺で又兵衛は尼になった鶴姫と再会します。鶴姫は又兵衛の来訪に驚きますが、その心に感謝します。仏門に入った鶴姫には戦乱の世を悟る姿勢が出来て、又兵衛を怨む気持はもはやありませんでした。しかし、若い半若の又兵衛を斬る意志は変わりません。しかし、まだ腕がたちません。彼の剣を叩き落した又兵衛は半若に「時を待て」と告げます。
 自刃しようとする半若にちょうど仕官の話が届きます。慶長19年、関が原の戦いで黒田長政は東軍、又兵衛は西軍につきます。出陣前の又兵衛に鶴姫は父の兜を贈ります。そこへ訪ねて来た半若に、又兵衛はこの兜を目標に戦って自分の首級を上げ、手柄を立てよと言うのでした。
 戦いに赴く又兵衛に「完」。
   映画川柳 「戦さ場に あるじ自ら 槍を取る」飛蜘  
2008年9月23日

録画
(2007年10月22日WOWOW放映)
手錠無用

1969年
大映
89分
 特集“勝新十本勝負”の一本。企画は辻久一、脚本・池田一朗、監督・田中徳三、撮影は勝新監督『顔役』の牧浦地志。樫原一郎『闇を裂く男』が原作。スタッフは録音・大角正夫、照明・古谷賢次、美術・内藤昭、音楽・小杉太一郎、助監督・鍋島。
 金庫破りの名人・香車弾五郎(勝新)は空き地で金庫に閉じこめられた幼児を救出したのも束の間、三億五千万円の現金輸送車行方不明事件の重要参考人として警察に調べられます。身に覚えの無い香車(きょうしゃ)ですが、すっかり犯人と思われ、分け前に預かろうと事件の日の偽アリバイを証言してくれたトルコ嬢ユキ(渚まゆみ)のお蔭で留置所から釈放されます。香車は仲間のマリ子(吉田日出子)・アパッチ(大川修)・ジョニー(北野拓也)の助けを得て、真犯人を見つけようと、独自に調査を始めます。『顔役』の勝新は、はみ出し刑事でしたが、この映画では泥棒ながら、飲む・打つ・買うの裏街道に通ずる現代版侠客として独自の捜査をしていきます。刑事の山本勘介(藤田まこと)は香車の性格を良く知っていて、香車を犯人扱いしません。調査する香車の周囲には証拠品として残されたマッチの店GARDAにホステスとして入り込む婦警(藤村志保)、GARDAのママ(佐藤友美)、ビアズリーの絵を掲げるバー・キャセイのママ(長谷川待子)、その用心棒(山本鱗一)、銀行を辞めた野本(北城寿太郎)、花村興業(清水彰)、鼻の曲がった男・権田原(成田三樹夫)などが現れます。
 廃車処理場で花村興業と権田原の激しい撃ち合いとなりますが、香車は殴り合いの勝負にこだわります。最後で三億円事件の黒幕を逮捕させた香車は、足を洗ってかたぎになれという勘介の助言に耳を傾けず、黒いトレンチコートの襟を立てて去っていくのでした。
 香車たちが独自捜査で発見する事件現場を警察が事前に発見できないのは不自然だし、犯人一味が香車を捕えるのに大勢の偽警官を雇うのも不自然。『現代やくざ・人斬り与太』以前の渚まゆみと、脇役列伝のような役者たちが見られます。勝新の入牢以前に留置所で名主役で威張っているのが財津一郎。勝新が入って来て、アッという間に殴られ、交替します。その後の物語にからんでこないのが勿体ない。
   映画川柳 「ひと張りで 男が決まる 牢名主」飛蜘  
2008年9月21日

