最新改訂:2014年3月14日


――私 が 読 ん だ 本――


(53)百田尚樹著 「永遠の0」 2009.7.15 講談社文庫 ¥876

 太平洋戦争での日本海軍の零戦パイロットが最後には特攻で戦死するまでの物語を孫である 姉弟が生存する戦友を訪ねて明らかにしていくという小説で、映画にもなってるが、小説の方が 面白いのではないか。祖父である宮部久蔵は臆病者のパイロットと侮られたが、その操縦技術は 抜群で幾度となく出撃しながらも生き伸びていく。この零戦と米軍機との空中戦の模様は迫力ある 描写でとても面白い。しかし最後は米軍レーダーの盲点である低空からの特攻を米艦に仕掛け 成功するが宮部久蔵は戦死する。ガダルカナルでの悲惨な敗戦以降全くの負け戦であった日本軍で あったがそれがあまり悲惨さを感じさせない描写で引き込まれていく。単に戦争小説で面白いという だけで済まずに、最近とみに保守的になってきた若い人達に戦争があたかもかっこいいものであるか のような誤解を与えることにならないか危惧する面もあるのではないか(2014.3.8)。


(52)三浦しをん著 「舟を編む」 2011.9.20 光文社 ¥1,500

 国語辞典を編集出版する出版社の編集責任者とその同僚及びそれを監修指導する先生との交流と 辞書編集作業の詳細を描いた本で辞書に関心を持つ者には興味深い。現代用語の実際を拾うために用例採集 カードを常に携え記録する。辞書の印刷段階では用紙の選定に「インクの乗りがよく裏写りなく、薄く なめらかで、とても触り心地がいい、かつ、ぬめり感のある」用紙を開発するなど辞書の制作には大変な 苦労があることが分かる。この制作をめぐる人間の交流も心温まるものがあり良かったが、私はそれ以上 に辞書の語釈をどうするかということに関心を持つようになった。国語辞典は余程のことがないと引く ことはないが、"The Pocket Oxford Dictionary"はよく引いている。この小さい辞書でもよくこれだけの 見出しがあると感心するとともに語釈もよく出来ているとは思っていた。しかし、この「舟を編む」を 読んでこの辞書の語釈に更に関心を持つようになった。辞書の語釈は著作権を問題にすることなく、お互いに 共用し合ってより良いものにしているようだ。そして現代の用法にあった優れた語釈と充実したイディオムを 網羅した辞書が進化していくと英語もより読みやすくなるのではないか(2014.1.29)。



(51)和田秀樹著 「定年後の勉強法」 2012.9.10 ちくま新書 ¥740

 和田秀樹氏は東大医学部出身の精神科の医師で、この手の 本を幾つか出しているので、名前は知っていた。偶々ちょうど会社勤めの仕事がなくなり、いままでも 勉強はしていたが更に時間もできたので勉強について参考になるかと購入した。

 定年後の勉強は何かの資格を取るような勉強と年相応の賢人となる(この本では「知の賢人」、「哲学者」 と呼んでいる)勉強がある。いずれの勉強も長生きするためには必須のものである。資格を取るような勉強 についての詳しい話はない。しかし、長生きし、周りからも尊敬される賢人となるための勉強はまず本人が 興味を持てる事柄について易しく分かりやすい入門書から始める。復習をすることが勉強の効率を上げるの に非常に効果的である。そして学んだこと、長い今までの経験、知識をアウトプットし、周囲に貢献する こと。また思考を司さどる脳の前頭葉は老化しやすいので、これを刺激するために欲望に忠実になる、時 には複雑で偶発性の高い思い切ったこと、例えば株式投資、起業、ギャンブル、恋愛などをやってみる。 大学院の門も開かれているので行くならば自分の研究したい分野で十分な指導を受けられる教授のいるところ へ行く。最後には著者が経験した映画制作の経験まで紹介されているが、これはそれをやってみようという 極く一部の読者に参考になるだけでこの本の中身としては違和感があった(2014.1.23)。



(50)辛酸なめ子著 「ヨコモレ通信」 2005.5.15 文藝春秋社 ¥1,200

 辛酸なめ子のエッセイは前に朝日に載っていたのを読んだこと があった。面白いと思っていたので、今回朝日の書評で取り上げられたのを機会に買ってみた。予想に違わ ず面白い本だ。東京の各所で開催されるイベントや新しい評判の場所を訪ねてレポートにしている。 1件僅か3ページのもので、気楽に読め、また社会批評的な面もあってよい。寝床に入って眠りを誘うの によい。(2005.9.1)




