映画 日記        池田 博明 


 
 これまでの日記(このページの下段に作品名)

2008年10月に見た 外 国 映 画 (洋画)
見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2008年10月24日

DVD
グレン・グールド
ヒアアフター

2005年
106分
 クラシック音楽ドキュメンタリーの名匠ブルーノ・モンサンジョン監督のグレン・グールドの音楽の特質を解説するドキュメンタリー。日本語字幕がある。
 グールドのピアノで魂を救われたという人たちの話が興味深かった。グールド自身の生活と意見については、今年、NHKの『知るを楽しむ』で宮沢淳一が紹介していて、多くの資料を駆使した、とてもいい番組だった。
 グールドはモーツァルトがザルツブルグを出た後のピアノ・ソナタをあまり高く評価していないが、その演奏はピアニズムを重視した独特な音色であって、たいへん面白い。この「ヒアアフター」ではK.331の第一楽章の変奏をアダージョ指定の変奏をアレグレットで弾いてみせて面白がっている。1992年にNHKが放映した『浅田彰が語る グレン・グールドの世界』でも、モーツァルトのピアノ・ソナタを演奏する場面がある。浅田は「自由に見えるが、繰り返し聞くと、こう弾くしか無かったという必然性が感じられるようになる。一般的なものから逸脱したものが普遍性を獲得しうるという、逆説(パラドックス)がある」と言っていた。グールドはモーツァルトをバロック風に演奏したのだ。
 グールドは孤独ななかで音楽のもつ芸術性を高めることに心を砕いたように見えるが、聞いている人に応じて音楽を楽しませることにも気を配っていたのではないだろうか。モーツァルトの時代には楽譜が絶対の権威をもっていたわけではなかった。ピアノの即興演奏の名手だったモーツァルトは聴く人に合わせていろいろな演奏を披露していたのではなかっただろうか。

     映画川柳 「聴くひとと 演奏するひと 作るひと」飛蜘
2008年10月5日

DVD 
ブリジット・ジョーンズの日記
きれそうなわたしの12か月


MIRAMAX
2004年
107分
 監督はビーバン・キドロンに変わりました。脚本は前作の3人ヘレン、アンドリュー、リチャードにアダム・ブルックスが加わって4人。原作は1999年で、オースティンの『説きふせられて』の現代版。第1作よりも製作費が大きく、空中撮影やスカイダイビング、タイでのロケーションなどが盛り込まれています。けれども、タイの女囚の集団のステレオタイプな描き方にアジア人に対する差別的な視線を感じます。英国人はマスとしては描かれておらず、それぞれが俗物ではありながら個性と偏見をもった人間なのですから、タイの女囚も名前のある人間として少数の人物でよいから同様に描いて欲しいと思います。
 マークのいるアッパー・ミドル・クラスとは釣り合わないものを感じているブリジット。マークの同僚レベッカ(ジャシンダ・バレット)に嫉妬します。滑れないのに上級者と偽ってスキー小旅行をする羽目になったり、妊娠検査薬で妊娠をチェックしたりと、ついホントのことが言えずに奮闘するブリジット。なかなかプロポーズしてくれないマークと、とうとう衝突してしまいます。
 マークと別れたブリジットはTVリポーターとして、女たらしのダニエルと一緒にタイで仕事をする羽目に。ダニエルはブリジットに“ノリをよくしないと『ダロウェイ夫人』に没頭しちまうぞ、だいいち彼女はアバズレ好き”といった忠告をしたりします。タイに同行した友人のシャギーが航空機で知り合ったジェドと食事をしたときに、マッジク・マシュルームを食べさせられ、幻覚をみます。その勢いでダニエルとの一夜を過ごしそうになりますが、ダニエルが部屋に呼んでいたタイの娼婦とハチ合わせになり、思い直して別れます。
 翌日、荷物をまとめて帰ろうとしたとき、空港の麻薬犬に捕縛されてしまいます。ジェドがシャギーに輸送を依頼した置物に多量のコカインが入っていました。
 タイの留置所に収監されたブリジット。失意の日々ながら、女囚たちに正しいマドンナの歌を教えたりしています。やがて、マークが大使館の命令で来たと釈放の手続きを取ってくれたおかげで無事、帰英することができます。
 友人たちから本当はマークが大奮闘して救助してくれたことを知り、マークのもとに駆けつけるブリジット。
 途中でレベッカに会い、レベッカの愛する人はブリジットだったことを知ります。再会したマークはタイミングを失しながらも、プロポーズして、やり直しの結婚式を企画していたブリジットの両親と一緒に二人は結婚します。
 冒頭は『サウンド・オブ・ミュージック』のオープニングのパロディ。

     映画川柳 「背伸びして 小さなウソが 大失敗」飛蜘
2008年10月5日

DVD 
ブリジット・ジョーンズの日記

MIRAMAX
2001年
97分
 予想を超える面白さ!シャロン・マグワイア監督。タイトル・バックの歌はジェイミー・オニールのAll by myselfで、ひとりぼっちはイヤと訴える歌。
 原作・脚本・製作総指揮のヘレン・フィールディングが、オースティンの『自負と偏見』をもとにして書いた、作者が亡くなっているので自由に盗用できたと話しています。マーク・ダーシー役は最初からBBCの『高慢と偏見』(1995年)のダーシー役のコリン・ファースを想定して書かれています。脚本のアンドリュー・ディヴィスは本作と『高慢と偏見』の脚本を両方書いています。ダニエル・クリーヴァー役のヒュー・グラントがボートから池に落ちてずぶ濡れになるのはBBCの『高慢と偏見』でダーシー卿が池に落ちて濡れねずみになる場面のパロディ。原作は1996年。
 テキサス出身でテキサス訛りのレニー・ゼルウイガーが原作の英国女性ブリジットを演じられるのかが問題になりましたが、6キロとか10キロとか言われるほど体重を増やして、イギリス英語の発音特訓も受けたレニーは見事にこなしました。発音指導は『恋に落ちたシェイクスピア』『エマ』でグウィネス・パルトロウを指導したバーバラ・バークリー。
 32歳の独身女性ブリジットは出版社勤務の広報部員で、話題にする作家にヴォネガットがあります。ブリジットが友人ジュード(シャーリー・ヘンダーソン)からの電話でジュードのボーイフレンドを“タマなしのボンクラ男 He's just a big knockhead with no knob”と表するのを、編集長に聞かれていることに気づき、誤魔化す場面。広報中の本『カフカのモーターバイク』を“ヴォネガット的な Vonnegutesque”作品ですと言う理由が、“この作品は今世紀が伝統的な男らしさに与えた傷への辛辣な洞察 This book is a searing vision of the wounds our century has conflicted on traditional masculinity”だから。同じ宣伝文句を出版記念パーティでサルマン・ラシュディ(本人出演)が使います。皮肉っぽいですがヴォネガットが話題の作家であることがよく分かります。わが愛するヴォネガットの男らしさの神話に対する挑戦はヴォネガットの戯曲『お誕生日おめでとう、ワンダ・ジューン』に直接、表現されています。この戯曲が翻訳出版されていないときに紹介したことがあります。
 ブリジットの母(ジェマ・ジョーンズ)は父(ジム・ブロードベント)とは別の男性のもとに走ります。最後によりが戻りますが。
 なにかとブリジットの相談に乗る友人は、“シングルトン”(独身生活を楽しむ人々)の3人、ジュード、シャザ(サリー・フィリップス)、トム(ジェームズ・キャリス)。
 お尻にタッチするのが趣味の「叔父」と呼ばれるジェフリー(ジェームズ・フォークナー)、母の友人ウナ(セリア・イムリー)。出版社の上司フィッツハーバート(ポール・ブルック)、先輩パーペチュア(フェリシティ・モンタギュー)。
 ちょっとヌケたところのあるブリジットの小さな失敗。マークは「just as she is ありのままのブリジット」でいいと言います。

     映画川柳 「癒し系 ちょっと太めの 尻と腿」飛蜘

[参考書]
 新井潤美『自負と偏見のイギリス文化』(岩波新書、2008年)
2008年10月5日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
第一容疑者

英国
グラナダTV
1991年
178分
 ヘレン・ミレン主演の Prime Suspect 第1話。脚本リンダ・ラ・プランテ、演出トム・フーパー。
 前篇。ロンドンのサウサンプトン・ロー署。
 殺人課のジョン主任警部(声は有本欽隆)が心不全で急死、彼が捜査していた娼婦殺し担当を志願したジェイン・テニスン警部(ヘレン・ミレン。声は丘みつ子)。しかし、ジョン警部の捜査をやり直すジェインに署員は反発。被害者が当初判断したデラでは無かったり、過去にレイプ事件を起こした容疑者ジョージ・マーロウ(ジョン・ボー。声は堀勝之祐)を証拠不十分で釈放せざるをえなかったりと、捜査は難所に乗り上げます。被害者は娼婦ではなく、女学生のカレンでした。マーロウを釈放した日にゴルフ場で後ろ手に縛られた6週間前の死体が発見され、それが娼婦のデラでした。デラはジョン警部の情報屋だったのですが、ジョンはデラが好きだったようです。マーロウの妻モイラ(ゾーイ・ワナメイカー。声は玉井碧)は夫の不品行を耐え、様子を心配します。
 署員のなかでとりわけジェインに非協力的なビル・オトリー部長刑事(トム・ベル。声は家弓家正)。ジェインは多忙をきわめるようになり、同棲しているピーターとの間もぎくしゃくしてきます。心配されたジョンの容疑も晴れ、第一容疑者はマーロウのまま。やがて、カレンに声をかけた男を目撃した女性が現れます。
 後篇。
 面通しの結果、目撃者はマーロウを選びませんでした。捜査は降り出しに戻ってしまったのです。過去の迷宮事件を調査、これらもマーロウの出張先で起こったことを突き止めます。オールダムでは売春婦から直接聞き込み。ジェインは、なぜかジョン警部を守ろうとするオトリー刑事を捜査陣からはずし、腕利きのアムスン巡査部長(声は樋浦勉)を転属してもらいます。マイケル警視(ジョン・ベンフィールド。声は北原義郎)は成果の上がらないジェインを降格しようとしますが、部下たちは的確な指示を出すジェインを支持。資料係りのモーリン巡査(モッシー・スミス)が事件の共通項として内縁の妻モイラが同行していたことを発見。美容師として被害者たちを知っていたことを話します。そして、マーロウのサディスティックなSM的嗜好も。マーロウが隠していた自動車も徹底した尾行で発見でき、犯行の証拠も集まります。取り調べの結果、マーロウは6件の連続殺人事件を自白、署員は歓声を上げます。しかし、審理が始まると、マーロウは罪状を否認するのでした。
 1991年当時は、ポケベルの時代です。女性警部に率いられる英国版87分署。
     映画川柳 「談笑す 娼婦たちとも 胸開き」飛蜘
2008年10月4日

DVD 
ナイル殺人事件

ユニヴァーサル 
EMI

1978年
145分

 物語の骨格は英国TV版『ナイルに死す』と同じです。もっとも、今作の方が先ですが。公開時に見た記憶があります。大味な映画だなという印象でした。オールスター映画です。
 アンソニー・シェーファーが脚本を書き、ジョン・ギラーミンが監督したオールスター映画。音楽はニーノ・ロータ、撮影はジャック・カーディフ、衣装デザインはアンソニー・パウエル、編集マルコム・クック、美術ピーター・マートン、制作ジョン・ブラボーンとリチャード・グッドウィン。
 キャストはポワロ(ピーター・ユスティノフ)、サイモン(サイモン・マッコーキンデイル)、ジャクリーヌ(ミア・ファーロー)、リネット(ロイス・チルズ)、リネットの管財人ペニントン(ジョージ・ケネディ)、メイドのルイーズ(ジェイン・バーキン)、小説家サロメ・オタボーン(アンジェラ・ランズベリー)、その娘ロザリー(オリヴィア・ハッセー)、ヴァン・スカイラー夫人(ベティ・ディヴィス)と看護婦バワーズ(マギー・スミス)、共産主義者ファーガソン(ジョン・フィンチ)、医師ベスナー(ジャック・ウオーデン)、レイス大佐(ディヴィッド・ニーヴン)、給仕(ハリー・アンドリュース)、ロックフォード(サム・ワナメイカー)。
 英国TV版『ナイルに死す』と異なる点をいくつか挙げておきます。
 馬で駆けつけて、ピラミッドの頂点に登るリネットとサイモンの二人。そこへ現れるジャクリーンといった映画的な壮大な場面が最初のほうにあります。レイス大佐はリネットの英国側弁護士からの依頼で彼女の周辺を監視に来ています。リネットのメイドのルイーズは婚約者と離婚しようとしていて、お金が必要になっています。彼女は普段はフランス語で話しており、ポワロとルイーズがフランス語で会話すると、レイス大佐が分かるように(英語で)話してくれと頼みます。
 ナイル川クルーズの途中で、遺跡見物しているときに、岩が落下してくる事件が起こります。柱の陰にいる登場人物をチラチラと映して、誰もが怪しいという雰囲気を演出しています。あまりにもわざとらしく、私には成功しているとは思えませんが、ミステリー映画でケレンを排除したら映画が成り立たなくなってしまうので、この辺は見る方の感覚の違いでしょう。
 二人はジャッキーをうまくまいたつもりでしたが、ラムセス2世像の見学のところで、ジャッキーが現れます。
 医者もリネットに資金援助を依頼しますが、医者の腕を疑っているリネットは援助しません。
 発砲事件の後でジャッキーを治療し、付き添うのはバワーズ夫人になります。TV版では治療は医者で付添はバワーズ夫人の立場の娘コーネリア。
 ポワロが仮説として容疑者が犯行に及んだ場合の行動がひとつひとつ映像で表現されるのが、特徴です。似たような映像がくり返されるため、上映時間が長引きました。
 サロメはTV版ではゲイのような女性で酔っ払いではありませんでしたが、映画版では常に酔いどれているアルコール依存症の小説家。アンジェラ・ランズベリーの演技はいつも酔いどれ状態で、一本調子です。
 ポワロの部屋にコブラがおかれて、ルイス大佐が刺し殺します。これは犯人の仕業ではありませんでした。
 最後にロザリーとファーガソンが婚約します。TV版ではファーガソンはコーネリアに求愛、母親は反対しますが、ファーガソンの正体が侯爵だと知って、残念がります。結局、コーネリアは医者と婚約してしまいます。一方、TV版のロザリーはティムに求愛しますが、マザコンのティムにフラれます。ティムには陸にジョアンナがいますし。
 観光名所がふんだんに見られますが、全体にリズムが緩慢でポワロの一人語りが多く、単調な作品になっています。キャストのなかで印象に残る演技者はロイス・チルズとマギー・スミス、ジョージ・ケネディで、他はその人でなければならない演技というわけではありません。ミア・ファーローはキャロル・リード監督『フォロー・ミー』のような見守られる女のほうが適役で、今作のように立場の逆な責める女は向いていないと思います。
     映画川柳 「ナイル川  大きなうねり 見きわめて」飛蜘
データベース 名探偵ポワロ データベース 驚嘆すべきデータで、詳細です。
2008年10月4日

DVD ハピネット・ピクチャ−ズ
名探偵ポワロ

満潮に乗って

英国グラナダ・プロ
94分
英国
2006年放映
 満潮に乗って Taken at the Flood。原作は『満潮に乗って』。脚本ガイ・アンドルーズ、監督アンディ・ウィルソン。シェークスピアの『ジュリアス・シーザー』第四幕第三場のブルータスの台詞「人の世の事柄には潮があり、満潮に乗れば幸運へとたどり着くが、乗り損なった者の人生の船旅は浅瀬にとらわれ不幸に呑まれてしまう」から。
 大富豪ゴードン・クロードが年下の女優ロザリーン(エバ・バーシッスル。声は高橋理恵子)と結婚、その披露に親族が訪れたとき、突然クロードの館が爆発しました。原因はガス。地下のワイン室に居たロザリーンと実兄デヴィッド・ハンター(エリオット・カウアン。声は大塚明夫)は怪我をしたものの命びろいをして、ゴードンの莫大な遺産を受け継いだのです。それから2年後、ゴードンの妹アデーラ(ジェニー・アガター。声は古坂るみ子)の屋敷に来た娘リン(アマンダ・ダウジ。声は田中敦子)は生活費が未払いになっているのに驚きます。財産管理を引き受けているデヴィッドが意地悪なのだとか。
 ポワロの事務所には執事ジョージ(ディヴィッド・イエランド)が雇われています。日本の浮世絵が掛けてあります。ある朝、無作法なキャサリン“キャシー”・ウッドワード(セリア・イムリー。声は吉沢希梨)が訪ねて来て、ロザリーンの最初の夫アンダーヘイを見つけ出して欲しいとの依頼を受けます。霊媒が彼は生きていると告げたのだそうです。ロザリーンは重婚の罪を犯している、と。キャシーの夫は医者のライオネル(ティム・ピゴット=スミス)。
 ファロウ・バンクでのパーティ。ゴードンの弟ジェレミー(ピップ・トーレンス)がクライアントの金を損失、妻のフランシス(ペニー・ダウニー。声は大西多摩恵)はロザリーンに直接交渉し、1万ポンドを借りますが、ハンターにかぎつけられ、みんなの前で小切手を返させられる羽目に・・・。ゴードンの友人だったポワロは危険を感じます。
 アフリカで病院を立てる活動をしているリンは、ゴードンの甥ローリー(パトリック・バラディ。声は星野充昭)と愛を確認します。
 ロザリーンを操るハンターは彼女をロンドンに行かせ、パブで“イノック・アーデン”(ティム・ウッドワード)と名乗る男と会います。アーデンはアンダーヘイは生きていると恐喝に来ているのです。パブの女将ベアトリス(クレア・ハケット)が立ち聞きをしてローリーに連絡します。『イノック・アーデン』はテニスンの長編詩の主人公ですから、あきらかに偽名と分かります。
 ハンターはリンに強引に求愛します。ところがその後、ハンターは約束の時刻にロンドンから電話をしてきて自分と関わるものを傷つけてしまうので関わるなと忠告します。戸惑いながらも、ハンターに魅かれていくリン。
 ハロルド・スペンス警視(リチャード・ホープ。声は野島昭生)がポワロと協力して捜査します。
 検死審問で、ポーター少佐(ニコラス・レ・プリヴォスト)がアーデンがアンダーヘイだと証言しますが、ロザリーンが強く否定したため、証明されません。ポワロは“私は神の慈悲から切り離されている”と嘆いているロザリーンを慰めます。容疑者として連行されるハンター。パブに住むレッドベター夫人(エリザベス・スプリッグス)が事件の日に怪しい扮装の女を見かけていたこと、リンがハンターと会っていたことを証言して、ハンターは釈放されます。
 ポーター少佐が拳銃で自殺します。ロザリーンがモルヒネの過剰摂取で自殺を図ります。ポワロは関係者を集め、“この土地には悪魔がいました”と真犯人の隠された犯行を暴きます。ポワロのカトリック信仰が強く出た作品です。

