食卓日記

「私の週間 食卓日記」

「週刊新潮」11月19日号に掲載予定だった原稿です。「私の週間 食卓日記」は、1週間の食事睡眠行動などを元にしたエッセイと、それに対する栄養士のアドバイスが載るというコーナーです。
この号には[おことわり]予告では山下洋輔氏でしたが、都合により道場氏に代わりました。と書いてあります。


前口上

以下は、週刊新潮の「私の食卓」というコラム用に書いたものですが、同時期に「フォーカス」の密着取材があり、内容がダブルこともあって掲載が延期されたものです。日記ですので、次の掲載には別の日々を書くわけで、これはそのままでは永久に日の目をみません。しかし、この日々は、個人的に大変大事な歴史的日々と重なり、愛着がありますので、こうして、追っかけページに載せていただく所以であります。
主旨が食べ物にかたよっていることをご了承ください。

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10月14日(水)
夜、銀座の中華料理屋で、丸谷才一、横澤彪氏と、横浜ベイスターズ優勝祝いの座談会。超美味の北京ダックと紹興酒をいただきながら大好きなことについて喋りまくるという至福の時間だ。横沢さんの「ローズは一日にしてならず」という発言から、一気に「ベイスターズいろは歌留多」で盛り上がる。

16日(金)
午前中練習。正午に、朝昼兼用の食事。ブタのショウガ焼き、キャベツの千切り、大根のみそ汁、大根葉と油揚げを煮たもの。海苔、納豆、キムチ、タクワン。五穀米ご飯を茶碗いっぱい。
二時前に車で前橋市民会館へ。来日中のシンシナティ.ポップスオーケストラのコンサートのゲストで「ラプソディ.イン.ブルー」をやる。六時前にリハが終わる。本番は八時過ぎ。そのまま和室の控室に毛布を持ってきてもらい、くるまって休む。少しうとうとする。食べるとリハのよい感じを逸がす気がして食べない。飲み物も取らない。この方が頭が冴えてよいと思ったが、本番は不出来。こうやってうまく行くときもあるのに。本番演奏前の食事を含む行動をどうするかは永遠の課題だ。
帰宅午後11時半。鶏のポトフを肴にビールと焼酎。夜遅くの飲食はいけないと分かって いても、どうしてもこうなる。

17日(土)
朝、練習のあと十一時にチリドッグ一個とキャベツの炒め物と紅茶。 一時に丸ノ内東映で今村昌平監督の映画「カンゾー先生」の封切り挨拶。今村監督、柄本明、麻生久美子、松阪慶子、世良公則の皆さまと共に音楽担当者として舞台挨拶をする。しかし、折角の機会にサウンドトラックのCDが置かれていないのは残念。米国の「バラエティ」誌の映画評が音楽に触れているのを知る。嬉しい。
パーティでビール少々。行くはずだった日本シリーズ第一戦が中止になったので、帰宅。入れちがいに「カンゾー先生」を見に行くという妻の作ってあった夕食は、高菜、チリメンジャコ、卵入りのチャーハン。スープは、豚肉、ザーサイ、タケノコ、長ネギ、椎茸の酸味中華風。キムチとタクワンは常備食。ビールと焼酎も常備液体。

18日(日)
台風一過の朝、旧ホエールズのウインドブレーカーを着てそこらを走り回る。これは現在の稲川スカウトがパーカッションの富樫雅彦にプレゼントしたもの。二人は蝶の収集家仲間。
あまりに蒸し暑いので、昼にソーメンを所望。我が家のそれは、卵焼き、ハムの千切り、ムシドリ、チリメンジャコ、納豆、ノリ、コネギ、インゲン、シソなど用意しておき、たれつゆの中に、ソーメンともどもぶち込んで食べる。これはどこ系の食べ方なのか。夜はシャケの照焼き。大根おろしを大量。大根と油揚げの味噌汁など。ビール、焼酎などの必需品も。日本シリーズ初戦は横浜が圧勝。

19日(月)
昼食はヤキソバを所望。豚肉、キャベツ、モヤシ、玉ネギ、チクワ、ニンニクの醤油漬け入り。夜、松戸で「ラプソディ」。今日からリハは無し。客入れ前に一人でピアノに触る。本番の二時間前に小さめの自家製オニギリを二個食べる。今度は調子がよかった。やはりエネルギーは補充しておかないと駄目か。
野球も横浜が連勝。オケとやる日は全勝のジンクスがある。リーグ優勝の日も神フィルとやっていた。