WOWOW
22:00〜
ルパンの消息

2008年
120分
WOWOW
 
アルキメデスは手を汚さない
ピタグラス豆畑に死す
ソクラテス最期の弁明
パスカルの鼻は長かった
ディオゲネスは午前三時に笑う
WOWOW製作のWドラマ、原作は横山秀夫の『ルパンの消息』、 脚本は田辺満・水谷俊之、監督は水谷俊之。 原作を刊行当初に読んでいたものの、詳細は忘れていましたので、面白く見ることが出来ました。 取り調べ室と過去の事件の再現という難しい見せ場を、警官と容疑者の役者の力わざで見せていたと思います。
 1990年12月、時効寸前の巣鴨中央高校で起きた英語教師・嶺舞子(街田しおん)自殺事件を殺人だと指摘するタレ込みにより再捜査する上川隆也ほか警察の面々、津田寛治・塩見三省・正名僕蔵・中村靖日・山田辰夫・吹越満・佐藤めぐみ・長塚京三。ルパン作戦時に高校生だった岡田義徳・新井浩文・柏原収史・江畑浩規、音楽の教師の羽田美智子、「ルパン」のマスターの遠藤憲一。
 高校生時期(1975年)と今(1990年)の両方を演じ分けるのは大変だったと思うのですが、おとなびた不良高校生だったという設定で、違和感なく見ることができました。意外な三億円事件の真犯人が明らかになります。
 1975年のディスコでかかる曲が、つのだひろの『メリー・ジェーン』だったり、喫茶ルパンで流れているのが北原ミレイの『ざんげの値打ちもない』だったりします。時代をBGMで表現しています。
  映画川柳 「『おもいで』の ラストページに 告発が」飛蜘 

 1973年の高校生を悪漢(ピカロ)として書いたミステリーに小峰元の『アルキメデスは手を汚さない』があります。東野圭吾がこんな風になら自分にも書けそうだと思って、『放課後』を書いたと言っている江戸川乱歩賞受賞作品で、その後、小峰作品は次々とベストセラーになりましたが、今は『アルキメデス・・・』以外は品切れです。他の作品は受験勉強中の高校生を中心にしていて、多少ともペダンティックなので、時代がかってしまいます。けれども、和田誠の装丁が素敵で、古本屋のゾッキ本で集めました(1冊90円)。と言ってもまだ一部ですが。
 『アルキメデス・・・』の高校生の会話には連合赤軍のことが出てきます。『ピタゴラス・・・』には郷ひろみや山本リンダが引きあいに出されますし、学研の「高3コース」に連載された『パスカル・・・』には当時の歌手やタレントが頻出し、受験知識が散りばめられています。『ディオゲネス・・・』のラジオの深夜放送も当時の風俗を表しています。

[参考書]
 横山秀夫『ルパンの消息』(光文社カッパ・ノベルス,2005)
 東野圭吾『放課後』(講談社文庫,1988)
 小峰元『アルキメデスは手を汚さない』(講談社文庫,1974)
 小峰元『ピタゴラス豆畑に死す』(講談社文庫,1975)
 小峰元『ソクラテス最期の弁明』(講談社文庫,1976)
 小峰元『パスカルの鼻は長かった』(講談社文庫,1977)
 小峰元『ディオゲネスは午前三時に笑う』(講談社文庫,1977) 
2008年9月15日

BShi
CG進化論

90分
NHK・BS
2008年
 CG、つまりコンピュータ・グラフィクスの歴史は1970年、アイヴァン・サザーランドが発明したスケッチパッド・システムに始まります。1980年代にラスター・グラフィックスが開発され、研究が進みました。ピクサー・アニメーション・スタジオでのモーフィング技術やレンダーマンCG技術を経て、イメージス・レンダーリングやモーション・キャプチャーが進化し、光の当て方が工夫されて、より実写に近いCG映像が可能になっています。日本人の技術者の貢献も大きく、リズム・アンド・ヒューズ社の加藤俊明や、『デイ・アフター:トゥモロー』で液体シュミレーションを担当した坂口亮など多くの若者が活躍しています。映画をもっと面白くするためという意欲がCG技術を進化させてきました。
 映画川柳 「CGで 実写を超越する 意欲」飛蜘  
2008年9月12日

ビデオ
うつつ

日活
2002年
100分
 連城三紀彦のミステリー『夜の右側』が原作。脚本・監督は当摩寿史。撮影・佐光朗。
 課長補佐・池島隆一(佐藤浩市)に雨の日、赤い傘の和服の女が近づいてくる。ちかこと名乗る女(宮沢りえ)は自分の夫・小原英介(斎藤陽一郎)と、妻・公美子(大塚寧々)が不倫をしているのだと言います。半信半疑ながら女の誘惑にのって関係を持ってしまった池島はずるずると罠に引き込まれていきます。うつつ
 同じマンションの保険外交員(小島聖)は、車椅子の夫(大杉蓮)と暮らしています。池島の会社のOL(小西真奈美)は上司と不倫していますが、あっけらかんとしたもの。
 サスペンスものですが、重要な決定をするのに夫の方を調査しないこと、夫のバーの場所などの事実の確認が不十分なところが、説得力を欠きます。
  映画川柳 「床に散る うなぎのたれの 忌まわしさ」飛蜘 
2008年9月10日

