スコーピオンの封印・8
そして夕方になって、私たちはまたバスに乗り込んでくつろいでいた。さすがに私たち(だけじゃないんだけど)は疲れてしまったのか、しゃべる気力もなくなっていた。そんな中、2人の女の子が私たちの席まで来たのである。なによ。疲れてるんだから話しかけないでよ。
「ちょっとあんたたち、私たちのヒカルくんに手を出さないでよね。」
「なんですって?それってどういう意味よ?」
「私たち知ってるのよ。いっつもヒカルくんがいる所に、決まってあんたたちがいるっていうところが気にくわないのよ。」
「ふうん。だったらヒカルくんの後でもつけて行けば?ヒカルくんがイヤがるだけだよ。あんたちなんか免税店ばっかり行ってて、シャネルやクリスチャン・ディオールの香水なんかたくさん買っていたし、ろくに観光なんかしてないじゃないのよ。そんなにヒカルくんと出掛けたかったら、ヒカルくんの後でもつけて行けば?ちなみに、香水を日本に持って帰れるのは56ccまでだから、20個なんて持って帰れないわよ。昨日免税に行ったら、20個
も買っていたよねぇ?」
するとさっきまで反感を持ってたファンが、突如クルリと後ろを向き、スタスタとバスを出て行った。もう1台のバスにいたファンだった。絵里奈はあっけない顔をして私を見ていた。結構ボロボロに言われると、何も言えなくなっちゃうんだね。いくらミーハーでも、あそこまで言われちゃ何も言えないんだ。こういうファンって結構チャラチャラ系が多いんだ。
よね・・・。
「先輩、何だったんですか?」
「わかんない。まぁいいや、ほっとこう。」
「はい。」
あーあ今日は疲れたわ。だってさ、ダンスナンバーをいきなり演奏し始めたでしょ?それで私たちはダンスしまくって、気が付いたら疲れはていたってこと。けっこうツライわ。食事した後、すぐシャワーでも浴びて寝ることにしよう。
ホテルに着いたのはハワイ時間の午後5時くらい。まだ寝るには早い。どっか出掛けようということで、免税店で化粧品やバッグを見ていた。欲しかった香水があったので、香りを試してみたら良い香りだったので、小さいほうを1本買うことにした。
カードみたいなものがあるんだけど、帰る日にそのカードを渡せば、ちゃんと渡してくれるっていう設定なんだ。防犯防止っていうやつなんですね?実はこのカード、ハワイに着いて、すぐ免税店からもらってあるんだ。私たちがバッグのフロアに行こうとしてると・・・。
「あれ?女神ちゃんたちじゃん。」
「あっ、ヒカルくん。先輩、ヒカルくんですよ。」
「よく会うね。免税に来たの、今日が初めて?」
「うん・・・じゃない。はい。」
私たちが行く所に、いつもヒカルくんがいる。どうしてなんだろう。ヒカルくんに聞いてみると、『僕にもわからない』って言われてしまった。その横には、パピーと弟がいたのである。
「この子たちか?いつもヒカルがいる所に、、必ずいるっていう女の子たちは?」
「うん。そうだよ。」
「いつもヒカルがお世話になっています。僕がヒカルの保護者です。」
「キャハハハ。おかしい〜。」
パピーがそう言い出して、ペコリと頭を下げたので、私たちはクスクスと笑ってしまった。バックのフロアに行くと、ついさっきまで私たちに文句を言って来た例の2人組の女の子がいた。
ヒカルくんを見つけると、そそくさヒカルくんの腕を引っ張って行く。はああ。バカバしい。恋人気取りでいるんじゃないよ!バッカじゃないの!?私たちは女の子たちに向かっ
てフン!とやってやった。。
免税品を免税店に預けて、私たちはまた夕方のハワイを満喫することにした。私たちの部屋は海から歩いて5分のところにあるから、歩いて行っても全然迷わない。狭い部屋にいるあの女の子たちとは違うのよ。私たちはビーチに座って、夕暮れを見ながら絵里奈がこうつぶやいた。
「先輩。私、ここに来てから、いろいろなものを見て来たけど、なんか・・・。」
「なんか?」
「不思議な国だなぁって思って来たんです。だって、1日目に観光したヴィクトリア宮殿で、寒気を感じたって言いましたよね?『私と先輩だけに起こって、なぜ他の人達の場合は寒気なんかしなかったんだろう』って思うんですよ。きっと、何かが起こるに違いないって思って・・・。」
「・・・実はね、このことは、ヒカルくんに『黙ってて』って言われてたんだけど、ここで言わせてもらうわ。実は、パソコンの中に、ヒカルくんが出て来たことは、本当なの。」
そうつぶやいた時、絵里奈が私の横顔を見た。絵里奈には悪いと思っていた。とうとう、このことをヒカルくんが言い出すまでは、隠し通せなかった。『今、言うべきだ』って確信したから・・・。
「隠すつもりはなかったんだ。ヒカルくんには、ヒカルくんなりに事情があったのかもしれないけど、旅費もドル代もヒカルくんが出していたらしいの。本当のことは知らないけど・・・。私にはなんとなくわかったの。旅費もドル代もタダってことは、きっと何かが起こるってことは予想していたわ。『旅費もドル代もタダっていう理由は、ハワイに来てから話す』って言ってた。だけど、未だにヒカルくんは言ってくれないの。きっと、今夜あたり言うと
思うんだけど・・・。ゴメンね、絵里奈。絵里奈をのけ者にしたワケじゃないの。」
「わかってましたよ。私もなんとなくそう思っていました。先輩には黙っていたけど、何かが起きるって事は、先輩の様子でわかっていました。でも私、言い出せなかったんです。『何を悩んでいるの?』って・・・。でも先輩の話を聞いてわかりました。ヒカルくんが何を言い出してもびっくりしません。私はその覚悟でいますから・・・。」
その日の帰り、私たちは黙ってビーチを後にした。別にケンカしていたワケじゃない。ただ、お互いに『なぜ気が付かなかったのか?』ってことが、頭の中でグルグル回っていただけ。ホテルに戻ったら、あっけらかーんとした顔をしながらおしゃべりしていたけど・・・。