    映画川柳 「幼き日 牧場の暮らし 草いきれ」飛蜘 
2008年10月12日

DVD ハピネット・ピクチャ−ズ
名探偵ポワロ

ひらいたトランプ

英国グラナダ・プロ
94分
英国
2006年放映
 ひらいたトランプ Cards on the Table。原作は『ひらいたトランプ』。脚本ニック・ディア、監督サラ・ハーディング。。撮影監督ディヴィッド・マーシュ。
 大金持ちで気どりやのシェイタナ(アレクサンダー・シディグ。声は東地秀樹)はポワロに芸術的な殺人について話しています。
 その数日後、シェイタナはポワロを含め8人を招いてパーティを開きました。食後はシェイタナの提案で客はふた組に分かれてブリッジをします。ゲームが終わった後でシェイタナは重大発表をすると宣言していました。客間の暖炉の隅で眠ってていたシェイタナでしたが、午前0時過ぎ、隣室でゲームを終えたウィーラー警視(ディヴィッド・ウェストヘッド。声は辻萬長)が、彼が死んでいるのに気がつきます。凶器は細身の短剣で、心臓をひと刺し。ブリッジの間じゅう、部屋を出たものはいません。犯人は客間にいた四人のなかのひとりだと思われます。客間の四人とは医師ロバーツ(アレックス・ジェニングス。声は江原正士)、若い娘のアン・メレディス(リンゼイ・マーシャル。声は岡本麻弥)、ブリッジ好きのロリマー夫人(レズリー・マンヴィル。声は田島令子)、デスパード少佐(トリスタン・ゲンミル。声は池田秀一)。
 隣の喫煙室の四人はポワロ、探偵小説家のミセス・オリヴァー(ゾーイ・ワナメーカー。声は藤波京子)、ヒューズ大佐(ロバート・ピュー)、そしてウィーラー警視です。執事(ジェイムズ・アルパー)。完全密室での殺人。ポワロはブリッジの点数表の特徴や四人に対する質問でゲームの記憶と心理から解決のヒントを得ようとします。
 ロバーツ医師の秘書バージェス(ルーシイ・リーマン)から患者のクラドック夫人(ジギ・エリソン)と医師はもめ事があったと聞きます。しかし、クラドック夫人は旅先のエジプトで敗血症で死亡していました。
 メレディスは友人のローダ・ドーズ(ハニーサックル・ウィークス)と同居しています。ミセス・オリヴァーが訪ねたとき河を渡るボートでやって来ました。オリヴァーは二人を相手に自分の推理を話します。ただし、直感で。
 ロリマー夫人は過去に二度、夫を亡くしています。夫人はゲームの内容をかなり正確に覚えていました。第3ラバーでグランド・スラムがありました。
 デスパード少佐はポワロに、シェイタナの楽しみはひとの過ちを暴露して困るのを楽しむ暴露ゲームだったと話す。
 デスパード少佐のアマゾン探検に同行したラックスモア教授(フィリップ・ボーエン)が死亡していました。少佐の著書『アマゾンの牧歌』にミセス・オリヴァーは小さなミスを発見します。新しい麻薬を自分で試した教授は精神に異常をきたして、教授の妻(コーデリア・バジェヤ)に殴りかかり、少佐に撃たれます。 
 ローダの叔母ベンソン夫人がアンが間違えて入れ替えた薬品をシロップと飲んでしまい、死亡していました。
 ロリマー夫人はポワロに過去の事件の話をします。
 事件の背後には同性愛がありました。他のキャストはミリー(ジェニー・オギルビー)。

    映画川柳 「計画は 衝動殺人 隠蔽し」飛蜘
2008年10月3日

DVD ハピネット・ピクチャ−ズ
名探偵ポワロ

葬儀を終えて

英国グラナダ・プロ
94分
英国
2006年放映
 葬儀を終えて  After the Funeral。原作は『葬儀を終えて』。脚本フロミーナ・マクドナー、監督モーリス・フィリップス。
 リチャード・アバネシー(ジョン・カーソン)が急死。友人で顧問弁護士のギルバート・エントウィッスル(ロバート・バサースト。声は磯部勉)がポワロに事件の捜査を依頼します。リチャードの世話をしていた妹ヘレン(ジェラルディン・ジェイムズ。声は香野百合子)の息子ジョージ(マイケル・ファスバンダー。声は宮内敦士)に遺産が行くものと思っていた遺族は遺言状でジョージ一人が受取人から外されているのに驚きます。さらにその後、イタリアの画家ガラチオ(アンソニー・ヴァレンタイン)と駆け落ちして長い間疎遠だったリチャードの妹コーラの一言、「うまくもみ消したわね、リチャードは殺されたんでしょ」が一同に衝撃を与えます。翌日、コーラが自宅で手斧で殺されたものですから、みなが疑心暗鬼になります。
 ジョージの従妹で慈善家スーザン(ルーシー・パンチ。声は五十嵐麗)、その妹ロザムンド(フィオナ・グラスコット。声は林真理花)、ロザムンドの夫マイケル(ジュリアン・オヴェンデン。声は福田賢二)、リチャードと仲違いした弟ティモシー(ベンジャミン・ヒットロー。声は青野武)、その妻モード(アンナ・カルダー=マーシャル。声は峰あつ子)。
 ポワロはコーラの家のコンパニオン、ギルクリスト(モニカ・ドーラン。声は小野洋子)に様子を聞きます。リチャードは死ぬ直前にコーラを訪問し、誰かに毒をもられていると話したそうです。しかし、ララビー医師(ドミニック・ジェップコット)は自然死だと言います。珍しく火葬に付されてしまったため遺体の検死解剖はできません。屋敷の権利書が何者かに盗まれてしまい、遺言の執行を始めることができません。そのうち、執事ランスコム(ウィリアム・ラッセル)は目が遠くなっていたが、それを黙って遺言書1枚に署名したと話します。弁護士は驚きます。2枚に渡って読み上げた遺言書は偽造だったのです。
 コーラが殺害された日、一族の人々に確かなアリバイはありません。コーラの遺言により屋敷を譲られたスーザンはギルクリストと一緒に生活します。しかし、ギルクリストは玄関先に置かれたヒ素入りのウェディング・ケーキを食べて中毒します。回復した彼女はアバネシー家に呼ばれます。
 葬儀の日になにか奇妙な感じを味わったヘレンはその原因を思い出しますが、その事実を弁護士に電話で伝えようとして殴られます。
 ポワロは意外な犯人とその動機を説明します。真犯人の気持ちの告白に見られる一瞬の“狂”的な表出が特筆ものです。他のキャストは牧師(フィリップ・アンソニー)、モートン警部(ケヴィン・ドイル)。

   映画川柳 「午後のお茶 スコーンと合わせて 喫茶店」飛蜘 
2008年10月3日

DVD ハピネット・ピクチャ−ズ
名探偵ポワロ

青列車の秘密

英国グラナダ・プロ
94分
英国
2006年放映
 第10シーズンは長編4作品。製作者はトレヴァー・ホプキンスに変更。撮影監督アラン・アーモンド、A&EテレビネットワークスのEPはデリア・ファインとエミリオ・ナネッツ、コリンPlcのEPはフィル・クライマー、EPはミチェレ・バックとダミエン・タイマー。日本語版スタッフは翻訳たかしまちせこ、演出高橋剛、音声金谷和美、プロューサー里口千、制作統括は小川純子・廣田健三。

 青列車の秘密 The Mystery of the Blue Train。原作『青列車の秘密』。脚本ガイ・アンドリュース、監督ヘッティ・マクドナルド。。日本語版ではオープニング・タイトルが復活。
 宝石《炎のハート》を受け取った男は相手を殴り倒しました。
 リヴィエラではタンプリン夫人(リンゼイ・ダンカン。声は鈴木弘子)が娘レノックス(アリス・イヴ。声は山田里奈)と、突然介護していた老婦人から贈られた遺産で金持ちになった従妹のキャサリンを別荘に招待しようと計画し始めます。
 ロンドンのパーク・レイン・ホテル。米国の石油王ルーファス・ヴァン・オ−ルデン(エリオット・グールド。声は横内正)が溺愛する娘ルース(ジェイミー・マリー。声は吉田陽子)の誕生パーティが開催されました。舞室の女(ジェイン・ハウ)はルースの母親はアルコール依存症で夫が隠したと噂しています。娘婿デレク(ジェイムズ・ダーシー。声は咲野俊介。グラナダTVのマープルもの『動く指』のジェリー・バートン役)は放蕩無頼の徒で、手切れ金10万ポンドで離婚しろと父親に言われますが、浮気者は女のほうだと断ります。実際のところ、ルースはいかさまカード師のラ・ロシュ伯爵(オリヴァー・ミルバーン)と愛し合っていました。
 ポワロはひとり寂しく座っているキャサリン・グレイ(ジョージナ・ライランス。声は井上喜久子)に声をかけ、急に金持ちになって戸惑っている彼女に助言します。
 タンプリン夫人の別荘ヴィラ・マルガリータにはフランスのカレーから青列車に乗車します。キャサリンはルースから部屋を変わってほしいと頼まれ、快く承知しますが、ルースが自分の父親を自殺においやったヴァン・オールデン石油の娘と知って混乱します。タンプリン夫人も若い夫コーキー(トム・ハーパー。声は川島得愛)や娘を連れて乗り込んできます。メイドのメィソン(ブロナー・ギャラガー。声は菅原あき)が途中駅で降りた後、ニースでルースが殺されているのが発見されます。顔がハンマーでつぶされていました。もっとも怪しい夫のデレクは一晩中、伯爵やコーキーとカードをしていました。
 ヴィラ・マルガリータには偶然にも関係者が招待されていました。青列車に乗っていた黒人のミレル(ジョセット・シモン)がオールデンの愛人だったことが判明します。オールデンの秘書ナイトン(ニコラス・ファレル。声は金尾哲夫。『ABC殺人事件』のドン・フレイザー役で既に出演)は次第にキャサリンに惚れていきます。彼は戦争で負傷し、少しびっこを引いています。夜中にキャサリンがナイフを持った盗賊に襲われる事件が起こります。物音を聞きつけて来たレノックスが女だてらに大活躍、肩にかみついて盗賊は逃走します。もう猶予ができません。
 ポワロは肩に傷の残る意外な犯人を指摘します。そして、共犯者も。
 他のキャストはコー警部(ロジャー・ロイド・パック)、修道女(ヘレン・リンゼイ)、修道女でオールデンの妻ドロレス(エテラ・パルド)、スチュワード(サミュエル・ジェイムズ)。

     映画川柳 「《キャサリンとルース》 上流は 自分のリズムで 話すだけ」飛蜘
2008年10月2日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ホロー荘の殺人

英国LWC
94分
英国2004年放映
 ホロー荘の殺人 The Hollow。原作『ホロー荘の殺人』。脚本ニック・ディア、監督サイモン・ラングトン。
 医師ジョン(ジョナサン・ケイク。声は原康義)は彫刻家ヘンリエッタ(メーガン・ドッズ。声は日野由利加)のアトリエを訪ねて来ました。ジョンには失敗ばかりしている妻ガーダ(クレア・プライス。声は相沢恵子)と二人の子供がいます。週末にジョンの実家のアンカテル家に招待された二人。
 ルーシー・アンカテル(サラ・マィルズ。声は藤田弓子)とヘンリー(エドワード・ハードウィック。声は有川博)は隣に住むことになったポワロも招待していました。家には執事ガジョン(エドワード・フォックス。声は小林勝也)、甥のエドワード(ジェイミー・ド・コーセイ)、ブティック店員のミッジ(キャロリン・マーティン)などがいました。ディナーも終わり、ポワロが去った後、米国の女優ヴェロニカ・クレイ(リステ・アンソニー。声は一柳みる)が隣のダヴコーツ荘からマッチを借りに来て、ジョンを初恋の人と呼び、再会を喜びます。彼女を隣に送ったジョンは夜遅く帰宅します。翌朝、再びヴェロニカに呼ばれたジョンはそれぞれが離婚して一緒になろうという彼女の提案をはね付けます。ホロー荘に帰宅したジョンは誰かに撃たれました。1時の約束で再び訪れたポワロはプール脇で倒れているジョン、拳銃をにぎって呆然自失のガーダ、ルーシー夫人、ミッジ、ヘンリエッタを見ます。状況はガーダに不利でしたが、ガーダが拾い上げたという拳銃は殺人に使用されたものではありませんでした。
 捜査主任のグレンジ警部(トム・ジョージソン。声はたかお鷹)はポワロに助けを求めます。ジョンの秘書ベリル・コリン(ルーシー・ブライアーズ)はガーダが人殺しをするはずがないと強調します。ガーダを友人のエルシー(テレサ・チャーチャー。声は雨蘭咲木子)が守ります。ルーシー夫人がモーゼルを持ち歩いていたと言うし、疑惑はあちこちに飛び火します。ポワロは率直なヘンリエッタの意見を聞きながら捜査を進めていきます。他のキャストに ビクター(イアン・タルボット)。 
 撮影監督ジェイムズ・アスピンナル。日本語版スタッフは『ナイルに死す』と同じ。

     映画川柳 「一瞬で 悟る恐怖は すべて嘘」飛蜘
2008年10月2日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

ナイルに死す

英国LWC
99分
英国2003年放映
 ナイルに死す Death on the Nile。原作『ナイルに死す』。脚本ケヴィン・エリオット、監督アンディ・ウィルソン。
 解雇されて一文無しのサイモン・ドイル(JJ・フィールド。声は関俊彦)と婚約したジャックリーヌ(エンマ・マリン。声は小島聖)は資産家の友人リネット(エミリー・ブラント。声は森永明日夏)に彼を雇ってもらいます。リネットの友人ジョアンナ(エロディー・イアソウミ)は様子を見ています。
 3ケ月後、エジプトでポワロは、リネットから夫サイモンと自分をつけ回すジャクリーヌに交渉して欲しいと頼みますが、恋人横取りの件を聞いているポワロは断ります。ポワロはジャクリーヌにストーキングを注意しますが、嫉妬心に燃える彼女は聞き入れません。ジャクリーヌに知られずに来たはずなのに、ジャクリーヌが船にいます。
 いわくありげな人々を乗せてナイル川のクルーズが始まります。ゴシップ好きなアラートン夫人(バーバラ・フリン。声は牧野和子)、その息子ティム(ダニエル・ラペイン。声は難波圭一)、リネットの会社の米国の管財人ペニントン(ディヴィッド・ソウル)、小説家サロメ・オタボーン(フランセス・ド・ラ・トゥール)、その娘ロザリー(ズー・テルフォード)、ヴァン・シュワイラー夫人(ジュディ・パーフィット。声は大方斐紗子)とその娘コーネリア(ディジー・ドノヴァン。声は藤本喜久子)、共産主義者ファーガソン(アラステア・マッケンジー)、医師ベクター(スティーヴ・ペムバートン)。
 遺跡の見学中にリネットの上に石が落ちてきます。ジャクリーヌ?ではありませんでした。ポワロは古い知合いのレイス大佐(ジェイムズ・フォックス)と再会します。
 その晩、ポワロが早く寝てしまった後、ブリッジをしていた四人のところに酔ったジャネットとコーネリアが来ます。リネットが寝室に戻って残ったサイモンを突然、ジャクリーヌが撃ちます。足に当たって苦しむサイモン。狼狽するジャクリーヌをコーネリアとファーガソンが部屋についていき、呼ばれた医師がサイモンの膝を治療し、鎮静剤を打って眠らせます。翌朝、起床したポワロにレイス大佐が知らせます、「リネットが撃たれて死んだ」と。  
 レイス大佐の指揮で船内で捜査が始まります。不審者の目撃をほのめかしたリネット夫人のメイド、ルイーズ(フェリシテ・ド・ジュー)が刺殺され、ルイーズと会った人物を話そうとしたサロメが射殺されます。
 関係者を船室に集めてポワロが指摘したのは意外な犯罪方法でした。
 ピーター・ユスティノフがポワロを演じ、『探偵/スルース』の異才アンソニー・シェーファーが脚本を書き、ジョン・ギラーミンが監督したオールスター映画『ナイル殺人事件』(EMI作品)は1978年公開。私は見たはずですが、ほとんど忘れてしまっていましたので、再見したくなりました。
 日本語版スタッフは宇津木道子ほか、金谷和美・賀古勝利・里口千・西亀泰・蕨南勝之。

     映画川柳 「愛ゆえに 運命の星に 従いし」飛蜘 

 ディアゴスティーニで2011年1月25日から全65巻で「名探偵ポアロ」シリーズを刊行開始。第1巻は「ナイルに死す」。
2008年10月2日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

杉の柩

英国LWC
94分
英国2003年放映
 杉の柩 Sad Cypress。原作『杉の柩』。脚本ディヴィッド・パイリー、監督デイヴィッド・ムーア。
 被告人エリノア・カーライル(エリザベス・ダーモット=ウォルシュ。声は麻生侑里)が、殺人の罪で裁かれています。
 数カ月前のこと、エリノアは婚約者ロディ(ルパート・ペンリー=ジョーンズ。声は寺仙昌紀)を連れてハンタベリー・ハウスの叔母ローラ・ウェルマン(ダイアナ・クィック。声は中西妙子)を訪ねていました。幼なじみのメアリー(ケリー・ライリー。声は岡寛恵)がニュージーランドから帰って来ていました。数日前にエリノアは悪意のある手紙を受け取っていました。それには“雪のように白い”人物が叔母の遺産の横取りを企画するという文章です。エリノアは叔母のかかりつけのロード医師ロード(ポール・マッギャン。声は田中秀幸)に相談。医師は知り合いのポワロを紹介し、自ら手紙持参で相談します。
 一方、ロディはメアリーとの再会を喜んでいました。叔母は発作を起こし、弁護士を依頼してメアリーに遺産を遺そうとしているようにみえます。夜中に叔母が急死しますが、容態が急変したとき、エリノアは別の部屋でロディがメアリーと抱き合っているのを目撃しました。
 奇妙なことに遺言書は無く、叔母の遺産は全額もっとも身近な姪のエリノアに行きます。ロディの心が離れてしまったことで、婚約を解消したエリノアは、メアリーには七千ポンドを上げることにします。叔母の看護士ホプキンズ(フィリス・ローガン。声は弥永和子)とオブライエン(マリオン・オディヤー)の薦めで遺言書を作ったというメアリーは、ニュージーランドの叔母に渡るようにしたと話しています。
 エリノアは家政婦のビショップ(リンダ・スプリエール)に暇を出しました。昼食用のサンドイッチを自分で作ったエリノアはメアリーにサケのサンドを、ホプキンズと自分でエビとカニを食べます。お茶を飲んだ後、しばらくして居間のソファーで死んでいるメアリーが発見されます。毒物はモルヒネでした。ローラ叔母の死体が掘り返され、司法解剖されて死因はやはりモルヒネだったことがわかります。
 ポワロに、庭師テッド(スチュワート・ライン)は、メアリーが好きだったが、最近メアリーは人が変わったようだったと話します。マースデン警部(ジャック・ギャロウェイ。声は坂部文昭)はエリノアを容疑者として逮捕。ロード医師はエリノアの人柄から彼女が殺人犯のはずがないと強調しますが、ポワロは故意にエリノア犯人説を主張します。裁判ではエリノア有罪・絞首刑の判決が下されます。
 刑の執行まで日が残されていないなか、ポワロはエリノアの無実を証明します。
 日本語版スタッフは『五匹の子豚』と同じ。

     映画川柳 「見分けれぬ サンドイッチは 同じ味」飛蜘 
2008年10月2日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

五匹の子豚

英国LWC
94分
英国2003年放映
 第9シーズン長編4作品から製作会社や製作者が大きく変わります。製作者マーガレット・ミッチェル。オープニングは無くなり、映画様のタイトルとなります。撮影監督はマーティン・ファーラー、A&E TVネットワークのEPはデリア・ファインとエミリオ・ナネッツ、アガサ・クリスティーLtd(コリオン)のEPはフィル・クライマー、EPはミチェレ・バックとダミアン・タイマーの二人。第9シーズン以降にはヘイスティングズ大尉とミス・レモンは登場しません。

 五匹の子豚 Five Little Pigs。原作『五匹の子豚』。脚本ケヴィン・エリオット、監督ポール・アンウィン。
 なかむつまじい両親と七歳の娘、そして片目の娘がカメラのシャッターを切る。娘に手紙を書き、絞首刑になる女性。
 14年後、ポワロはルーシー・クレイル(エイミー・マリンズ。娘時代はメリッサ・サフィールド。声は小林さやか)に母キャロライン(レイチェルRachael・スターリング。声は萩尾みどり)が画家の父を殺したという事件の真相を探って欲しいと依頼されます。母は娘に「私は無実」という手紙を遺していました。
 当時の新聞記事と弁護士(パトリック・マラハイド。声は小林尚臣)から事件の概要を聞くポワロ。画家アミアス(エイダン・ギレン。声は松橋登)は妻子がありながら、肖像画を描いていた美少女エルサ・グレア(ジュリー・コックス。声は深見梨加)に恋をしていました。アミアスの親友メレディス・ブレイク(マルク・ワレン。声は牛山茂)の薬棚から紛失した毒物コニンを妻がビールグラスに入れて毒殺。疑いもない事件だったと言います。ポワロは事件の関係者五人に過去の経緯を聞いていきます。
 メレディスの弟のフィリップ・ブレイク(トビー・スティーブンス。声は山路和弘)、エルサ・グレア、メレディス、家庭教師ウィリアムズ(ゲンマ・ジョーンズ。声は八木昌子)、キャロラインの異父妹アンジェラ(ソフィー・ウィンクレマン。娘時代タルラ・ライリー。声は佐々木優子)。幼い頃、キャロラインが投げつけた文鎮で右目を失明しました。現在は考古学者。少しづつ事件の真相があきらかになっていきます。
 メイドのスプリッグス(アネット・バッドランド)も加えて古い屋敷に関係者が集められ、ポワロの謎解きが行われます。原題の「五匹の子豚」はマザー・グースですが、このTV作品には直接使用されてはいません。
 テーマ音楽にサティーの「グノシエンヌ第一番」が使われていますが、この曲は初期の日活ロマン・ポルノによく使われていました。
 日本語版スタッフは宇津木ほか、金谷和美・浅見盛康・里口千・西亀泰・蕨南勝之。