(49)中村 稔著 「私の昭和史」 2004.5 青土社 ¥2,400
  

 新聞の書評でも取り上げらた評判の本だ。埼玉県大宮出身で昭和2年生まれの弁護士で、かつ詩人 でもある中村稔氏の生まれてから終戦までの自伝的昭和史だ。特に府立5中(現小石川高校)から 一高時代の記述が詳しい。思春期から青年時代にかかる頃に戦争があり、自分史であると同時に戦争 前から戦中の生活史になっている。特に一高時代の交友関係、戦時中の社会情勢が詳しく記述されて いる。一高の学生が戦時中学徒動員や、召集にどう対応していたのか、昭和19年から20年にかけて 相次ぐ空襲がどうだったのかといったことがよく分かる。資料を駆使したとはいえ、多くの学友の 名前と消息が掘り起こされ、また当時の学生の生活がよく分かる。ただこの中にあって著者は常に 傍観者的で、冷静で当時どう感じ、どう考えていたのかが希薄な感じはする。(2005.4.7)


(48)小川洋子著 「博士の愛した数式」 2003.8新潮社 ¥1,500
  

 小説の中に素数や友愛数(220と284のようにそれぞれの約数の和が220では284に、284 では220になるような2つの数)、完全数(6や28のようにその約数の和が6や28になる数)、フェル マーの最終定理やらの数式が出てくる変わった小説だ。しかし、このような数式が出ても、何ら違和感 なく読める。きっと作者の小川洋子氏は数学の得意な聡明な女性なのではないか。そして文章も物語も書評 にあるように「静謐(せいひつ)」という言葉にふさわしい。物語は交通事故にあった後記憶が80時間しか 残らないという老数学者とその家に来る家政婦、そして家政婦の息子のルートの3人の友愛の物語だ。平凡な 日常生活が淡々と描かれいるが、文学として昇華されている。(2004.3.10)




(47)金原ひとみ著 「蛇にピアス」 2004.3文藝春秋3月特別号 ¥780
  

 第130回芥川賞受賞作品。芥川賞は知っていても作品まで読んだことはなかった。 今回極めて若い2人の女性の受賞とあって評判も高かったたし、文藝春秋が2作を取り上げて 3月特別号を出したのを機会に読んでみた。小学校4年から不登校で、ピアス、刺青、酒、セックス、 同棲などの不良行為をしたり、見た経験があるのだろう。言ってみればそうした犠牲を払って 書かれた小説なのだろう。普通に少女期を送っているのとは全く違った世界が描かれている。正常な市民生活 とは全く異なる世界だ。しかし、その中に仲間がいて恋愛があり、友情があるのが理解できるし、また 共感もできる。文章も、構成もしっかりしている。やはり芥川賞を取るだけの価値のある作品だろう。(2004.3.10)


(46)渡辺淳一著 「エ・アロール」 2003.6 角川書店 ¥1600
(45)団 鬼六著 「最後の愛人」 2003.10.20 新潮社 \1400

  

 いずれもいままで読んだことのない作家だったが、朝日新聞に老人小説として紹介があったのが きっかけで読んだ。いずれも老人の年甲斐もなく引き起こす恋愛事件がテーマになっている。 若い人は興味がないだろうが、中高年だとなかなか面白い。
 「エ・アロール」は銀座の一角にある高級養老施設を舞台に60代、70代、80代の入所者が 次々と引き起こす恋愛事件を所長であり、医師である来栖が解決していくという話。来栖自身も離婚後、 恋人と時に逢瀬を楽しむ。現実にこれほどこの種の施設で次々に恋愛事件が起きるとは思えないが、 年を取っても人間の集まるところに愛憎があるのは当然で、それが高齢者のなかなかスマートな 恋愛事件となるとまた興味が持てる。年を取っても健康で生き生きとやっていくにはこのような 色恋沙汰も時に必要なのだと思うし、この小説はそのことを社会に訴えることも目指している。
 「最後の愛人」は70を越えた老作家である著者がキャバクラで知り合い親しんだ若い恋人が謎の自殺を遂げた 後彼女を追慕して、出版社の若い女性編集者と彼女の出身地である会津へ墓参りに行ったり、追憶にふける という話。これもなかなか気楽に楽しめる。老人小説という分野があるのかどうか知らないが、 あるとしたら両者は正しくこれに当たるのではないか。(2003.12.24/12.31改訂)