録画
WOWOW放映(2008年8月22日)
四谷怪談 お岩の亡霊

大映

1969年

90分
 WOWOWの“日本の夏、怪談の夏”特集の5本め。
 カラーの大映作品。製作主任・小沢宏、脚本・直居欽哉、監督・森一生。撮影・森田千吉郎、録音・大谷巌、照明・伊藤貞一、美術・太田誠一、音楽・斉藤一郎、編集・谷口登司夫、音響l効果・倉嶋暢、擬斗・楠本栄一、助監督・大洲斉。
 伊右エ門(佐藤慶)と岩(稲野和子)の婚礼が行われています。与茂七(青山良彦)が奥田庄三郎(木村元)に次はお前と岩の妹・お袖(御影京子)との婚礼だとからかわれています。
 タイトル・バックは黒髪。田沼意次が失脚し、信州の藩も格下げ、家来は放逐され浪人となって江戸へ流れていきます。岩には子供が生まれていますが、仕官の道も無い伊右衛門は傘張りの内職にも身が入りません。両替屋の伊勢屋の口利きが仕官の早道と飲み屋で聞いた伊右衛門は、伊勢屋の娘お梅(真砂ちかこ)が浪人にからまれているところを救出して、渡りをつけます。この一部始終を舅の四谷左門(浜村純)に見られ、同じ手段で岩との結婚に至ったことに思い当たった左門は伊右衛門の企みを非難し、武士の道にあるまじき行為とすべてを明らかにすると怒ります。伊右衛門は闇夜にまぎれて川っぷちで左門を斬りますが、ちょうどその時、もと手代の直助(小林昭二)はお袖のために与茂七に金を都合した奥田を刺殺していました。二人は秘密を共有する間柄になります。
 伊勢屋は伊右衛門に仕官の口ききを約束しますが、さらに娘おうめが伊右衛門に惚れたと言って、なんとかしてくれないかと相談してきます。伊右衛門は自分には妻子があると躊躇します。
 おうめの乳母お槇(橘公子)が血の道に効能があるという薬を持ってきます。その話を聞いた下男の小平(水上保広)は長患いの母親のためにと薬を盗み出しますが、すぐに伊右衛門に気付かれてしまいます。乳母は伊右衛門に薬とは真っ赤なウソで一包で面体が崩れ、二包で死ぬ毒薬だと教えます。お岩を離別させるためだと知恵を付けます。
 小平は岩に横恋慕している按摩の宅悦(沢村宗之助)が手配した男でした。伊右衛門は宅悦に間男せよと持ちかけます。
 不承不承、承知したもののその気になれない宅悦。一方、伊右衛門は伊勢屋に岩の不義密通により離別すると申し出ます。
 伊右衛門の留守中に再び薬を盗んだ小平を捕らえて納戸に押し込むと、伊右衛門は岩に薬売りから買った万能の傷薬を塗り、毒薬を1杯湯に溶かして飲ませ、出かけてしまいます。宅悦が来ますが、顔が崩れ始めた岩を抱く気にはなれません。宅悦の口から伊右衛門の仕打ちを聞いた岩は怨み言「恨めしいぞや伊右衛門どの。この恨み、はらさでおくものか」と言い、宅悦を刺そうと剣を振り回します。柱に刺さった刀にもたれて喉首を斬って、いき絶えてしまいます。
 戻ってきた伊右衛門は納戸から脱出しようとした小平を刺し殺し、宅悦に手伝わせて戸板に岩と小平を打ち付けます。大雨のなか、橋から川へ戸板と死体を放り込みます。
 仮祝言の夜、おうめに岩の霊を見た伊右衛門は斬り殺してしまい、次々に亡霊に見えた乳母や主人を斬ります。
 お尋ね者となった伊右衛門と直吉が川っぷちで出合います。伊右衛門は本所蛇山の庵室に隠れているそうです。
 お袖は訪ねてきた岩を家のなかに通します。直助が来て、お袖の言う岩の姿を探しますが居ません。部屋には血の痕があります。直助が川で拾ったベッコウの櫛をお袖にあげると、それは岩のものでしたし、さらに隣の男が戸板の死体からはいで洗濯物としてもちこんだ着物も岩のものでした。直助が岩の仇討ちを提案してお袖を抱こうとしたとき、金の工面から帰ってきた与茂七が戻ります。二度も与茂七に邪魔された直助は匕首で与茂七に切りかかりますが、反対に斬られてしまい、最期に伊右衛門の隠れ場所を言って死にます。
 蛇山の庵室を取り囲んだ捕り方と仇討ちのお袖と与茂七。伊右衛門は斬れるものなら斬ってみろと豪語します。
 伊右衛門は亡霊を怖がらない冷徹なマキャベリストとして描かれています。自分と岩の亡霊との戦いは、「仕官にこだわる私欲の悪と女の業の戦い」だと分析します。
 最後には川面に岩の高笑いが響きます。
  映画川柳 「大雨に ふた身は重き 橋の上」飛蜘
2008年9月10日

