Suzuki Media / Horai Tsushin
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No.9 -2000.10.26


 4か月以上ぶりです。大変お待たせしました。たぶん今度は、それほど間をおかずに第10号をお届けできると思います。信じる人は少ないでしょうけど(笑)

 タイトルにもなっている「スズキメディア」を拡大して、ホームページやメールマガジンの作成支援やCD-ROMの制作を始めました(詳しくは、最後のほうをご覧ください)。フリーランスになって以来、編集者としての仕事は少なくなっていましたが、今後「デジタル編集者」としてホームページやメールマガジンの仕事を増やしていければと思います。

 しばらくフリーライターの仕事ばかりやっていて、やっぱり編集者の仕事も懐かしくなる今日この頃。ホームページを作りたい、メールマガジンを始めたいという方はご相談ください。ボランティア、または格安でお引き受けします。

//////////IT革命のスピードは「情報格差」を飲み込むかもしれない//////////

    インターネットショッピングの普及で、「ネットなら安くなる、便利に買える」のが広く浸透してきた。政府はIT(情報技術)推進を唱えるが、実は一般の人の意識はもっと先まで進んでいる。情報格差(デジタル・デバイド)が新しい弱者を産み出すと言われるが、それは、今まで強者の立場にいた人たちが引きずりおろされるIT革命なのかもしれない。

 2000年8月12日の朝日新聞に「ネットで買えば安くなる」という記事が載った。内容は、インターネットを通じて買い物をすると安くなる商品が増えているというもの。航空会社2社が、インターネットでの予約に限って国内線航空券の割引サービスを始めたこと、自動車保険でもインターネット割引が始まっていること、全国4500のホテルが予約できる「旅の窓口」というサイトでは、7割ほどのホテルが割引になっていることが紹介されていた。

 「旅の窓口」(http://www.mytrip.net/)は僕もよく使っている。
 仕事やレジャーでホテルや旅館を探して予約するのは、手間がかかって仕方がない。ぎりぎりになって予定が決まると、とくに混んでいる時期など宿を探すのは大変だ。ガイドブックを見ながらホテルや旅館に電話をしても、空いているところを見つけるまでには、時間も手間もかかる。満員で断わられると、向こうは悪くないのだけれどこちらはそのたびに気持ちが暗くなる。
 旅行会社に出かけていけば、係りの人があちこち電話をかけて宿泊先を確保してくれるが、それでも、往復の時間と応対にかかる時間はけっこうなものだ。もちろん手数料もかかる。
 インターネットでも、ホテルや旅館の予約ができるらしいから、そろそろ便利なシステムができているんじゃないかと、ヤフーで検索してみた。ホテルのサイトを検索して、そのなかから選ぼうと思っていたが、「旅の窓口」という、便利なシステムがあることをそのときに知った。

 住所・氏名・メールアドレス・電話番号などを書き込んで、会員登録するだけで、誰でもその場でホテル・旅館の検索と予約ができる。使い始めたころは、宿泊料割引よりも、自分の行きたい場所を入力して検索して、宿泊可能な宿をピックアップできるのが、便利だと思った。何度も宿に電話をして、そのたびに断わられる苦痛がなくなるのだ。時間も節約になる。
 日にちと場所を入れるだけで、宿泊可能なホテルが一覧できる。それぞれのホテルについては、外観だけでなく室内の画像も見ることもできるし、これまでに泊まった会員の感想も読める。

 使っているうちに登録するホテルや旅館が増えてきて、ますます使いやすくなってきた。そして、気がついたのが、宿泊料金の割引をしているホテルが多いことだ。東京から福島に引っ越して以来、仕事で東京に行く機会が多くなり、ホテルの宿泊料金は気になる。なるべく安いところをと公共の宿泊施設を探したり、いろんな関係で割引のあるところを探すけれど、「旅の窓口」での割引はそのなかでも一番大きかった。
 インターネットで予約するだけで、こんなに割引して大丈夫なの? というホテルもけっこうある。先述の朝日新聞によれば、
「部屋の稼働率を上げたいホテルは、一覧の中で目に留まるよう、割引率を競い合っている。東京都内のホテル支配人は、『加入していなかった頃に比べ、稼働率は約一五%上がった』」。
 登録しているホテルは「旅の窓口」に宿泊料の6%を払っている。さらに割引もしているから、ホテルの負担は大きい。それでも「旅の窓口」に登録して割引するのは、稼働率の向上というそれ以上の得るものがあるからだろうか。あるいは、インターネットの波に乗り遅れまいとする焦りなのかもしれない。

