Suzuki Media / Horai Tsushin
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No.3 -2000.1.21


1か月以上ぶり。すっかり遅れちゃいました。週2回発行などと言っていたのが恥ずかしい限りです。
今回の原稿にあるように、ポートランド行きで、年末忙しかったのと、年明け不覚にもインフルエンザに罹ってしまって寝込んでいたのが理由です。
今年の風邪は特に強力なようで、咳はあまりなかったのですが、身体がだるくて仕方がないという状態がしばらく続きました。
まだまだ流行っているようですので、みなさんもお気をつけて。
これから、何とか軌道に乗せていこうと思います。


////////////ポートランドへ行こう////////////


 12月23日から1週間オレゴン州のポートランドへ旅行した。ポートランドと言ってもすぐにはイメージのわかない人も多いかもしれない。オレゴン州は、アメリカの東海岸、北のワシントン州(州都はシアトル)と、南のカリフォルニア州の間にある。ポートランドはその州都。オレゴン州内では、一番北に位置していて、すぐ北にあるコロンビア川を越えれば、ワシントン州だ。都市の位置関係でいうと、シアトルとサンフランシスコの間になる。

 日本人旅行者に人気のあるアメリカ東海岸だが、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトルに比べたら、ポートランドを訪ねる人はごく少数だろう。観光案内には、一応何ページかが割いてあるが、それほど詳しいというわけではない。最も詳細な紹介があって今回の旅行の役に立ったのは、「地球の歩き方・アメリカ東海岸編」だった。

 それらのガイドブックから得たポートランドに関する知識は、6月頃のローズ・フェスティバルが一番のイベントということ(今回は冬なので関係ない)、世界でも最大規模の書店、「パウエルズ・ブックス」があること、秋から春にかけては雨が多いが、それほど寒くはないこと(緯度でいうと稚内くらいになるが、暖流が流れているので暖かいらしい)、ただし、クリスマスの時期にはいい天気になることもあること、などだった。
 ポートランドからは、フッド山という3500メートル級の山が間近に見え、そこではスキーもできるらしい。オレゴン州内の一番の観光ポイントとしては、車で南に4〜5時間走ったところに、クレーターレイクという、一度は見たほうがいいという絶景の地があるらしいが、冬なのでそこまで行くのは難しそうだ。

....靴を脱がずに家の中を歩き回る

 今回、なぜポートランドかというと、うちの奥さんの知人が、ポートランド在住の友人(アメリカ人)に会いに行くのに夫婦でくっついて行ったのだ。向こうで一緒に大学生活を送ったかなり親しい友人だそうで、厚かましくも5日間ご自宅に泊めていただいた。
 今まで、アメリカに旅行したのは仕事も遊びも合わせて5回。シカゴの日本人の友だちのところに遊びに行ったりとか、海外在住の日本人を訪ねたことはあるが、アメリカ人の家に泊まるのは初めての経験だ。
 一度、カナダのトロントに行ったときに、日本人とカナダ人の夫妻の家に遊びに行ったことはあるが、そこは靴も脱いで上がる形で、暮らしぶりは日本と同じ。玄関で靴を脱がずにそのまま土足で家に上がるようなアメリカ人の家に泊まるのは初めてで、まずそのことを楽しみにしていた。

 靴を脱がずに家の中を歩き回るというのは、アメリカ映画でも見ているし、イメージとしては理解していたが、実際に体験してみて、肌触りとしてわかった感じがした。日本人の感覚からすると、やはり誇りっぽくて清潔とは言えない。泊めてもらった家の人は、日本で生活をしたこともあるので、玄関のところで靴は脱いで靴下で歩き回っている。僕らもそれに倣ったが、お客の多くは、靴は脱がずにそのままだ。当然、靴下は数時間で真っ黒になる。
 やっぱり西洋人の感覚にはついていけないなと思ったが、でも、それ以来、映画に出てくるアメリカの家庭のシーン。例えば、台所にテーブルがあって、親たちが食事をとっていて、子供が回りを駆け回っているみたいなシーンが、リアリティを持って見られるようになった。
 旅行には、こういう面白さがある。小説だと、いくら詳細に情景が描写されていても、実際にその地方へ行ったことがなければ、正確に思い描くことは難しい。どうしても、自分の知っている風景に当てはめてしまう。僕も、イギリスの湖水地方に行くまでは、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』の湖と山の情景を、裏磐梯や富士五湖のように思っていた。
 映画で靴のまま歩き回るシーンを見ていても、やはり実際に自分がそれを体験してみるのは違うものだ。もちろん、図書館や病院など建物の中は靴で歩き回っているし、ホテルの部屋にも靴のままはいるし、レストランでは靴を履いたまま食事をするが、やはり普通の家の中で靴を履いているというのとは違う。それが、肌の感覚としてわかった気がする。この感覚わかってもらえるだろうか。