     映画川柳 「償いを 瓶の指紋を 消すことで」飛蜘 
2008年10月2日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

メソポタミア殺人事件

英国LWC
103分
英国2000年放映
 メソポタミア殺人事件 Murder in Mesopotamia。原作『メソポタミヤの殺人』。脚色クライヴ・エクストン、演出トム・クレッグ。
 砂漠。遺跡の発掘現場でアラブ人の男(レジェブ・マグリ)が絞殺されました。
 『名探偵ポアロ/二重の手がかり』のロシアの伯爵夫人ヴェラが困っているとの電報でカイロに来たポワロ。けれども、夫人は旅に出てしまっていました。蚊帳が無く、きしむベッドに戸惑うポワロ。遺跡の発掘現場で大尉の甥ビル(ジェレミー・ターナー・ウェルチ)の案内で、考古学者ライドナー博士(ロン・バーグラス。声は小川真司)に会います。博士は記念写真を撮影する趣味がありました。そろった人々は、ポワロと大尉、ビル、助手のミス・ジョンソン(ダイナ・スタッブ。声は小宮和枝)、博士の妻ルイーズ(バーバラ・バーンズ。声は土井美加)、ルイーズの看護婦レザラン(ジョージナ・サワービイ)、金石文研究者の第一人者ラヴィニー神父(クリストファー・ハンター。声は池田勝)、発掘助手ケアリー(クリストファー・ボーウェン。声は小杉十郎太)、マーカード夫妻(アレクシ・ケイ・キャンベル、デボラ・ポプレット)の妻。
 ディナーでは会話がはずまず、きまずい雰囲気が漂います。夜、部屋に死人の顔が写り、おびえるルイーズ。ポワロたちに彼女がした告白によれば、彼女は戦争直前にフレデリック・ボズナーと結婚。彼は出征し、その後銃殺により戦死。しかし、彼女が誰かと恋をしようとするたびに戦死したはずのボズナーから脅迫状が届く。ライドナー博士と知り合ってから、脅迫状は来なくなっていたのに、エジプトの発掘現場に来るようになって再び脅迫状が再開したというのです。
 脅迫状の手紙の筆跡は彼女自身の筆跡そっくり。脅迫物語は彼女自身の狂言なのでしょうか。
 ポワロがバグダッドのホテルに泊まった日の翌日、白昼、彼女は室内で重い物で殴られて殺されているのが発見されます。部屋のドアは広場から何人もの人に見られており、誰も入ったものはいませんでした。ミス・ジョンソンがかすかに女性の悲鳴を聞いていました。
 バグダッド警察のミートランド署長(イアイン・ミッチェル)が捜査を始め、ポワロは協力します。人々の証言はそれぞれの立場を反映して様々。看護婦レザランの見方では「ケアリーは夫人に冷淡」だったというのに、署長の娘シーラ(パンドラ・クリフォード)の見方では「ケアリーは夫人に夢中」、ケアリー自身は「大嫌いだった」。
 ポワロの調査により、マーカードが麻薬中毒であることが判明します。その後、彼はホテルの一室で自殺してしまいます。冒頭に殺されたアラブ人は麻薬の売人だったようです。
 ポワロはホテルにチェックインするたびに、受付(ヒッチェム・ロストロム)にヴェラ侯爵夫人のことを尋ねますが、連絡はありません。
 屋上でミス・ジョンソンは、殺人の方法が分かったと言います。けれども、その証言をしないうちに彼女自身が塩酸を誤飲させられ、死んでしまいます。最後の言葉は「窓・・・」。一気に謎が解かれます。
 最後にバグダッドを発とうするポワロに伯爵夫人から連絡が入ります、「(ブダペストから)上海に行きます。支払いをしておいて下さい」と。女性に対する意見を言おうとする大尉に、ポワロは一言、「なにも言うな、ヘイスティングズ!」。
 撮影監督ケヴィン・ロウリー、制作総指揮ロブ・ヒンズ。

    映画川柳 「石臼に 野生の恵み 引き寄せて」飛蜘
2008年10月2日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

白昼の悪魔

英国LWC
103分
英国2000年放映
 第8シーズンは長篇2本、『白昼の悪魔』と『メソポタミア殺人事件』。
 白昼の悪魔 Evil Under the Sun。原作『白昼の悪魔』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、演出ブライアン・ファーナム。ピーター・ユスティノフがポワロを演じた映画『地中海殺人事件』(1982)もこれが原作。
 ブラックリッジ村のセント・マシュー教会で、牧師が旧約聖書の毒婦イゼベルの章句を朗読しています。その頃、自転車でハイク中の女性により、アリス・コリガンの扼殺遺体が森で発見されましたが、遺産を取得した婚約者には殺害時刻に列車に乗っていたという鉄壁のアリバイがあり、検死法廷では被疑者不詳となりました。さて・・・
 ヘイスティングス大尉の投資したアルゼンチン・レストラン「エル・ランチェロ」の開館祝賀会に出かけたポワロは食事中に倒れ、入院。ミス・レモンの配慮でポワロはヘルス・リゾートに行くことになってしまいます。もちろん監視役の大尉も一緒に。
 目的の島に行く船で、出会ったクリスティン(タムジン・マレソン。声は金沢映子)の夫で、記者のパトリック(マイケル・ヒッグス。声は家中宏)は、女優アレーナ・スチュワート(ルイズ・デラメア。声は山像かおり)に再会して、すっかり舞い上がっています。ポワロはエル・ランチェロで夫の前でアメリカ人の若い男と踊るアレーナを目撃していました。ポワロはヘルス志向のメニューに閉口しています。ポワロたちはアレーナの夫、ケネス(ディヴィッド・マリンソン。声は津嘉山正種)の初恋相手で、過去の殺人事件を通してポワロと知り合っているダーンリィ夫人(マーシャ・フィッザラン)から、アレーナは前夫アースキン卿が急死して得た遺産で悠々自適の生活であることを聞きます。
 恋多き女アレーナをケネスの息子ライオネル(ラッセル・トーヴィー)は嫌っていますし、島で出会ったエミリー・ブルースター(キャロリン・ピクルズ)や牧師レイン(ティム・ミーツ)、バリー少佐(イアン・トンプソン)、みんなが、アレーナを非難しています。
 ホテルでスチーム・サウナに入れられたポワロは、隣のブラット氏(ディヴィッド・ティムソン)と知り合います。彼はヨットに赤い帆を張ったり、白い帆を張ったりしています。ポワロは、パトリックにこの小さな島でアレーナとなぜ浮気をする必要があるのかと忠告しますが、かえってパトリックは激怒します。
 事件の日、ポワロと大尉はピクシー洞窟に船外機付きボートで出かけるアレーナを目撃します。一方、ガル洞窟にはクリスティンとライオネルが出かけます。後でボートで出たパトリックとエミリーはピクシー洞窟の浜辺でうつぶせに倒れているアレーナを発見します。「脈が無い」とパトリック、「アレーナが殺された」とエミリーが通報して、島ではジャップ警部が捜査に入ります。
 多くの人が12時からの約束でテニスをしようとしていました。殺人現場にはライオネルの眼鏡が落ちていました。ポワロはロンドンのミス・レモンにアレーナの前夫アースキン卿の遺産の調査を依頼します。アレーナは6週間前に全資産を債券として引き出していました。一方、ピクシー洞窟の奥にはヘロインが隠されていました。図書館からライオネルが借り出した本は『危険な化学薬品と毒物』、彼は化学の宿題の参考書だと言います。麻薬の売買がこの島を介して行われていたことが分かります。
 事件当日、島から離れていた牧師レインは妻の不倫でスキャンダルとなり、ブラックリッジ村の牧師を辞職していたと話します。ジャップ警部とポワロは未解決のコリガン殺害事件を思い出します。そしてポワロは二つの事件に共通性を発見するのでした。
 スタッフなどは、撮影監督フレッド・ティムス、制作総指揮ロブ・ヒンズ以外は第7シーズンと共通。

    映画川柳 「日焼け色 青白き肌を 隠しけり」飛蜘
2008年10月1日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

エッジウェア卿の死

英国LWT
103分
英国1999年放映
 エッジウェア卿の死 Lord Edgware Dies。原作『エッジウェア卿の死』。脚色アンソニー・ホロウィッツ、演出ブライアン・ファーナム。
 『マクベス』のマクベス夫人を演じているジェイン(ヘレン・グレイス。声は塩田朋子)に劇の途中で拍手をする夫のエッジウェア卿(ジョン・キャッスル。声は勝部演之)。劇の後で抗議する妻に夫は相手役ブライアン・マーティン(ドミニク・ガード。声は佐々木勝彦)との不倫を指摘して、名誉が損なわれたと答えます。離婚など卿の称号を傷つけることは絶対しないと言い切るのでした。
 引退から復活し再開したポワロ事務所に人夫が事件ファイルを運びこんでいるさなか、ヘィスティングズ大尉から帰国の電報。空港に到着した大尉は、アルゼンチンで知り合ったヴェラを投資で失敗して連れて来なかったと言い訳します。
 大尉を元気づけようと、物真似のカーロッタ(アイオナ・アレン。声は野沢雅子)のディナー・ショーを見に行った三人。ポワロは、女優ジェイン・ウィルキンスから離婚を承知するよう夫に話して欲しいと依頼されます。夫エッジウェア卿に会ってみると、ひと月前に離婚を承諾した書状を楽屋宛に送ったというのです。そのことを知らされて喜んだジェインは中止していた晩餐会に急遽、参加することにします。
 晩餐会を催した貴族コーナー氏(ジョン・クェンティン)の夫人(ジャネット・ハーグリーヴズ)は参加者が13人になったのを不吉だと感じます。その夜、エッジウェア卿の屋敷に妻が現れ、執事オルトン(クリストファー・ガード)と秘書キャロル(レスリー・ナイチンゲール)に目撃されます。卿の前妻の娘ジェラルディン(ハンナ・イーランド)と興行師ロナルド・マーシュ(ティム・スティード)はコヴェント・ガーデンのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』を観劇に行っていました。
 同じ頃、晩餐会に出席していたジェインには電話がかかっています。翌朝、刺殺されているエッジウェア卿が発見されます。容疑はジェインにかかりますが、既に離婚される予定で、1ペニーも貰えない立場のジェインには殺す動機がありません。しかも鉄壁のアリバイがあります。ブライアンもその愛人ペニー・ドライヴァー(デボラ・コルネリウス)も調べますが、何ら不審な点はありませんでした。
 屋敷で夫人が使用人に目撃されたと言ってもオルトンは雇われてから日が浅いし、キャロルが見たのは階段の上からで、後ろ姿です。
 ジェインはマートン公爵(トム・ビアド)と再婚する予定です。ポワロは美人女優ジェインに夢中になっているようです。
 カーロッタに気づいたポワロは彼女を訪問しますが、とき遅くヴェロナールの過剰摂取で死亡していました。カーロッタの所持品の中にギフトとして贈られた銘のある薬入れがあり、カーロッタは薬の常習者だと考えられます。メイドのアリス(ヴァージニア・デンハム)から、彼女が妹に手紙を書いていたと聞かされます。
 妹ルーシー(アリザ・ジェイムズ)への手紙には、カーロッタはマーシュからジェインになりすますようにと依頼されたと書いてありました。しかし、マーシュはそれを否定します。
 ポワロは、(1)卿が離婚を承諾する手紙がなぜ受け取らなかったのか、(2)晩餐会の途中でジェインを呼び出した電話は誰で、その目的は何か、(3)カーロッタのハンドバッグにあった鼻眼鏡は何か、(4)カーロッタの手紙になぜマーシュが二千ドルの金を払ったと書かれているのか、(5)金の薬入れの銘のPは誰か、など5つの疑問を挙げて考えます。ミス・レモンの聞き込みでは、薬入れは2、3週間前に作成された物でしたが、不思議なことに七ケ月前にプレゼントされた月日が入れられていました。薬入れを作った、ホテルに宿泊した謎のヴァン・デューゼン夫人が浮かび上がって来ます。
 晩餐会に出席していた劇作家ドナルド・ロス(イアイン・フレイザー)がパリスの審判について何かに気づいたらしく、ポワロに連絡を言付けていましたが、電話の途中で殺されてしまいます。ヘイスティングス大尉のなにげない一言で、事件の謎が解けます。

   映画川柳 「冷酷な マクベス夫人の 蝋人形」飛蜘
2008年10月1日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
名探偵ポワロ

アクロイド殺害事件

英国LWT
103分

英国1999年放映
 アクロイド殺人事件 The Murder of Roger Ackroyd。原作『アクロイド殺し』。脚色クライヴ・エクストン、演出アンドリュー・グリーヴ。
 銀行の貸金庫に厳重保管されていた犯人の手記JOURNALを読むポワロ。
 キングズ・アボット村。引退して冬瓜作りを失敗しているポワロのもとにアクロイド卿の執事パーカー(ロジャー・フロスト。声は斎藤志郎)と医師シェパード(オリヴァー・フォード・ディヴィーズ。声は中村正)が尋ねて来ます。ポワロの古い友人ロジャー・アクロイド(マルコルム・テリス。声は稲垣隆史)の招きです。アクロイドは化学者でしたが、事業を起こし、戦争の影響もあって大もうけして、富豪になっています。養子のラルフ・ペイトン(ジェイミー・バンバー。声は大滝寛)と後妻ヴェラ(ヴィヴィアン・ヘイルブロン。声は吉野佳子)の娘フローラ(フローラ・モンゴメリー。声は名越志保)の婚約発表を3日後に行う予定にしたと聞きますが、ラルフにはなにか事情があるようです。
 アクロイドが交際していたドロシー・フェラーズ(ロザリンド・ベイリー)がヴェロナールを飲んで死亡。ポワロはアクロイドからドロシーから病死とされていた夫を実は毒殺したと告白されたと聞きます。さらに、そのことを感づかれた誰かに脅迫もされていたというのです。アクロイドは恐喝犯を見つけてやると決意しています。危険を感じたポワロはその晩、屋敷に駆けつけました。けれども、そのとき既にアクロイドは殺害されていました。
 ディヴィス警部補(グレゴール・トラッター。声は森田順平)が捜査を始め、ジャップ警部が協力します。引退したというポワロは捜査を遠慮しますが、ジャップ警部に懇願され、協力することになります。遺産は秘書レイモンド(ナイジェル・クック。声は納谷六朗)、妻ヴェラと娘のフローラ、養子のラルフに遺されていました。シェパード医師の妹キャロライン(セリナ・カデル。声は谷育子)は事件に興味を持ってなにかと首をつっこんできます(原作では姉のようですが)。工場の実際は秘書レイモンドが任されています。ラルフは行方不明。寝室から40ポンドも行方不明になっていました。
 次に、遺産も遺されずに不満を言い、屋敷の秘密を知っていると広言していた執事のパーカーが車でひき殺されてしまいます。ロンドンでポワロは事務所のあったマンションにジャップ警部と一緒に入って引退前を懐かしみます。
 失踪しているラルフが捕らえれたという新聞記事が出ますが、それはポワロが編集長に依頼したニセ記事でした。その記事が契機となって、ラルフはアクロイド家の小間使いアーシュラ(デイジー・ビューモン。声は渡辺美佐)と結婚していたことが判明、さらにラルフの居所も分かります。小間使いアーシュラの推薦状を書いたフォリオット(リズ・ケットル)にも何か事情がありそうです。
 著名な原作の叙述トリックを真犯人の日記の叙述を織り込むことで表現しています。

  映画川柳 「田舎にも 都会と変わらぬ 悪がある」飛蜘

 LWTが制作した名探偵ポワロの2000年第7シーズンは長篇2本。Executive Producerはデリア・ファイン、Supervising Producerはクリス・スラヴァ、撮影監督クリス・オデール、音楽クリストファー・ガンニング、制作総指揮ロブ・ハリス、衣装デザインはシャルロッテ・ホツディッチ、製作者はブライアン・イーストマン。カーニヴァル・フィルムズ制作。オープニング・タイトルが削除されました。
 日本語版スタッフは宇津木道子ほか金谷和美・南部満治・浅見盛康、佐藤敏夫。

2008年10月に見た 日 本 映 画 (邦画)
見た日と媒体 作 品        感  想         (池田博明)
2008年10月31日

ビデオ
なにはなくとも全員集合!!

松竹
1967年
83分
 松竹のドリフターズ主演「全員集合」シリーズ第一作。まだTBSのテレビ「8時だよ全員集合」は始まっていない。脚本は石松愛弘と渡邉祐介、監督は渡邉祐介。音楽は萩原哲晶、助監督に山根成之。単純でステレオタイプな話の上に、ドリフターズの面々がバラバラな役なのでギャグの炸裂もなく、破壊力も無い。
なにはなくとも全員集合  湯の町草津駅前の西武バス草津組営業所の中で社長(いかりや長介)が演説をしている。社長・長吉の妻役が若水ヤエ子、社員に荒井忠。草津高原鉄道とバス会社は客をとりあって反目しているのだ。本日、草津駅長として凄腕の人物が本社から配属になるというのでバス会社は警戒している。
 やがて汽車が到着するが、駅員(加藤茶、仲本工事)が待っている駅長は現れない。実は駅長(三木のり平)は着いていたのだが、貧相な外見が予想と違い、到着早々、便所に行ったため気付かれないでしまったのだ。割烹旅館での親バス派かつ反鉄道派の宴会を自分の歓迎会と勘違いする駅長。数日後、駅長の家族が引っ越してきた。妻(丹阿弥弥津子)と前夫の連れ子だった娘・エツ子(中尾ミエ)、息子・勇である。エツ子の気をひこうと駅員二人は必死。
 上下線が不通になったりする事故で混乱する鉄道会社。
 ある日、駅長の息子にバスのはねた石が当たってケガ、そのときバスを運転していた新川(古今亭志ん朝)はエツ子目当てに毎日、花を持って通ってくるようになり、やがてエツ子も心を許すようになる。バスの中でアツアツの二人を目撃したという情報で、父親は怒り、娘は鉄道員以外には嫁にやらぬと断言、娘はわからずやの父親に業を煮やして家から出て行く。
 エツ子は飲み屋「山妻」の女将みゆき(水谷良重)のもとへ身を寄せていた。みゆきには五年前に別れたやくざ・岩崎(名和宏)がいたが、刑務所を脱走して店へやって来る。彼は逃走資金を無心して五万円を手切れ金に帰って行った。
 一方、駅長は娘の行方が気になって仕方が無い。新川に問いただすと、長吉とも争いになる。駅のベンチの弁当箱の中の時計音で爆弾騒ぎが起こる。仕掛け人は長吉の妻だった。夫をゴリラと非難されて腹いせにやったと白状、弁当なら食って見せろと駅長がすごむと、長吉は時計を分解しながら食べる。この突出したギャグは全体からかなり浮いているし、食べる見せ方もごまかしなので迫力は無い。『黄金狂時代』の靴の食べ方に学ぶ必要があった。
 新川の恋を成功させるのは鉄道会社との戦いの一環だと、長吉は新川に駆け落ち策を進める。やまだ屋の番頭・高木ブーに頼んで車を用意させる。山妻に関係者が全員集まってしまうが、なんとかスキを見て脱出したエツ子と新川の乗った車に、岩崎が隠れていた。岩崎は拳銃を突きつけて逃走先を指示。運転する新川は暗闇にまぎらして元の駅前へ戻って来る。バイクで車を追跡していた仲本と加藤も戻って来た。怒った岩崎はエツ子を人質にとる。集まってくる警官。長吉は「全員集合!」の号令をかけ、エツ子奪還と犯人逮捕の作戦を授ける。
 作戦は、女装した加藤がエツ子と入れ替わる。怒る岩崎をバスに誘導、バスはぐるぐる回転運転をくりかえして犯人の目を回させるというもの。首尾は上々だった。
 駅から新婚旅行に出発する新川とエツ子。名言はすべてケネディが言ったことにしてしまう駅長が、「ケネディは言った、栄光は戦いの後にやってくる」とはなむけの言葉を送ると、長吉が「毛沢東じゃなかったか」と突っ込む。汽車は出て行く。加藤茶は、別れたら待ってるゾと声をかけるのだった。

   映画川柳 「《若水ヤエ子演ずる妻は》 長介を ゴリラと言われて 腹を立て」飛蜘
2008年10月25日

ビデオ
ズンドコズンドコ全員集合!!