朝日新聞の紹介



(44)岩月謙司著 「男は女のどこを見ているか」 2003.2.9 ちくま新書 ¥750

 男女の違いを生物学的観点から、摘出するとともに、 人の本来の生き方を示した本だ。
 ただ男女の見方が非常に観念的で、必ずしも 岩月説が正しく現実にマッチしているとは言えない ので、そこを頭に入れて読む必要がある。 しかし、それさえ頭に入れて読めば非常に面白い 本だ。
 最初の章で女は男の本質(知恵や勇気や人柄)を 直感的に捉え、いい男だと確信する。学歴や勤めや 収入といったブランドで男を見ない、と言っている。
 これは生物学的には確かにそうなのだろうが、 現実はそれが総てでなく、学歴や勤めや収入も 大いに考えて女は男を選んでいるだろう。しかし、 女は男をブランドで見ていないというのは女性の本質 を捉えているし、凡夫に勇気を与えるものだ。
 次の章では娘は母親より幸せになると母親の厭な 顔を見ることになるので、常に母より幸福にならない ようにする、「幸せ恐怖症」を持っているという説だ。 そしてこの娘の「幸せ恐怖症」の呪いを解くのが英雄 体験(困難を克服した経験)をした男性だと言っている。 この「幸せ恐怖症」自体が、なかにはあるとしても一般的 だとは言えない。男性には面白い説明だとは思うが、 少々女性を蔑視した見方ではないか。
 最後に人の生き方として世間の常識に拘束されず、 自らの正しい、いいと思うところに従って生きれば必ず 物事は成就すると言っている。これも本来そうあるべき かも知れが、現実はそうして生きても人は必ずしも幸せ になるとは言えない。一部の確信に満ち、才能の ある人はこれで成功するかも知れないが(例えば 著名な芸術家など)、凡夫は世間や人の動きを見 ながら少しでも出世でき、金が入り、楽しくやれることに 汲々としているのが実状で、自分一人の信念だけでやっても うまくいくとは限らないのが実状だ。
 いずれにしても、もう女性に興味もない、人生をどう 生きるかも分かった話だという人を除いては、なかなか 読ませる本だ。(2003.11.13)



(43)志村史夫著 「文化系のための科学・技術入門」 2003.1.20 ちくま新書 ¥700

 多分本の名前は編集者が本が売れるように付けた名前で、少々通俗的である。しかし中身は、文科系と理科系の考え方の違い、科学と技術の違いなどを総論として概説し、各論としては原子の構造、力学の基礎、半導体、液晶ディスプレイ、レーザー、バイオなどの現代科学技術を説明している。最後には著者の科学技術論を展開し締めくくっている。現代科学技術の概要と問題を分かりやすく説いて有用である。(2003.5.29)



(42)石原 俊著 「いい音が聴きたい」 2002.8.6 岩波アクティブ新書 ¥700

 クラシック音楽は好きで時々CDを買って聴く。しかし家のミニコンポで聴く音はあまりいいとは言えなかった。そんなオーディオに無関心な私にもこの本は分かりやすく、又面白くいい音を聴くためのオーディオの基本を教えてくれる。それはスピーカーが音の善し悪しを決めることだったり、スピーカーを置く台であったり、電源の取り方であったりする。またメーカはほとんど国産のものはあげていない。国産は設計思想が原音に忠実であることを目指している。しかし、所詮大きなホールで様々な楽器が鳴らす音を再現することは出来ない。海外のメーカは原音を再現するのではなく、音作りをうまくするように設計しているという。私もこの本でコンセントの左側の切れ込みの長いアース側を知り、またスピーカーは大きさや重さで音が決まるというので、昔のステレオの重く大きなスピーカーにコンポにつないでみた。なるほどコンポに付いていた小さなスピーカーよりも深いいい音が出た。そんなふうにこの本ではあまりお金をかけないでも、ちょっとした使いこなしでいい音を聴く術を得ることが出来る。(2003.1.18)



