役に立つ新聞記事など

最新改訂:2007年12月6日




 毎日、新聞を読み、時には雑誌を読んだり、いろいろな資料にも目を通す。面白かったり、役に立つものはそんなにない。しかし、長い間には生きる糧になるものや有用な情報があったりする。そんな新聞や雑誌の記事を紹介していきたい。



[目  次]

1.困り果てたとき「寝るに限る」 椎名IBM会長(朝日新聞1998.5.15)

2.高齢期の生と性(朝日新聞 2002.2.19)

3.スッピンお気軽主義 森まゆみ(日経新聞 2001.8.15)

4.マルクス主義をどうするのか 梅原 猛(中日新聞 2000.9.26)

5.行き着くところまで来た 佐和隆光(日経新聞 2001.1.5)

6.成長至上主義 経営者も疑問(1)(朝日新聞 2000.2.13)

7.成長至上主義 経営者も疑問(2)(朝日新聞 2000.2.13)

8.自己主張でボケ防止を(福井新聞 1999.11.29)

9.不老学のすすめ 太く長く生きるために(朝日新聞 2001.3.2)

10.人類はゴミで滅びうる ゴミ増やさぬ社会考えて 養老孟司(朝日新聞 2002.1.8)

11.今、哲学に出来ること 「環境」軸に未来像を描く 加藤尚武(朝日新聞 2001.6.1)

12.21世紀は「所有」から「利用」の時代 痛みを乗り越え改革の実現を(1)(朝日新聞 2001.3.31)

13.21世紀は「所有」から「利用」の時代 痛みを乗り越え改革の実現を(2)(朝日新聞 2001.3.31)

14.いい「いい加減」でボケを防ごう(健保だより)

15.科学と社会 貧富拡大 民主制で修正(2001.1.6読売新聞)

16.眠れるコツ教えます(2001.9.29朝日新聞)

17.アメリカの反省 梅原 猛(2001.11.27県民福井)

18.禁煙、小食、小酒、多動、多休、多接(季刊 健康の医学ニュース 第42号)

19.ストレス 憩いの場が誰にも必要 日野原重明(2002.8.24朝日新聞)

20.政治の錬金術は終わった 早坂茂三(2002.6.23朝日新聞)

21.運動の仕方 生活の中で 体動かそう(2002.3.15県民福井)

22.がんを防くための12ヵ条(がん研究振興財団「がんの統計’01」から)

23.スポーツ当日のセルフチェック10ポイント(2002.12.7朝日新聞)

24.じっとしていられる強さは、我々の中にあったと思う 富岡多恵子(作家)、森 毅
(京大名誉教授 数学)(2003.1.1朝日新聞)

25.さらば成長至上主義 朝日編集委員 村田泰夫(2003.1.15朝日新聞)

26.正論 不況という「空気」を変えるときだ 東海大学教授 唐津 一(2003.1.26産経新聞)

27.こころ元気ですか 「男はつらいよ」防衛医科大学校教授 高橋祥友(2003.2.8朝日新聞)

28.「好い加減」のすすめ  なだ いなだ(精神科医 作家)(2003.1.16朝日新聞夕刊)

29.平凡に生きる以上に、どんな人生を望むというのかね 池田清彦(2003.4.21朝日新聞夕刊)

30.白寿三浦敬三さんのモンブラン(2003.2.15朝日新聞夕刊) 99歳、欧州最高峰を滑降(2003.2.21朝日新聞)

31.みんなで迷えばこわくない 辛酸なめ子(1/2)(2003.7.12朝日新聞夕刊)

32.養生訓に学ぶ健やかさ 日野原重明(2003.8.23朝日新聞朝刊)

33.浮世絵 「すかりすかり」で「ちぱちぱ」 島田雅彦(2003.8.30朝日新聞be)

34.ロリコン 降りきたれ 溺愛する愛娘 島田雅彦(2003.9.27朝日新聞be)

35.渡辺淳一や団鬼六、恋愛・性愛の達人が描く枯れない老人小説(2003.11.25朝日新聞)

36.不足にこそ人間の安定が 立川昭二(2003.10.10朝日新聞)

37.茶坊主発言をする元専務(2004.1.31アサヒタウンズ投稿記事)

38.彼のため鬼にも蛇にも 女優・日舞家 藤間 紫さん(2004.1.30朝日新聞夕刊)

39.優雅な余生は退屈との格闘 島田雅彦(2004.5.15朝日新聞be)

40.足腰の健康 立つことの楽しさを生活に(2004.6.12朝日新聞朝刊)

41.悲しく侘しい老いはまた歓びにあふれる 佐江衆一(作家)(1995.10.3朝日新聞夕刊)

42.敗者の傷みに優しさを 松島トモ子(女優)(2004.7.9朝日新聞朝刊)

43.悠々といつまでも現役(2004.7.17朝日新聞夕刊)

44.時にはがんばらない勇気が必要 鎌田 實(2005.5.14朝日新聞)

45.「団塊」 堺屋太一(2005.1.6 読売新聞朝刊)

46.いつもそばに本が 上野千鶴子(2003.9.21 朝日新聞朝刊)

47.歩くポイント聞きました(2004.3.22 朝日新聞朝刊)







47.歩くポイント聞きました 日本ウォーキング協会指導部長
高部郁夫(2004.3.22 朝日新聞朝刊)

 誰でもすぐに始められる「ウォーキング」は、ちょっとの工夫でさらに 効果的に楽しめる。ポイントを日本ウォーキング協会指導部長の高部郁夫 さんに聞いた。  「ウォーキングは歩幅をやや広げ、やや速く、そしてやや長く歩くこと を心がはましょう」と高部さん。日頃の歩き方に少しの負荷をかけること で、買い物や通勤の途中でも、いつでもどこでもウォーキングはできると いう。  靴は専用のウォーキングシューズが一番だ。ジョギングシューズを 代用する人もいるが、マメができやすいという。かかとの部分がフィットし、 つま先は指が自由に動かせるものを選ぶようにする。高部さんは「いつも 履く靴より0.5〜1.0センチ大きめが目安。足の大きさは朝より夕方の 方が大きいので、夕方に選ぶことをお勧めします」と話す。 春先のこの 時期の服装は、薄めの服を重ねるのが良い。こまめに温度調節できるからだ。 つば広の帽子をかぶり、けがを防ぐための手袋も着けた方が良い。  よくウォーキングの目安は1万歩とされるが、高部さんは「まず今よりプラス 1千歩を目指して」と呼びかける。個人差はあるが、1万歩は距離にして 6〜7キロ。80〜90分歩くことになり、時間の確保が大変だ。「遠回りして 家に帰ったり、一駅分を歩いたりするなど、まずは歩数を増やすところから 始めてはどうでしょうか」30分続けて歩くのが無理ならば、10分ずつ3回に 分けても運動効果は変わらないという。大事なのは続けることだ。  「家族や友達が一緒だといいですね。スリーデーマーチでもみなさん、 俳句をつくったり、草花を楽しんだりしています。さあ出かけましょう」


46.いつもそばに本が 上野千鶴子(2003.9.21 朝日新聞朝刊)