録画
WOWOW放映(2008年8月21日)
怪談鬼火の沼

大映

1963年

76分
 WOWOWの“日本の夏、怪談の夏”特集の4本め。
 白黒の大映作品。企画・高森富夫、脚本・浅井昭三郎、監督・加戸敏の遺作。撮影・竹村康和、美術・神田浩一郎、録音・近藤正一、照明・斎藤良彰、音楽・高橋半、編集・西田重雄。
 江戸時代。将軍に仕える高僧の宗伯(沢村宗之助。伊藤雄之助の兄)は、境界争いを賄賂で操作したことから、奥州国家老・篠原甚左衛門(浜村純)の怒りを買い、危うく自宅で成敗されそうになります。その場に駆けつけた甥の敬助(小林勝彦)が侍を斬り殺しました。
 一年後、宗伯から金をせびり遊び暮らしていた敬助は、同じ長屋に住む浪人の仁科三郎太(城健三郎=若山富三郎)にそそのかされて宗伯の妾のおれん(近藤美恵子)と結託して、宗伯暗殺を企みます。みそ汁に毒を入れる方法は宗伯がみそ汁の異変に気付いて飲まずに失敗。
 次に温室の中へ閉じこめてのいぶり殺しを計画。ところが、偶然、温室に行く途中で転んで傷を作り、自分の代わりに行かせた侍女の八重(高野通子)を誤って殺すハメになってしまいます。八重が温室に入ったことを知るおせき(浦辺粂子)に口止めをして、八重は早朝出奔したことにしてしまいます。
 八重の兄だといって尋ねて来る役者の清蔵(丹羽又三郎)を三郎太に斬ってもらいます。井戸に死体を投げこんだはずが、その後、清蔵の幽霊が出て、井戸の底を改めるとなんと死体はありません。代わりに宗伯を呪う牛の刻参り、わら人形があります。三郎太は人形を宗伯に届け、実は清蔵は篠原の若殿で宗伯を狙っているところだと脅し、用心棒に納まります。温室を修理する二人で一人前の左官屋に中田ダイマル・ラケットの漫才コンビ。
 死んだはずの清蔵が舞台で働いている、敬助と三郎太は再度清蔵を斬り殺しに行きます。今度は首尾よく仕留めたようですが・・・。
 宗伯は敬助殺害を三郎太に依頼します。甥は叔父を殺そうとする、叔父は甥を殺そうとする状況で、三郎太の意図があきらかになります。
 沢村宗之助が悪い坊主を憎憎しげに演じています。若山富三郎もキャラクターが生きています。
 映画川柳 「焼け焦げた 温室に傷薬 牡丹の根」飛蜘
2008年9月9日