(41)森谷正規著 「21世紀への技術発展」 1999.3.20 放送大学教材 ¥2200

 現代の技術がどういう状況にあって、21世紀の技術がどうあるべきかを総合的にかつ分かりやすく説明している。20世紀は技術発展の世紀であり、エネルギー、材料、情報の各分野で技術革新がなされ、革新的な技術が産業にまた個人の生活に利用されるようになった。それらの技術によって大量生産、大量消費、大量廃棄の社会が生まれ、その結果、環境汚染、地球温暖化、廃棄物といった問題を生じている。

 一方、現代では新エネルギー、大深度地下鉄、SST、リニアエキスプレスなど、技術は技術そのものの問題というよりも経済性や高度な技術が社会的に必要かどうかで実用化が図られる技術を選択する時代になっている。

 さらに著者は20世紀の技術が偏向して進んだ結果として通勤地獄、交通事故・渋滞、都市防災の問題を挙げ、技術を社会に向け、そのために政治が道筋を整えるべきだと言っている。

 最後にモノづくりを中心とした技術発展の時代から21世紀はモノに対しては抑制的にならざるを得ないのでないか。21世紀は経済の大きな発展はなく、社会も大きくは変わらず、20世紀の激動とは対照的に21世紀は穏やかな時代になるだろうと予測している。社会生活の向上が21世紀の技術課題であり、それはモノではなくサービスであり、また環境などの状況である。技術によって望ましい社会状況が進展していくことに期待をかけたいとしている。(2002.12.26)



(40)高田明和著 「40歳をすぎてからの賢い脳のつくり方」
2002.9.20 講談社+α新書 ¥880

 高齢化社会になって中高年のための生き方の本がたくさん出ている。日野原重明氏の本がよく本屋に並んでいる。私は氏の本は随分前に読んだきり最近出ているものは読んでいない。しかし、「死をどう生きたか」(中公新書)、「老いを創める」(朝日新聞社)はよい本だった。他にも大島 清「人生は定年からが面白い」(講談社)、田中澄江「老いは迎え討て」なども読んだ。しかし、最近出た高田明和氏のこの本はそれらにまして有益だ。題名はよくある"how to"本のようだが、なかなかどうして真を穿った実践的教訓に満ちている。それに単にこうすればよく生きられると言うだけでなく、著者が生理学を専攻する医学者であり、医学的な裏付けがあるのも心強い。ただ少し大脳生理学や仏教の説明がくどく、難解なところもある。しかしそういったところは飛ばして読んでも構わない。要は「明るい思いをもって生きる、勉強と運動を継続して時に新しいことにも挑戦する。年を取ったからといってわがままを言わない。出来るだけ自分の知識、能力そして心の力を生かして何らかの仕事を継続する。記憶力を維持するには脳の栄養である糖分をとる、またある程度のコレステロールも必要」といったことだが、この本を読んでいるとこれを実践しみようかという気持ちが涌いてくる。(2002.11.20)



(39)和田秀樹著 「40歳から何をどう勉強するか」
2001.10.31 講談社 ¥1300

 一言で言って少しは勉強をしてみようかという気になる本だ。年を取ると言葉を覚えるような単純記憶は弱くなるが、状況を掌握するようなエピソード記憶は決して衰えないし、また若者の最近の基礎学力の低下を見ると、年を取っても十分若者に伍してやれる。こうした勉強をする自信をこの本は与えてくれる。ただし、その勉強は若いときにやったこととか興味を持てるものがよい。もしこの1300円の本がきっかけで毎日、あるいは1週間に一回でも勉強をしたなら、たとえ何かの資格を取るようなことは出来なくても1300円の何百倍かの価値になるのでないか。なぜなら勉強をすることで精神の老化を防ぎ、健康を維持することが出来る。  (2002.3.11)



(38)小谷野 敦著 「バカのための読書術」
2001.3.5 ちくま新書 ¥680

 久しぶりに面白い本を1週間ほどで通読した。読書法、読書論についての本はここでも紹介しているとおり巷に多数あるが、この本は通り一遍でない読書論で、著者の思うところが存分に述べられていて興味がもてる。更に最近の論壇の紹介があったり、書評の問題や、英語の勉強法(著者は単語や文法を重視するごく当たり前の方法を推奨している)、読んではいけない本や読むべき本の紹介もあって実用性がある。なお「バカのための」としてあるこの本の表題は著者によれば「哲学とか数学とか、抽象的なことが苦手、という人である」としている。しかし、この本の内容は比較的高度で、著者のいう学力低下著しい、最近の大学生などには若干難しいのかもしれない。(2002.1.14)