 来訪者が書棚を目にして、感に堪えないように聞く。これだけの本を全部読まれたの ですか? まさか。学生なら、ほっとした表情が浮かぶ。 わたしのように仕事で本を 読むようになると、通しで読む本なんて、めったになくなってしまうんです、と答え る。  本はまず、あとがきを読む。それから目次をにらむ。目次の構成を見れば、書き手 のアタマのなかは伝わる。それからあたりをつけた章だけをつまみ食いする。そうやって 食い散らかされた本の残骸の山がわたしの書棚だ。くさったりんごは一噛みすればわかる、 とつぶやきながら。研究を仕事にしてしまったせいで、読書の快楽から見放されて久しい。  だが、そのなかでもまれに、つまみ食いしながらもとへ戻り、さらに先に進み、気 がついたら、表表紙から裏表紙まで全部読み終わっていた、という本に出逢うことがある。  最辻では小熊英二の大著『<民主>と<愛国>』(新曜社)がそのひとつ。最終章 のべ平連から読み始めたが、遡行して50年代の「国民的歴史学運動」を読んだときには、 拾いものでトクをした気分になっていた。もうひとつは『ペてるの家の「非」援助論』 (医学書院)精神障害の当事者による共著だが、だれが欠けても成り立たない群像劇のように、 どの章もおもしろく、いつのまにか全部読み通していた。底をついたら笑うしかない人々の 生き方に共感し、友人たちにすすめまくって、ゼミの視覚障害の学生のために対面朗読会まで やった。そのおかげで、朗読の楽しみを見つけたのも、めっけものだった。一年に何冊、こ ういう本に出逢えるだろう。     


45.「団塊」60歳時代(2005.1.6 読売新聞朝刊)

 2005年が明けた。あと2年、2007年からは団塊の世代が六十歳代に入る。
 60歳を「定年」と考える古風な人々は、「2007年からの3年間に300万人 以上の団塊の世代が定年を迎え、日本の経済と企業経営に深刻な影響を与える」と憂慮する。     典型的な官僚的予測、すべての仕組みを不変と断定し、中身の数字だけをいじくって 将来を弾き出す手法である。
 こうした官僚的予測は、大抵外れる。実態の変化に応じて世間の仕組みと人間 の仕方も変わるからだ。特に、団塊の世代に関する官僚や「識者」の予測は見事 なほどに外れて来た。
 団塊の世代は、中学では60人学級のスシ詰め教室で学んだ。文部官僚は「それで は学力がつかない」と主張したが、そのころこそ日本の中学生の学力は高かった。 学力低下や学級崩壊は、40人学級になった1990年代からの現象だ。
 団塊の世代が高校、大学を卒業するころには、「こんなに新卒が多い のでは就職難になる」といわれた。だが現実には、60年代未から70年 代初頭は高度経済成長で人手不足だった。
 団塊の世代が40代になると、「窓際族が増えて企業経営が難しい」といわれたが、 事実はその逆、企業利益史上最高のバブル景気になった。 そしてようやく官僚たち が「日本経済は40代中年のパワーと忠誠心で断然硬い、土地も株も上がり続ける」 といい出した途端に景気は悪化し、日本は長いトンネルに入った。
 2007年から先も官僚的予測は外れるだろう。団塊の世代は、60歳代になっても 働き続け、新しい産業と文化を興すに違いない。
 「人生80年時代」の今は、60歳代は老人ではない。経験と体力とやる気のある 優良な勤労者だ。その半面、その多くは住宅ローンや子女教育の負担を済ませ、 退職金や企業年金に恵まれる。老親の介護が終わり相続財産を得る人も珍しくある まい。つまり、人生で最も恵まれた時期を迎えるわけだ。
 そんな状況の人々が、大きな塊となって出現すれば、これまでにない新型の労働力 が供給される。たとえ給与は低くとも好みの仕事と勤労形態を選ぶ、これをどれだけ 上手に活用するかで企業の盛衰も決まるだろう。
 同時に、60歳代の激増は、巨大な高齢者市場を生み出す。団塊の世代がこれまで も、その年齢に応じて「ハイティーン」「ヤング」「ニューファミリー」そして 「中年交際費族」などのブームを生んだ。2007年からは60歳代のいぶし銀文化 の市場が大成長するに違いない。
 日本の人口は2006年ごろから減少する。だがこれも経済文化の衰退に直結する ものではない。
 15世紀にイタリアでは、人口が急減した。その時期にこそルネサンスに繋がる 新文化が華開いた。人口の減少で生産性の低い業種が捨てられた結果、一人当たり の所得が伸び、文化に投じる資金が増えたからだ。
 これからの日本が、大胆な規制撤廃と国際的な人事交流を進めるならば、効率の高い 分野に労働力が集中する一方、必要な数の外国人労働者の流入と安価な輸入品の増加で、 日本の経済と文化は大いに発展するだろう。
 60歳代人口の増加は、知価時代における繁栄の大きなチャンスである。


44.時にはがんばらない勇気が必要 鎌田 實(2005.5.14朝日新聞)

 がんばるって、日本人の好きな言葉です。あなたもきっと、がんばってきたと思います。 ぼくらは親や先生から、がんばれって言われて育ってきました。いたる所にがんばれが あふれています。
 がんの末期の患者さんから「先生、今日まで、がんばってがんばって きました。もうこれ以上がんばれません」と涙を流された時、がんばれという言葉が人 を傷つけることを知りました。阪神大震災の被災者から、こんな手紙をもらいました。
 「はじめはがんばらないなんてふざけていると思った。でもがんばっている時に、がん ばれと言われた。これ以上どうがんばれっていうのか、頭に来た」
 気持ちはよくわかります。よくがんばっているねと言われるとうれしくなるんでしょ うね。35年ほど前、ピンポンパン体操というのが流行しました。子どもたちが「がんば らなくちゃあ、がんばらなくちゃあ」と歌いました。あの頃から日本人は子どもから年寄り までみんなでがんばり始めました。この30年、がんばって、がんばって、幸せになった でしょうか。少し豊かにはなったが、ずいぶん大切なものを失いました。
 壊したのは経済だけではありません。自然も教育も家族の絆も、大切なものを壊しかけ ています。日本人はこれからもがんばり続けるでしょう。だからこそ時にはがんばらない 勇気が必要なのです。人と競争して、人をけ落として勝ち組にならなくてもいいのです。 ゴールをめざして一番にならなくてもゴールヘたどりつくプロセスを楽しむのも豊かな人生 の過ごし方なのですから。だから、がんばらないけどあきらめない生き方がいいと思って きました。
 ぼくは31年前大学の卒業生中で1人だけ田舎の病院へ赴任しました。みんなから都落ち するなと言われました。偉くなる競争からは、いち早く脱落しました。後悔はしていません。 田舎医者の人生は語りつくせないほど豊かで楽しいものでした。
 タイムカプセルで31年前にもどって、大学の教授から大学に残りなさいと言われても、 それでも、やっぱりがんばらない返事をして僻地に行くと思います。がんばるだけが人生 ではないと思ってきました。自分らしさにこだわりたいと思っています。それがおしゃれな 生き方だと信じています。


43.悠々といつまでも現役(2004.7.17朝日新聞夕刊)

生島:
三浦さんは。

三浦:
日によって違いますね。面白いテレビ番組があれば 夜遅くまで起きているということもあるし。朝起きるのは 5時半ごろですね。ですから、睡眠時間は夜のテレビとの 関係です。

日野原:
柔軟なことは非常にいいこと。神経質にならないで 上手に対応するのがコツです。

生島:
あぐりさんは嫌なことは引きずらないほうですか。

吉行:
私ね、人間が少し単純だと思ってます。単細胞ですね、 きっと。いつまでも考えたり先のことを考えたりしないん です。もう生まれつきですね。

日野原:
悩み事があったら歩くことです。歩くと悩もうと思 っても悩めなくなる。本当に。

生島:
三浦さんはいつも滑ったり歩いたりだから、悩みはない でしょう。

三浦:
別にないですね。ただ、体力がだんだん衰えてきます から、それをいかに上げることができるか、だけを考えています。

生島:
自分の興味のあることに集中する。これが若さを保つ必要 条件でしょうか。
ところで今、小さな子どもの大変な事件が報道されていますが。

吉行:
本当にびっくリしています。心をどこかに置き忘れてきたんじゃ ないかと思います。科学は進歩しましたが、人間はどうなって しまったのでしょう。

日野原:
心は年齢とともに自然に成長していくんです。なのに、 コンピューター化が猛烈に進んだ。成熟していないのにパソコン でゲームをすると、憎しみという一番よくないものが出て、大変 な行動をする。もっと自然の中で教育するように考えないと。

