Suzuki Media / Horai Tsushin
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No.15 -2002.8.23


 ずいぶん久しぶりになりました。前回の発行は2月。半年ぶりです。昨年8月〜12月は、オレゴン州のポートランドに滞在して、ホームページに日記を連載していたこともあって、蓬莱通信まで手が回りませんでした。福島に戻って、すぐ発行すればよかったのですが、生活のリズムも変わって、何となく延び延びになっていました。
 今回書いたような事情で、モンゴルに出かけていたりということもあります。懸案の書き下ろしの単行本に時間を取られていたというのもあります。(インターネットの英語サイトについて解説した単行本は9月か10月には三省堂から出版できそうです。詳しくは、また蓬莱通信でお伝えします)
 今回の原稿で取り上げた日本センターについては、このあと、ベトナム、ラオス、カザフスタン、ウズベキスタン各国にも行く予定があります。各国のインターネット事情について、お伝えできればと思います。
 できれば週1回くらい配信したいと思っています。期待しないでお待ちください。

////////////モンゴルのインターネット//////////////////////////////////////


 3月18日から25日まで一週間、モンゴルの首都ウランバートルに滞在した。観光ではなく、インターネットの調査のためだ。
 ウランバートルに、日本からモンゴルへの無償援助でできた「モンゴル日本センター」という施設がある。モンゴル総合大学の構内にある二階建ての建物で、図書館(インターネットへのアクセスもできる)、セミナールームなどを備え、広く一般に公開されている。日本語とビジネス二分野のセミナーのほか、シンポジウムや文化交流事業などが開かれる予定だ。ぼくが行った三月にはまだ準備中だったが、六月には開所式があり正式にオープンしている。

 「日本センター」は一般にはあまり知られていないが(僕もこの仕事が来るまで知らなかった)、モンゴル以外にも、ベトナム、ラオス、カザフスタン、ウズベキスタンの合わせて五か国、六か所に設置されている(ベトナムは、ホーチミンとハノイの二か所)。今後カンボジア、ミャンマーにも、開設の予定がある。
 イメージとしては、東京にある日仏会館やドイツ文化センターを考えるといい。ただし、モンゴルをはじめ、アジア各国にある日本センターは、文化面だけでなくインターネットやビジネス面での交流に力を入れているのが特徴だ。

 僕がモンゴルで行ったインターネットの調査は、この「モンゴル日本センター」が将来開くホームページに関するものだ。モンゴルは今インターネット創生期で、インターネットへの関心は大きい。それに対応して、「モンゴル日本センター」ではインターネットに力を入れていく方針だ。
 そのために、図書館にはインターネットにアクセスできるパソコンを五台設置する。セミナールームにも十数台のパソコンがあるので、そのインターネット接続についても考える。センター内の職員のためのインターネット接続も考えないといけない。

 何だ、今どきインターネット接続をどうするかなんて簡単じゃないか、わざわざ調査の必要があるのかと思うかもしれない。日本国内なら、インターネットでちょっと調べたり専門誌に目を通せば、インターネット接続をどんなものにしたらいいかはすぐにわかる。
 しかし、モンゴルの場合は状況が違う。どんなプロバイダーがあって、どんなサービスがいくらで受けられるか、実際にプロバイダーまで出かけて聞いてみないとわからないのだ。モンゴルへ行く前、日本で集めた情報では、最近はインターネットがブームでウランバートルにはインターネットカフェもできているという状況的なことだけだった。
 モンゴルに到着してセンターの担当者に聞き、プロバイダーの資料など見せてもらうと、ウランバートルでもすでにxDSL(デジタル加入者線サービス。従来より高速のインターネットが可能になる)のサービスが始まっているようだ。しかし、実際にどんな品質のサービスが提供されるかは、プロバイダーの話を聞いてみないとわからない。翌日からプロバイダー数社を廻り、実際にどんなサービスができるのか話を聞くことにした。

 現在日本では、xDSLのひとつであるADSLが常時接続インターネットの主流となっている(ADSL、HDSLなど、さまざまなタイプのものがあるので、xDSLと総称する。家庭に引かれた電話線の高周波部分を使った高速インターネットと考えればいい。通常の電話通話は低周波部分を使うので、1本の回線でインターネットと電話を同時に使うことができる)。何で(インターネットで遅れているはずの)モンゴルでも早々とxDSLが始まっているのか、疑問に思うかもしれない。
 xDSLというのは非常にすぐれた技術で、従来のアナログ回線をそのまま使って高速のインターネット接続が実現できる。設備としては、プロバイダー側とユーザー側にADSLモデムを設置するだけ。回線は今まで通りのアナログ回線のままでいい。夢のような技術なのだ。

 日本の場合は、インターネットが早く普及したために、かえって無駄な回り道をしてしまった。xDSLの技術が開発される以前は、アナログ回線では、最高で56kbps程度の速度を出すのが限界だった。これでは、画像や動画などを送る新しい高速インターネットには対応できない。
 そこでNTTが開発したのがISDNだ。これは従来のアナログ回線をデジタル回線として使うことで、従来より高速のインターネットが可能になる。しかも1本の回線を2回線として使うことができる。インターネット時代の画期的なインフラとなるはずだった。
 しかし、技術の進歩というのは先の予測が難しい。ISDNの普及を進めているうちにxDSLが開発され、そっちのほうがずっと高速ということになった。僕など、64kbpsという(当時は)高速のインターネットを求めて自宅の回線をISDNに変えたが、数年でADSLが登場し、わざわざアナログからデジタルに変更した回線を再びアナログに戻し(当然工事費がかかる)、購入したTA(ターミナルアダプター)も無駄になる羽目になった。
 まあ、インターネットやパソコンの世界では、こうした無駄は常にあることで仕方ないのだが、やはりちょっと空しい気分になる。