松竹
1970年
89分
 脚本は渡邉祐介と田坂啓。高沢映一が当時、これまでの五作品の全員集合もののなかでいちばんの傑作と評価した一篇。リズムも勢いも絶好調の傑作であった。
ズンドコズンドコ全員集合  九州のある漁村、漁業組合に女の子たちが、「あいつらが帰って来た」と駆け込んでくる。村のはなつまみもの、ドリフの面々である。替え歌「ソーラン節」を歌いながら、フンドシひとつで、船で港に帰って来るものの、魚は一匹も取っていない。リーダーのいかり鮫吉(いかりや長介)は鯨を取ったが逃してやったとホラを吹く。組合長(田子の浦親方)は馬鹿は相手にしないという対応だが、娘の鮎子(中尾ミエ)は兄貴にいじめられている加藤イワシ(加藤茶)に同情的である。イワシは鮎子と駆け落ちするために、ちょうど村で興行していた“市川団九郎・あかね一座”の座長(佐山俊二)と、娘あかね(野川由美子)に弟子入りを申し出る。
 しかし、村での評判が悪い鮫吉が上京すると決心したことでグループは解散、イワシだけが鮫吉と一緒に上京することになる。イワシの母親が生前、鮫吉にイワシの面倒を見てくれと頼んでいたからであった。
 東京に行くトラックの冷凍庫に乗ってしまった二人は寒さに耐える。東京に着いた頃にはイワシの体は凍ってしまっていた。そして、ひと月がたった。
 東京から仲間に届いたハガキには鮫吉は順調に縄張りを広げていると書いてあった。実際には、二人は石焼きトウモロコシをつんだオンボロリヤカーを引っぱる生活。鮫吉はもっぱらマンガを読み、商売はイワシ任せだった。鮫吉は食堂の看板娘・久美ちゃん(小川ひろみ)に惚れていた。久美宛のラブレターを書いてイワシに託すが、イワシは勝手に動物園のゴリラの檻の前で待つという返事を作って渡す。翌日、鮫吉は約束の場所で待つ。一方、イワシは逃げ出そうとするものの、休みの久美が差し入れ持参でボロアパートに来てしまう。彼女と話している間に、変だと思った鮫吉が帰宅、イワシの企みを知ってしまい、フェイドアウト。
 殴られて顔じゅう包帯だらけのイワシ、屋台がボヤであわてているとき、兄貴分を頼って田舎から出てきた三人、シャケ(荒井注)、フグ(高木ブー)、多作(仲本工事)に再会する。
 三人はひとり当り千円の日雇いで土方仕事をしていたのに、手配師の黒木(左とん平)と喧嘩してクビになってしまう。大屋のかしまし娘から催促されるものの部屋代が払えず、このままでは全員出ていかざるを得ない。
 一方、黒木はひと殺しでムショに入っていた鬼熊(宍戸錠)が出所してくるというので、あわてていた。兄貴分の留守中に兄貴の女・早苗(沖山秀子)と関係し、シマを取っていたからだ。誰か身代わりを立てて責任をすべてそいつに押し付けてしまおうと考える。折よく腹を減らした加藤茶がやって来た。黒木ら二人はバー・ブラック(店のホステスは若水ヤエ子)など狸小路を任せてしまう。
 急に加藤は他の四人を使う身分となる。けれどもにわかバーテンのドリフのこと、大阪のやくざ(藤田まこと)からビール1本、28000円をせしめようとして逆にすごまれて失敗。馬鹿馬鹿しいと若水ヤエ子がやめてしまったので、駅で若い子をナンパして来ようという計画になる。
 さて、神原(名和宏)率いる暴力団は団九郎一座の興業を仕切っていた。150万の借金が返せなければ、あかね(野川由美子)の体を引き受けようと脅す。一座もパチンコ玉を拾って飢えをしのいでいたようないかりやをにわか団員に加えて興行をうつほどの困窮ぶり(ちなみに舞台は『瞼の母』で番場の忠太郎を野川、母親をいかりやが演ずる)、団九郎は拉致されてしまう。
 すっかり困ったあかねは東京タワーで鮎子(中尾ミエ)と再会。鮎子は変奏して暴力団に乗り込み、事情調査。イワシの身の上が危ないことを知る。電話で裏の事情を知ったイワシは、いかりやに身代わりを押し付ける作戦に切り替える。
 翌日、出所した鬼熊は手はず通り、果たし状をつきつけてきた。岩四は、鮫吉に芝居ごっこだとだまし、対峙させる。神崎たちも決闘を見物に来た。一同が決闘を見ている間に団九郎を救出するつもりだったが、神崎に捕縛されてしまう。あわやドラム缶でセメント詰めにされそうになったとき、事情を全部聞いた鬼熊が駆けつけ、神崎たちをやっつけてしまう。この辺はまるっきりご都合主義で小規模の素人チンピラが大人数の暴力団に勝てるわけはないはずなのだが・・・・。
 とにかくも神崎に慰謝料を150万円払わせ、それを返して劇団の借金はゼロになった。鮎子はすっかり女剣戟の道に惚れたという。
 最初の漁港、女たちがまた組合長のもとへ走りこんでくる。「やつらがやって来た」と。ドリフの面々のご登場である。最初に戻ったのだ。

   映画川柳 「やって来た 迷惑人間 ズンドコと」飛蜘  
2008年10月24日

ビデオ
ミヨちゃんのためなら全員集合!!

松竹
1969年
89分
 脚本は渡邉祐介と田坂啓。映画評論家の高沢映一は『日本映画作品全集』(キネマ旬報1973年)で、全員集合シリーズのなかで、特に第二作『やればやれるぜ全員集合』、第四作『ミヨちゃんのためなら全員集合』、第五作『ズンドコズンドコ全員集合』が傑作だと評価していた。私見では『やればやれるぜ』『ミヨちゃんのためなら』は、途中から展開が悪く、傑作とは思えなかった。
ミヨちゃんのためなら全員集合  創業以来百年、漢方薬製造工場「いかり本舗」を経営する伊刈長吉(いかりや長介)は、女房のお菊に赤ん坊を置いて逃げられた。その上、高校のブラスバンド仲間だった従業員四人が揃ってやめると宣言した。忠次(荒井注)、風太(高木ブー)、工作(仲本工事)、ヒデことヒデオ(加藤茶)の四人は、長吉の後輩だが、給料は安いし、工場の異臭が、町の非難を浴びて肩身がせまい。結局、ヒデを残して、三人はやめた。ヒデは高校卒業のためにテスト問題を盗んでもらった恩があり、長吉に忠誠を誓わざるを得なかった。長吉はヒデに女房役を強要する。
 一方、工場の悪臭は町民の非難のまとだった。長吉に同情的なのは、高校時代の恩師花山大造(ハナ肇)だけだった。花山は警察の署長(三井弘次)と将棋仲間。花山の妹・美代(倍賞美津子)は、見合いをしたがその相手は、アジア観光御曹司・石田(左とん平)だった。石田は町のボス熊寅(上田吉次郎)と結託し悪事を企んでいた。長吉の工場周辺の土地を買い占め、バイパスとモーテルを建設、地価の値上りでひと儲けしようというのだ。
 工場存廃の町民投票に敗れ、問屋にもボイコットされた長吉は切腹自殺を図る。自殺に付き合わされようとしたヒデは石を井戸に投げこんで偽装し、逃げた。ヒデは女装して宴会に顔を出す。
 一方、石田らを探っていた美代は芸者ぽん太(松岡きつ子)の協力で、熊寅と石田の密談をテープにとり、漢方薬の問屋を集めて開かれていた宴会の席上、町民や問屋衆に公開した。石田らは検挙された。急に長吉が心配になり、工場へみんなで駆けつけると、斬れない包丁を研ぎ直しているうちに死ぬ気が失せた長吉、駆けつけたみんなの手前、死んだふりをしていた。死体を前に葬儀屋が先か坊主が先かで仲本と荒井忠の争いが始まる。花山はまず通夜だと言い出しさらに混乱。死を悲しむのが第一だということになって、みんなが泣き始めると長吉は生きていることを告白、ハナ肇は「アッと驚くタメゴロー」と一言。
 花山は女生徒に惜しまれながらも学校を去って行った。妹と一緒に町を去る花山、駅には誰も見送りの者がいない。と思ったところへ、ブラスバンドが響く。教え子のドリフの面々が蛍の光を演奏し、「ミヨちゃん」を歌って別れを惜しんでくれるのだった。 
 工場では逃げた三人も工場に帰り、長吉も反省して、悪臭除去装置を取りつけた。やがて、お菊も帰ってきた。

     映画川柳 「工場の スイングボーイは 母代わり」飛蜘  
2008年10月23日

ビデオ
大事件だよ全員集合!!

松竹
1973年
92分
 脚本は渡邉祐介・田坂啓・森崎東の順なので、森崎さんの貢献度はそれほど大きくないのだろう。前半3分の1くらいは絶好調だった。
 戦争時の爆撃シーンや機銃掃射の場面に引き続いて自衛隊の実戦訓練。加藤茶「こわいヨ〜脱走します」、部隊長の玉川良一「こらア!」と追っかけてくる。タイトルにドリフターズの歌う主題歌「燃ゆるドリフだ」が、かぶる。大事件だよ全員集合
 いかり探偵事務所に来たおばあさん(武智豊子)を「家出娘の捜索ね」と気の無い返事で受けているのは長吉(いかりや長介)。調査料500円を払わないというので、長吉はばあさんを「つんぼ!くそババア!」と追い返してしまう。事務員の直人(仲本工事)が「一ヶ月ぶりに来た客なのに」と残念がる。注文もしていないラーメン一杯の汁はお前にやると恩着せがましく約束する長吉。向かいのラーメン屋万来軒の店主(荒井注)とデブ(高木ブー)が付け9800円の回収にやって来るが、当然、金は無い。留守になった万来軒には乞食同然の加藤(加藤茶)が入って、調理中のチャーハンをかきこんでいた。
 長吉は実は自分はCIAの東京支部長だと告白し、スクラップ帳に貼っていた世界の大事件と関わっていた、もしお前たちが特命に反するならば裸にしてひき肉器械でミンチにしてしまうと脅す。巨大なひき肉器械にふんどし一丁の四人を入れ、ハンドルを回すと、ひき肉が出てくる(ただ器械から出てくる挽き肉のアップだが)、モンティ・パイソン風なグロテスクな場面がある。長吉は、外を通るチリ紙交換屋のトラックが言う「ボロくず」が「ボロきれ」に変わることが本部から殺しの指令が出た証拠だと解説してすっかり一同の信用を得てしまう。このチリ紙交換屋がドリフターズに加わる前の志村健。
 さっそく一同に調査の訓練を行う長吉、第一は「すれ違いざまに女の子のパンティの色を見分ける方法」や「食べるフリをしておいしい芝居をする」など、およそ奇妙な訓練ばかり。フランスの首相ド・ゴールを暗殺しようとしたジャッカルは自分のことだという時事ネタも入る。
 訓練を受けた四人は次に実践。荒井注と仲本は由利徹のバーへ、加藤茶と高木ブーは新婚さんの饅頭屋へ、素行調査の注文を取りに出向くが、ホステスの売春やら、夫の女遊びの調査を依頼されるわけがない。逆にネジこまれて立ち往生。
 芸者の桃太郎(中尾ミエ)から貢いでいた男に裏切られたと調査を依頼され、張り切る一同。相手は城北大学助教授地質学の黒木(藤村有弘)、学生に変装した一同はさっそく応援団に見抜かれて、構内からたたき出されそうになるが、危ういところを声をかけて救ってくれたのは、この大学の美人学生・坂本ミサヲ(松坂慶子)だった。
 アグネス・チャンが「小さな恋の物語」を歌う喫茶店で、黒木がミサヲを誘うが、彼女は郷里の高知から父親が出てくるからと断る。歌をきかずにうわの空のドリフに、アグネスは中国語で抗議する。長吉はCIAホンコン支局員との連絡だと誤魔化す。店を出た長吉は、スケの尾行は自分がやると引き受けてミサヲを尾行、黒木の尾行は四人に任せる。
 ミサヲは緑ヶ丘保育園から預かった園児を南風荘の自室に連れて行く。自室で待っていたのは、郷里の漁業組合長の父親(伴淳三郎)だった。園児は隣室の八代五郎(長谷川明男)の子供だった。新しい魚をぶら下げて帰宅した五郎には、なにか悪い仕事を依頼しようとする暴力団風のチンピラたち。
 チンピラと見えたのは、実は神埼サルベージ株式会社の社員だった。社長(山本麟一)は代議士の二宮と組んで足摺岬沖に石油コンビナートを建設する計画を進めていたのだ。組合長は二宮代議士にトイレットペーパー50巻を手土産に建設反対の陳情に来たのだった。代議士は陳情は聞いたものの、腹は既に決まっていた。コンビナート建設でもうけようというのだ。
 一方、水増しされた黒木の素行を聞いた桃太郎は、長吉が自分と心中を希望しているとドリフの面々に言われたので、お茶に青酸カリを入れて待っていた。なかなかお茶に口をつけない長吉だったが、とうとう飲ませることに成功、後を追ってお茶をあおる桃太郎。大変だ、医者だと大騒ぎになるなか、長吉はいち早く火葬場に運ばれてしまう。
 棺に納められ、火葬される長吉だったが、あわやのところで蘇生し、煙突から脱出する。
 やっと長吉の支配から脱出した四人は喜んでいるが、それも束の間、長吉が戻って来る。そこへ自衛隊の隊長が加藤を探しに来る。不名誉な脱走兵を出したことを秘密にしておいて、隊へ戻そうというのだ。ドリフの面々は、加藤が隠し持っていた手榴弾と実弾を目撃したり、隊長から国家の秘密という言葉を聞いたりして、加藤こそCIAの諜報員と錯覚してしまう。リーダーがいつのまにか、長吉から加藤へ移る。
 大学の研究室の川上助手(天地総子)に黒木は足摺岬に出かけたと聞いて、ミサヲ始め一同は足摺岬に乗り込む。黒木に色仕掛けで接近したミサヲは海底爆破計画書を盗み見て、神崎たちは海底にダイナマイトを仕掛けて爆破し、海底火山の爆発とみせかけて石油を採掘する計画、小さな漁港が沈んでも構わないという計画を進めている。その事実を父親に告げると漁民たちは一気に反発。ダイナマイトを仕掛けるために誘拐していた五郎の子供を取り返す。
 沖に出ていた船に乗り込んだドリフの面々は神崎たちの企みを阻止するのだった。
 面白いのはいかりや長介が生き返ってくるまで。その後、加藤茶がリーダーになった辺りから、かけ合いも少なくなり、リズムが悪くなって、急速に陳腐になってしまう。

    映画川柳 「世界じゅう 陰謀を成す 組織あり」飛蜘   
『男はつらいよ』以外の山田洋次作品の紹介のページがあります。山田洋次の軌跡
2008年10月23日

DVD
喜劇・一発勝負

松竹
1969年
90分
 脚本は山田洋次と宮崎晃、監督は山田洋次。山田監督『自作を語る』によれば、当初のタイトルは『日本親不孝物語』で、落語の「山ア屋」を下敷きに、主役と下女の関係は夏目漱石の『坊ちゃん』を加味した作品。孝吉が橋の上で恩人に声をかけられるのは長谷川伸の『一本刀土俵入り』である。
 小山市でロケーションしたが、舞台は東京近郊の日永村と設定されている。
 情婦(いろ)を作り放蕩が過ぎた八代続いた老舗の旅館の息子・孝吉(ハナ肇)が勘当された日から物語は始まる。一年後、情婦が孝吉のタネだと言って、赤ん坊を抱いてくる。不憫に思った父親・忠(加東大介)は娘を引き取った。
 十五年もたって母親の葬儀の日、ひょっこり孝吉は帰って来る。葬式の真っ最中なので、父親も大きな声は出せない。孝吉は、なぜ泊まれないんだと因縁をつけたチンピラを、逆に脅して追い返した様子からすると、かたぎの仕事はしていなかったようだ。来た客たちに自慢げに話す内容も両国橋のたもとで親方に拾われて相撲部屋に入ったが、徒弟制度に反発して部屋を出た後、テキヤ稼業で生計を立ててきたといったもの。ハナ肇のテキヤの啖呵売は渥美清のような名調子ではなく、もっと荒っぽい。
 酒を飲みすぎて倒れてしまった孝吉を一緒に飲んでいた警察医(三井弘次)が診察すると、脈が無い。心臓麻痺で死んでしまったのだ。画家の妹・信子(倍賞千恵子)も仰天。さっそく葬儀となる。喪主・忠が親としてねぎらいの言葉をかけてやればよかったと言うと、突然お棺のフタが開く。孝吉は息をふき返したのだ。
 いったん死んで生き返った孝吉は町の話題の主となる。孝吉はテキヤ時代の仲間(犬塚弘と桜井センリ)、温泉堀りの鑑定のセンセイ(谷啓)と一緒に会社を興し、町のあちらこちらでボーリングを始める。センセイは温泉堀りが当たるかどうかは、「プロバビリティー(確率)の問題でして」と甚だ便りない。旅館のボヤ騒ぎでも客の救出に大活躍したものの、町の人たちからの借金も払えず、父親が穴埋めする状況でとうとう、事業は行き詰まってしまう。坊ちゃんを理解していた女中ふみ(北林谷枝)も青森に帰り、父親も脳溢血で倒れ(倒れるきっかけは幸吉が父親の宝にしていた焼き物を売り飛ばしてしまったこと)、舎弟たちも別れを告げて立ち去ろうとしていた折も折り、ボーリング中の河原から温泉がふき出て、町はアッという間に活気づく。孝吉も一躍、事業家となる。
 3年後、温泉を中心にプール付きの大保養センターで活気があふれている。さらなる発展を計画する電話に「オヤジがまだ片付かないんで」と相変わらずの親不幸ぶりを示している孝吉。孝吉の妹のマリ子(瞳ひかる)が男友達(堺正章、井上順)と東京に遊びに行くのを、引きとめようとする父親との争いを仲裁に入った孝吉は、マリ子は自分の娘だと知らされる。驚く孝吉に対してマリ子は3年前に女中ふみから秘密だがと打ち明けられて知っていたと答える。突然、それまでの若者への理解ある態度を一変させて、男と出かけるのをやめさせようとする孝吉、マリ子にビンで殴られて額から血が出る。「あんな親不孝もの」とマリ子を罵る孝吉に向って、脳溢血でよだれをたらしながら、父親は「ざまあみろ。親の気持がわかったか」と捨てゼリフをはくのだった。その言葉に、唖然とする孝吉と信子。マリ子と男達はスポーツカーで高速道路を東京へ向っていくのだった。いやはや凄まじい終わり方ですが、これは落語のオチと同じだそうです。
 帰って来たときにハナ肇の持っているカバンが寅さんがもつタイプのカバンだったり、テキヤの兄としっかりものの妹という設定は、『男はつらいよ』につながるもの。 