生島:
三浦さんのファミリーは大自然とずっと一緒です。大自然 との触れ合いで得られるものが大きいのでは。

三浦:
そのとおりですね。私自身がスキーに出会ったということが (息子の)雄一郎のエベレストにつながり、それから孫の豪太、 その兄の雄太。豪太は2回もオリンピックに行ったし、現在もまた 復活しようとやっているわけです。

生島:
生きるとはどういうことですか。

吉行:
私は嫌なことはちっともしたくない人間です。わがままなんだと 思いますよ、きっと。自分の好きなことを一生して終わりになると思いま すから、とてもいい人生だったと思います。

生島:
死ぬことは意識しますか。

吉行:
人間はどうせ死ぬんですから。いろんな方の死に立ち会ってきま したが、死ぬときはその方の与えられた寿命だなと思うよりほか、あきら められないと思います。

日野原:
私は随分長い間、患者さんたちの死をみとってきました。人生 は最後に感謝のひと言が出るかどうか、それに尽きると思います。人間は 苦しいことを経験すると感性が非常に深くなって、ほかの人の苦しみに 共感できる。だから、苦難を受けることは全部マイナスというわけじゃな い。感性を錬磨するんだと考えることができたら、私たちはどんなつら いことにも耐えることができるでしょう。


42.敗者の傷みに優しさを 松島トモ子(女優)(2004.7.9朝日新聞朝刊)

 東京の日比谷公園とニューヨークのマンハッタンに通い、数十人のホームレスの方 々に会って、その体験を今年、本にまとめました。 子どものころから仕事を始 めていたせいか、「仕事や役割を振り捨てて自由になりたい」という願いがずっとあっ たのです。路上生活をする人はどこか自由に見えて、長く興味を持っていました。
 だから初めてのインタビューで「一番大変なことは?」と尋ねて、「ストレス」とい う答えが返ってきたときは、正直驚きました。ぶざまな姿を他人に見られるのは恥ずか しいと、その女性は言うのです。亀さんという男性は「今度は何をしたいのですか?」 と聞いた私に「首つり」と答えました。
 また、マンハッタンでホームレスをしていた男性は「800万人がいるこの町で2、3週間 ひとことも口をきかないというのは孤独を通りこした恐怖そのものだ」と語っていました。
 ホームレスの人の多くは、人間としての尊厳をおびやかされる状態にあるんですね。 痛みを伴う改革が不可欠だと言われる時代ですが、少なくともホームレスの痛みがどれ ほどのものかについて、私はほとんど想像することさえ出来ていなかったのです。
 ニューヨークには60年代に留学していたのですが、当時と比べて「勝者と敗者」の格 差が広がっていました。地下鉄も街角もピカピカになっていて、同時に、ホームレスを 公園から締め出すような政策も進められていました。
 ある女性ホームレスは夜間におしっこをする場がなく、紙コップを使っていました。 きれいな街には、それを捨てる場さえない。「本当にみじめだわ」と彼女は言います。 勝者が闊歩する美しい街は、敗者の痛みが見えなくなった街でもあったのです。
 こんな社会になってほしくないと思いました。「ホームレスから抜け出せないのは個 人の責任」という考えは日本でも強まりそうだけど、私は優しさのある社会のほうがい い。「誰だって努力はしている。皆そんなに強くはないでしょ」と言えるような。
 マンハッタンのホームレスの人たちは、怒りをこめて市当局の政策や経済状況を批判 していました。「福祉予算を削った市長が悪い」とか「ホームレス増加の元凶は家賃高騰だ」 とか。でも東京では、誰一人として私に政治や不況や社会への批判を語らない。
 理由は分かりません。批判したって変わるはずないとあきらめているのかもしれませ んね。政治への怒りがあるということは、政治への期待を捨てていない表れでしょう。 米国の人たちは政治が変われば生活が変わると思っていて、変えようとしていた。
 敗戦直前の45年7月に、私は旧満州の奉天で生まれました。生後11カ月のとき、母に 抱かれ、栄養失調になりながら引き揚げて来たのです。父は召集され、シベリアに送ら れて死にました。
 あれから半世紀あまり。日本は物質的には豊かになっているけれど、人間関係は貧し い。心は物欲に縛られ、とげとげしい。戦後日本で素晴らしかったことは、50年以上も 戦争をしてこなかったこと、それに尽きると思います。
 私はどこかで自分を「民主主義の子」だと感じ、投票にも足を運んできました。た だ、進んで政治について発言をしてきたわけではないし、今後もしないと思います。 例外があるとすれば、それは日本が戦争をするときでしょうね。(構成・塩倉裕)             


41.悲しく侘しい老いはまた歓びにあふれる 佐江衆一(作家)(1995.10.3朝日新聞夕刊)

 目も耳も足も不自由な九十三歳の父と半痴呆(ちほう)の八十八歳の母を、妻とともに介護しつつ 私は、老いについて切実に考えるようになった。その心の揺れは、拙著「黄落(こうらく)」に書い たけれども、老いは六十を過ぎた私自身の足首にちゃっかりかじりついている。自分ではまだ若いつ もりでおり、生涯現役をめざして八十になろうと九十になろうとぺンを握ったままポックリ死にたい と願ってはいても、願うだけでは万に一つも達せられないと思うべきである。
 人は誰しも長生きすればおのずと体力は衰え頭もボケて、食事・排泄・入浴・歩行の生きる上での最小限の ことが、介助なしには出来なくなるのだ。百歳以上の老人が六千人以上にもなり、平均寿命がまたも 伸びて世界一の長命国日本で、「百歳、百歳!」と笑顔がふりまけるのは稀有なことで、多くの老人は 紙オムツをつけて糞尿(ふんにょう)で股間(こかん)を濡らし、日常の輪郭も日々にぼやけてゆく。
 それでも生き長らえる現代の人間の生を、その老親の介護をしている者だけが、いずれは我が事と して骨身にしみて知っている。(中略)
 この長命社会で、人は少なくとも六十になったら、平均寿命まで約二十年間、もっとも平均寿命は 大ざっぱにいってほぼ半数の人がそれ以上生きる計算だから、20年以上を、人生の仕上げの期間と して生きるべきである。私など父と同年まで生きるとすれば三十年以上もあり、気の遠くなるほど時 間はたっぷりあるのだ。
 それだけの歳月があれば、これまでの人生で実現できなかった夢も、叶(かな)えられる。年々、 体力は衰え、記憶力は減じるけれども、これまでの経験の蓄積があり、生きる姿勢を日々きびしく律 してゆけば、その人がこの世に生を受けてなすべきことが、半分なりともなせると、信じている。
 人それぞれにそれはちがうであろう。私は肩に力を入れて大事をなそうなどとは、毛頭思っていな いし、尊敬される老人になろうとも思ってはいない。老いてゆく歳月を、ふところに風を入れるよう に自然(じねん)に生きたい。なお悩み、苦しみ、自分を探しつつ、日々、生きる意味を深く問い ながら人々に感謝して老いを生きることが、人生の仕上げの期間ではあるまいか。
 老いは、悲しく、寂しく、佗(わび)しい。若いころは美しいと眺めた光りかがやく落ち葉に も、深い佗しさを感ずる。かすかに流れる浮雲にさえ、人生の悲しさ寂しさを内観する。老いを深く 生きた先人たちは、そういう人びとであった。言葉にあらわさなくとも、そのように感じられる悲し さや佗しさは、老いの歓(よろこ)びであり、豊かさである。
 そんな老いが私には待ち遠しい。老いは悲しいものでありながら、その悲しさの歓びに充(み) ちてもいるのだ。
 しかしそうはいっても、老いの終末には、たとえボケ防止に努めても、自己の意志さえ喪失する痴 呆の世界が、長生きすれば待っていると覚悟すべきである。私の母はその直前で自ら死を受容した が、私もそうしたいとは思うものの、まだわからない。しかし、迫りくる死を深く考えるほど、老い の生き方はより豊かになるのである。