(37)新藤兼人著 「老人読書日記」
2000.12 岩波新書 ¥660

 京都へ散歩に行った折り、四條通りの大きな本屋で買った。「荷風の断腸亭日乗」という章があって興味を持った。昔から永井荷風は好きだった。特に「断腸亭日乗」は好きで岩波文庫から出ている抄録はいまでも時々読む。また荷風の小説「墨東綺譚」を映画化した新藤兼人監督の同名の映画も2度ほど見た。新藤兼人は荷風の生き方を徹底した個人主義者として描いている。正しくその通りで、そうした視点から見ていない荷風論は的はずれではないか。その他「チェーホフの私」の章もよかった。久しぶりに一通り本を通して読んだ。(2001.2.24)



(36)水上 勉著「越前竹人形」
1978 新潮文庫 ¥240

 20年ほど前に読んでとてもよい小説だと記憶していた。敦賀へ赴任して思い出して読み直した。竹細工師喜助と遊女玉枝の悲恋の物語は20年前の感動を呼び覚ますことはなかったがやはり読ませる物語だった。舞台は武生から日野川を遡った竹神という部落になっていて敦賀から近いところだ。(99.12.30)



(35)高木仁三郎著「市民科学者として生きる」
99.9 岩波新書 ¥700

 高木仁三郎氏は反原発の運動家として著名であるが、その生い立ちが語られることによって、氏の人となりがよりよく理解できる。どうして氏が反原発を生涯の仕事としてやるようになったか、その理屈はともかく、へそ曲がりで考える前に走るという性格が一助になったことが再三語られている。一方、同氏は核化学の専門家であり、また宮沢賢治の研究家でもある。技術のバックグランドと文学的な才能もあって、この本を面白いものにしている。原子力の関係者は、一読の価値がある。(99.12.6)



(34)江藤 淳著「妻と私」
99.8 文芸春秋 ¥720

 99年7月21日自殺した江藤 淳が死の数ヶ月前、2月から3月に執筆したもの。文芸春秋5月号に掲載され、さらに同誌9月号に「哀悼 江藤 淳」として再録出版された。全編が昨年11月脳腫瘍で亡くなった妻慶子さんへの追悼になっている。敦賀へ単身赴任しているとき、東京へ帰省する2時間程の新幹線で一気に読んだ。江藤 淳自殺の報道では妻慶子さんと江藤 淳が一卵性双生児であったとの記述があった。非常に仲のよい夫婦であったため自らの病苦と妻喪失の寂しさが自殺に追い込んだのでないかとの報道であった。実際そうであったのでないかと思う。同じ文芸春秋9月特別号に収録されている吉本隆明の批評「『妻と私』を読んで、もちろん僕も感動しましたが、編集者から書評を頼まれて断ったんですね。これは我々のような他人がああだこうだと感想を言える文章ではないよ、と。最初に感じたことは、これは隙がなさすぎるぜ、ということでした。余計なものが一切書かれていない。」(江藤さんの特異な死)が当たっていると思う。(99.8.20)



(33)小宮宗治著 「週末・八ヶ岳いなか暮らし」
96.12 晶文社 ¥1,800

 定年退職後八ヶ岳山麓に山荘を造り、週末を過ごしている人の体験談。山荘建設の計画、維持管理など週末の田舎暮らしを情感を交えながら綴っている。八ヶ岳の麓に山荘を持つことなど夢のようだが、もしそんなことが実現すれば参考になる。自然と人生を考えるエッセイとしても楽しめる。ただ読んでいて気がついたのは、当然漢字を当てるべきところに平仮名が使われていることだ。意識してそうしているのか、書き方の癖なのか分からないが何か気になった。(99.7.13)



(32)半藤一利著 「ノモンハンの夏」
98.4 文芸春秋 ¥1,619

 98年6月14日の朝日新聞の書評に載り、更に99年1月1日の朝日天声人語で紹介された。私は天声人語で紹介されたのを見て読んだ。何のために戦うのかの合理的理由がなく戦ったノモンハン、そうした無謀な戦争を引き起こした関東軍参謀、彼らの思考を支配した「敵は日本軍が出動すれば退却する」といった夜郎自大的精神主義、敵の戦力を客観的に見ようとしない独善性、彼らよりは少し理性的な判断の出来た大本営参謀本部と関東軍参謀の確執、そのうえで独走した関東軍、そしてその指揮のもとに戦った第23師団の敗北、戦死した18,000人と言われる将兵、これらの事実が詳しい考証のもとに明らかにされる。近年の巨額の不良債権を背負い込んで倒産する企業にも通じる大組織運営の難しさ、戦争とは何かを考えさせられる本だ。



