関空へタッチダウン(9月27、28日)

 5時半起きは出発の日以来2度目だ。声をかけてくるタクシー屋さんらを振り
切って、真っ暗なコヴェントガーデン(でもおじさんが何人か店を開ける準備を
していた)を北上し地下鉄に乗る。途中で列車は地上に出るが、紫がかった墨色
の空に家々のシルエットが黒くよぎり、暗い風景だ。7時に空港でチェックイ
ン。搭乗の時見ると、雨が降っていた。
 パリへ飛び、シャルルドゴールで乗り換える。KIX(関西国際空港)行きの
ターミナルに行くと、細身の少し反った胴体をしたコンコルドがいるのが見え
た。さっそく夫はカメラを取り出し、空港職員のお姉さんに頼んで、使っていな
い搭乗口へのガラス張りの廊下に入れてもらい、何枚か写真をものにする。
 とうとうエールフランス国際線に乗り込み、帰国の途についた。機内で夜を迎
え、窓からは白く凍った光を放つ大熊座の星々がくっきりと見える。ハバロフス
ク上空で、行く手が群青色に明けてきた。10分ほどのあいだに雲の地平に橙色の
帯ができ、暗い緑から、青、夜空の黒まで虹のようなグラデーションが美しい。
 朝の9時前、飛行機は海上から灰色の雨のぱらつく滑走路に下りた。今月4日
に開いたばかりの関空は、塗料の匂いの残る、だだっ広い無機質な空港である。
少し汗ばむほど暖かい大阪の空気に触れてホッとすると、長旅の疲れが一度に出
て、アイルランドのあれこれを感慨深く思い出すゆとりもなく、新居へ(初め
て)「帰って」行く。私たちが留守の間に、季節は少しだけ動いて、記録的な暑
い夏が終わっていた。台風が紀伊水道をやって来るというので、何もない新居に
ローソクや懐中電灯を買い込まねばならぬ。…石と緑の島に遊んだ日々を振り返
ってこの旅行記を書き始めたのは何日も後、掃除だの片付けだの挨拶だの、慣れ
ぬ作業が一段落してからである。そうそう、旅立つ日に2位をキープしていた阪
神タイガースが、留守中に7連敗して優勝戦線から脱落していた。


                                                                 終 


       流浪の歌
                  ENYAの「The Celts」に――詩・Hanna


 はるかに 旅ゆけば           はるかに のぞむのは
 月が 我が道 照らす       |   波の しぶく岸べ
 季節の 行くまにまに       |   あおき 海のはて
 雨は 汝(な)が髪 濡らす     |   いつか たどりゆかん
                 |
  我ら さすらう         |    我ら さすらう
  潮騒を 夢に聞きて       |    呼び声に 想い乱れて
  我ら さすらう         |    我ら さすらう
  憧れを 胸にいだきて      |    この想い たえがたくして
                 |
 はるかな 荒野(あらの)こえ    |   はるかに 旅ゆけば
 あすの 運命(さだめ)も知らず   |   かもめ 啼(な)きて飛びかう
 季節は 過ぎるとも        |   潮の 流れにのり
 海は 呼びつづける        |   時を こえて たどるよ
 とわに             |   はるかに
                 |
 ああ 我がこころ        |            
 大海(おおわだ)の        |                      
 はてにあるてふ         |
 彼(か)の郷(くに)を恋ふ


              (BBC制作「幻の民・ケルト人」テーマ曲)

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おわり