40.足腰の健康 立つことの楽しさを生活に(2004.6.12朝日新聞朝刊)

 申年の今年は、人間の原点である「直立二足歩行」の重要性を考えるには、よ い年になるかもしれない。「二足歩行=ウォーキング」も大切だが、「直立=立つ こと」をもっと見直すべきではないか。
 人類が誕生して立ち上がった時の感動は、ヒトが生後1年ほどでハイハイから 立てるようになった時の、本人や家族の喜びに置き換えられる。立つことは、手 を解放し、大脳を著しく発達させた人間の原点であり、最も人間らしいこと だ。だが、その喜びや感動が最近、忘れられている。
 「電車に乗って、座れないとがっかりする」という若者もいるが、現代は一日 中、座りっばなしの「楽な生活」になりがちだ。銀行や郵便局でも、「どうぞ、 お掛けになってお待ちください」と座らせられる。 街では、背中を丸めて、 だらしなく座り込んでしまう若者が目につく。「かっこいい立ち姿」には、なか なかお目にかかれない。
 私たちのライフスタイルに関する調査でも、現代生活は歩く機会を減らしてい るだけでなく、立つ機会もかなり減らしている。  その結果、人間の本来の姿である健全で丈夫な足腰の体力が衰えている。健全 な足腰は、できるだけ座らずに立つ機会を多くするだけでも取り戻せる。  すし職人、美容師、理髪師など「立ち仕事」の多い人は、足腰のフィットネス は高くかなり良い状態に保たれている。
 立ち上がって、ウォーキングやジョギングなどを楽しむことで、エアロビック 効果は確実に高められる。しかし、特に何をしなくても、立ち上がるだけでも その価値は十分にある。背筋を伸ばして、体幹部を少し縮めると気持ちいい。  いつでもどこでも良い姿勢でバランスよく立つことを大いに楽しんで欲しい。 毎日の生活の中で、立つ機会を増やすだけでもいい。やがて、一電車で座れなくて も、立つことが楽しめ、うれしくなる。2時間の立食パーティーでも座りたいと いう気持ちはな<なる。小学校の生活集会で、立ち上がりストレッチ(ハイ ハイスタイルから両手を伸ばして高い姿勢に立ち上がる)をしてもらった。どの 学年でも、上手にバランスよく立ち上がった。立ち上がるという能力は 感動的なものだ。小学生だけでなく、生涯、誰もがどこでも身近に大切に、楽し み続けて欲しい。
(有吉 正博 東京学芸大学教授 同大付属大泉小学校校長)


39.優雅な余生は退屈との格闘 島田雅彦(2004.5.15朝日新聞be)

 定年退職して、年金生活に入ると、膨大な時間が手に入る。両親もすでにその モードに入っているが、生活費の問題より日々の退屈をやり過ごすことに知恵を 絞っている。両親は畑や田んぼが残る千葉の郊外に移住し、日々散歩と読書に明 け暮れている。親孝行のつもりで定期的に私が読み終えた書物を回しているが、 50冊の本も三カ月で読破される。  湘南に募らす旧知の編集者は目下、中国語の学習に時間を費やし、その奥方は ポルノ小説の翻訳を趣味にし、実益に結びつけてもいる。その人がいうには、地 元の図書館は朝から老人でいっぱいだそうで、雑誌コーナーのソファに長時間陣 取って、新聞、雑誌を隅から隅まで目を通しているらしく、時事問題の事情通が 多いらしい。また、市民体育館や町のフィットネスジムも老人の社交場になって いる。朝食を家で済ませたら、残りのご飯でおにぎりを作り、水筒を持って、午 前中からジムに出かける。若いインストラクターの指導で、有酸素運動や水泳に 励み、時には孫の年の女の子と長く話し込んだりもする。そして、午後3時くら いから風呂やサウナでリラックスし、4時半にはジムを出て、仲間と家の近くの 居酒屋に行き、ビールを飲み、夕食も済ませ、午後10時前には寝てしまうのだと か。毎日、ジムで鍛えているので健康そのもので、病院を社交場にする必要はない。  初めは羨ましいとも思ったが、すぐにその老人の健康な生活も日々これ退屈 との格闘なのだと気付いた。老人は退屈とどう戦うべきか、これは今後の文学の 課題でもあろう。谷崎潤一郎はじめ文豪はみなこの問題と誠実に向き合ってき た。私などよりずっと長く書いてきた文豪はいう。書くことがなくなってから、 文士になるのだ、と。その文豪は、電車に乗って都心に出かける時、肌を重ねた いと思う女に何人出会えるかを数えるのだという。なるほど書くことがなくなっ ても、スケベ爺でいる限りは退屈している暇などないか。     (作家)


38.彼のため鬼にも蛇にも  女優・日舞家 藤間 紫さん(2004.1.30朝日新聞夕刊)

 純白の浅間山を望む長野県軽井沢町の別荘。舞台復帰を控えてけいこ中の ″新婚"の夫、市川猿之助さん(64)をそっと見守る日々だ。宗家(日舞の 先代藤間勘十郎さん)との離別やトラブルもあったし、病気もしたので、 女としては終わりと思っていた。そこへ猿之助さんが、新しい人生を 与えてくれた。おもいがけない希望をいただいた。ありがたかった。 あの年になってあんなに純粋に生きている人を知らない。彼を守るためなら、 鬼とも蛇ともなれるかもしれない。さらに休息が必要なら、貧乏になっても いいから体をいたわってほしいとすら思う。(中略)
 色気は男も女もひょっとしたら陰かもしれない。強い男が寂しい顔をして笑 う。それが色気。若い時から寂しかったから、そう思うのかな。今は、、慈愛 に近いものを持っていなくてはいられない人間に変わった。年をとっても違った 形で燃えていきたい。世の理不尽さにいつも怒りを感じる。歌舞伎のせりふでは ないが、「いくさとはむごいものよ」の心境です。 愛は人生で最大のもの。 自分のことだけ考えて、人を愛さなければ気は楽かもしれないが、いつか体が ゾクゾクするはどの寂しさを感じるのではないですか。


37.茶坊主発言をする元専務(2004.1.31アサヒタウンズ投稿記事)

 2年ほど前、出身会社の株を買った。現在は購入価格の3分の1以下と低迷している。 株主総会の席上、業績が上向いているという経営陣の説明には同慶だが、常に業界ビリ 前かビリという状態。私は、「阪神タイガースを見習って、一層がんばってほしい」と応 援発言をした。ところが、先日の旧友会の集まりで、元専務が「キミの発言はひんしゅく を買っている。社員株主なら、もっと愛情を持って控えめに」と、わざわざ言いに来 た。彼は今も関連会社で禄(ろく)を食(は)んでいる身の上だ。茶坊主め! オレは 社員株主じゃねえ。社員バッジは、はるか昔にはずした一株主だ。取引関係もなけり ゃ、子どもが厄介になっているわけでもない。いまだにかつての上下関係にしがみつ き、会社へのおべんちゃらかなんだか知らんが、そんな圧力をかけてくるとは。  会社は今期も業界6社中5位か6位の「定位置」を確保。株損のうっぶんも含め、株主 総会でずばりひと言ぶちまけてやるぞ。


36.不足にこそ人間の安定が 立川昭二(2003.10.10朝日新聞)