   映画川柳 「親不幸 代代続く 歴史あり」飛蜘
2008年10月22日

DVD
なつかしい風来坊

松竹
1966年
90分
 脚本は山田洋次と森崎東、監督は山田洋次。撮影は高羽哲夫、音楽は木下忠司。
 厚生省の民生局防疫課の課長補佐でツツガムシと揶揄される早乙女良吉(有島一郎)はある日、湘南電車のなかで土方で働く労務者バン・ゲンゴロウ(ハナ肇)に出会う。痔の一種、脱肛で苦しんでいた彼は長年の知己でサナダムシと揶揄されていた友人(市村俊幸)の博多転勤の会に出席した帰りで、いささかふさいでいたのだが、傍若無人な源さんのふるまいはそんな落ち込んだ彼の気持を払拭させてくれるものであった。
 源さんは良吉の家族のものにこわがられながらも、戸を修理したり、犬小屋を作ったりと、きさくに仕事をしてくれるので、隣りの家の奥さん(ク里千春)も大助かりだった。山田洋次は『自作を語る』で久里千春を“中産階級の僭越な女”を演じさせたら天下一品と評価。
 息子に持って来た犬を散歩させたとき、源さんは海辺で自殺しかかった娘・愛子(倍賞千恵子)を助けた。
 トカラ列島出身の愛子は男に裏切られ、家族からも見放されて、死のうとしたのだった。源さんは愛子の心身がよくなっていくにつれ、好意を示すようになっていた。
 源さんが愛子を映画に誘った日の夕方、暴行されかかったような様子で愛子が帰宅する。ショックで彼女は口も聞けない。良吉は警察に連絡すると共に、翌日警察からの知らせで、暴行犯に会うとなんとそれは源さんであり、愛子の誤解から生じたものだった。良吉は告訴を取り下げると言ったにもかかわらず、源さんは自分がやったという主張を変えようとしない。
 良吉が出社中に愛子も家を出てしまった。やがて一年がたち、彼も青森勤務を命ぜられる。妻(中北千枝子)や娘(真山知子)は湘南のマイホームを空家にしてまで付いていく気持ちは無かった。この時代、助監督の鈴木敏夫はマイホーム主義という言葉が流行したと言うが、山田洋次は「マイホーム主義は一種の家庭崩壊で、偏狭なエゴイズムだということが、この映画の基調である。狭い価値観で人を差別する人間が、映画を見て笑う。笑っている自分の価値観に気付いて反省することがある。それが喜劇の意義だ」と言う。
なつかしい風来坊 最後  単身赴任で青森に向う列車のなかで、良吉はふと前の座席に来た赤ん坊連れの女の顔を見た彼は驚いてしまった。愛子だったのだ。結婚したのだ。結婚相手はと見回すと、源さんだった。二人との再会を喜ぶ彼。
 
 DVDの『自作を語る』によれば、東宝から有島一郎をわざわざ借りたのは、「背が高くてヒョロヒョロしているコメディアンが、サラリーマンにはぴったりだと思ったから。斎藤寅次郎の映画に出ていた渡辺篤のような、どう見ても失業者といったギクシャクした体の動きができる、存在そのものがコメディアンといった人が最近はいなくなった。・・・ラストは甘いね。けれども、小沢重雄という評論家が、ハッピーな終わり方をする、だから映画はいいのだと書いてくれたことが、忘れられない」と証言。
 予告篇の冒頭はハナ肇が仁義を切るところで始まる。この場面は映画本編には無い。森崎さんのシナリオにはあって撮ったのかもしれませんね。当時は予告篇用の撮影は別撮りだったので独自の遊びかも。

   映画川柳 「《無言の愛子が》 目で殺す 源さんのしぐさ 大笑い」飛蜘 

[参考書]山田洋次「自伝と自作を語る」『世界の映画作家14』(キネマ旬報社,1972)より
 “これはひどい映画ができたと思いましたね。
 この映画と「吹けば飛ぶよな男だが」でしょうね。僕が絶望していたのは。「吹けば飛ぶよな男だが」は、会社といろいろもめたせいもあるのですが、このときも自信がなかったですねえ。実につまらない映画をつくってしまったと思って。でも、この映画は一番評判がいいんだけれども、さっぱりわからないですね、僕には。
 僕の女房にいわせると、うちで一番絶望的な声をあげていたのは、これと、「吹けば飛ぶよな男だが」だと。「吹けば飛ぶよな男だが」のときは、もうこれで松竹をやめるのかと思っていたと。僕も、これでもう仕事はできないなと思っていた。”
2008年10月15日

DVD
霧の旗

松竹
1965年
91分
 原作は松本清張、脚色・橋本忍、監督は山田洋次。撮影・高羽哲夫、音楽・林光、Variety Japanには佐藤勝とあるが、間違い。映画のタイトルは林光である。美術・梅田千代夫、編集・浦岡敬一。
 上熊本駅から東京へ向かう柳田桐子(倍賞千恵子)。桐子は東京の弁護士・大塚欽三(滝沢修)を頼って来たのだ。殺人事件の被疑者になった兄(露口茂)の弁護を引き受けて欲しいというのである。一流の弁護士、大塚に依頼するには80万円はかかるという事務員(桑山正一)の説明に、桐子はその三分の一の費用で引き受けてもらえないかと言う。多忙を理由に断る大塚に食い下がる桐子。大塚はその日の午後、急に予定を変更して、静岡県の川名に行ってゴルフをし、愛人・径(みち)子(新株三千代)に会った。あきらめきれない桐子は公衆電話からなおも弁護を依頼する。事務員は大塚には連絡が取れないという。
 依頼をあきらめざるを得なかった桐子の足音だけが響く。背景(皇居外苑・内堀通り)を多くの自動車が通り過ぎていくが、その音はしない。本作ではこの後も桐子の足音が主役である。雑誌社の記者・阿部幸一(近藤洋介)が公衆電話を立ち聞きし、桐子の話を聞こうとするが、桐子は心を開かず、なんの話もしようとしない。阿部は自分で過去の肥後日報を調べ、金貸しの老婆が撲殺され、小学校の教師だった桐子の兄・正夫が逮捕され、捜査段階で自白したものの、裁判では一貫して否認していることを知る。
 それから、一年後、大塚のもとに桐子からの葉書があった。兄は一審で死刑判決を受け、控訴、二審の審理中に病死したと記していた。気になった大塚は事件の記録を取り寄せて読む。
 正夫は生徒の修学旅行費を落とし、金貸しの渡辺キクに借りて穴埋めしたが、返済の金ができず、その言い訳に行った夜、老婆を殺害したというのだった。妹の桐子に縁談を持ってきた隣のおばさん(三崎千恵子)は兄妹仲がいいのを「特別だね」とあてつける。
 事件の記録を読み、大塚は僕が(弁護を)やっても無罪には出来なかったと判断した。しかし、愛人の径子と食事をしているとき、外国人の子供が左利きなのを見て、突然犯人は左利きだという確信を得る。正夫が左利きでないとすれば、犯人ではなかったのだ。
 同僚の久岡(清村耕次)に連れられて行ったバー「海草」で、阿部は桐子に再会する。彼女は熊本から上京していたのだ。海草のマダム(阿部寿美子)は九州出身者を雇っていた。先輩格に信子(市原悦子)がいて、桐子はリエと名乗って、信子と同じ部屋に同居していた。このバーでは「花はどこへ行った Where have all flowers gone?」が歌われている。
 阿部は老婆殺しの事件の鑑定を大塚弁護士に依頼して断わられたが、無関心を装っている大塚が事件の資料を取り寄せていることを知ったと桐子に話す。
 一方、径子と大塚の会っているレストランへ、径子の経営する「みなせ」の社員・杉田(川津祐介)が訪ねて、二人はなにかトラブルを抱えている様子だった。このレストランでのBGMは「花はどこへ行った」「恋なんて何になるの」。
 桐子は海草に来た杉田から黒いサングラスの山上(河原崎次郎)、もとサウスポーの野球選手を紹介される。杉田のお相手は信子である。しかし、杉田の心は信子から離れていっていた。信子は桐子に杉田が心を移した相手の女の調査を頼む。
 桐子は銀座の「みなせ」の店が終わってから、杉田の跡をつける。足音だけがコツコツと響く。本郷のしもた屋、お手伝いの婆やが帰宅していく。近所の子供のピアノの練習の音。しもた屋から白いコートの男が出ていき、入れ違いにやってきた径子が屋敷へ入る。勝手口に桐子が近づくと途端に径子が飛び出して来て、「あたしが殺したんじゃありません。あなた証人になって下さい」と叫ぶ。桐子が径子と一緒に部屋の中に入ってみると、杉田は血の海のなかに倒れていた。証人になってくださいとお互いに名前を教えあい、径子は逃亡していった。現場に戻った桐子は、径子が落とした手袋を血の海に落とし、落ちていた竜のデザインのライターを拾った。
 さて、重要容疑者として径子が捕われる。径子の思惑に反して、桐子は一貫して径子に現場では会っていない、信子に頼まれて杉田を見張っていたが、店を出るところを見落として、尾行に失敗したと証言する。
 阿部はお店を変わった桐子に会う。阿部が桐子に話を聞くが、桐子は心を閉ざしていて開かない。店では「お座敷小唄」が流れている。
 とうとう、桐子のいるお店に入ってくる大塚。桐子は大塚に「真実を言った」と答え、バーのなかでは大塚の相手をするが、店の外では頑なである。大塚は左利きの者が今回の犯人で、老婆殺しもそうだと伝えるが、桐子は「不公平です。兄は死んだが、径子さんは生きている」と答える。大塚は雨の中も店に来て、外で土下座して正しい証言とライターの返還を頼む。桐子は明日の晩、アパートに来てくれ、ライターを返還すると言う。
 大塚は拘置所の径子にもう大丈夫だと伝える。その晩、絵図を頼りに桐子のアパートを訪れた大塚。和服で迎える桐子。ウィスキーをグラスにつぎ、大塚に進める桐子。大塚はあおるように三杯も飲み、立ち上がろうとしてよろめいたとき、桐子が激しく抱きついてきて、先生、好きだからいじめたのと告白する。暗転。
 島田検事(内藤武敏)が大塚を相手に桐子の手紙を読んで聞かせている。桐子は大塚に偽証を要求され、暴行されたと医師の診断書を添えて、手紙を検事に送っていた。唖然とする大塚。悄然と席を立つ。検事は「大塚さんも息の根が止まったね」とつぶやく。
 阿蘇山の火口で自殺者の捜索の話を聞く桐子、フェリーに乗って海の深さを訪ねている桐子、自殺しようとしているのだろうか。いや、彼女はライターを捨てたのだった。

   映画川柳 「音が消え 足音だけが 響く夜」飛蜘 

 1972年11月10日、私が大学2年のとき、北大クラーク会館で自主上映をしたことがある。16ミリを札幌の共同映画社から借りてきて上映会を行った。番組は『幕末太陽伝』と、この『霧の旗』。そのとき見て、印象的な物語は覚えていたが、場面は忘れてしまっていた。倍賞千恵子と滝沢修の共演がみもの。上映当日に配布したプリントに書いた映画の紹介文は以下の通り。
 “この作品の監督、山田洋次は、寅さんの生みの親である。1965年山田洋次6作目の映画で、前年から彼はハナ肇を主人公とする『馬鹿まるだし』に始まる「馬鹿」シリーズを始めている。ちなみにTV版『男はつらいよ』は1968年秋から始まっており、それまでに山田洋次は『なつかしい風来坊』『吹けば飛ぶよな男だが』という代表作を撮っている。
 『霧の旗』は松本清張の有名な小説で、橋本忍(『羅生門』のシナリオライター)のシナリオ。この橋本忍が文庫版『霧の旗』の解説を書いているから面白い。
 今年1972年の2月にNHKの銀河ドラマとして石堂淑郎の脚本で作られた。不覚にも演出者名を忘れたが、配役は柳田桐子に植木まり子、大塚弁護士に森雅之、大塚弁護士の愛人で「みなせ」の女主人・河野道子に岡田茉莉子、バー「海草」の信子に根岸明美だった。植木まり子は都会で変化する桐子を悪魔的にみごとに演じた。憎悪の炎、燃える無表情の鬼だった。
 その点、倍賞千恵子はその郷土を感じさせる。ナイーヴな雰囲気にあふれている。TVの根岸明美の信子も良かったが、映画では市原悦子が演じている。私は市原悦子が好きなので、一も二も無く惚れてしまった。TVと映画の違いは、TVでは雑誌記者ではなく、桐子と同じ郷里の友人・青年であること、大塚弁護士の妻(加藤治子)がより表面に出たこと、映画では海に投げ捨てられたライターが、TVでは桐子の手紙が検察官に読まれているのを聞く大塚弁護士の手からポロっと落ちること、むろんTV版では河野道子が釈放されるショットがある。映画は回想に回想、あるいは復元を重ねるという手法を取っているが、TVでは老婆殺害や裁判の場面は無く、桐子の兄・正夫も画面には現れない。そのほか、違いは色々あるのだが、映画の大塚弁護士が真相に思い当たるシーンの迫力、そこからぐんぐんドラマにひきずりこまれていく迫力は尋常ではないだろう。
 山田洋次監督は「寅さんが人間どうしの心のつながりを描こうとした映画であるならば、この『霧の旗』はつながりを拒否した女の物語だというようなことを語っている。私はこの映画を見て、最近の傑作、伊藤俊也監督・梶芽衣子主演の『女囚701号さそり』を思った。林光の音楽も忘れ難い。”
2008年10月15日

DVD
下町の太陽

松竹
1963年
86分
 脚本は山田洋次・不破三雄・熊谷勲。撮影・堂脇博、音楽・池田正義、美術・梅田千代夫、編集・杉原よ志、録音・西崎英雄、照明・佐久間丈彦。山田洋次監督の第二作。
 タイトル・バックは町の工場の風景。
 寺島町子(倍賞千恵子)が川べりを歩きながら「下町の太陽」(横井弘作詞・江口浩司作曲)を歌う。町子は化粧品会社の女工である。母は亡くなった。生卵に穴をあけて吸いながら酒を飲むのが楽しみという父(藤原釜足)、祖母(武智豊子)、二人の弟(鈴木寿雄、柳沢譲二)と一緒に暮らしている。上の国夫は大学受験勉強中、下の健二は遊び好きの中学生である。下町には兵隊服を着て、戦死した息子を探し、交通整理をする源吉(東野英治郎)や、おっとりした老人(左卜全)などがいて、日がなひなたぼっこしながら世間話をしている。
 町子には恋人がいる。同じ工場で働く道男(早川保)である。道男は町子を父親(加藤嘉)にも紹介する。彼は本社勤務の正社員登用試験に臨もうとしていた。やはり試験に臨む金子(待田京介)と昼休みに卓球で対戦、負けず嫌いの町子は奮戦するが、9対0で負けてしまう。悔しがる町子であった。
 毎日の通勤電車で女工たちと出会う不良っぽい工員たち(石川進、田中晋二、勝呂誉)がいた。町子はそのうちの一人、北良介(勝呂)から付き合ってくれと言われるが断る。
 ある日、弟の健二が窃盗で警察に捕まった。仲間と一緒におもちゃの機関車を盗んだのだ。友達に唆されたんだと理屈をつけてはみたものの、町子の内心は穏やかではなかった。健二はいじけていて、すっかり反抗的になっていた。
 町子たちの友人、和子(葵京子)の結婚披露宴が行われる。 
 町子は健二が一緒に遊んでいるという北を訪ねて鉄工場へ行く。健二について、町子の見方とまったく違う見方を北はしていた。健二は自分はみなしごで、ねえちゃんとは親が違うなどというデタラメを話していた。鉄工場の様子が描写される。
 女工の仲間たち、岩崎千恵子(山崎左度子)や森文子(水科慶子)が結婚への夢を語る。町子は「最低、貧乏しなけりゃいいわ」。新婚生活の和子の団地をみんなで訪れる。団地住まいは当時の憧れである。和子が帰宅の遅い夫を「お化粧して待つ」と聞いて、町子は「素顔のほうが美しいのに」と奇妙な感覚に襲われる。 
 蒸気機関車C59に乗って遊ぶ健二と良介。健二は明るく、元気である。
 良介は健二に、子供のころ、鶏小屋から卵を盗んだ話をする。父親に食べさせたかったという。後で健二が自分の父親の誕生日の祝いに卵を買って贈る行為の伏線になっている。
 文子は鈴木左衛門、サエモンさん(石川進)と交際し始めている。「空の神兵・・・みよ落下傘空にあり」を口ずさむ鈴木。
 正社員登用試験が行われ、道男は面接の感触などから合格したと判断する。町子も一緒に喜び合う。けれど、結果は次点だった。要領のいい金子が合格したのだ。金子を非難する道男の言葉が町子にはむなしく響いた。道男は正社員になれなければ結婚も難しいと言い始める。町子は、女工の友人たちが経済的に裕福な相手との結婚を望むのを聞いたときと同様の違和感を感じていた。道男は、仕事が大事で「女の子には、仕事は結婚するまでの方便だろ。男とはちがう」という言葉さえ言うのであった。
下町の太陽 町子は文子に、ダンスパーティに一緒に行ってくれと誘われる。文子はサモンと会うのである。青山ミチが「太陽がギラギラ」(水島哲作詞・池田正美作曲)や「私の願い」(水島哲作詞・中島安敏作曲)を歌うゴーゴー喫茶であった。途中で、千恵子が現われて、踊っていた金子を平手打ちする。千恵子は金子にだまされたと怒っている。この喫茶で町子は良介と会った。良介は一回こっきりという約束で自分と一緒に遊んでくれと頼む。二人はビリヤードや、ゲームセンタ、ボーリングゲーム、観覧車などで遊ぶ。別れ際、裏面電車で帰る町子に良介は「他に恋人がいるのか」と尋ねるのだった。
 数日後、金子は自動車で往来で交通整理のまねごとをしていた源吉をはねてしまう。下町にはアっという間に事故の噂が広まった。町子も知らせを聞いて病院に駆けつけた。金子はこのことは会社には内密にしてくれと頼んでいる。町子にも「君は先日、変な男と歩いていたね」と秘密を暴露するようなことを言う。医者(穂積隆信)の話では、老人は怪我をしていない。道男も下町の知人から聞いて病院に来ていた。彼は課長(山本幸栄)に電話する。金子は正社員の登録を取り消され、代わりに道男が採用されることになる。
 金子の事故を喜ぶ道男に、割り切れないものを感じる町子。道男「結婚の約束をしてくれるね」、躊躇する町子「試験に落ちても結婚の約束をするつもりだった」、道男「しないよ、君を幸せにできないもの。僕は下町を出て日当たりのいい部屋に住みたいんだ。君に苦労はさせないよ」。町子「つらいの。私と道夫さんはどっか違うの。道男さんは、この町を出ていく人なの。あたしはこの町にいるの」。
 肺の病気で故郷に療養に帰る佐衛門を見送る文子や町子。下町に戻ってくると、世間話をしている老人たちがいる。老人(左卜全)が「町ちゃんが、笑えばこの町も明るい」と言葉をかける。
 一方、良介は「(恋で)胸が痛いんだ」と友人に話す。電車で会った町子に良介は「俺は真剣なんだ」と交際してくれと訴える。町子は黙っていたが、彼を見てほんの少し微笑んだ。