●100本のバラの花を3000円で買う

 「ネットで買えば安くなる」のは、インターネットのオンラインショッピングに広く当てはまる。
 本や雑誌が購入できるホームページサイトなら、日本だと再販制があるから、本自体の値段は下げられないが、配送料無料とかポイントでの割戻し制度など、実質的な割引に当たるサービスを考えている。外国の書店なら、3割引、5割引、抽選でプレゼント、海外でも無料で配送など、各ショップが競争している。
 僕がよく利用するのは、オレゴン州のポートランドにあるパウエルズブックス(http://www.powells.com/)だ。ここは、船便だと、日本への送料も無料になる。2、3週間から1か月程度かかるが、本の価格のみで手にはいるのはうれしい。アマゾンコム(http://www.amazon.com/)よりも在庫が少ないので、見つからない本もあるが、急がない本の場合はたいていここを利用している。

 ビッグフラワーという生花のディスカウントショップ(http://www.bigflower.co.jp/)では、バラを初めとした生花が驚くほど安い価格で買える。ここの花が安いのは、ラッピングもせず、市場から入ったそのままの状態で、50本、100本とまとめて売るからだ。バラの花百本が時には、1000円から2000円ということがある。
ただし、超低価格の商品はホームページに載るとすぐに売れてしまう。買い手のほうも競争だ。
 バラの花100本を3000円で買ったことがあるが、3000円なら街の普通の花屋さんでラッピングしてもらえば、10本程度の花束だ。100本のバラの迫力というのは、やはり実際に手にしてみないとわからない。そっけない再利用の段ボールに入れて送られてくるだけだし、色も選べないが、花好きの人なら一度試してみるといい。
 他にも、秋植えの球根がまとめて安く手に入ったり、探していくと、お得ホームページはいくらでもある。今は、日本でもほとんどの商品がインターネットショッピングで扱われるようになっている。

●商圏が町内から全国に拡大

 割引とは別の側面だが、インターネットの利点を活かしたユニークなショップも多い。
 はらだポップ堂(http://www.harada-pop-do.co.jp/)は、スタンプとはんこのオンライン店。専用のソフトをダウンロードして、自分でデザインして送信すれば、スタンプが配達されてくる。価格は市価の半額以下だ。僕も、東京から福島へ引っ越したときには、住所のスタンプをいくつも注文した。
 この店は山梨県にある。インターネットがなければ、99%関わりのなかった店だ。それが、インターネットのおかげで、福島と山梨の間で距離を意識せずに利用できる。
 それまでスタンプというと、デザインはお店任せのお仕着せのフォーマットが一番安くついた。独自のデザインということになると、特別の料金を払わなければならない。専用のソフトでデザインするので、ある程度の制限はあるが、自分の気に入ったデザインでしかも安くスタンプが作れるのはありがたい。
 店にとっても、インターネットを使うことで、普通ならひとつかふたつの市町村に限られていた商圏が、日本全国に拡大できる。

 転居の挨拶状や暑中見舞い、年賀状も、レイアウトを選んで、文面を送れば、すぐに印刷して配達される。こうしたサービスをしている店はインターネット上にあるかもしれないが、僕が見つけたのは、NTTの電話帳「タウンページ」でだった。最初、はがき印刷をやっているオンラインショップがないかインターネットで検索したが、見つからなかった。
 それで、普通に「タウンページ」で探してみると、福島県船引町にインターネットでの申込みを受付けている吉田印刷(http://www1.ocn.ne.jp/~yyi/)という店があって、URLも載っていた。船引町は車で1時間くらいはかかる。取りに行くのは大変だ。でもインターネットなら距離は関係ない。
 吉田印刷は、インターネットではがき印刷が注文できる。文案をメールで送れば、ファクシミリで校正が送られてくる。それに直しを入れて送り返して、双方OKとなれば、あとは印刷されたはがきが郵送されてくる。請求書が同封されているので、銀行振込すればいい。
 おそらくインターネットを始める前は、吉田印刷の商圏は船引町のなかに限られていただろう。それが、インターネットのおかげで、僕の居る福島市、さらには全国にまで広がった。

●ノウハウやアイデアのない中間業者は淘汰されていく

 インターネットのオンラインショッピングは、買う側、売る側、双方に、さまざまな利益を与える。しかし、その一方でさまざまな軋轢《あつれき》も生まれている。
 先述の朝日新聞の記事によれば、航空会社が始めたインターネット割引には、旅行会社からの反発が大きいそうだ。これまで国内航空券の8割以上は旅行会社を通じて販売されていた。インターネットを通じた販売では、航空会社から利用者に直接販売されるから、旅行会社は手数料収入が減ってしまう。旅行会社のホームページでの販売を要求しているが、今のところ、試験段階という理由で航空会社は応じていない。
 インターネットでの販売では、生産者(この場合は航空会社)と消費者(飛行機の利用者)が直接売買することになる。間の仲介をする旅行会社の取り分がなくなるから、その分安くなるという面があるが、仲介をしてきた業者は存在価値が問われる。
 パック旅行の企画、複数の交通機関や宿泊施設を組み合わせる必要のある複雑な個人旅行の手配など、ノウハウとアイデアを活かした営業ができなければ、旅行会社は成り立っていかない。インターネットでのショッピングが普及すると、今までの単に商品を右から左へ動かしていただけの仲介業は、成り立たなくなるだろう。そうしたことは、コンピューターが変わってやるようになる。