(31)遠藤順子著 「夫の宿題」
98.7 PHP研究所 ¥1,400

 病弱でしばしば病む夫 遠藤周作氏を看取った妻の夫に対する愛情がよく描かれている。しかし、大作家といえども人の子 欠点もあったと思うが、その辺りの記述はない。身内からそういう話が出ると作家の舞台裏を知ることが出来て、面白いと思うがないのは残念といえば残念。後半でいわれている江戸時代初期のキリスト教布教活動の排他性、独善性に対する「沈黙」の批判に対するカソリック界の非難は、「沈黙」を読んでいないので分からないが、カソリックでは歴史が今に生きているような気がする。いずれ「沈黙」を読んでみたい。



(30)津野海太郎著 「新・本とつきあう法」
98.4 中公新書 ¥660

 活字本、電子本(CD−ROM)、インターネット、図書館の4章からなり、それぞれの特徴と利用の仕方を説いている。文章も読みやすく一読の価値はある。インターネットのホームページでよいものの紹介もある。それにしても、この人の歩きながらも読むという読書好きには敬服する。



(29)五木寛之著 「生きるヒント5」
97.11 文化出版局刊 ¥1,000

 全5巻のうち最終巻の第5巻だけを買った。非常に読みやすい文章の中に、標題でいう「生きるヒント」が散りばめられている。私も「継続は力なり」、「物事を長く続けるこつは、あまり苦労してやらないことですよ」といって、毎朝3分の体操を励行し、80台半ばで羨ましいくらい生き生きと健康そうにしているMさんの話に習い、久しくしていなかった寝る前の体操を再開した。(本書P38)



(28)田中澄江著 「老いは迎え討て」
96 青春出版社刊 ¥1,400

 88歳になる著者が、人生を省みて有益な処世訓を読み易い文章にしている。書名の「老いは迎え討て」からも副題の「この世を面白く生きる条件」からも連想されるが、人生をかなり積極的に生きる方法が示されている。実際歳をとっても、心身共に健康であるために彼女の教える処世訓の幾つかを人との関係においても、また自分自身に対しても取り入れたい。



(27)轡田隆史著 「考える力」をつける本
97. 三笠書房刊 ¥1,300

 「考える力」をつける本というのは大袈裟だが、副題にある「新聞・本の読み方から発想の技術まで」というのは正しい紹介と言える。所々に紹介されている本も読みたくなる。読書を愛する者の読んでおいてよい1冊だ。



(26)佐和隆光著 「日本の難問」
97.3 日本経済新聞社刊 ¥1,680

 最近の日本の政治、経済、社会の問題に焦点を当てて、問題点を摘出し、解決策を提案している。特に経済問題については、資源の有限性、地球環境問題からメタボリズム文明(循環代謝型文明)への転換を呼びかけている。私もエネルギー問題の解決策として基本的にはメタボリズム文明への転換は不可欠を考えているので、この部分を私の原子力問題についてのホームページに引用した。



(25)戸内順一著 「Q&A式 Windows95入門」
96.6 講談社ブルーバックス \760

 記述がQA式になっていて、引きやすく読みやすい。この本でウィンドウズ95の操作はかなり覚えた。例えばファイル名の変更、1.2MBフロッピー用ドライブの組み込みなど



(24)石田晴久著 「パソコン自由自在」
97.1刊 岩波新書 \650

 パソコンのごく初歩を読みやすく解説している。



(23)松山幸雄著 「ビフテキと茶碗蒸し」
96.8 暮らしの手帳社 \1600

 松山幸雄のエッセイ集。有益な言葉が多い。
P191家族に限らず、親しい話し相手ほど、この世の大きな財産はない。(中略)確認しあう、共感しあう、あいづちをうつ仲間がいると、幸福感は加速される。オペラや野球も、一人で見るより、帰り路、興奮して感想を語り合える人が一緒の方がずっと楽しいものだ。