 さて、xDSLで話が脱線してしまったが、話をモンゴルのインターネット事情に戻そう(xDSL、ADSLについては、また詳しく書きます)。
 5社のプロバイダーに順に話を聞いて、一般向け高速インターネット回線としては、電話回線を使った64kbpsと128kbpsのxDSLサービスが提供されていることがわかった。ただし、64kbpsの毎月の接続料金が約700ドル(約8万4000円)、128kbpsが約1500ドル(約18万円)と高価なため、利用者は、企業、団体、政府機関など、ヘビーユーザーに限られている。
 月8万4000円というと、企業ならそのくらいは出すかと思うかもしれないが、モンゴルの物価水準から考えると、これはとてつもなく高い。

 モンゴルの電話事業は、モンゴルテレコムが独占している。電電公社時代の日本と同じだ。その頃の日本と同じかどうかはわからないが、モンゴルテレコムの電話回線の品質はあまり良くないという話をあちこちで聞いた。xDSLの速度には回線の品質が大きく影響する。回線の品質があまりに悪いと、モデムは設置したけれど、xDSLではインターネット接続ができないという事態もありうる。
 そのためか、自前のアンテナを屋上に設置して、プロバイダーとの間を無線で結ぶ64kbpsの「無線インターネット」サービスも提供されている。ただし、「無線インターネット」はアンテナの設置が必要なので、xDSLに比べ1.5倍以上の初期費用がかかる。毎月の料金は同じくらいだ
 ウランバートルでは、インターネットプロバイダーは、届け出をするだけで、勝手に自前の回線を引いてサービスを提供することができるらしい。そのため、プロバイダーに専用線を引いてもらい、xDSLによるインターネット接続をするという方法もある(もちろん初期費用は高くなる)。これだと、回線の品質はずっとよくなる。

 つまり、料金はけっこうかかるが、64〜128kbpsの高速通信は実現できる。プロバイダーから専用線を引くなど方法をとれば、交渉次第では128kbps以上、日本のADSLのように、1.5Mbps、8Mbpsの高速通信も可能になるかもしれない。
 日本センターでインターネットを一般の人にも使えるようにするのなら、せっかくだからインターネットのショールームになるようなもの、今一番新しいインターネットはどんなものか見せられるようなものにしたい。モンゴルの人たちに、最新のインターネットを体験してもらいたいと考えていた。
 ウランバートルには、インターネットカフェがたくさんある。覗いてみると、どこもにぎわっている。インターネットカフェといっても、外部と高速回線で接続しているわけではない。アナログの56kbps以下というところが多い。それで数十台のパソコンをつないでいるから、メールを読んだりホームページを見ようとすると、表示は極めて遅くなる。しかし、利用者の大半はゲームをしている若い人たちで、ゲームのサイトはサーバーにキャッシュされている(つまり、ゲームのソフトはインターネットカフェのコンピューターに置かれているから、遅い回線で外部のコンピューターとつなぐ必要はない)から、遅いという文句は出ないようだ。

 インターネットのショールームにするなら、なるべく高速な回線がほしい。日本と同じくらい、1.5Mbps、8Mbpsの高速通信と、勢い込んでプロバイダーの担当者に聞いてみると、不思議な顔をされてしまった。よくよく聞いてみると、モンゴルのプロバイダー全体で、わずか10Mbpsの回線しか使われていないのだそうだ。モンゴルから世界へつながっている民間用のインターネット回線は、アメリカの衛星を経由したものだけ。それの最大容量が10Mbps。各民間プロバイダーで使えるのはそれぞれ2Mbpsまで。これでは、8Mbpsの高速回線など夢物語だ。
 ただし、モンゴル国内には、日本の無償援助で南北に走る鉄道に並行して光ファイバー回線がすでに引かれている。ロシアとの接続はすでに済んでいるが、なぜかインターネットのためには使われていない。この光ファイバー回線を使ったインターネット接続が可能になれば、状況はたちどころに改善される。実際に、モンゴルのインフラ省に対して、光ファイバーを経由したプロバイダーサービスの申請をすでに行って、返事を待っているというプロバイダーの社長の話も聞いた。

 当面、日本センターとしては、64kbpsのxDSLでインターネットをすることになりそうだ。ただし、すでに南北に引かれた光ファイバーケーブルもあり、弾みがつけば、モンゴルのインターネットは飛躍的に発展することは間違いない。
 今回の調査では、モンゴルのインターネットエクスチェンジ(IX:プロバイダー間のインターネット接続や、海外など別のネットワークとの接続を行うポイント)を開設した会社の女性社長、前段でふれた光ファイバー経由のインターネット接続サービスを目論んでいるプロバイダーの社長など、いろんなモンゴルのインターネットの先頭にいて引っ張っているベンチャー企業のトップに会った。どの人も、先を見通して柔軟な思考をしているのに驚いた。
 政府の対応、資金の問題など、越えるべきものは多いが、どこかの段階でブレイクして、インターネットが広く普及する日も近いと思った。一般家庭にはまだまだパソコン自体が普及しているわけではないが、それも、少し前の日本のように、急速に普及することになるだろう。
 ウランバートルでは、ここに書ききれないくらい、パソコンやインターネットについていろんな話を聞いた。機会があれば、また、書いてみたい。次にウランバートルを訪ねたときに、どこまで変化しているかも楽しみだ。
(2002.8.23)

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