録画
WOWOW放映(2008年8月20日)
怪談累が淵

大映

1960年

90分
 WOWOWの“日本の夏、怪談の夏”特集の3本め。
 白黒の大映作品。製作・武田一義、企画・辻久一、脚本・犬塚稔、監督・安田公義。撮影・竹村康和、録音・海原幸夫、照明・島崎一ニ、美術・内藤昭、音楽・大森盛太郎、編集・西田重雄、装置・科田豊一、擬斗・宮内昌平、助監督・小木谷好彦。安田公義監督初の怪談映画でした。安田監督は1970年にも浅井昭三郎の脚本で『怪談累が淵』を撮っています。
 鍼師で金貸しの宗悦(2代目中村鴈治郎)は木枯らしの吹く寒い晩、取り立てに行った先の侍に斬られて、葛篭(つづら)に入れられます。宗悦を斬った侍は内縁の妻おくまも血だらけの宗悦に思えて斬ってしまい、自分自身も卒中で死んでしまいました。一方、つづらを託した下男の左衛門もおくまの男で遊び人(須賀不二男)に刺されて殺されてしまったのです。つづらは累が淵に流れました。侍の息子・新五郎(北上弥太郎)が二年ぶりに武者修行から帰った夜でした。怪談累が淵
 数年後、宗悦の二人の娘、志賀(中田康子)とお園(三田登喜子)はそれぞれ小唄の師匠と柳橋の芸者になっています。二人はときどき殺された父親の亡霊を見たり、袈裟懸けに斬られた部分が痛んだりするのでした。細川の隠居が芸者お久(浦路洋子)に目をつけ、養父母の許しを得て、手をつけようとします。嫌がって逃げ出したお久をかくまった師匠の志賀にやくざがからみますが、新五郎が助けます。隠居に談判に行った志賀を手篭めにしようとした隠居からも新五郎は志賀を助けて、二人は愛し合うようになります。師匠は稽古も忘れて新五郎と一緒にいるばかり。弟子も減り、働いていた婆やも出て行ってしまいました。
 お久と話している新五郎を目撃した志賀は二人が隠れて会い、愛し合っていると邪推します。嫉妬にかられた志賀は急にお久につらく当たります。途方にくれるお久は新五郎に相談し、心配した新五郎がとりなすものだから、志賀の嫉妬心はどんどん強くなります。争いもつれて転んだ志賀は顔を打ってしまいます。右目のわきにアザを作ってしまい、寝たきりになる志賀。やがて、新五郎は志賀の父親・宗悦の殺された日が自分の父親の死んだ日と同じであることに気が付きます。恐ろしい因縁。志賀や妹とのお園の枕元には死んだ宗悦が現われ、「志賀に罰が当たった」と責めます。志賀にはなんのことやら理解できません。
 新五郎が志賀に因縁を話そうとしたそのとき、お久が養父母ややくざに拉致されます。お久を救出しようと飛び出す新五郎。嫉妬で憤り、化粧を直す志賀。やくざが入って来て、志賀の形相に驚き、斬ってしまいます。一方、お園は町で姉に出会います。きっと来てくれと言う姉を駕籠に乗せて家に送ったお園。病気のものが寝巻きのまま町まで来るのは奇妙だと心配になり、恋人と一緒に家に行ってみることになります。お久と新五郎、お園と男、やくざたち、みんなが吸い寄せられるように累が淵に集まって来ます。宗悦の霊も現われます。
 ラストシーンは志賀の墓に手を合わせる新五郎やお園、お久など。
 超自然的な亡霊が跳梁するような怪談ではありません。志賀の激しい嫉妬心が中心になります。
 映画川柳 「恨み剣 廻り燈篭 貫けり」飛蜘
2008年9月8日

録画