(22)高木仁三郎著 「もんじゅ事故の行きつく先は?」
96.4 岩波ブックレット \400

 もんじゅ事故を契機にプルトニウムリサイクルについて批判的な高木仁三郎氏が、プルトニウム、高速増殖炉、リサイクル路線について解説するとともに問題点を指摘したもの。高木仁三郎氏はリサイクル路線について絶対反対ではなく、TASTEXでやったようにリサイクル路線について公正に評価することが必要だといっている(本書 おわりに P62)。なお、軽水炉によるワンスルー方式は、特に反対していない。廃棄物になる使用済み燃料の処分が問題であることを言っているに過ぎない。



(21)加藤尚武著 「技術と人間の倫理」
96.1 日本放送出版協会 \1100

 科学技術論として科学技術史にとどまらず、科学技術についての様々な見解を示し 、読みやすい。中心になっているのは、科学技術について肯定的な立場、否定的な立場、限定的な立場である。筆者の主張は「どのように優れた技術も無制限の利用は許されない。正しい利用のための倫理基準が必要だ」という限定的な立場だ。



(20)立花 隆著 「ぼくはこんな本を読んできた」
96.2 文芸春秋 \1500

 立花式読書論、読書術、書斎論と副題にあるようにそんな内容を持った本だ。特に読書術はユニークで説得力がある。「実戦」に役立つ14箇条など直ちに実行に移してもよい。また、「体験的独学の方法」で、@まず金を使うA神田でハシゴをB本の選び方C古典的入門書から名著へD何をどうE次にひたすら読むF独学の危険性 も独学の方法として役に立つ。



(19)七沢 潔著 「原発事故を問う」
96.4 岩波新書 \650

 ――チェルノブイリから、もんじゅへ――の副題はついているが、もんじゅ事故についての記述はほとんどなく、大半がチェルノブイリ事故の原因と被害である。旧ソ連やIAEAの発表が虚偽に満ちたものであることが記され、筆者の調査、聞き書きが書かれている。しかし、それでもチェルノブイリの被曝被害の定量的な把握にはなっていない。本当にどの程度の被害があったのか、客観的に調べなければならない。



(18)副島隆彦著 「英文法の謎を解く」
95.12 ちくま新書 \680

 現在の英語教育に対する強い批判と新しい英文法の考え方が面白い。英語、英文法に関心を持つ者として面白く読めた。仮定法の説明が分かりやすい。



(17)小林章夫著 「イギリスを見に行こう」
94.4 同文書院 \1200

 英文学やイギリスについて興味深く、うまくまとめている。気楽に楽しく読める。最近イギリスを紹介した本が多く出版されている。



(16)小林圭二著 「高速増殖炉『もんじゅ』」
94.2 七つ森書館 \3090

 高速増殖炉である「もんじゅ」を批判した本として非常によくできた本だ。「もんじゅ」の危険性がよく理解できる。かなり技術的な内容を持っているが、容易に頭に入る文章で読みやすい。「もんじゅ」反対運動の理論的基礎を提供しているのでないか。ただし、「もんじゅ」にも事故が起きたとき、それを防御する機構が備わっている。その辺りのことがあまり書かれずに、ただ危険な方向に行くという話の仕方蝸艪フ丸い山頂に着く。こb「った本に反論する本を出すなり、反論の機会を設けないといつまでも反対運動を封じることは出来ない。



(15)宮下 厚・二村高史著 「パソコンもっと深く知
りたい」96.4 ごま書房 \800

 パソコンのハード、ソフト、インターネット等について非常に分かりやすく説明しており、有用な入門書になっている。



(14)大崎順彦著 「地震と建築」95.4岩波新書 \580

 地震と建築について分かりやすく、かつ興味深く書かれている。この本を読んで地震とその被害について大分理解できた。



(13)沢村貞子著 「老いの道づれ」95.11岩波書店
\1,300

 夫 大橋恭彦への愛を綴り、一見非常に純度の高いエッセイになっている。しかし 、現実の夫婦の生活がこんなに愛情あふれたものであり得るのか、疑問に思う。殊に妻の方が多くを稼ぎ著名な女優である場合、夫の立場は厳しいのでないか。妻も冴えない夫をそんなに大切にするものだろうか。詩と真実に落差があるような気がしてならない。兎も角前半がよくできていて面白い。