 いま関心があるのは、江戸時代中期の文人だった神沢杜口です。彼は京都町奉行所の与力だったのですが、40代半はで現役を退いてから『翁草』という200巻の見聞録を残した。(中略)
 翁草のなかで杜口が繰り返し説いているのは、「足るを知る」という生き方です。満足を求めては駄目だということですね。不足にこそ人間の安定があるのだと。満ち足りることを追求していくと、どこまでも切りがない。たとえば現代でいうと、それが自然破壊や現代病につながっていくと思うのです。いま大切なのは成長より成熟。人間でいえば、若さだけではない、老いや病なども含む弱さの論理ですね。それが「足るを知る」という調和を求める考えにつながる。
 これは何も私が年をとったから言うのではないのですが、今の社会の中で、もっと「老い」の価値が認められていいと思いますね。確かに若いときのような力はなくなるのですが、逆に力が衰えただけ別の何かを得る。実際、私自身も若い時にはできなかった、別のことができるようになってきました。ただ、そのためには、人間にしろ自然にしろ、浪費や乱費は好ましくない。たとえば人間なら、無理をせず自然のリズムで年をとっていった時、かえって豊かな老いの実りがあるのだと思うのです。そしてその実りはおのずと社会に還元される。


35.渡辺淳一や団鬼六、恋愛・性愛の達人が描く枯れない老人小説(2003.11.25朝日新聞)

 恋愛をあきらめない。渡辺淳一さん、団鬼六さんらの老人小説が話題だ。恋愛をあきらめない70代作家が「年甲斐のない人になりたい」「こころの年齢こそ大事」と語る。

 煩悩は晩節を輝かす?晩節を汚す。年甲斐もない。老いらくの恋に日本の社会は厳しい。だが、65歳以上の高齢者はすでに全人口の約2割を占め、老人という規範に押し込められてはいない元気な高齢者が増えている。そんな現実を映し、枯れない老人小説が話題を集めている。


34.ロリコン 降りきたれ 溺愛する愛娘 島田雅彦(2003.9.27朝日新聞be)

 世の中の退廃が進めば、いわゆるロリコンの人口は増える。娘の年頃の恋人がいることを誇る親父なら、私も何人か知っている。31歳年下の弟子のような女性を後妻に迎えた大学教授、40歳も年下の恋人とプラトニックな関係を結んでいると語る評論家、どちらも幸せそうである。彼らに嫉妬する五十男に私はそっと告げた。若い子にもてたかったら、そんな安物のシャツを着るな、と。年を取ったら、人一倍お洒落に金をかけ、外見を取り繕った上で説教臭さを控え、おのが教養を惜しげもなく差し出せ、と。(中略)
 中年になると、若い者を可愛がり、面倒を見たいという欲求が生まれ、自分が存在しない未来に向けて投資したり、いたいけなものに無償の愛情を注ぎたいと思うようになる。単に性欲や物欲を満たすだけでは物足りず、誰かのために、あるいは社会のために貢献 しようと思わなけれは、人生が空しくなつてしまうものなのである。そうした足長おじさんになりたい欲望と少女の利害が一致すれば、幸福な感情教育も実現するのだが、現実には少女は肉欲の対象にされ、安易な金銭トレードばかりが横行する。エロ親父のニーズに少女も合わせている。地に落ちたロリコンの信用を回復し、絶滅が危惧される足長おじさんに徹すれば、娘を欲しがる彼をパパと呼ぶ若い女の子が現れるだろう。


33.浮世絵 「すかりすかり」で「ちぱちぱ」 島田雅彦(2003.8.30朝日新聞be)

 浮世絵は江戸時代の町人文化の産物だが、幕末になると、ヨーロッパで大いにもてはやされた。浮世絵がヨーロッパの人の日に触れたのは偶然だった。そんなものに商品価値があるとは思つていなかった日本人は輸出向けの陶器や漆器が割れないように刷り損じた浮世絵で包んでいたのだ。それが好き者のヨーロッパ人を狂喜させ、印象派の画家たちにも影響を与えた。浮世絵の多くは春画である。赤裸々に交合する男女を描いたポルノグラフイにわれらの先祖のスケベぶりを垣間見ることができる。体位も様々なら、オーラル・セックスも覗きも乱交もあり、江戸期の性風俗は現代に劣らず充実していたことがわかる。キリスト教の性道徳の縛りを受けない奔放な性愛表現に瞠目するヨーロッパ人の顔が思い浮かぶ。極めつけは北斎筆の蛸と女の交合図であろう。女体に絡みつく蛸もリアルなら、女の恍惚の表情もまた真に迫っている。きつとあの蛸は北斎の化身に違いない。手足が8本もあれば、女性をエクスタシーに導けると思ったか。


32.養生訓に学ぶ健やかさ 日野原重明(2003.8.23朝日新聞朝刊)

 私は今年の春、日本医学会総会への出席を兼ねて、福岡市郊外の久山 町にある「久山町ヘルスC&Cセンター」(所長・尾前照雄博士)を訪 問しました。ここでは、40年の長きにわたって住民の健診成績と生活習 慣、並びに死亡病名との相関関係を調査しています。  その地の宿泊先、久山町レイクサイド・ホテルには「貝原益軒記念資 料館」がありました。私は、85歳の長寿で、今の季節(1714年8月27 日)に現在の福岡市で亡くなった益軒の業績を一覧し、非常な感銘を受 けたのです。  貝原益軒は儒学者として筑前の黒田藩主に仕えた後、70歳で藩の務め を辞して著作に専念しました。もともと、生涯を通して日本各地への旅 を楽しんだ益軒は、「筑前国続風土記」30巻を1709年に出版。79歳の時 には「大和本草」と題した16巻からなる植物学の著作を完成していま す。儒学者でもあり植物学者でもあったと言えましょう。そして医者で はなかった益軒が1713年、80歳を超えてから出した全8巻の保健の本 が、有名な「養生訓」です。その翌年に病死。遺言で仏式葬儀はせず、 次の辞世の句を残しています。 「越しかたは 一夜ばかりの心地 して 八十路あまりの夢をみしかは」生涯を通しての楽しみは、自然観 賞の旅と読書と、歌舞音曲、そして人生を楽しむ哲学でした。  益軒が今日の日本人に一番知られているのは、最後の大作「養生訓」 でしょう。その中で強調されている「腹八分目」と、「よく歩く」の勧めは、 現代人が抱える生活習慣病の予防の上で、特に注目されていま す。最近の研究では、ネズミを使った実験結果として、食べる量が少な いハングリーなネズミの集団の方が、飽食の集団より明らかに長生き するとのことです。  日本人の寿命がずっと短かった江戸時代前期に、益軒が当時の寿命の 倍近い85歳まで元気に、しかも誰よりも知的生産力旺盛に生きたこと は、まさに驚異です。益軒は食事のほかに、気を和らげ心を平らにし て、「気を整える」ことの大切さをも強調しています。「気は万物の生 成の基礎にあるもの」と。これは私が尊敬するオスラー博士が強調した 「平静の心」とも合致します。  このように心身両面から健やかに生きるすべを平易な言葉で書き、一 般の人々を指導した彼こそ、私は「生き方上手」のモデルであると思 います。そして何より、私の始めた75歳以上の「新老人の会」の会員の 方々に、モデルとしてほしい人、と言いたいのです。  益軒は医者選びのコツまで書いていますが、それはまたの機会にお話 ししましよう。


31.みんなで迷えばこわくない 辛酸なめ子(1/2)(2003.7.12朝日新聞夕刊)
みんなで迷えばこわくない(2/2)