    映画川柳 「女工たち 団地住まいが 憧れに」飛蜘  
2008年10月14日

DVD
二階の他人

松竹
1961年
56分
 原作・多岐川恭、脚色・野村芳太郎と山田洋次。撮影・森田俊安、音楽・池田正義、美術・宇野耕司、編集・谷みどり、助監督・不破三雄。白黒作品。予告編では葵京子、初めての大役という。少しどぎまぎしながらも、背伸びして若妻ぶりを表現する葵京子の自信なさげの表情が素晴らしい。山田洋次監督の手堅い第一作。
 雨の駅。葉室明子(葵京子)は二階の借家人、小泉(平尾昌昇)に傘を貸す。夫の正巳(小坂一也)は部長(須賀不二男)に傘を貸す。正巳は妻の傘に入ればいいと考えたが、すでに妻の傘は貸してしまった後だった。二人は濡れながら帰宅する羽目になる。
 若い夫婦は借金をして家を新築したのだが、借金の返済に役に立てばと思い、二階を間貸しして、食事も提供しているのである。ところが二階の小泉夫婦(平尾、関千恵子)は下宿代を払わない。夫のほうは失業中、妻のほうはキャバレー勤め。
 階段をしんどそうに登る正巳の母親のとみ(高橋とよ)がやって来る。兄嫁と喧嘩していづらくなったのだ。母親はわがままな性格で、夫婦は閉口する。それに二階の住人と昼間から花札をやったりして遊んでいるのだ。正巳が世話した職場の守衛の仕事も小泉は怠けていて続かない。あと十日と期限を切って、支払わなければ出ていってくれと宣告。しかし、やっぱり動かない。食事を出さないことにする。しかし、食事も出さない、出て行けなんてあんまりだと逆ネジをくらわせる始末。隣の巡査(山本幸栄)に相談しても逃げ腰でらちがあかない。
 とうとう正巳は暴力に訴えるしかないと決意する。支払う気も無いし、出ていく気も無い小泉に怒って棒でポカリと殴りつける。女も殴る。遠藤巡査もやって来る。
 翌朝、ようやくトラックに家財道具を積んで二人は出て行った。実はこの二人、なうての下宿荒らしだったと言う。
 次の間借り人は来島夫婦(永井達郎、瞳麗子)。夫は評論家だと言う。お金は結構持っている。銭湯は恥ずかしいから、風呂場が欲しい、建設費用は出すと言う。さっそくできた風呂の一番湯にはちゃっかり、とみが入った。
 正巳の兄(野々浩介、穂積隆信)と母親とみの預かり先の相談。お互いに押し付けあうばかりでなかなか決着がつかない。長兄は、自分が母親を預かるなら家の建築費用として用立てた20万円を返済しろと責まる。
 正巳は来島に借金を頼む。ふたつ返事で来島は貸してくれた。しかも家に現金が置いてあるのであった。
 ある日、週刊誌を見た正巳は驚く。来島が載っているではないか。来島は横領した金500万円を持って逃げている手配中の犯人だったのだ。正巳と昭子は苦しむが、結局知らないふりをすることにした。
 借りた金を返そうと焦る二人。明子は二階の二人が飼っていた小鳥を窓から放すのを目撃して急に不安になる。心配な明子は会社へ行き、正巳(マーちゃん)に相談しようとするが不在。もとの上司である部長に相談すると、出してもいい、その代わりと体を求めてくる。部長をつき放して逃げる明子。明子は正巳に告白しようとするが、「部長に金を頼んだら・・・」と言うと、正巳「貸してくれなかったろ。あいつ、しみったれだから」と答えるので、それ以上は言えなくなってしまう。二階の二人が自殺するものと思い込んだ明子は夜になって心配でたまらず、夫にも話してとうとう巡査の家へ訴える。しかし、思いすごしだった。巡査から説教される二人。
 クリスマスの晩、来島夫婦は正巳たちを招待して二階の部屋で踊ったりして、騒ぎまくった。居心地の悪い正巳たち二人。翌日、正巳たちの留守の間に、二人は自首していた。警察に借金のことで調べられるのではないかと不安な正巳たち。鳥かごに結び文があるのに明子が気づく。来島葉子の手紙だった。そこには、「とても楽しい日々だった」こと、そして「貸したお金のことは言いません」とあった。借りたお金は来島たちに返済しよう、そのためには新しい下宿人をまた置かねばなるまいと相談する二人であった。

    映画川柳 「いや味なり たらいまわしの リア皇后」飛蜘  
2008年10月14日

DVD
九ちゃんのでっかい夢

松竹・マナセプロ提携
1967年
84分

 脚色・監督は山田洋次、原案・三木洋。撮影・高羽哲夫、音楽・山本直純、美術・重田重盛、編集・石井巌、録音・小尾幸尾。
 スイスのレマン湖上の古城にてクリスチーナ・シュナイデルは生涯独身だったが、昔の恋人の息子・源九太郎(坂本九)に30億円の遺産を残した。遺言執行人バルタザール(ジェリー藤尾)は日本に飛ぶ。クリスチーナの遠い親戚のポウ(大泉晃)が雇った殺し屋カルダン(E.H.エリック)はバルタザールと飛行機で一緒になる。二人は同じホテルに宿泊する。
 ミナト・グランド劇場の興行主(渡辺篤)は舞台の進行も務める。坂本九の歌は東北弁の「星のフラメンコ。」
 劇場近くにある軽食・喫茶店ファニーの店主(斎藤達雄)はマンドリンを弾く。愛子(倍賞千恵子)はこの店の看板娘。
 九ちゃん(坂本九)は自分の命が短いと悲観しており、便利屋のポンさん(谷幹一)に自分を殺してくれる殺し屋を依頼する。
 九ちゃんは舞台でパントマイム(ピアノ弾きやボーリング)を演じている。
 一方、愛ちゃんは船員の恋人の帰りを祈る「マイ・ボニー」を口ずさむ。店に来た九は愛子に「ボクのことはあきらめてくれ」と告げる。舟が入港して帰国した船員の清彦(竹脇無我)は愛子に指輪を贈る。二人は婚約したのである。
 九の歌は「夢はどこにある 街角の唄」(浜口庫之助作詞・服部克久作曲)。新曲だそうである。
 九は一度、おじいさんが話してくれたスイスに行ってみたかったと日記に書く。部屋で、バケツにつまづく男は殺し屋・竜(佐山俊二)だった。彼は九を鉈で殺そうとする。九が苦しまずに死なせてもらうはずだと言うと、殺し屋は帰っていく。竜は翌朝、桟橋にたたずむ九を海に突き落とそうとすると自分が落ちてしまうし、自動車でひき殺そうとすると彼の横をすり抜けて衝突してしまう。
 一方、バルタザールは易者(左卜全)に九太郎のいる方角を占ってもらう。
 喫茶店に来たてんぷくトリオ(三波伸介・伊東四朗・戸塚睦夫)は、九ちゃんとロシアン・ルーレットの漫才をする。愛子はポンから九が死にたがっている、病気はガンだと聞いて、愛子はレビューの舞台楽屋へ駆けつける。彼女は日記帳にはさまれた診察券を見て医者を知る。愛子が九を診察した大河内教授に確かめに行くと、教授は診断に間違いはないと断言する。なぜ本人に伝えたのかと責めると、教授は本人には伝えていないと言う。医局員の南原(桜井センリ)が本当のことを伝えてしまったのだと言う。愛子は九を誤診かもしれないと励ます。
 九の歌は「骨まで愛して」。大きな骨を抱いて歌う九に客は笑っているが、舞台を見る愛子の目には涙が光っていた。九は愛ちゃんが泣いてくれた、愛の証しでなくてなんだろう、と一人になって日記をつけ、幻想の舞台でスタジオNo.1ダンサーズと踊る。
 ホテルの主人(有島一郎)が源九太郎ショーのポスターを見つけてバルタザールに知らせる。
 再度、大河内教授に確認する愛子。レントゲン写真を見せてくれるが、写真の名前は源為朝。別人だったのだ。急いで誤診を九に伝える愛子。ポンが来て、今日中に殺しを決行するようだと伝える。九は殺しを中止してくれと言うものの、もう遅い。ショーが始まるが、落ち着かないし、歌を間違える。バルタザール、ポオ、カルダン、竜と九太郎をつかまえようと大ドタバタが始まる。
 舞台ではフレンチ・カンカン。幕の裏で愛子に気持ちを伝える九、しかし清彦と愛子が婚約していることを初めて知る。恋に破れた九太郎は殺し屋から逃げる。「海ゆかば」が堂々とt鳴り響くなか、ひたすら逃げる九。
 清彦と愛子の結婚式が、牧師(石橋エータロー)の立会いで行われている。そこへ、スイスのレマン湖のほとりから九太郎の祝いの電報が届いた。
 湖畔の古城の一室で思い出にふける九太郎。彼は生涯独身を通したという。莫大な財産は愛子の子供に送ろうとしていた。

    映画川柳 「殺し屋に 自分を殺せと 依頼せり」飛蜘  、
2008年10月13日

DVD
運が良けりゃ

松竹
1966年
92分

 脚本・監督は山田洋次、原案・山内久、監修・安藤鶴夫。撮影・高羽哲夫、音楽・山本直純、美術・佐藤公信、編集・浦岡敬一。
 天明の春。貧乏長屋に住む久六(桜井センリ)は娘を身売りした帰り、泣いて井戸に飛び込もうとしている。花札博打帰りの八ッつあん(犬塚弘)と熊さん(ハナ肇)は止めやしないよ、やれやれと他人事。久六は怒って身投げをやめる。
 八と女房のとめ(富永美沙子)は朝から夫婦喧嘩。熊ほか長屋の男衆は雨なので仕事もせずに熊の部屋に集まって無駄話をしている。寝そべっていた熊が金がなくても遊べる腹案があると言うが、長屋の衆には鷹揚な金持ちに見える風体の人物が欠けている。そこへ丁度、近江屋の若旦那(砂塚秀夫)が顔を出したから好都合。さっそくそろって女郎屋へ繰り出す。熊、八、久六、按摩の梅喜(松本染升)、(江幡高志)、ヤー公(穂積隆信)らは、飲めや歌えの大騒ぎ。女郎まで上げて、翌朝、若旦那は八に財布を要求、八は姉さんが棟梁に金を持たしたら使ってしまうから、必要だったら取りに来るように言われていたんだが、財布を取りに行くのを忘れたと言い訳。金を取りにいくと付いてくる女郎屋の番頭(藤田まこと)を途中で川へ突き落として逃げ帰った一同。帰ってみると、とめが駆け落ちしていた。
 若旦那は父親の近江屋(田部謙三)からこっぴどく叱られる。
 八は帯を梁にかけ首をつろうとしている。熊と久六は見物。怒った八が首にかけた帯のことを忘れて引っ張ると、梁が落ちる。近江屋の後妻(阿部寿美子)の娘は嫁入り支度をしている。
 差配の源兵衛(花沢徳衛)の元に肥くみ(左卜全)が来て、息子・五助(田辺靖雄)を紹介する。熊の妹おせい(倍賞千恵子)は吾助に一目惚れ。
 源兵衛(花沢徳衛)は近江屋から店賃をあげると通告され、「顔は仏で心は鬼にしろ」と言われ、さっそく長屋の衆を集めて説教する。しかし、皆は真面目に聞いてはいない。居眠りをしている熊を怒り、女郎買いを責めるが、熊は言い返した挙句、「糞ったれじじい!」と暴言を吐く。源兵衛「糞をたれないじじいがどこにいる?!」。みんな大笑い。

 夏。
 高利貸しのおかん婆さん(武智豊子)は七三郎を取り上げたが、長屋の者に金を貸して疎まれている。。八の息子の世話をしていたので、吾助に「おっかさん」と間違えられて、怒るおせい。家来の助言で、側室を探していた赤井の殿様(安田伸)がおせいを見染めて、側室へという話がやって来る。
 源兵衛が熊を説得に来る。おせいの気持ちを確認する前に慌ててお屋敷へ籠で出かける源兵衛・近江屋・熊。長屋に残ったおせいは話を断ると言って皆を驚かせる。
 夜になって戻ってきた三人、源兵衛が経緯を話す。酒に酔って、兄が妹の縁談をブチ壊したのである。『男はつらいよ』第1作のパターン。おせいは本当は話が壊れたのがうれしいが、その気持ちを押し殺して話を聞いている。
 七三郎は身体に毒がまわってつらい、嫁を探して欲しいと母親に頼むが、母親は相手をしない。嫁と茶をたてようとすると、おわい汲みの匂いがしてくる。七三郎は長屋に出かけ、おせいが吾助と結婚する運びになったと聞いてショックを受ける。壁塗りをしていた熊「便所で月見でもすんだな。運のつきってな」。
 源兵衛が店賃を集めに来るがどの家でも集められず、元気がない。どうやらお払い箱になったと聞いた長屋の面々、近江屋への復讐を考える。熊はサンマを焼いて煙を出すことを考える。
 十軒が焼けば大変な煙が出る。サンマは「どこで買った?」「河岸(かし)だ!」。これを「火事だ」と聞きちがえて、油問屋の近江屋は大混乱! 面白がっている長屋の衆は、半鐘が鳴っているので慌てる。火消しがやって来て、打ちこわしも始まり、混乱は広がってしまう。
 訳を聞いた捕り方は熊と源兵衛を召しとる。熊は与力に肥をかけて抵抗する。汚物攻勢は、まるで森崎調。牢屋に入った二人。


 世直しの騒動がまず描かれる。八のところに、とめが戻って来た。ところが間男の子供を孕んでいて、産み月である。  
 高利貸しのおかんばあさん(武智豊子)もとうとう病気。おかんは、一分でもちを買ってこいとおせいに頼む。珍しいこともあるもんだ、今日は雪だぜと長屋の噂。壁の穴からおせいが隣のおかんの部屋をのぞくと、おかんはもちの中に銭を入れて、その餅を飲み込んでいた。最後の1個を食べた後、とうとう死んでしまう。
 ちょうど牢屋から戻って来た熊はおかんの死を聞き、おせいから餅の話を聞く。さらに、七三郎から近江屋が長屋を取り壊す予定だと聞く。
 怒った熊は七三郎に主人に伝えろとすごむ。店子は子供も同然、仏が出たら酒の三升、煮しめの一皿も持ってきて挨拶するのが当然じゃないか。それが出来ないっていうのなら、この仏は身内が無くて、死骸のやり場がない、これから死人をかついで行って、死人にかっぽれを踊らせます、と。
らくだ 近江屋が「死人のかっぽれなんぞこの年まで見たことが無い」と答えると、熊は死人を七三郎にかつがせ、近江屋に乗り込む。熊がおかんを抱いて、八と七三郎のかっぽれ節に合わせて、踊らせると、近江屋は気絶。
 長屋に戻ってきた熊は追手がかかるからと急いで、おかんをつけもの樽に入れて、焼き場へ運ぶ。一方、産気づいたとめ。助産婦(飯田蝶子)が来て取り上げると、元気な男の子だった。
 焼き場の穏亡(渥美清)は「(死体の焼き方は)上焼きか、並焼きか」と聞く。火葬札がなけりゃ焼けないと言う穏亡を柱に縛りつけて、熊たちはおかんを火葬にしてしまう。腹から出てきた金をみんなで分けろと言う熊。今度、捕まったら打ち首だ、俺は逃げるよという熊と皆は別れを惜しむ。 
 「また、運が良けりゃな(会えるだろうよ)」。七三郎が駆けつけてきて、訴えたら俺も同罪だと言って、オヤジを説得、訴えないから安心しろと告げる。ケラケラ笑う穏亡。そっと涙をぬぐう熊。

 また春
 妹の婚礼の日に前の晩から博打に行って帰って来ない熊。婚礼の真っ最中にすっからかんになってむしろをまいて帰って来た熊をおせいが迎える。桜が美しい。
 ハナ肇は荒っぽい熊を演じていて、『喜劇・一発大必勝』につながる役作り。死人のカッポレもまるで森崎調のグロテスク。武智豊子の死人が驚異的。死人にかんかん踊りをさせるぞと大屋を脅すのは、古典落語「らくだ」を下敷きにしている。花沢徳衛の語り調子は傑作。

    映画川柳 「赤ん坊 死人のカッポレ 同じ日に」飛蜘 

[参考文献]
 田山力哉「日本的喜劇の新しい図式」『シナリオ』1969年12月号 p.14より
 “『運が良けりゃ』は当時の山田洋次としては最も力を入れた作品であったと思う。聞くところによると、彼は落語通で、自らも小さんの新作のホンなどを書くことがあるそうだが、そういう落語の素養が、彼の人情劇的コメディに、ふくみを与えているようである。『運が良けりゃ』は古典ものの「つき落とし」「妾馬」「黄金餅」「らくだ」、新作ものの「さんま火事」、その他ニ、三の江戸小ばなしから取材したもので、かなり本格的な落語の映画化である。これは日本映画はじまって以来の業績ではないか。
 中でも因業な金貸しのばあさんが死ぬ前夜にひとり暗闇で餅にくるんだ金貨をのみこんだり、長屋のものがその死体をひっかついで金をゆすりに行く場面など、江戸時代の一種どろどろとした陰惨な雰囲気があり、不気味な笑いを誘ったものである。山田洋次が単なる人情喜劇の作者ではないということを、この場面を思い出すたびに私は考える。松竹大船コメディの歴史の中で、かつてワン・カットでも、このような異様なムードの中で笑わせた場面があったろうか。山田は本格喜劇の才能を持った人である。” 

 前谷惟光『まんが古典落語三十話』(木耳社、1988年)
2008年10月10日

DVD
ハナ肇の
一発大冒険

松竹
1968年

91分
 脚本・山田洋次・宮崎晃、監督・山田洋次。撮影・高羽哲夫、音楽・坂田晃一。ロケーションの規模は大きいが、冒険が他人事で盛り上がりに欠ける。この前が『喜劇・一発勝負』、後が『喜劇・一発大必勝』『吹けば飛ぶよな男だが』。
 無気力にジャガイモの皮をむいている肉屋の主人(ハナ肇)。妻(野村昭子)からたよりないと言われている。しょっちゅう遅刻する店員(中村晃子)、コロッケにクレームをつけている常連客(久里千春)、母親(武智豊子)など今日もにぎやかな店先だった。主人の名前は間貫一(劇中、フルネームで呼ばれることはない)。そこへフランスから女性名義の葉書が来て、急に渡航手続きを始める貫一だったが、旅行会社の社員に貫一は不思議な経験談をし始めた。
 3ケ月ほど前。外回りの途中、慣れないレストランに立ち寄った貫一は同じテーブルに座った美女(倍賞千恵子。速水亜子、名前が呼ばれることはない)から、同行してほしいと頼まれる。怪しい人物に付けられているというのである。実際に彼女を狙う悪漢は二人組(石井均、なべおさみ)だった。
 貫一と亜子は木更津へ行き、フェリーで横須賀に渡り、横浜のホテルに泊まった。亜子はダイヤの袋をバッグに入れて貫一に預ける。泥酔して明け方、貫一はバッグからダイヤの袋が盗み取られていることに気づく。亜子に謝ると、亜子は盗まれたのは偽物で、本物は自分の枕もとにあることを示した。ニセモノで利用されたことを怒る貫一。亜子が真摯に謝ると、貫一の気持ちもようやくほぐれるのだった。
 ダイヤを持って清水を通り(浪花節「清水次郎長」をうなる二人)、信濃路へ。腹痛で苦しむ真田(入川保則)を助ける。彼は悪漢から取られたダイヤを取り返してくれた。 
 ダイヤは瀕死の老婆からあずかったもので、時期が来たら富山へ届けてくれと頼まれたのだ、お礼にフランス旅行が可能になると言う。いよいよ最近、その連絡が来たのだ。富山へ電車で行こうとしていったん亜子は二人と別れる。しかし、電車が不通になった。再び三人の道中は続く。黒部ダムへ向かう途中に検問所があった。怪しまれるといけないとダイヤの袋を車外へ放り出す。しかし、検問は殺人犯対策だった。引き返して川べりでダイヤの袋を探すと木の枝に引っかかっていた。首尾よく枝から落としたものの、袋の口が開いてダイヤは渓流に沈む。川底をさらってようやくダイヤを回収したのは真夜中だった。真っ暗ななかタイヤを溝に落としてしまい、動けなくなる。車を乗り捨てて歩くことに。
 やっとのことで着いた山小屋には銃を持った先客がいた。これが噂の殺人犯(北見治一)。早朝、真田は自分が囮になって殺人犯をひきつけている間に逃げろと言う。外に飛び出した真田を追って犯人も外へ出る。貫一と亜子は反対方向へ逃走。真田は殺人犯に撃ち殺されてしまう。自分の生命が心臓病のため長くないことを知っていた真田の捨て身の行動だった。
 難行の日本アルプス越えが始まる。歩いても歩いてもなかなか日本海側に出ない。とうとう夜になりビバークする二人。眠ってしまう亜子を貫一はシュラフにくるんでソリに乗せ引いて、とうとう日本海側に出る。 
 やっとのことで目的の相手にダイヤを渡した亜子は桟橋で貫一と別れる。亜子は京都へ回って真田の葬式に出ると言う。最後に亜子は貫一の頬にキスをする。
 蒸発したと思っていた社長が帰って来たというので、みんな(犬塚弘、桜井センリなど)大喜び。
 すっかり話し終えた貫一は胸のつかえが下り、フランスへ行く気持ちを無くしていた。
 そこそこ繁盛する肉屋。貫一は外回りの今日、思い出のレストランに立ち寄ってみる。すると以前と同様に空席にかけてもいいかとの問い合わせ。女(倍賞美津子)は亜子によく似ていた。エンド。