(12)高木仁三郎著 「プルトニウムの未来」
94.12 岩波新書 \650

 序章で言っていることは、プルトニウム利用の問題を総括していて有用だが、小説の方は何を言おうとしているのか分からないし、面白いものでもなかった。



(11)川北義則著 「人生 愉しみの見つけ方」
95.8 PHP研究所 \1,100

 サラリーマンが平凡に人生を送る知恵がたくさんある。特に前半にいい話がある。ときどき取り出して味わえる「ことば」がある。



(10)大島 清著 「人生は定年からが面白い」
94.11 講談社 \1,400

 水泳、マウンテンバイク、ジョギングなどの運動の効用を力説している。運動をするとベータ・エンドルフィンという快感物質が分泌するという。



(9)阿川弘之著 「志賀直哉」(全2巻)
94.7 岩波書店 \3,600

 志賀直哉の小説は「小僧の神様」、「正義派」、「母の死と新しい母」などの短編 をむかし読んだだけだった。しかし、この評伝は面白く2ヶ月ほどかかったが、全編を通読した。弟子の目での志賀直哉像なので、癇癪持ちの、わがままな男をかなり礼賛している向きが強い。また、非常に寡作で、長編小説は「暗夜行路」だけにもかかわらず、大変な収入とたくさんの弟子を持つことが出来たことに驚いた。志賀直哉は寡作ではあったが、優れた作品を残し、また人間としても立派な人物であったようだ。ただ、晩年早く死にたいと再三言っていたようで、最終章にあるように本当に幸福な生涯と言ってよいのか気になる。阿川弘之氏がこの大部の評伝を詳細な調査をもとに人に読ませるようにまとめ上げた力にも感心した。



(8)諏訪邦夫著 「パソコンをどう使うか」
95.4 中公新書 \680

 1995年4月に出版され、評判になった本で今でも本屋に置かれている。しかし、パソコンのハードもソフトも進歩が著しい。この本の中でウィンドウズ(version3.1)はパソコンのハードがまだ十分でなく快適に使えないとしている。しかし、その後ウィンドウズも95が出て、さらにパソコンの性能も向上し、ウィンドウズ95を使うのが当たり前になっている。従って、記述がもう古くなっている。しかし、出版された当時はパソコンの使い方を指導する本としてよく読まれた。特にCD−ROMの本の話、そして英語のCD−ROMの本の分からない単語にカーソルを持っていくと日本語訳が出るソフトの話しなど興味があった。私はその後このソフトをロボワードで実現した。



(7)田山輝明著 「民法」 90.6 岩波書店
\1,800

 民法の基礎・概要と民法の現代社会における問題点、機能等について、分かりやすく説いている。ほぼ2回読んだ。



(6)辻井 喬著 「虹の岬」
94.7 中央公論社 \1,450

 戦前に住友本社の常務理事を務め、54歳で職を辞し歌人となった川田順とその弟子であった27歳年下の京大教授夫人鈴鹿俊子との恋の物語。伝記的事実に加え、筋のおもしろさもあって読ませる小説になっている。著者がセゾングループのリーダーである堤清二であることも興味深い。



(5)Ernest Hemingway "The old man and
the sea" Arrow Books \1,298

 簡潔な文体の中に生きることの悲しみを象徴させるストーリーになっている。人生は結局こんなものなのだ。だからこそそのときそのときを大事に愉しみながら生きていきたい。



(4)野口悠紀夫著 「超」整理法 中公新書
\720

 分類整理でなく、時間順配列による押し出し式が、雑多な情報の整理によいこと。パソコンの利用――ユースウェアの必要性、本を整理する基本は捨てること、メモは1冊のノートに集中させることなど情報整理、発想のために有用な事項が多い。



(3)中村智子著 「野上弥生子」 思想の科学社 \2,000

 野上弥生子については、名前だけで知るところはなかったが、この日記をもとに書かれた評伝は非常に面白い。彼女の生き様を彷彿させる。特に田辺 元との「老いらくの恋」の話は面白かった。私も長く付けている日記をもとに自伝を書いてみたい。兎も角もう少し日記をまめに付ける必要を感じた。



(2)板坂 元著 人生後半のための優雅な生き方
PHP文庫 \460

 優雅に生きると言うよりは、楽しく生きる知恵を与えてくれる本、時々ぱらぱらとめくってみると楽しみが発見できるかも知れない。



(1)荒畑寒村著 寒村茶話 朝日新聞社
\1,200

 明治、大正、昭和と生きた社会主義者のユーモア、趣味、主張が語られ面目躍如たるものがある。90歳近い人のとは思えない生き生きとした文章だ。





井口昭彦
Eメール・アドレス:gx4a-igc@asahi-net.or.jp

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