 迷子の記録は二時間、小学校五年生の時でした。池袋の塾に行くため埼玉の奥地 から電車で一時間、はじめての場所だったこともあり、広大な池袋駅の地下で迷って しまいました。途中、通りすがりの老夫婦が自分を指して何か言っているのが視界 に入った途端、追われているような錯覚に陥り、迷子に加え追っ手から逃げるという 要素も加わって一人サバイバルゲーム状態。二時間後、親からの通報によって捜索 に来た塾のスタッフに見つかりゲームオーバーとなりました。猫なで声で「大丈夫? もう恐くないからね」と優しい言葉をかけてくれたバイトの男子学生に対し、せっかく のアドベンチャーを中断されたようで不満を感じたのを覚えています。と同時に、女は 探し求められることに一縷の快感を得るものだと幼心に実感しました。迷い続けている 間、誰かに探され続けていたと思うと女冥利に尽きるものがあります。
 数年前、地図が読めない女の本がベストセラーになって以来、女性は男性より「空間 認知能力」が劣っている説が一般的になりつつあります。迷子は女の特権であり「道に 迷う」ことで無意識のうちに女のか弱さをアピールしている側面も否めません。実際、 道に迷っていることを、仕事等で待ち合わせしている相手に伝えると、60%の男性は優越 感と下心をにじませた必要以上に優しい声で「あせらないでゆっくり来てください」 などとねぎらってくれます。中国女性のてん足のように、女の迷子は男の保護欲を そそるのでしょうか。


30.白寿三浦敬三さんのモンブラン(2003.2.15朝日新聞夕刊)
99歳、欧州最高峰を滑降(2003.2.21朝日新聞)

 今年白寿を迎えたスキーヤーの三浦敬三さんがヨーロッパアルプス最高峰 モンブラン(4810b)の氷河滑降に挑む。99歳の誕生日、15日に日本を出発する。

 朝日新聞社に入った連絡によると、99歳のスキーヤー三浦敬三さん と長男の雄一郎さん(70)、孫の雄大さん(37)の親子3代が19日、欧州 最高峰のモンブラン山系バレー・ブランシユ大氷河のスキ−滑走に成功した。


29.平凡に生きる以上に、どんな人生を望むというのかね 池田清彦(2003.4.21朝日新聞夕刊)

(前略)人間の脳の構造はそんなに簡単に変わるわけはないから、赤の他人と簡単に心中するには何か理由があるはずだ。ネットでつい最近知り合った自殺願望を共有する赤の他人は、実は最も心を許せる身内なのではないか、との仮説を立ててみる。 ネット上で自殺願望を表明する若者は、親、兄弟、友達、先生、といった本来ならは自分の最も良き理解者のはずの人々に、全く心を通わすことができないのだと思う。彼らの心の中では、これらの人々は赤の他人なのだ。赤の他人に自分の本当の気持ちを話さないのは当然なのである。彼らには、ネット上の匿名の他者こそが身内なのだ。
 なぜ、そういうことになるのだろうか。若者の多くは、小さい時から個性が大事、というたてまえで育てられる。一部の若者たちが、肥大した未熟な自我を個性と勘違いしても不思議はない。しかし、そんなものは社会に出れば屁の役にも立ちゃしない。多くの若者たちは遅かれ早かれそのことに気づき、平凡な生活を選択するようになる。実に、個性も人生の楽しみも平凡な生活の中にしかありはしないからだ。しかし、20代になってもそのことに気づかない者もいる。
 ネット心中で重体になった大学生は、自殺の理由について「あと40年間、毎日同じ生活をするのは苦しい」と言ったという。甘ったれんじゃない、と私は思う。さしたる才能 もない人間が、あと40年も平凡に生きられたとして、それ以上どんな人生を望むというのかね。私と同じように意見をした人は、この人の周りにもいたと思う。しかし、この大学生は、誰も本当の私を理解してくれない、と思っていたに違いない。肥大した未熟な自我を本当の私というのであれば、そんなものは理解されなくて当然なのだ。
 本当の私を理解してくれる(と錯覚できる)のはネット上の匿名の他者だけなのだ。なぜならば、そこでは気に入っに言説だけを選び、気に入らないものは見ないで済ますこと ができるから。かくして、赤の他人と身内の逆転が起きる。ネット心中願望者は自分と同じ者をネットで見つけ、一緒に自殺できることに安らぎを覚えているようにみえる。
 「独りで死ぬのは寂しい」との彼らの異口同音のコトバは、自殺以外に自己実現の道を見いだすことができなかった肥大した未熟な自我の最後のかなしい叫びである。
 もういい加減に個性重視の教育などやめたらどうかね。教育とは、人並みに生きるための技術を教えることなのだ。


28.「好い加減」のすすめ  なだ いなだ(精神科医 作家)(2003.1.16朝日新聞夕刊)

 宗教もイデオロギーも、中心には純粋で過激な信者がいて、その 外側に、中心から外れるほど、だんだんと「好い加減」な信者が多 くなる。こういうと、「好い加減」という言葉に、マイナスイメ ージを持つかもしれない。だが、文字通りに解すれば、好い加減 は「良い」「加減」なのである。それなのに、いつしか「好い加減 なやつだ」と、非難されるようになった。(中略)
 イデオロギーの対立は「好い加減」で克服されるべきだったのだ。(中略)
 社会主義という宗教が、求心力を失って、その空白を埋めるよう に、宗教が力をのばしている。だが、そこに宗教戦争の危険が潜 む。今こそイデオロギーを超えるために、精神科医としては「好い 加減」という価値観の模索が必要だと考えるのだが。


27.こころ元気ですか 「男はつらいよ」防衛医科大学校教授
高橋祥友(2003.2.8朝日新聞)


 警察庁の発表によると、昨年から97年までの10年間には、日 本の自殺者数は年平均2万2410人だった。  ところが、98年には一挙に3万2863人に急増した。この 数は交通事故死者数の3倍以上にのぼる。それ以後、年間自殺 者3万人台が続いている。特に働き盛りの世代の男性の 自殺が増えたことが深刻な社会問題になっている。  世界のほとんどの国では、自殺者は女性よりも男性に圧倒的 に多い。わが国でも男性の自殺者数は女性の2・5倍である。  自殺の背後には、しばしばうつ病をはじめとするこころの病が隠れている。(中略)
 私も今年で50歳になるが、それにしても、中高年の男性とい うのは悩み事をなかなか気楽に相談しようとはしない。「相談 しても仕方がない」 「他人に弱音を吐けない」という気持ちが 強すぎる。
 問題を抱えた時、女性の方がはるかに柔軟な態度を取ること ができるようだ。女性は、まるで強い風が吹いても柳の枝のよ うにしなやかに対応できるのではないだろうか。
 それに比べると、男性は老大木のようなところがある。最後 の最後まで、強風に1人で立ち向かい、頑張り抜いたあげく、 幹の真ん中からボツキリと折れてしまう。そんな強さと弱さを 兼ね備えている。特に中高年の男性に呼びかけ たい。手遅れにならないうちにぜひ気楽に相談してほしい。た しかにすぐに精神科に受珍することには抵抗があるだろう。そ れならば、まず友人に悩みを聞いてもらうのでもよい。ひとり で悩み苦しんでいるよりは、ずっと負担が軽くなるはずだ。


26.正論 不況という「空気」を変えるときだ 東海大学教授 唐津 一(2003.1.26産経新聞)

 世間は不況、不況というのはどうしてか。結局、考えてみれば、この不況は一部の 経済学者やマスコミが作り出し悲観的な空気によるものとしか言えないのである。
 一昔前「空気の研究」という山本七平氏の名著があった。これは日本が第二次大戦 というばかげた戦争に突入したのは世間の空気にのったからだったというのである。 誰が考えても戦争はおかしいと思っていたのに現実に戦争という悲劇にまで突入していった。 これは世間の空気だったというのである。
 今の不況も、この「空気の研究」と同じことだ。みんなが不況というので、不況だと信じているだけの ことだ。実際、各種の数字を見る限り日本だけが不況で駄目だという答えは出てこない。日本の 個人消費の規模は3百兆円もある。この資金が出てくればいっぺんに景気がよくなることが目に見えている。 ところが経済の専門家からは、この3百兆円を活性化する案が全く出てこないで、行政や不良 資産の話題ばかりだ。このように考えると、この不況は、商売の現場を知らない現実から離れた一部の 経済専門家が湿らせた空気が生んだものだとしか思えない。