20日(火)
渋谷のオーチャードホールで「ラプソディ」。ゲンをかついで昼食はヤキソバ。オニギリも持って出るが、気が変わり、本番二時間前に蕎麦屋で鶏南蛮うどんを食べる。量が多く半分残す。出来はよかった。やはりエネルギー補充が吉か。
終演後、指揮者のエリック.カンゼル氏、マネジャー氏、楽団員たちから祝福される。全員が子供の時からジャズとガーシュインを体に入れて育っている人たちだ。出る音が日本ともヨーロッパとも違う。「ラプソディ」に関しては「これで故郷に戻れた」という非国民的感覚を持たざるを得なかった。

21日(火)
ジャズコースのある洗足学園大学で「ジャズの歴史」の授業を参観。中村誠一さんの代講で相倉久人さんが来る。久しぶりの相倉節に酔った。講義後食堂で雑談をしながら昼食。おにぎり二個。
帰宅後、自宅での夕食は、里芋、蒟蒻、椎茸、人参、サヤインゲン、タコなどが入った煮物がメイン。「バンドマンにイモとタコを食わせるとは何だ!」とわめいて卓袱台を引っくりかえす。

22日(水)
今日から「フォーカス」の密着取材が始まる。
昼食は大根オロシたっぷりのシャケの照焼き。夕方から西武球場へ日本シリーズ第三戦を観戦に行く。生ビールと幕の内弁当。昼がゲンのいいヤキソバでなかった為か2−7で負け。

23日(金)
昼は明太子の焼いたもの。卵焼き。大根オロシたっぷり。
夜は阿佐谷の神社の神楽殿で演奏。かがり火を焚いてやる。薪能ならぬ薪ジャズ。阿佐谷ジャズストリートという二日間のお祭りの一環だ。アルトサクスの津上研太に助っ人にきてもらう。
演奏前に自家製オニギリ二つ。終わって、大洋ホエールズ時代からのファンのおやじさんがやっているヤキトリ屋「鳥正」に行き、花束を捧げてリーグ優勝を祝う。ビール、ヤキトリ、モツヤキ、焼酎で乾杯。おやじさんと感無量の日々を語る。堀晃さんはじめパソコン通信仲間も大勢集結して、大騒ぎををしながらテレビで第五戦を見るが負け。その後、口ジャムセッションなどで騒ぎ、やがて覚えが無くなる。

24日(土)
気がつくと沖縄にいる。知念サンライズホテルのラウンジで海を見ながら、早速、アワモリとチキンサンド。今日はリハだけだ。フォーカス取材の奥成茂さんとは、旧知の仲。囲碁の先生でもある。持参の磁石盤で打ってもらう。苦し紛れに大石を攻めているところで時間がくる。佐敷町のシュガーホールで「ザ・パーカッション」というグループの公演にゲスト出演。リハ終了後、ホテルの食堂で中華料理のコース。部屋のテレビの調子が悪いので、ロビーで第五戦を見る。17−5の大勝利。長い試合時間で遅くなり、勝利インタビューあたりでロビーの明かりが消えるがしつこく最後まで見る。

25日(日)
午前中に打ちかけの囲碁を続行。なんと大石がとれてしまった。怪我の功名だ。昼食はバイキングで、酢豚、ローストビーフ、カツオの角煮、コーンスープ、ご飯。食後にミカン。リハをやり、いったん戻って休む。本番後ロビーでパーティー。ビールとアワモリの古酒。どんどんいただく。やがて三線、歌、踊りが出て大騒ぎ。公共施設ですよ。沖縄偉い。

26日(月)
昼は那覇空港で沖縄ソーキソバ。羽田から銀座の画廊へ。ニューヨーク在住の依田寿久さんの個展オープニング。気もそぞろなのでその旨お断りして、早々に失礼し、ラジオを聞きながら帰宅。
ついに日本シリーズ優勝の瞬間を迎える。その時にはビールとスキヤキ(ただし生卵はつけない)でありました。


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