 朝日新聞の記事には、「電子商取引に詳しい東大社会情報研究所、須藤修教授の話」としてコメントを寄せていた。
 日本の多くの企業はまだ体制が整っていないことや、流通への気兼ねからネットでの安売りには踏み切れないこと、一方米国では、価格の安さで人気を集めるサイトが多いことを上げたあとで、次のように結んでいる。
「企業の体制が整い利用する消費者も増えれば、これまで注文受け付けなどを担当していた従業員がほとんどいらなくなる。そうした間接部門の雇用者の九五%は必要なくなるという試算もある。そうすれば、製品の価格は下がるだろう。
 しかし、社会全体で見ると雇用が減るなど悪い面もある。IT(情報技術)の時代は貧富の差が広がり、富める者は安く買い、貧しい者が高く買わされる情報格差(デジタル・デバイド)が問題となっていくだろう。」

●「情報格差」は貧富の差を広げるのだろうか?

 新聞のコメントというのは、記者が電話で取材してまとめるものだから、須藤氏の意見が十全に反映されているとは言い切れないので、ここで彼の発言を批判するつもりはないが、僕がここで思うのは、貧富の差が広がるという、情報格差(デジタル・デバイド)のことだ。
 ITの進展、つまりコンピューターとインターネットが広く普及することによって、確かに得する人と損する人は出てくるだろう。しかし、その様相は、富んだ者がよりリッチになって、貧しい者がよりプアーになる、つまり、貧富の差がさらに広がる、というのは違うと思う。
 産業革命のなかから市民階級が台頭したように、今の貧富の差が、ひっくり返る機会になるはずだ。つまり、貧者・高齢者・身障者など弱者にメリットが大きいのだ。情報格差(デジタル・デバイド)が問題となる、という意見は、現在の富者である体制側からのものではないかという気がしてくる。

 情報格差(デジタル・デバイド)というのは、コンピューターとインターネットへのアクセスの格差だが、コンピューターは数十万円、安いものなら10万円以下で手に入れることができる。インターネットへの接続も、海外からさまざまな圧力などで、郵政省とNTTもコストの低減を進めて、ようやく電話料金を気にせず使えるところまできた。
 となると、今立ちはだかっている障壁というのは、パソコンやインターネットの使いにくさということだが、これもある程度まで解消されてきたし、ユーザー側もさまざまな努力をしている。
 『おばあちゃんのパソコン指南』(大川加代子著 筑摩書房刊)は、東京・世田谷で「コンピューターおばあちゃんの会」という高齢者のパソコンとインターネット習得をサポートするボランティア組織を始めた70歳のおばあちゃんが書いた本だ。
 これを読むと、最初の講習会に150人も集まって、半分近い人に返ってもらったとか、お年寄りのパソコン・インターネットに対する意欲の大きさが伝わってくる。パソコンは苦手と言っている人は、自分の覇気のなさに恥ずかしくなるはずだ。
 何も、政府がパソコン講習会の費用を補助をしなくても、ITへの意欲は大きいのだ。講習会の費用補を補助しても、潤うのは、講習会を開いている企業だけだろう。それよりも必要なのは、パソコン減税、「コンピューターおばあちゃんの会」のような、パソコン普及を進めるボランティア組織のバックアップ(パソコンの無償貸与、インターネットの無償利用)といった政策だろう。

 IT革命は、必ず今の弱者・貧者・高齢者に大きな力を与えるものになる。情報格差(デジタル・デバイド)などと言っているのは、富める側の論理ではないかという気がする。いわば、弱者に引きずりおろされようとしているかつての強者の焦りなのだ。この問題は、まだまだリサーチも議論も不足している。今こそ、もっと幅広い議論を進めるべきときだろう。

 この原稿はMSNジャーナル(http://journal.msn.co.jp/)に掲載されたものです。MSNジャーナルでは、http://journal.msn.co.jp/worldreport.asp?id=001025suzuki&vf=1に掲載されています。
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●版画家の小野琢正さんが、2001年にイギリスで「HENRO(遍路)展」を開きます。
詳しくは、
http://www.asahi-net.or.jp/~hh5y-szk/ono/henro.htm

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編集と発行:鈴木康之/SUZUKI Yasuyuki
suzuki.yasuyuki@nifty.ne.jp
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