WOWOW放映(2008年8月19日)
怪談蚊喰鳥

大映
1961年
79分
 WOWOWの“日本の夏、怪談の夏”特集の2本め。
 白黒の大映作品。製作・宇野信夫、構成と監修・橋本忍、脚本・国弘威雄、撮影・本多省三、録音・大谷巌、照明・中岡源権、美術・西岡善信、編集・谷口孝司、音響・倉島暢、助監督・太田昭和、監督・森一生。
 脚本のしっかりした作品で、大映スタッフの実力を示す一篇。常盤津の師匠きくじを演ずる東宝の中田康子、執念深い按摩の徳の市を演ずる船越英二が出色。小ずるい二枚目幸次郎の小林勝彦もよく感じを出しています。
 ある夏の日、きくじは馴染みの按摩・辰の市(船越の二役)にもみ療治をしてもらいますが、うとうとして気が付くと辰の市はいません。弟の徳の市が訊ねて来て兄は三日前に死んだと言います。死ぬ前の告白で師匠に恋焦がれて死んだと聞いて、きくじはゾッとします。遊び人の幸次郎が借金を作り、金をせびりに来ますが、20両もの大金がたやすく作れるはずもありません。幸次郎には呉服屋の娘と一緒になる話も出ています。
蚊喰鳥 ロケ 稼ぎをきくに渡すようになり、いつのまにか旦那然として居ついてしまった徳の市、男弟子はお断りだと幸次郎を追い出そうとしますが、喧嘩になり反対にたたき出されてしまいます。雨の翌日、怪我をした徳の市は泣いて憐れみを請い、家においてくれと頼みます。それでもいったんは追い出しますが、徳の市はまたやって来ます。実は死んだ辰の市がきくじに遺した50両がある、そのうち20両を持ってきた、残りの30両は人に貸しているから二三日待ってくれ、その50両できくじを自分に譲るという証文を書いてくれないかというのです。
 きくじは吉原の女郎じゃない、売り買いされるなんて御免だと断りますが、欲に目がくらんだ幸次郎は承知します。ところが、徳の市は昼間から酒を飲んで大いびきで寝ています。残りの30両を工面する気配がありません。幸次郎が催促すると、そんなあこぎな契約は番所に訴えれば無効だという始末。二人は手製のなまず料理に毒をしこんで徳の市を殺そうとします。すっかり毒を平らげたのに徳の市は倒れません。そして、四歳の頃に失明する前の思い出や、先行きはきくじと別れて目の医者にかかるつもりだなどと話します。なぶられても倒されても、はい上がってくる徳の市の不気味さ、きわまれりという場面です。
 とうとう毒が効き目を表し始め、苦しむ徳の市の首をしめて殺す幸次郎とおきく。涸れ井戸に死体を投げ込みます。幸次郎が誰かに見られたようだと、その場を離れている間に、部屋に戻ったきくは座敷に坐っている辰の市を見ます。
 翌日、涸れ井戸を埋める話は中止で掘り直すと聞いた幸次郎は夜になって井戸に忍び込みます。井戸の底に徳の市だけではなく、きくの死体を発見した幸次郎は急に恐ろしくなり、上がって来ますが、井戸の縁まで来た時、井戸をのぞきこむ辰の市を見て、落下してしまいます。辰の市はかっと目を見開きます。
 井戸の底から引き上げられた死体が三つ。辰の市を演じた役者が番所へ届けたのです。きくを怖がらせて欲しいと、結婚が近づいていた幸次郎から依頼されたと役人に話しています。役人は死んだ人間より生きている人間の方が怖いものだと言っています。
 映画川柳 「夏の夜 なまずの煮込みに 一升酒」飛蜘

