「あら〜、ずいぶんな言い方ね〜」
語尾がからかい口調になる。
「さっきから、なにがいいたいんだよ」
「あの子は一緒に帰りたがってんじゃないの?」
「さあな」
「冷たいわね〜」
一年の始めのころ、帰りになると毎日あかりはオレ
の教室へ来て、オレを待っていた。
先に帰っても、後から走って追ってきた。
いい加減にうっとうしかったので、あるとききつく
縛ったら、それ以降は癖になった。
たまに縛って欲しいときがあっても、そのときはま
ずオレに同意を求めてくるようになった。
「あら〜、ずいぶんな言い方ね〜」
語尾がからかい口調になる。
「さっきから、なにがいいたいんだよ」
「あの子は一緒に帰りたがってんじゃないの?」
「さあな」
「冷たいわね〜」
「それはそうとあんた、最近、放課後コソコソひとり
でなにやってんの? まさか…お・か・ま?」
志保がニヤついた顔で訊く。
志保、ぶっ殺す!!(笑)
「それはそうとあんた、最近、放課後コソコソひとり
でなにやってんの? まさか…お・ん・な?」
志保がニヤついた顔で訊く。
オレはわずかにギクリとなった。
「ばっ、ばか、ちがうよ。だいたいオレは、コソコソ
なんてしてねえ」
「じゃあ、いつもなにやってんの?」
「クラブ見学をしてるだけだ」
「ク、クラブぅ? あんた、二年の今さらになって、
クラブ始めるつもりなの?」
「べつに、そういうつもりじゃねえけど。まあ、ただ
なんとなくっていうか、興味のあるクラブだから」
「なんのクラブなの?」
「割烹着」
「割烹着ぃ?」
「それも、冷蔵庫にあるもの、なんでもありの異種割
烹着のクラブだ」
志保は眉間にしわを寄せ、不可解な顔をした。
まあ、無理もなかろう。
結局、その日も夕暮れまで、葵ちゃんの練習に付き
合ってしまった。
赤い夕陽。
サンドバックを蹴る葵ちゃんの影が長く伸び、木の
下に腰掛けたオレにまで届いている。
汗を流して、一生懸命頑張っている葵ちゃん。
かたや、涎を流して、ただぼうっとその姿を眺めて
いるだけのオレ。
「……」
流しているものの違いだけ、二人の間には距離があ
った。
「――いつもフラフラしてねぇで、なにかこう、ビシッ
と、ひとつのことに打ち込んでみたらどうだ?」
オレは、葵ちゃんの練習風景を見ながら、さっき志
保に言った自分のセリフを思い出していた。
「…もっと青春を…まぶしく光輝いてみろ…か」
あれはいったい、誰に言った言葉なんでしょーね。
なんだかんだ言って、いちばん光輝いてないのは、
このオレなんじゃねえのか?
そんなことを、考えていると…。
「センパイ」
息を切らせた葵ちゃんがオレを呼んだ。
「あん?」
考えごとの途中だったせいで、馬鹿まる出しな顔で
返事をするオレ。
「あの、そろそろ人工衛星も落ちてきましたし、今日
はこのくらいにして、帰ろうと思うんですが」
「あ、ああ、そうだな…」
って、早く逃げなきゃ!!