....書店と中古レコード店

 僕は本やレコードが好きで、書店やレコード店だったら、何時間いても飽きない類の人間だ。だから、海外旅行は、やはり言葉の理解できる英語圏に旅行するのがいい。ワインとか料理のことを考えるとフランスやイタリアにも行ってみたいが、やはり言葉と、本屋に行く楽しみがないことを思うと、二の足を踏んでしまう。
 しかし、アメリカに5回も足を踏み入れているにも関わらず、最近はあまり行く気がしなくなっていた。仕事なら仕方がないが、個人の旅行では最近はカナダを選ぶことが多い。理由は、アメリカでは、何となく身の危険を感じるからだ。もちろん、危機的な状況に陥ったことはまだないが、こうやって歩いている人の中に、拳銃を持っている人がいるんだな、と思う気持ちが落ち着かない。
 取材でダラスの企業に行ったときに、「ピストルを保持して構内に入ることを禁じる」という掲示があって、「そうか、みんな持っているんだ」と、実感したこともある。
 その点、カナダは安心だ。拳銃の保有は、日本と同じように禁止されている。治安もアメリカに比べるとかなりいい。

 ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコというアメリカの大都市には、そこにしかないものもたくさんあって心惹かれるけれど、わざわざ危険を冒してまで行くことはないかなと、思うことが最近は多くなっていた。

 それが、今回は、知人の誘いもあってポートランドに行くことになったわけだが、アメリカについての認識を改めることができた。アメリカに何度も行っていたり、住んだことがある人には、目新しい話ではないだろうが、この場でみなさんにご報告しておきたい。

 ポートランドはこぢんまりとした素敵な都市だった。人口は50万人弱というから小さくはないが、それほど大きいわけでもない。もちろん、同じ東海岸のシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルスに比べれば、ずっと小さい。
 今回の滞在では、冬ということもあって、郊外に出かけたのは一度だけ、あとはほとんどダウンタウンやショッピングモールでの買い物に時間をかけていたが、ポートランド程度の街の大きさというのは、あちこち歩き回るのにちょうどいいサイズだ。暗くならなければ、治安についてもあまり心配しなくていいらしい。
 泊めていただいた家の方は、「強盗などよりも、未成年の銃の不法所持による、校内での乱射事件とか、今はそっちのほうが問題」だと、話していた。

 アメリカはどの都市でも、デパートがあり、巨大なショッピングモールがあり、これも巨大なスーパーマーケットがある。ダウンタウンには、書店や文具店やレコード店などの専門店もある。これらを訪ねるのは、旅行の楽しみのひとつだけれど、ポートランドでは、それを十二分に満喫することができた。
 もちろん、サンフランシスコやロサンゼルスでも可能だろうけど、あそこまで大きくなると、歩き回ってショッピングするのは難しい。それに、ここから向こうは危ないから足を踏み入れてはいけないとか、注意事項が多くて疲れる。ニューヨークは歩いて回れるけど、やはり常に緊張していないといけない。

 加えて、ポートランドには、「パウエルズ・シティ・オブ・ブックス」という、世界でも最大規模という巨大な書店があった。この書店については、別に詳しく書くつもりなので、ここではこれ以上触れないが、本好きなら、そのためだけに、ポートランドに行っても惜しくないことは保証します。

 それにこれは『地球の歩き方』の受け売りだから、どうかわからないけど、ポートランドにあるホーソン通りは、「楽器店や中古レコード店が多く、お店の人の話では、日本の中古レコード店から多く買い付けにやってくる」そうだ。
 ここにも行ってみたが、確かに、大きな中古レコード店がいくつかあったし、高い壁いっぱいに、ギターをディスプレイした洒落た楽器店もあった。奥はライブスペースになっていた。ロサンゼルスでも、中古レコード店に何軒か行ったことがあるし、新品のCD店にはどの都市でもいくが、こんなにレコード店がたくさんあるところはないという印象だった。予告ばかりになるが、音楽関係の話もまた別の機会に書くことにします。