[参考書]
 森一生ほか『森一生 映画旅』(草思社,1989) p.356より
 森一生 “中田さんいう人はいい人でした。・・・ほんとに真面目な、おとなしい。これは(永田雅一)社長、惚れるんも無理ないなあ、と。それは感じいい人ですもん。ほんとに、なんちゅうか、出しゃばりもせずに。
 一生懸命やるんだけど、下手なんですよね。あれはね、どうして下手に見えるか、ぼくは考えたら、セリフの間がみな同じなんですよ。・・・感情によって少し間を直しゃいいんですけど、どれも同じなんです。テンポが同じだから、感情がひとつも出ないんですね”
2008年9月7日

録画
WOWOW放映(2008年8月18日)
怪猫有馬御殿

大映
1953年
50分
 WOWOWの“日本の夏、怪談の夏”特集の1本。
 白黒の大映作品。有馬の武家屋敷で半鐘が鳴ります。火の見櫓(やぐら)に中間が登ると、奥女中の首吊り死体が。右手の薬指が噛み切られています。死んだ女がニヤリと笑い、タイトル。
 脚本は木下藤吉(木下藤吉郎から由来したペンネームでしょうか)、監督は荒井良平、撮影・伊佐山三郎、音楽・高橋半、美術・上里義三、照明・島崎一ニ、編集・菅沼完ニ、特殊撮影・佐野義雄。
 奥でたきの方(入江たか子)が飼っていた猫タマが鯛を盗ろうとしたというので騒ぎになっています。おこよの方(北見礼子)はタマを殺せと命じますが、たきは非礼をわびつつも可愛いがっていた飼い猫は殺せないと答えます。岩波(金剛麗子)はそれならば猫は許す、代わりにたきに裸踊りを命じます。そこへ有馬大学(坂東好太郎)が来て争いを止めます。たきは、首に鈴を付けて猫を外に放します。殿様がおたきを大事にして通っているのが、おこよの方には面白くありません。八百屋上がりのたきをことあるごとに馬鹿にします。
 なぎなたの勝ち抜き試合で勝と上がった岩波は、最期にたきとの勝負を申し出ます。武芸の修練の無いたきは断りますし、殿様も止めますが、無理やり戦わされます。すぐに降参してしまったたきを打ち据える岩波。止める殿様。その晩、丑三つ時に呪いの人形を心木に打つ岩波。見回りの女中達に発見されかけますが、逃げます。人形は多数派のおこよの方の許へ伝えられます。人形の中の書状にはたきの生年月日が書かれていました。岩波はこの書状を罠に利用することにします。
 手を火傷したと偽っておたきに代筆を依頼するお竹(大美輝子)。その書状はおこよの方の生年月日でした。殿様の前で呪いの人形と書状を証拠におたきを責める岩波。殿は目撃者が顔を見ていないこと、たきが否定していることから、おたきをかばいます。たきは「暇をもらって実家へ帰りたい」と申し出ますが、殿は強くなれと諭します。たきは実家から暇をもらう依頼を出してもらおうと、たった一人の親友お仲(阿井三千子)に手紙を託します。しかし、たきが一人でいるところへ、おこよ達が侵入、自害に見せかけてたきを懐刀で殺してしまいます。そのとき七浦(橘公子)はたきに指をくいちぎられてしまいます。
 殿と有馬頼貴(杉山昌三九)、お仲はたきの口中に残されていた指から、たきの自害に疑いを持っています。七浦は行方不明になっていました。
 半鐘が鳴ります。血のついた猫の足跡が櫓まで続いています。櫓で七浦の首吊り死体が発見されます。夜中にたきの亡霊が出るようになります。猫の手つきをして生者を操り、殺害に関わった女中たち、尾崎(小柳圭子)、浅茅(柳恵美子)、小櫻(松岡信江)、藤乃(小林加奈枝)を追い込んでいきます。なぜ亡霊が怪猫と化してしまうのかが理解できませんが。
 代筆を仕組んだお竹のもとにも亡霊が現われ、お竹は真犯人は岩波で、命じたのはおこよと告白、それをお仲が聞いていました。斬り合いになる二人に障子の外から岩波が加勢、しかし、岩波は誤ってお竹を刺してしまいます。亡霊の手先となった女中たちはたきの復讐を助けて岩波を刺し、おこよに襲いかかります。そこへ殿が現われ、化け猫退治と斬りかかります。櫓に追いつめられたたきの亡霊は矢で射抜かれて落下、殿が首をはねると、首は飛んでおこよの首筋にかみつきます。
 殿とお仲は櫓の上からたきの霊を弔います。
 亡霊に操られる奥女中たちが着物姿でバク転をする狂乱シーン、たきの亡霊が殿と戦うときの身のこなしやバク転が唖然とさせられる速さで驚きです。
 映画川柳 「殿様は 奥の嫉妬に 猫かぶり」飛蜘
2008年8月29日

フジテレビ
21:00〜21:48
クッキングパパ


西日本テレビ
90分

 うえやまとちの漫画が原作。「クッキングパパ」初の実写版。金曜プレステージ、テレビ西日本開局50周年記念番組。脚本は寺田敏雄、演出は星田良子。
 博多の金丸産業に勤める荒岩一味(山口智充)とその妻・虹子(富田靖子)、母・カツ代(中尾ミエ)。グルメ料理ではなく、家族も友人もその子供もみんながよってたかって「食べる」ことが好きという感覚が良く出ています。
 息子のまこと(花岡拓未)は素人料理大会でゲストのギャル曽根に会うのが楽しみ、娘のみゆき(櫻井詩月)は謎の居候人間・サクライ(梶原善)のためにパイナップルジュース缶を買いに出かけます。
 荒岩の早とちりから幼馴染と間違えたサクライが消え、金丸産業の上司・東山常務(陣内孝則)や部下・田中一(上山竜司)、部下の木村夢子(加藤夏希)などが尋ね回ります。一方、きんしゃい屋のママ(宮崎美子)は、一味と虹子に「毎年のように桜井を博多祇園山笠の飾り山の前で見かけている」と話します。
 サクライが飾り山の人形のことで意見をしていたことを知った荒岩は、人形師の佐倉(宇津井健)を訪ねます。サクライは、佐倉の息子の真治だったことが分かります。次第に人形師として腕を上げたものの父に勘当された真治は東京で会社勤めをしていたのですが、最近妻子に黙って勤めを辞め、博多へ来ていたのでした。
 一味と虹子とカツ代は真治に逃げるなと教えます。
 映画川柳 「うまか味 家族いっぱいの あたたかさ」飛蜘
2008年8月27日