    映画川柳 「ひと助け せずにはおれない おひと好し」飛蜘 
2008年10月9日

DVD
愛の讃歌

松竹
1967年
94分
 山田洋次が森崎東と脚本で組んだ最初の作品。ただし、オープニング・タイトルでは山田洋次に比べて、森崎東の文字は小さい。森崎の貢献度は小さいのだろう。原作はマルセル・パニョルの『ファニー』。ジョシュア・ローガン監督によって1961年にレスリー・キャロン主演で映画化されている。
 瀬戸内海に浮かぶ日永島。恋人の小さな妹たちを連れている春子(倍賞千恵子)がいる。一方、中年のあわてものの医者・伊作(有島一郎)と世話をするおりん(北林谷栄)がいる。
 春子は桟橋にある食堂兼切符売り場の「待帆亭」で働いていた。春子の恋人の竜太(中山仁)は待帆亭の主人・仙造(資料の千造は間違い、墓標に仙造とある。伴淳三郎)の息子だが、なにかと口やかましい父親にすっかり愛想をつかしていた。
 待帆亭には床屋・備後屋の主人(太宰久雄)、連絡船の船長(千秋実)、あん摩(渡辺篤)、老人(左卜全)、郵便職員(小沢昭一)たちが集まって世間話に花を咲かせている。女房に死なれてからやもめ暮らしだった仙造は最近、置屋のハツ子(桜京美)に貢いでいる。
 大阪から帰ってきた竜太はブラジル移住を決意したという。春子を思っていったんはブラジル行きをやめようとした竜太だったが、突然春子は竜太にブラジルへ行けと話す。自分のために夢をあきらめたといつまでも後悔するような人生ではいけないというのが春子の判断だった。竜太はこっそり港から出る。
 竜太からは1通手紙が来たが、その後は何も来ない。ある日目まいを起こして桟橋から落ちる春子、すぐに助けられたが、妊娠5ケ月であることが分かる。クリシチャンの伊作は日記に、罪の許しを与えたまえと記す。
 伊作のもとを訪ねる春子。泣き伏す春子、眠り薬を処方して戻ってみると、春子は寝入ってしまっていた。
 朝、帰っていく春子を見たおりんは驚く。おりんは伊作と春子の関係を誤解する。伊作は仙造に春子を引き取る提案をする。そして春子の妊娠を伝え、竜太の子供だと明かす。
 10月4日、春子は伊作宅へ移転する。そして出産、男の子である。竜介と命名される。1月1日、誕生祝い。
 2月14日、竜太が帰って来た。郵便屋は電報で呼び寄せたと思われるといけないとオーバーな演技で病気の仙造に帰省を伝える。伊作宅で竜太は言葉が通じない苦労と、春子や父親のことが忘れられずにでブラジルから帰って来た、おりんから子供を抱かせてもらい、竜太は子供が自分の子供だと知る。なぜ知らせなかった?春子は言うたらいけんと思ったと。桟橋で春子と竜太は話す。
 竜太は大阪へ行って3人で暮らそうと言う。伊作「この子をわしにくれんか。可愛いんじゃ」。竜太「先生にはそれを言う権利はないよ。おれが親なんだから」。しかし、仙造が「タネをつけただけが親なら馬も犬も一緒じゃ。親もオナゴもほっぽり出して地球の裏側へ行ってしもて、親の気持ちが分かる?そんなことが言えるか」。2月15日の朝、竜太は去っていった。2月16日、仙造が前日飲酒で大荒れ、朝に死亡しているのが発見される。竜太の手紙をにぎって倒れていた。18日、仙造を火葬。
 手紙で竜太の大阪での居所が判明、伊作は工務店に電話をかけ、春子に竜太と一緒に暮すよう提案する。伊作は、仙造の本当の気持ちは息子とその嫁、そして孫が一緒に暮らすことだったと思うと春子を説得する。
 3月10日、港で、みんなが春子を見送る。涙が止まらない春子。
 森崎さんが書いた部分は仙造のつく悪態だろうか。また、仙造は竜太の手紙を風呂の焚きつけだと言いながら、みんなの前では読まない。しかし、読もうとしても目が悪くなっている。手紙を春子に“声を出して”読んでもらう。また、竜太に返事を書こうとする仙造は春子に口立てする。仙造は春子は最近顔色が悪く、肺病になって死んでしまいます等と書かせようとする。
 倍賞千恵子、伴淳三郎、有島一郎の演技が光る佳作。

    映画川柳 「生みの親 育ての親も 親は親」飛蜘  
1965年〜1967年  山田洋次監督作品1965年からは『霧の旗』(白黒。大学時代に自主上映したことがある。傑作)、1966年『運が良けりゃ』(ブルーリボン監督賞)、『なつかしい風来坊』、1967年『九ちゃんのでっかい夢』。『霧の旗』以外は未見だが、『なつかしい風来坊』は松竹ビデオを所持。
2008年10月8日

DVD
ハナ肇の
馬鹿が戦車でやって来る


松竹
1964年

93分
 この作品も1964年公開である。
 団伊玖磨の原案『日永村物語』を山田洋次が脚本にした。特典の山田洋次『自作を語る』によれば、戦争が終わったときのドサクサで戦車を持ち帰ってきた者もいたという内容のエッセイらしい。音楽も団伊玖磨。タイトルバックは藤城清治風の村の風景の影絵。企画・市川喜一、製作・脇田茂、撮影・高羽哲夫、美術・佐藤公信、照明・戸井田康国、編集・浦岡敬一、録音・小尾幸魚、調音・佐藤広文、装置・小島勝男、装飾。鈴木八州雄、助監督・熊谷勲。とんでもない傑作であった。特典『自作を語る』によれば、大江健三郎が面白かったと言っていたそうである。大江は安部公房に薦められたという。
 また、誰も指摘していないことだが、日永村一番の貧乏一家のハナ肇の名前はサブ、つまり三番目の子供である。三男かもしれない。そして犬塚弘の名前は兵六、つまり六番目の子供である。六男かもしれない。しかし、一家の中で生き残っているのは飯田蝶子演ずる母親とこの二人だけだ。他の四人はどうなったのだろう。無論、死んだのである。サブが少年戦車兵なら四男や五男が死んだのは貧乏のためだろうし、長男や次男は戦争のためかもしれない。それは描かれてはいないが、こんなところにもこの映画の奥深さはある。

 船釣りをしている課長(松村達雄)と課員(谷啓)はちっとも釣れないので、船頭(東野英治郎)の案内で釣りスポットを“タンク根”に移すことにする。なぜ、タンク根と呼ぶのか、その理由を船頭は話し始めるのだった。
 日永(ひなが)村で5年ほど前のこと、この村民は怠けもんで“どんだくれ”だったが、なかでも村はずれにある村いちばんの貧乏人一家は特別だった。転任してきた駐在の巡査(穂積隆信)が自転車で村を回ってみると、鳥の鳴き声をまねて羽ばたいている男(犬塚弘)に出会う。これが唖でバカの兵六。“聖白痴”の役回りである。その母親で耳の遠い“かなつんぼ”のばあさん(飯田蝶子)、そして乱暴者のサブ(ハナ肇)だった。
 丹羽の仁右衛門(花沢徳衛)は畑でヘッキリ石を動かそうとしている。そこへサブが来て言い合いになる。巡査は争いを止めようとするが、九作(常田富士男)によると二人の境界争いは年中行事だそうだ。
 たばこ屋の赤八(田部謙三)は昼間から女房のたね(小桜京子)とイチャついている。もと地主の仁右衛門の家で巡査は部屋で寝ている紀子(岩下志麻)を見る。病気療養中なのだった。農地解放で小作人に農地を分けて落ち目の地主・仁右衛門は評判の吝嗇家だった。住み込みのばあさん(武智豊子)が家事一切を仕切っている。
 仁右衛門が団子を買い、それを手土産にサブの家を訪れる。サブの境界の土地を2万円で買おうというのだ。珍しいこともあるもんだと、雨が降ってくる。母親は「亭主の残したものは売らねえことにしておりますだ。(金は)いまほどあれば不自由はねえですだ。耳は少々聞こえんほうが静かでようあります」と話にならない。団子を食った兵六が急に苦しみだす。毒でも入れたかとサブに責められて、仁右衛門は逃げ出す。外からのぞいていた村人たちが入って来て、郵便配達夫(小沢昭一)が背なかを叩くと、ノドにつかえていたモチが出る。
 秋祭りの始まるころ、紀子サァが入院していた北浜の病院の先生(高橋幸治)が歩いて訪ねて来る。そして紀子の病気はほぼ完治したと告げるのだった。許可が出て外へ出る紀子、彼女が歩く姿を見るのは村人にとっても初めてだった。「病み上がりの女は美しいのオ」と感心する赤八。ほんとに岩下志麻が美しい。彼女がまっさきに向かった先はなんと汚れに汚れたサブの家であった。
 紀子は、父の無理難題の行為をわびる。むかしの地主気質が抜けず偏屈になっている、哀れな年寄りだと思って勘弁して欲しいというのである。紀子は、病気をして以来、六ちゃんの気持ちがわかるの、病気になったとき、白鳥になって遠くに飛んでいく夢を見た、六ちゃんは昼間でも夢を見ているのねと言う。サブはすっかりどぎまぎしている。帰り際に紀子は、明日は床上げの祝いだから、サブちゃんたちも来てねと言う。
 村人たちが床屋(渡辺篤)に集まって噂話をしていると、サブが髪を刈りに来た。ポマードをこってりつけて、クリームまでぬった出来あがりを見て村人たち(田部、常田、天草四郎)は笑いをこらえるのに必死。
 翌日、背広を着て帽子をかぶったサブが屋敷に現れると、台所の手伝いの衆は爆笑!大部屋に行ってみるとサブの席は無い。無理やり割り込むサブ。紀子は「ここに置いて」と頼むが村会議員の市之進(菅井一郎)は「お前の一家とは格が違うんだ」と言う。弟の兵六が子供たちに笑われている。屋敷を後にするサブは後をついてくる兵六を殴る。村民はたばこ屋でサブを落ち着かせようとするが、酒が入ったサブは大暴れ。取り入れも終わった田んぼでみんなを巻き込んでの大騒動。
 器物損壊と障害の罪でサブが留守の間に、市之進はサブの母・とみに保釈や詫びのために金を貸す提案をし、土地を抵当の担保にしてメクラ判を押させ、結局土地を巻き上げてしまった。サブが起訴猶予で戻った。復讐を恐れて戦々恐々とする村人たち。しかし、何事もなかった。みんながサブのことを忘れたころ・・・
 春も近付いたある日、サブの納屋が動いて道をふさいでいると言う。村人が見に行くと突然、納屋が壊れて戦車(タンク)愛国87号が出てくる。仰天して、あわてふためく村人たち。駐在は本署に電話するが、相手は本気にしない。
 半鐘が鳴らされる。戦車は少年戦車兵だったサブが持ってきたものだろうと九作は推測する。
 縦横無尽に動き回る戦車。サブは市之進から土地を取り上げられたと訴えるが、村民は知らない。仁右衛門と結託して土地を取り上げたんだろうと推測。任右衛門の屋敷を戦車で壊すサブ。しかし、仁右衛門は知らない。市之進のはかりごとと分かって、サブは今度は市之進の家を壊す。
 戦車が走るが、サブの母親は知らずに種まきをしている。村人はお互いに責任を押し付けあっている。床屋を壊し、煙草屋を壊す戦車。郵便配達は戦車壕を掘って、戦車を落そうと計画。準備ができたところで予行演習をやろうとしたときに戦車が来てしまい、郵便屋や村人のほうが落ちてしまう。
 火の見櫓に登って鳥鳴きをしていた兵六が落ちて死んでしまう。サブに兵六の死を伝えようとするが、なかなか切り出せない。床上げの祝いの後、父親と喧嘩して家を出ていた紀子が戻ってきて、事件を目撃、泣きながらサブに六の死を伝える。お前たちが六を殺したと怒るサブ、紀子は「間違えて落ちたんじゃない。六ちゃんは鳥になっちゃったのよ」と言う。夕刻である。母親と一緒にリヤカーを引いて六の死体を引き取ってくるサブ。夜中に戦車の動く音がする。サブの家では母親が念仏を一心に唱えている。
 村人3人と駐在は戦車のキャタピラの跡を追いかけていく。北浜の病院では医者が戦車でサブが兵六を直してくれと来たと話す。しかし、兵六はもう死んでいた。死体は引き取れないと断られたサブは死体を戦車に乗せて去ったという。タンクの跡は海へ続いていた。既に海が痕を消し始めていた。海を見つめて呆然とする村人。
 船頭はタンクが海底にあった、三日ほどしてサブが帰ってきて、数日して母親を連れて村を出て行ったと話す。課員は村は変わったでしょうねと言うが、船頭はそう簡単に日永のもんは変わらん、忘れてしまっただ、いま「タンク道」を通るたびにサブを思い出すのは紀子サアくらいだと答える。

    映画川柳 「爆発す 戦後社会に 異議ありき」飛蜘 

[参考文献]
 四方田犬英彦「寅さん、無頼の零落」『日本映画と戦後の神話』(岩波書店、2007年)より
 “「馬鹿」と呼び習わされ、村落共同体から排除された弱者が、心中に積もらせてきた怨恨を何かの折に爆発させ、突然の大事件を引き起こしてしまう。共同体に属する者たちは互いに責任を擦り付けあい、卑屈なまでに「馬鹿」に迎合するとともに、彼を煽動しては見世物にうち興じる。ほどなくして馬鹿は挫折するが、共同体はあたかも何事もなかったかのように、相変わらず存続を続ける。山田洋次はこうした物語のいっさいを、完璧に外部に立って描写している。彼はのどかな農村地帯や素朴な農民といった、ノスタルジアに満ちた紋切り型の映像にはいささかも関心を示さず、彼らの卑屈さを意地悪く観察している。のちに記すことになるが、それはあるいは満州から引き上げて来てはじめて日本の村落共同体を目の当りにすることになった少年山田洋次が、かつて体得した眼差しであったかもしれない。『馬鹿が戦車でやってくる』の結末は、それでも皮肉なことに、魯迅が初期の短篇『故郷』の結末で記したあの有名な警句を連想させる。もとより地上に道というものはない。人が踏みしだいた跡に、道はできるのだ、という一節のことである。あたかもこの文章を冷笑するかのように、ハナ肇演じる無頼漢は孤立無援の戦いを権力者に挑み、その弟はすべて櫓のうえから文字通り鳥瞰しつつ、はかなげな人生を終える。戦後十数年にわたり密かに戦車を隠しもっていたというサブという人物の設定は、戦後の急速に変貌してゆく社会にあって取り残され、発言の機会も与えられないまま差別と屈辱に甘んじてきた者のルサンチマンがこのフィルムの主題であることを示している。と同時にそれは、黒澤明が『わが青春に悔なし』の結末で(組合に押し切られながら不本意にも)描いてみせ農村の民主化にもけっして揺らぐことのなかった、日本の農村の前近代的構造と、その内側で醸成されてきた差別の深さを、改めて観る者に考えさせる。
 
 もっとも八本にわたってハナ肇主演のシリーズを監督した山田洋次は、にもかかわらず、このシリーズからの転向を計ることになる。戦後社会の改革の皮相さを批判的に描くバーレスクを演出することをやめ、歴史的時間を越えて永遠に存在しつづけるユートピアの神話的映像の提示へと、方向の転換を選択する。『馬鹿』シリーズでは結局のところ回想という媒介を通してしか、物語に接近することができない。そしてそれは、高度成長のさなかにある一九六〇年代にはただちにアクチュアリティを喪失してしまい、フィルムが単純なノスタルジアに回収されてしまう。であるならばむしろ永遠なるノスタルジアを映像化するほうが望ましいのではないか。そこで彼は、『馬鹿まるだし』では安五郎の子分のひとりで、酒癖が悪くて騒動を起こす男を演じていた渥美清を主役に据え、ヤクザ映画そのもののパロディを撮ろうとする。こうして『男はつらいよ』が企画されることになった。“(p.121-122)

 DVD特典『山田洋次、自作を語る』(聞き手は鈴木敏夫もと山田組助監督)から、
 “団さんのエッセィに戦車なんかを盗んだ奴がいたという話があって、それをもとにした。
 撮影にあたって戦車をどうするかが最大の問題だった。アルドリッチが『攻撃』を作ったときは軍隊が協力せず貸さなかったんだね。そこで一台買っちゃった。
 我々には買う金は無い。中古の雪上車に鉄板で上を作って載っけた。お祓いしたね。
 どこか可愛いタンクにしようという狙いがあった。のんびりした田舎、農村の風景だが、暮らしてみると色んな風習がある。支配者の家を壊す、穴をあける程度だが、村人たちは溜飲を下げる。権力者に対する本当の批判にはなっていない。
 大江健三郎が面白かったと言っていた。安部公房に見ろと薦められたんだそうで。
 幸田露伴の短編小説に鳥になった知的障害者の少年がある。
 よくこんな映画を作ったな。若さだね、わけのわからない映画を会社もよくやらした。
 喜劇、ひとを笑わせるのは難しい。でも、喜劇は安定した集客力を持っていたからね。
 会社に無視される映画ほど後に残るんだね。”
2008年10月8日

DVD
いいかげん馬鹿

松竹
1964年

85分
 1964年は本作の前に『馬鹿まるだし』、後に『馬鹿が戦車でやってくる』を公開している。すごいエネルギー。
 タイトルバックは子供のクレヨン絵でBGMは少女がやや調子はずれに歌う「故郷」。脚本は山田洋次・熊谷勲・大嶺俊順、音楽は山本直純ではなく、池田正義。野村芳太郎監督・渥美清主演作品『拝啓総理大臣様』と同時上映。ドタバタがロング・ショットでとらえられる佳作。
 弓子(岩下志麻)のナレーションで始まる。昭和19年、東京から瀬戸内海の漁村・春ケ島へ疎開してきた少女・弓子は、ヤス吉と出会う。捨て子だったヤス吉を拾って育ててくれたのは源太爺さん(花沢徳衛)だった。ほどなく母が心臓麻痺で死亡、少女をいたずらっ子から助けてくれたヤス吉だったが、ある日、貝を見せに弓子を舟で沖の三四郎島へ連れて行った際に舟が流されて帰れなくなってしまい、大騒ぎに。さんざん源太に叱られたヤス吉は朝になると舟で沖へ出ていなくなっていた。みんなであちらこちらを探したが結局行方不明。
 それから十数年後、弓子(岩下志麻)が岡山大学への合格通知を受け取った日、成長したヤス吉(ハナ肇)はジャズ楽団コパカバーナを連れたオリエンタル・プロダクションの興行師として村へ帰って来た。源さんは音信不通だったことを怒る。ヤスがいつも口ずさむのは「故郷」である。
 村長・海神丸(殿山泰司)といがみあっている網元・竜王丸(石黒達也)が舞台のサリー(関千恵子)の踊りを裸踊りだとかみついて公演は大混乱。翌朝、楽団のマスターの浮気が発覚、マリーが包丁をふり回して村では明治以来の刃傷沙汰となる。駐在の巡査(犬塚弘)の裁定で争いは示談に、楽団の宿泊の払いはヤスにかぶされる。ヤスは“居残り”となってしまい、面白くないヤスは乱暴狼藉を働き、すっかり迷惑ものになってしまう。
 竜王丸の娘・友子(水科慶子)とヒロシ(荘司肇)は恋愛中。それを祠から見ていたヤスは囃し立てる。弓子がヤスに注意をする。ヤスの立場には同情していたのに悪い噂ばかり、もっとしっかりして欲しい、と。そして少女時代の島見学のときのおわびを言う。ヤスはすっかり恐縮。 
 蟹屋(谷晃)で働き始めたヤスは阪神工業株式会社の人事課長のふれこみで女子の就職斡旋に来た男(石井均)が、ヌードスタジオの客引きだったことを思い出す。怒って男を追い詰めると逃げる男は拳銃を発砲!拳銃の発砲なんて、村の歴史始まって以来の大事件。ヤスの評判は一躍上がる。自慢げに、村の青年たちに都会の模様をホラで話して、青年たちの心にすっかり都会へのあこがれを植え付けるヤス。
 源さんの弟の茂平(桑山正一)がブラジルから帰省。講演会で新天地ブラジルは人の言うことをよく聞くお利口さんではなく、むしろ乱暴ものを求めていると言う。村民はヤスに注目する。ヤスもまんざら悪い気はしない。
 一挙にブラジル行きを決めたヤス、役場へ戸籍抄本を取りに行って自分には戸籍が無いことが分かる。両親は不明、源さんも養子縁組の届を出していなかったのだ。
 そのことを隠してブラジルへ行くというヤスに、弓子は自分の赤い絹のスカーフを贈る。やがて、ヤスは港からブラジルへと出発していった。赤いスカーフを首に首にまきながら。
 半年後、密航青年として逮捕されたヤスの記事が新聞に。間違えて朝鮮行きに乗ってしまい、プサンで発見されたのだった。村人はヤスの失敗を笑う。
 沿岸漁業は不振の一途をたどっていた。
 さらに半年後、再び村に戻って来たヤス。一緒に汽車の中で会ったという釣り人(松村達雄)を連れていた。弓子はラジオドラマ「めぐり遇う君」で有名な作家・舟山和彦だと言う。友子が現在は村長をしている父親に伝えると、村長は助役(土紀洋児)や観光課長(川村禾門)と一緒に来て作家を大接待。
 翌日、海神丸が作家は偽物だろう、村民の税金を使うのは問題だとクレームをつけに来る。結局、巡査の案で、芸者の花代は役場持ち、宿屋代はヤス持ちという裁定がされる。またしてもヤスは割を食ったのである。
 しかし、ラジオから流れて来た「めぐり逢う君」で主人公の廻る舞台で春ケ島の名前が登場。やはり作家はホンモノだったことが分かる。弓子はヤスに報告、弓子が唱えた室生犀星の詩の一節“故郷は遠きにありて思ふもの、そして哀しく歌ふもの”がヤスを感動させる。ヤスはその詩を書いてもらう。村長らみんなはヤスに礼を言いに来る。
 すっかり、男をあげたヤスは春ケ島観光協会の職員になる。ロケ隊も来る。映画の撮影もある。島はたちまち観光地となった。デラックス・ホテルも建設され、思い出のケヤキの木も切られる。弓子はヤスに「この島はありのままが美しいのに」と話す。ヤスは船底にガラスを貼った水中観察船“ブラジル丸”を作り、弓子に見せようとするが、あいにく弓子は卒論準備で不在だった。翌朝、観光客を呼び込み、出航、最初は調子良かったが、座礁して船底のガラスが割れ、船は沈没。客はビショ濡れとなる。
 ヤスは岡山警察を経て神戸の海難審判所へ送られたらしい。何年もたたないうちに島は観光客で騒々しくなった。ヤスのアイデアだった水中観光船も実現している。一方、弓子は島の小学校の先生になっていた。いたずらっ子のキヨシ(小さい頃のヤスそっくり。同じ俳優が演じている)に手を焼いている。けれど、キヨシを叱っていると、弓子はヤスを思い出すのであった。
 源さんが弓子にヤスに会ったら先に逝くと伝えてくれ、漁師は畳の上で死ぬるのがいっとう幸せやと遺言。港に源さんが死んだということが伝わる。村民の間にはさほどの感情を引き起こすこともなく、無味乾燥に伝えられる源さんの死。。
 大阪へ一泊の修学旅行のとき、弓子は水中メガネをテキヤ売で売っているヤスに会う。再会の挨拶もそこそこに、源さんの死を伝える暇もなく、ヤスを兄貴呼ばわりする弟分と一緒に荷物をかついでショバ代で因縁をつけにきた組員から逃げるヤス。それからヤスには会っていないが、ひょっとすると今頃はブラジルに行っているかもしれない。「おしまい」のバックはブラジルで鉄砲うちをしている男の児童画だった。
 岩下志麻が高校生から小学校の先生までを、過剰演技でなく、率直にいきいきと演じている。春ケ島の旅情も感じられるわりに淡々とした作品。ヤスがいい加減なのはもちろんだが、毀誉褒貶する村民の無責任さも描かれている。 