....ポートランドへ行こう

 結論として言いたいのは、ポートランドは、僕にとって何度も訪れてみたい街になったということだ。僕のような、音楽の大半(ロック、ソウル......)、本、映画、など、アメリカ文化の影響を大きく受けて育った人間には、アメリカという国は強力な魅力がある。
 ただし、今まで旅行した感じでは、面白くはあるけれど、行って楽しいところではない、快適ではない、安心して過ごすことはできないという印象だった。
 それなら、このインターネットの時代、わざわざアメリカに出かけなくても、十分だ。洋楽のレコードなら日本でも簡単に手にはいるし、インターネットを使えば、かなりCDでも1週間ほどで届く。インターネットで知り合った洋楽ファンと交換するという方法もある。洋書についても同じだ。
 まあ、英語もできるわけではないし、アメリカには縁がないだろうなと思っていた。しかし、ポートランドに行ってちょっと考えが変わった。

 ポートランドなら、しばらく住んでみてもいいなと思った。ニューヨークは刺激的なことがいっぱい詰まっていると思うけど、暮らしたら疲れてしまう気がする。ロサンゼルスは広すぎる。サンフランシスコは魅力的だけれど、やはり大きすぎる。
 ポートランドは、知り合いのアメリカ人の家に滞在して、彼らに案内してもらったということもあるだろうけど、手頃な大きさで、アメリカでいつも持ってしまう緊張感もそれほど感じなかった。

 個人的な話になってしまったが、僕が言いたいのは、アメリカ西海岸へ行くなら、「ポートランドへ行こう!」ということだ。初めての海外旅行で、アメリカ西海岸、ロサンゼルス、サンフランシスコへ行くという人もいるだろう。
 ロサンゼルス、サンフランシスコは、観光地としてはいい都市だ。ロサンゼルスなら、ディズニーランド、ユニバーサルスタジオと遊園地も充実しているし、サンフランシスコは都市の景観が素晴らしい。
 東海岸だけじゃなくて、アメリカには観光地として優れている都市がたくさんある。ニューオリンズ、ナッシュビル、メンフィス、ニューヨーク、ボストン、僕が行ったことがあるところでも、もう一度、二度三度行ってみたいところが多い。

 しかし、最初にアメリカに行くならポートランドを奨めたい。西海岸だから、航空運賃もそれほど高くないし、9時間くらいで着くから疲労も少ない。日本からはデルタ航空の直行便もある。
 それほど大きな都市ではないが、買い物関係は一通りそろっている。ナイキの本社がポートランドの郊外にあって、ダウンタウンにもナイキの直営店がある。コロンビア川は、ウィンドウサーフィンで有名なところで、フッド山はスキーやスノボーが盛んだから、アウトドア関係もいろんな店がある。
 市内は、徒歩でもそれほど苦労なく回れるし、MAXという路面電車やバスの便もいい。中心部のエリアでの乗り降りなら無料という特典もある。
 郊外に足を伸ばせば、フッド山、コロンビア渓谷、オレゴンコースとなど、大自然を満喫できる見所も多い。
 オレゴン州は、まだ日本にはあまり知られていないが、ワインの名産州でもある。特にピノノワールという品種の生育に適していて、いいワイナリーがあるそうだ。今回の旅行でもワイナリーまで行く余裕はなかったが、何本かワインを買ってきた。

 どの国に行くにしても、多くの場合、最初は首都とか大都市に行くものだけれど、それではその国の本当のところはわからないような気がする。大都市だと、3泊5日、4泊6日くらいでは、何が何だからわからないうちに終わってしまうけど、ポートランドなら、その程度でも、都市全体の感じがつかめると思う。
 もちろん、アメリカのもっと小さな田舎町に行ってみるのもいいだろう。ぼくも、東海岸のメイン州とか、一度行ってみたいものだと思っている。でも、アメリカを知るとっかかりには、ポートランドを奨めたい。
 僕もまだ一度行っただけで、ポートランドを極めたわけではない。今回は、買い物や書店、レコード店回りが中心だったので、博物館や美術館には行かずじまいだった。ポートランドには、トレイルブレーザーズというプロバスケットボールリーグNBAの強豪チームもある。
 今回は、冬だった。次は、春か夏か秋か、暖かい季節に訪ねてみたいと思っている。


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ポートランドとオレゴンについての観光情報は次のページにあります。
ポートランドに住む日本人の方が個人的に作ったページですが、写真はきれいで、情報も充実しています。
http://www.europa.com/~jun/


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編集と発行:鈴木康之/SUZUKI Yasuyuki
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