NHK総合TV
19:30〜
日雇い派遣禁止/さまよう若者たち

NHK総合TV
25分
 「クローズアップ現代」の一篇。先月全国に700店舗を構えていた派遣会社グッドウィルが廃業しました。秋の国会で「労働者派遣法」が改正され、原則として日雇い派遣が禁止される方向が確実です。1日当たり5万人と言われる日雇い派遣はワーキング・プアの温床になっていると指摘されていました。これらの人々の7割が35歳未満の若者です。
 福島県喜多方町のある若者、日雇い派遣でホテルの配膳やスーパーの荷解きなど1日7千円で働いて来ました。日雇い派遣が禁止されたら仕事が無くなってしまいます。正業に就こうにもこの地方に仕事が少ないし、資格の経験も無い彼には不利なのです。さらに雇用保険に入っておらず失業保険ももらえません。雇用保険は労働者自身が申し込む必要があるのですが、グッドウィルも雇用者もそのことを労働者に告知していませんでした。保険料の半分は雇用者側が持つ決まりですがコスト削減のため、故意に伝えていないのです。しかも、雇い主に告知義務は無いのです。
 平成11年、労働者派遣法が改正され、日雇い派遣が全業種に解放されました。背景には当時の就職氷河期の状況や、企業コスト低減の圧力がありました。しかし、官僚は日雇い派遣を生活の中心にする人がこれほど増大することを予想できなかったのです。
 ジャーナリスト斎藤貴男は日雇い派遣には高校・大学・企業という正規の出世ルートから外れた人が少なくない、と指摘。企業利益の追求の結果が現在の事態を招いていると批判します。
 日雇い派遣禁止で影響が大きい業種に引越し業があります。引越し業者が忙しい時期は年度末など限られています。日雇いで積み込み、移動は運転手のみ、荷降ろしで日雇いといった省力化で、業者間の競争をしのいできました。倉庫業界も一日百件の日もあれば二十件の日もあるといった状況で、日雇い派遣に依存しています。法律で日雇い派遣を禁止しても、それでは業界が持たないため、闇の派遣業者、つまり暴力団が介在する可能性が大きいと懸念されています。
 斎藤貴男は経済はいったい何のためにあるのか、企業を儲けさせればいいわけではないし、ワーキングプアを無くす方策も必要だろう、政治家や高級官僚が対策を考える必要が急務だと言います。
 映画川柳 「先が無い 若者たちの 漂流記」飛蜘
2008年8月25日

NHK総合TV
22:00〜22:50
熱投413球

2008年8月25日

NHK総合TV
50分
 NHKスペシャルの一篇「女子ソフトボール・北京金メダルへの軌跡」。北京オリンピックで金メダルを取った女子ソフトボール・チームの投手・上野由岐子に帰国直後、1球1球解説してもらいました。
 準決勝アメリカ戦(1〜147球)。世界最速の時速119キロのこだわりを捨てて、アメリカ相手には変化球を使って投げます。しかし、4番ブストスに投げた直球を打たれて負けてしまいます。
 その5時間後に3位決定戦でオーストラリア戦(148〜318球)。4回広瀬のツーラン・ホームランで逆転しますが、7回ツーアウトでホームランを打たれて延長戦に。9回、上野の右手中指の皮が剥け始めました。上野は高校2年のとき腰の骨を折ってしまい、そのとき励ましの声をかけてくれるチームメイトにソフトボールは自分ひとりでやるものではない、チームメイトの有り難さに気づいたと言います。延長12回ウラでサヨナラ勝ち。試合後、宇津木妙子監督宛に上野はチームメイトに感謝のメールを送っていました。
 決勝は再びアメリカ戦。斎藤春香監督「行けるか」と聞かれた上野の答えは「行けます」。上野は宇津木麗華監督に電話してもいいかと聞いてきたそうです。上野は指の皮が剥けたことを訴えます。麗華監督は驚きますが、決勝は上野の頑張りしかないと激励します。
 アメリカの投手オスターマンは前日1イニングしか投げていません。しかもこれまでの失点は1。日本の選手は打ちあぐねます。上野はスピードを抑えてコントロールをつけて投げて、打たせて取るピッチング。
 監督はオスターマンがライズボールを投げるときはひじがそれほど上がらないのに、ドロップボールを投げるときはひじが上がることに気づき、打者にオスターマンが投げた瞬間に「上」「下」とベンチからみんなで叫ばせていました。これが打者に必ずしも聞こえたわけではないのですが、攻略の意気が上がったことは間違いありません。
 初ヒット、そして初ホームランも出ました。アメリカの強打者ブストスに打たれたホームランは強気で投げたストレート。このお蔭で、次のワンアウト、1・2塁のピンチで、ブストスを「歩かせる」という決断が出来たようです。以前だったら勝負していたと言います。しかし、ソフトボールはひとりでやるものではない。みんなでやるものだ。バックを信頼して打たせて取るピッチングを心がけた。その結果、シュートでフライを打たせて取ることができたのです。
 映画川柳 「完璧な 投手攻略 信じきる」飛蜘

       

シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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