   映画川柳 「ブラジルは 乱暴者の 天国か」飛蜘 
2008年10月7日

DVD
馬鹿まるだし
松竹
1964年

97分

 脚本・加藤泰と山田洋次、監督・山田洋次。原作は藤原審爾『庭にひともと白木蓮』。音楽・山本直純。
 この作品以前の山田洋次監督作品は監督デビューの『二階の他人』(1961年)と『下町の太陽』(1963年)。
 『馬鹿まるだし』は本格的な喜劇路線の第1作であり、ハナ肇を主演にした最初の作品という意味で重要な作品である。(ですます体でなく、である体で記録する)
 昭和24年のことである。芦津町。ヤスさん(ハナ肇)の思い出がナレーションされる(ナレーターは植木等)。
 寺の前の石段に座っている怪しい兵隊服の男が子供たちの注意を引いている。ヨソものはなんだか怪しい。けれども、子供たちが釘さし(地面に釘を投げ込んで刺す遊び)を始めると、男は遊びに加わって来て、それじゃあダメだ、こうするんだとお寺のぼん、清十郎に指南する、この男、そんなにワルではないのかもしれない。和尚さん(花沢徳衛)が男を本堂に泊めてやったことについて、女房(高橋とよ)は不満を言っている。時節柄、不用心なことだと言うのだ。最近、阿弥陀様が盗まれている、そのドロボウかもしれないよ、と。和尚さんはそんな風にも見えないが、と答えている。
 さて、その夜、本堂に泥棒(渡辺篤)が忍び込んできた。気づいたヤスは起きて、鐘を叩き、逃げる泥棒を追跡、和尚に間違って殴られても気にせず、隠れ場所(窯)もしっかり見つけて、ドロボウを取り押さえる。
 巡査(長門勇)も感謝、話を聞いてみると、この男、“シベリア帰り”。抑留されている夫の情報を問う夏子(桑野みゆき)の真剣な目に魅かれて、知らないとは言えず、葬儀の時お経をとなえていた男がいて、菅原と言ったか言わなかったかと、曖昧な答えをしてしまう。
 自分の熱病を直すのに清十郎に蛇を取ってこさせて、その蛇を切り裂き(場面には出てこない)、生き肝を飲み込むグロテスクな場面がある。腕に「男一匹」と刺青をしているヤス、生まれてこのかた、ケンカに負けたことはないと自慢する。侠客気どりである。
 “仁義”のきりかた(おひけぇなすって、てめぇ生国は関東です・・・)を清十郎に教える場面がある。けれども途中までしかできず、あとは壊れたレコードのような繰り返しになってしまう。後でハチ(犬塚弘)が舎弟いりを希望して仁義をきるときも、うまく受けることができない。つまり、ヤスさんは本当のヤクザではないのである。
 ハナ肇の口上は渥美清の寅さんのような立て板に水といったものではない。無理している、カッコつけている、と感じられる口調で、いかにもニセモノ感が出てしまう。もっとも、それは作品の欠点ではない。今作では後でハチがヤスに仁義の切り方を指導する場面もある。堤防の上で練習している二人をカメラがロングでとらえる。手前には道具を片付ける漁師たちが映しこまれている。二人を客観視する山田洋次の皮肉な視点に注目。森崎映画だと、こんな場面では、カメラは寄っていくはずである。
 御新造さんに惚れたヤスは雨の日に白モクレンを植える。ヤスはシベリアで旦那に会ったというのは不確かなものだと白状して寺を出る。いったんは身元も確かでない者を止めるつもりもなかった和尚さんが女房に意見され、別れの言葉の簡素さに心を動かされて、夏子に頼んで引き留めさせる。同居するようになったヤスの働きぶりは目覚ましかった。ヤスの愛唱歌は「お山の杉の子」である。
 サーカスで人気の力男に惚れて駆け落ちしてしまった主水(もんど)屋(三井弘二)の娘ムツ子を取り返しに日本刀を持って楽屋に乗り込んだヤス。赤い絵具をかぶったヤスの姿に恐れおののいた力男は女を解放する。
 噂に尾ひれがついて、やくざの腕を2、3本切り落としたことになってしまう。ヤスは夏子には実際のところを話した。力男が前科者だったため、銃刀法違反や恐喝の罪にも問われず、戻ってきたヤスは寺男をやめて、主水屋の手配で家を構える。弟子入りを志願してきた八郎(犬塚弘)を受け入れる。進駐軍からの闇物資を扱う二人。芸者小万(関千恵子)など女たちには好評の石鹸やクリーム、ナイロンストッキング等である。しかし、ヤスは夏子に意見されると闇商売をきっぱりやめた。
 ある晩、万やん(渥美清)が訪ねてくる。大工の宮さん(藤山寛美)が女房を取ったというのだ。ヤスとハチは宮さんに話をつけにいき、暴力をふるうが、嫉妬深い万やんの誤解だった。この件は酒一升で詫びを入れておさまった。
 町の製缶工場で工場長と組合側が対立。賃上げの要求で工場の煙突に登った伍助(桜井センリ)。困った主水屋と辰巳屋(石黒達也)は、ヤスに人命救助だと伍助降ろしを頼む。煙突に上ったヤスはこわくて降りられなくなってしまう。伍助に酒を飲まされて酔ったヤスを、かえって伍助が降ろす羽目になる。いい気になって経緯を夏子に報告したヤスは、夏子に叱られる。自分がしたことは間違っていた・・・。ヤスは会長(小沢栄太郎)にドスを片手に直談判、会長はすぐに工場長を解任、賃上げを認める。ヤスは一躍、英雄となる。“インターナショナル”(起て飢えたる者よ・・・)を歌い始めた労働者に合わせようとして、ヤスは“人生劇場”(やると思えばどこまでやるさ・・・)を歌う。やがて、全員が声をそろえて“人生劇場”を歌っている。
 家の構えを新しくしたヤスはハチに仁義を習う。
 町にやってきた旅一座が上演するのは「無法松の一生」。ヤスは、挨拶にきた興行主に、あっしは股旅もんが好きだね、赤城の山も今宵限り、と無知をさらす。けれども、舞台を見たヤスは引き込まれてしまう。「俺は汚れている」という無法松の最期のセリフに感動している。
 町長選挙が行われ、主水屋など旧勢力が敗北。賭場開きが災いして逮捕されてしまった旧勢力。ピストルを出されて泣いてわびたと噂されるヤスも刑務所に入ることになる。夏子は辰巳屋にヤスの仕事を依頼するが、仲を疑われるからよせと忠告される。夏子に惚れた中学教師(石橋エータロー)をハチが殴って、噂はますます広まってしまう。
 ムショからでたヤスに芸者の小万も冷たい。和尚から出入りを止められたヤスはハチに当たる。橋の上で二人は夏子に出会うが知らぬそぶりをする。ハチは「男をあげる日がきっと来る」と慰める。
 辰巳屋の娘お静(清水まゆみ)が工場の大学出の山形(安田伸)と婚約。ところが、怪しい三人組に誘拐されてしまう。三人組は裏山に立てこもり、ダイナマイトを投げつける。この三人組の素性は映画では、はっきりしない。「相手はきちがいだから」と言われている。解説では脱獄囚だそうだが。
 県警の到着を待つという警察の対応に業を煮やした辰巳屋たち、町民の誰かが「安五郎に頼もう」との声で勢いづき、ヤスの家へ。主水屋は現場は浄年寺の裏山で「お寺の奥さんも、えらい心配なさって、これは安さんに頼めと、なあ」、辰巳屋「うむ」。すっかり舞い上がったヤスはハチが止めるのを聞かずに助けに向かう。
 何も言っていない夏子はハチから事情を聞いて、ヤスを止めようとする。「なんとなくうまくいっていたことを、みんなにおだてられていただけなのよ、ほんとはね、みんなが思っているほど強くないのよ。それをよく考えなくちゃダメよ。自分の命も大切に考えるのよ」と、ヤスに本当のことを言ってしまう。「男一匹、頼まれたら後にはひけねんでござんす」とイキがるヤスに夏子「・・馬鹿ね」、ヤス「・・・馬鹿」。愕然として捨て身のヤスは刀を振り回して大暴れ。静子は隙を見て逃げる。山から降りてくるヤス、にっこり笑って手を振るヤスにダイナマイトが投げつけられて爆発。暗転。
 それから15年。テープレコーダーでお経を聞いている清十郎(植木等。東宝との契約でクレジットされていない)のもとにハチから速達。清十郎の嫁役は久里千春、部屋で掃除機をかけている。速達はヤスが池にはまって死んだという連絡だった。ヤスは夏子の献身的な看病で一命を取りとめたのだった。二か月後に夏子の夫の病死の通知が来、その後、夏子の嫁入り話が決まった。清十郎はヤスの一世一代の告白の夜のことを思い出す。
 夏子の嫁入り一週間前に縁側を訪れたヤス。夏子はヤスが植えた白モクレンが美しく咲いていることを教える。ヤス「そうですか。・・・あっしは汚れておりやす」(無法松のセリフである)、夏子「・・・泥でもついているの」。ご新造さんはヤスに券をもらったものの、「無法松の一生」を見に行っていないから、言葉の意味を知らないふりができる。けれども、本当はその意味をちゃんと知っていた。目が見えなくなったヤスは知らなかったが、夏子の目には涙があった。
 ヤスさんが死んだと告げると、静子は「ヤスさんて?」と、自分を助けてくれた男の名前を覚えていない。「惜しい男をなくしました。今の日本にはあんな大人物はいません。南無阿弥陀仏」と清十郎は、スクーターで走り去り、余韻を残さない終わり方である。
 ところで、ヤスが訪ねるとき、夏子はいつも繕いものをしたり、水まきをしたり、和服でいろいろ働いている。昭和の女のイメージ。 

    映画川柳 「おだてられ たよりにされて 忘られる」飛蜘 

[参考文献]
 四方田犬英彦「寅さん、無頼の零落」『日本映画と戦後の神話』(岩波書店、2007年)より
 “『無法松の一生』で主役を演じた坂東妻三郎が陰鬱で自嘲に満ちた表現を得意としていたとすれば、ハナの雰囲気には快活にして豪快なところがあった。それは彼を取り巻く閉鎖的で偽善に満ちた村社会のなかで、彼をみごとな道化に仕立て上げた。『無法松の一生』において、主人公が知らずと対決を迫られていたのは、富国強兵を採用して次々と前近代的なるものを切り捨てていった近代国家の日本である。『馬鹿まるだし』ではそれは、急速に変貌してゆく戦後社会であり、もっぱら過去を忘却することで高度成長へ向わんとする日本人の心象であった。『馬鹿』シリーズは、その後もハナを主人公に据えて、『いいかげん馬鹿』『馬鹿が戦車でやってくる』といったぐあいにシリーズ化され、一九六九年にいたるまで六年間にわたり続いた。ハナ肇はそこで一貫して、アナクロニズムを持ち味とする道化を演じている。彼の役柄とは、戦後日本社会の最底辺にあって、ときに戸籍ももたずに貧しく差別されて生きている人間であり、それが持ち前の豪快さによって村落共同体のなかで小権力を獲得した末に放ちゃくされてしまうといおうのが、大方の粗筋である。”(p.119-120)
2008年10月6日

DVD
男はつらいよ

最終回
(第26回)

フジテレビ
昭和44年
(1969年)9月
40分
 脚本・山田洋次、演出・小林俊一。
 散歩先生の墓で独白する寅。色々なことがあり、さくらは医師ヒロシ(井川久佐志)と結婚、冬子には結婚相手(加藤剛)が登場、ノボル(津坂匡章)も出現して。最近、元気がない寅さんのことをみんなが心配している。そこへ寅が帰宅、思いのほか元気な寅に会ってさくらはひと安心。ヒロシと一緒にアパートへ帰るさくら、寅と別れる。
 その晩こっそり寅はとら屋を出てしまった。寅は冬子のもとを訪れる。会話のBGMはショパンの“別れの曲”。「別れっていうと旅にんの歌でござんすかね。旅にんの気持ちなんてのは洋の東西一緒なんでござんすね」と寅。冬子は寅に謝る。寅は恐縮する。そしてその後3ケ月たった。
 さくらのアパートでつねと話しているときに、寅の腹違いの弟・雄二郎(佐藤蛾次郎)がやって来て大阪の天王寺で寅に助けてもらったこと、ハブ捕りに一緒に奄美大島へ行ったこと、ハブに噛まれて寅は死んでしまったことを話します。法事の心配をするヒロシにさくらはそんな心配はまだ早い、兄はきっと生きていると言う。その夜、さくらは赤ん坊のお土産を持って帰宅した寅に会う。外へ出た寅、“殺したいほど惚れてはみたが”と「浪花節だよ人生は」を口ずさむ寅を追いかけて行った寅は公園で消えてしまう。ヒロシはさくらに「おまえの中の寅さんはたったいま死んだんだ」と慰める。主題歌のエンディングが高まって幕。

    映画川柳 「ハブ毒で ひと肌ぬいで 金持ちに」飛蜘 
2008年10月6日

DVD
男はつらいよ

第1回

フジテレビ
昭和43年(1968年)10月3日

40分
 映画版に先立つテレビ版(白黒)の小林俊一の企画書には、渥美清主演・大型人情喜劇案・(愚兄賢妹)とあります。小林は山田洋次に原案・脚本を依頼。渥美の語りの面白さを知ったのは、山田洋次が小林と一緒に会ったときだとか。そこで、全編延々と幸福論を渥美がワンシーンで話す回がお正月頃にあったそうです。
 奇跡的に残っていた初回と最終回のテープを復刻。
 第1回目の脚本は山田洋次と稲垣俊。演出は小林俊一。さくら(長山藍子)のナレーションでドラマは進みます。おいちゃんとおばちゃんは、森川信と杉山とく子。急に寅が帰ってきたことで起こる騒動。使われている音楽に耳をすましてみました。
 東京駅のトイレの洗面所で寅が口ずさむのが“故郷”、寅が叔父夫婦のもとに帰ったときの挨拶の口上のBGMは“家路”、寅がとら屋の外で立ち小便しながら口ずさむのが“浪花節だよ人生は”。
 電子会社のキーパンチャー、さくらの恋人は道夫(横内正)。さくらの友達・冬子の父で中学の英語教師・散歩先生(東野英治郎)のセリフ「わしはモーツァルト以外ミュージックとして認めん」。
 寅はテキヤ仲間をとら屋に呼んで大騒ぎ。酔った連中が“さくら、さくら”を歌い、妹を呼ぶ。怒ったさくらと寅は言い争う。酔っ払いたちはキャバレーへと出かけていく。翌朝、さくらに詫びる寅。また旅へ出ようとする。
 とら屋を出て、先生の家に向かう寅のBGMは“男はつらいよ”。先生の娘・冬子(佐藤オリエ)に会った瞬間には歌詞“恋というやつァは、どえらいやつだ”という歌。突然に腹痛を起こして救急車で運ばれる寅。

    映画川柳 「テキ屋たち 近所迷惑 考えず」飛蜘
2008年10月4日

DVD
ごくせん

第1回
第2回

2005年

50分
 仲間由紀恵がやくざの家に生まれ、大江戸一家四代目の身分を隠して、高等学校の数学教師になる人気番組の第2シリーズ(2005年版)の第1回。脚本は江頭美智留、演出は佐藤東弥。製作は加藤正俊。
 黒銀学院高等学校の猿渡教頭(生瀬勝久)と山口久美子(仲間由紀恵)は旧知の間柄。保育園の園児を指導していたヤンクミは保護者の抗議でクビになり、黒銀学院高へ赴任。落ちこぼれクラス、3年D組の担任となり、卒業までの3ケ月を任されます。クラスのリーダー矢吹隼人(赤西仁)と激しい喧嘩後、登校しないことを条件に卒業を約束された実力者の息子、小田切竜(亀梨和也)をなんとか登校させようと、30万円を稼ぎ出して提供したり、仲間のチンピラを成敗したりと、活躍が始まります。“高校生活の思い出も無い、将来の夢も無い”生徒に怒るヤンクミ。ツッパったり、引いたり、反省したり、弱気になったり、相手や状況に応じてくるくる変化する仲間が見どころです。第1シリーズを見たかったのですが間違えてレンタルしてしまいました。
 第2回、演出は大谷太郎。ヤンクミはOYND(小田切・矢吹・仲直り・大作戦)作戦開始。ひとつ窯のメシを食う調理実習のつもりが包丁を持たせるのは危ないというので、サッカーに。矢吹からタイマン勝負を挑まれたヤンクミ。教え子とタイマンなんてと気が進みません。学校裏の河川敷では目立ちすぎます。通りがかった警官を利用して「(みんな)逃げろ!」。神社で勝負したヤンクミは矢吹に勝ちます。「お前より喧嘩に強いやつはいくらでもいる。人には自分にとって守れるものさえあればそれでいいんだ」とヤンクミ。
 荒高のアタマに決闘前に竜が詫びを入れたのは、母親のために退学を恐れた武田の相談を受けたからと分かり、荒高の挑戦を一人で受ける矢吹。加勢する小田切。荒高生の集団にボコボコにされた二人を救うのは・・・・。

    映画川柳 「タレコミか 喧嘩のネタが オカミから」飛蜘

シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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