25.さらば成長至上主義 朝日編集委員 村田泰夫(2003.1.15朝日新聞) (1/2)  (2/2)

 「デフレ退治に政策手段を総動員せよ」の大合唱である。財政支出で需要不足をまかなえというならまだしも、インフレ目標を掲げて紙幣を刷りまくれという勇ましい主張すら見かける。底流には成長至上主義がある。だが、少子高齢化のほか資源や環境上の制約が強くなったいま、これまでのような成長は望めない。デフレと向き合い、成長しなくても豊かさを実感できる社会へと、経済の仕組みを大もとから変える正真正銘の構造改革が必要なのではないか。


24.じっとしていられる強さは、我々の中にあったと思う 富岡多恵子(作家)、森 毅(京大名誉教授 数学)(2003.1.1朝日新聞)
(1/2)
  (2/2)

富岡 この30年ぐらいで、みんなと楽しむすべは昔の人より かなり上手になったけど、逆に弱くなったのは孤独力じゃない ? ボランティアだってみんな一緒にだし、山なんかに行った ら、ほとんど団体で、60歳以上の人でしょ。中高年の山ね。だ から、1人だとすごくはじき出されたようで、変に思われる。
 −若い人は、時間さえあれば携帯電話で話したり、メール したりしてます。
 それこそ、老人問題としてまずい。年とったら、やっは りデレッとするのが一番で。
富岡(中略)じつとしていられる強さ は、きっと我々の中にあったと思うのね。その能力は摩滅した というか、なくてもいいのかもしれませんけど。
 いや、あった方がいい。特に年をとってからは。スケジ ュールが空くに決まってるから。その時、しめたと思うか、 不安になるかはえらい違いで。
 −今、不景気のおかげで、以前に比べ、自由に出来る時間 は増えてますね。
 まだ、社会の価値観の抑圧があって、何かしてないと不 安になるんでしょうが、まあ、無為の訓練と思えばね。もっと 退屈したり、ボーツとしてたらええと思うんですけど。
富岡 そう、無為の訓練が必要ですね。


23.スポーツ当日のセルフチェック10ポイント(2002.12.7朝日新聞)

スポーツ当日のセルフチェック10ポイント

@熱はないか
A体はだるくないか
B昨夜の睡眠は十分か
C食欲はあるか
D下痢はしていないか
E頭痛や胸痛はないか
F関節の痛みはないか
G過労はないか
H前回のスポーツの疲れは残っていないか
I今日のスポーツに参加する意欲は十分にあるか
★一つでもあてはまらない場合は参加は避けて休養を
取ってください(日本臨床スポーツ医学会による)



22.がんを防くための12ヵ条(がん研究振興財団「がんの統計’01」から)(2002.10.19朝日新聞)

1.バランスのとれた栄養をとる(いろどり豊かな食卓にして)
2.毎日、変化のある食生活を(ワンパターンではありませんか?)
3.食べ過ぎをさけ、脂肪は控えめに(おいしい物も適量に)
4.お酒はほどほどに(健康的に楽しみましょう)
5.たばこは吸わないように(特に、新しく吸い始めない)
6.食べ物から適量のビタミンと繊維質のものを多く取る(緑黄色野菜をたっぶりと)
7.塩辛いものは少なめに、
  あまり熱いものは冷ましてから
 (胃や食道をいたわって)
8.焦げた部分はさける(突然変異を引き起こします)
9.かぴの生えたものに注意して(食べる前にチェックして)
10.日光に当たり過ぎない(太陽はいたずら者です)
11.適度にスポーツする(いい汗、流しましよう)
12.体を清潔に(さわやかな気分で)



21.運動の仕方 生活の中で 体動かそう(2002.3.15県民福井)

 体を動かすことは生活習慣病を予防、改善します。体を動かしていると、高血圧、糖尿病、高脂血症の新たな発症が20−50%防げるというデータもあります。 また、すでに軽度の高血圧、糖尿病、高脂血症になっている人でも、体を動かすことによってデータがよくなるのです。もちろん、心臓病や脳卒中の発症や、それらによって死亡する確率も少なくなります。高齢期になると、体を動かすことは、自立を支える上で特に大切になります。体を動かしていると骨は丈夫になり、筋肉が保たれ、関節の動きも保たれ、ある程度動作も素早くなり、反射神経も衰えません。その結果、活動的な生活が送れるようになり、転倒も減り、骨折する確率も減ります。そのため、寝たきり予防の最もよい方法は毎日、体を動かすことといわれています。(中略)
 自分が楽しいと思うことの中で、体を動かすものがあれば、それが最も自分に適した体を動かす方法かもしれません。


20.政治の錬金術は終わった 早坂茂三(2002.6.23朝日新聞)

 私の経験によると、水田稲作社会、車座集団の伝統を今に継ぐ祖国日本は、義理、因縁、情実、不公正のあやなすモザイク国家だ。マスコミが小さな良心、小さな正義の笛を吹けば、世間体もあり、みんなぞろぞろついてくる。しかし、建前と本音は別だろら。政党は党利党略、派閥は派利派略、政治家は個利個略で動く。この属性は神様も責められない。人間は誰でも小金をため込み、家庭円満、世間に侮られず、できれば頭角を現し、スポットライトを浴びたいと遠慮がちに思っている。はしたなく口にしないだけの話だ。


19.ストレス 憩いの場が誰にも必要 日野原重明(2002.8.24朝日新聞)

 職場のストレスでどうしようもなくなって、家のソファで「あ−あ」と嘆息をつきたくなったときには、外に出て風に吹かれながら早足で散歩するとよい。それでもだめなら、小走りしてごらんなさい。 人は、早く動いているときには、悩むことはできない生きものなのである。


18.禁煙、小食、小酒、多動、多休、多接(季刊 健康の医学ニュース 第42号)

一無(禁煙)、二少(少食、少酒)、三多(多動、多休、多接)多接は多くの人・事・物に接し趣味を豊かにし、生き甲斐のある創造的な生活のすすめを意味しています。(中略)ストレス過剰がもたらすA型性格者に多い突然死を防ぐ8箇条は、次の如くです。@一人暮らしは避けるAハードスケジュールを避けるB生活の変化に気をつけるC頭痛などの症状が現れたら、状況などを書きとめておくD毎日30分以上運動をするE物事はポジティブに解釈するF笑うG性生活を疎遠にしない、です。(中略)「何でもいいから、ともかく楽しいことを思い浮かべ積極的に気分転換をはかる」ようにします。


17.アメリカの反省 梅原 猛(2001.11.27県民福井)

 アメリカが今後も繁栄を続けようと思うなら、おごりを反省し、京都議定書を批准し、核兵器の廃絶にも賛成し、イスラム文明やアジア文明に対する深い理解を示さねばならないが、そういうことが可能であろうか。大国アメリカの興廃は日本の運命とも深く関係する。(タリバンとの戦争の)戦勝を喜ぶとともに大国のおごりを深く反省してもらいたい。


16.眠れるコツ教えます(2001.9.29朝日新聞)

@睡眠時間はひとそれぞれ。日中の眠気に困らなければ十分
A刺激物をさけ、眠る前には自分なりのリラックス法を
B床につくのは眠たくなってから。時刻にこだわらない
C毎日同じ時刻に起床
D光を利用。目覚めたら日光を入れ、夜の照明は控えめに
E規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
F昼寝をするなら午後3時前の20〜30分
G眠りが浅いときは睡眠時間を減らしてみる
H激しいいびき、呼吸停止、足のぴくつきなどは要注意
I十分眠っても眠気が強い時は専門医に相談
J睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
K睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全



15.科学と社会 貧富拡大 民主制で修正(2001.1.6読売新聞)

 情報技術(IT)や遺伝子工学は人間を変えつつある。社会も階級社会からネットワーク社会へとへと変化していると思うが。情報社会の到来が階級構造に変化を及ぼしたとは思わない。むしろ情報技術は人々を孤立へと導いている。人々はパソコン画面の前に長くいるだけで、階級構造から解き放たれたわけではない。(中略)
 驚くべきことに、マルクス主義との論議を通じて乗り越えたと思っていた(古典的な)資本主義社会が再興しつつある。19世紀型の純粋資本主義のルネサンス、これが地球規模で起きている変化の一局面だ。(中略)
 私は資本主義が危険な方に向かおうとしても、ある時点で反発が起こり、極端な形に至ることはないと思う。というのも民主主義という大切な柱があるからだ。科学者や社会学者が、社会の危険な風潮について自由に発言でき、市民が投票権を持つ限り、私たちは自己修正できると思う。


14.いい「いい加減」でボケを防ごう(健保だより)

 人間は過去を悔いたり、未来をいたずらに心配するのでなく、自分から自分を変えていき、幸福をつかむべきだということです。高齢にあってもボケることなく、生きることが私たちの理想です。それにはものの考え方が大事なのです。脳の若さを保つには希望をもつこと、そして自分の心を傷つけないようにすることが大事です。それにはあまり几帳面に自分の失敗などを気にしない、いい「いい加減」が大事です。


13.21世紀は「所有」から「利用」の時代 痛みを乗り越え改革の実現を(2)(朝日新聞 2001.3.31)

12.21世紀は「所有」から「利用」の時代 痛みを乗り越え改革の実現を(1)(朝日新聞 2001.3.31)

 東西冷戦解消とIT革命によって始まった「大競争時代」は、インフレ(=所有)を前提とした経済からデフレ(=利用)を前提とした経済への転換が始まった時代でもある。世界的規模で設備と労働力の過剰が顕在化し、価格や賃金を押し下げている。物だけでなく、通信、物流、電力などのサービス分野でも国境を越えた競争の時代が到来した。成長神話の崩壊で、資産価格もデフレ圧力にさらされ、地価は下げ止まらず、株価もバブル後の最安値を更新している。こうした変化に対処するために、これまでの「所有」優先のシステムを、「利用」優位のシステムに切り替えていくことが求められている。

11.今、哲学に出来ること 「環境」軸に未来像を描く 加藤尚武(朝日新聞 2001.6.1)

 代理出産、遺伝子操作、原子力開発、臓器移植、地球温暖化など、さまざまな問題を一つの鍋にぶち込んで眺めたとしよう。技術の発達が、人類の使ってきた古い社会的な意思決定の仕組みを超えはじめている。本来は人間の生存手段を拡張するにめに開発された技術から生存条件を破壊するような結果 も生まれている。そうした破壊のなかでもっとも規模の大きい問題が環境問題である。環境問題は、地球規模で予防措置が成功しないとかえって被害が大きくなるという特徴をもっている。(中略)
 次の百年が、平和で、安心できる生活を世界中の人々が味わうことのできる時代となるためには、環境について世界的な合意形成が可能になるような学問的な基盤づくりが必要になる。法律、経済、政治、技術が、すべて環境という土俵の上で繋がっていくような学問の段取りをつけることが、現代で哲学にできる最大の課題だと思う。



10.人類はゴミで滅びうる ゴミ増やさぬ社会考えて 養老孟司(朝日新聞 2002.1.8)
 

−日本は再び頂点に立とうと、経済の立て直しに必死です。「明らかに供給過多なのに、これ以上モノを作ってどうします。人間は人工的なシステムによって需要以上のモノを生産してしまう。日本の労働生産性は80年前の約20倍。20人でやっていたことが1人でできるようになったのだから、あとの19人は遊んでいてもいいはずなんです」 「失業率が上がることがなぜ問題なんでしょう。働かないと食えないというが、家や車が買えないだけで、食い物がないわけじゃない。働かなくていい社会のあり方を考えるべきですよ」



9.不老学のすすめ 太く長く生きるために(朝日新聞 2001.3.2)

@カロリー摂取量を現在の半分程度に減らす。これにより、加齢を促進する活性酸素を抑えることができる。動物実験で唯一有効性が確認されている寿命延長法である。
A一日一万歩程度、継続して歩く。足腰の筋力を鍛え、脳の活性化に有効。ただし、過度の運動は過剰の活性酸素を発生させるため、お勧めしない。
B一日二リットル程度の水分をとる。代謝活動を安定化させて免疫力を高め、風邪などの感染から守ってくれる。
C社交性を養い、常に人と交わる。他人の目を意識し、時には見えを張ることも、ホルモンを活性化させ、若さを保つコツといえる。
Dいつまでも若々しく生きていたいと強く念願する。親や友人ら周りの人があの年まで生きたのだから、自分もそれ以上生きていけるだろう、生きるのが当然だ、生きたいという根性にも似た意識が大切。



8.自己主張でボケ防止を(福井新聞 1999.11.29)

 見ていると、ボケない人は、悪く言えばワガママ、ワンマン、よく言えば、独立独歩の人である。数年前、双子の姉妹きんさん、ぎんさんの長寿の秘けつの調査結果が発表された。「(家族の中で)女王のような支配的な立場にある。怖いものなしで自分のペースを守っている」からだと。姉妹は、人間関係を大事にし、周囲の人間に世話をしてもらいながら、それでも人間関係とは別なところに、「自分(気力)」をもっている。

7.成長至上主義 経営者も疑問(2)(朝日新聞 2000.2.13)

6.成長至上主義 経営者も疑問(1)(朝日新聞 2000.2.13)

 「足を知ることが大事だ。物欲から精神的にも豊になっていく方向へ向かうべきだ。成長率が高くある必要はない」(西口泰夫・京セラ社長)(中略)
 「GDPのモノサシだけで成長を計るのは問題。「常に上へ」と目指すことになり、いつまでも満足できない無間地獄のよう」(南直哉・東京電力社長)  経済成長至上路線への反省の弁が続く。

5.行き着くところまで来た 佐和隆光(日経新聞 2001.1.5)

 20世紀は経済発展の世紀だったが、21世紀は停滞の世紀になる。最初の10年は情報技術(IT)やバイオの分野で劇的な技術革新が起こるが、その二つは最後の泉。(中略)
 かって人工衛星スプートニクが打ち上げられた時、我々は熱狂し、科学技術の万能性を信じた。しかし今、地球環境問題などを見ればわかるように科学技術がすべての問題を解決できるという考えは幻想であることが分かった。ごれからは「その技術が本当に必要なのか」ということを常に考え、少しでも危険性があるならば既存の技術を使うべきだろう。


4.マルクス主義をどうするのか 梅原 猛(中日新聞 2000.9.26)

 ソビエト連邦が崩壊し、マルクス主義がとみに人気を失ったときに、私は一文を草して、マルクス主義にはさまざまな重要な思想がある、まず第一に、生産とか労働を中心に人間を考える思想であり、第二に、資本主義社会においてますます増加する差別に対する憤りの思想である、マルクス主義は治療薬として劇薬であり、服用すべきではないが、マルクスの思想の奥に流れているこのような思想は現代でも意味を失っていないと論じた。(中略)日本共産党は社会主義社会の崩壊という大きな歴史の実験にほおかむりして、依然としてマルクス主義の政党であり続けるか、それともこの実験の教訓をかみしめて、マルクス思想のよいところを生かしながら、まったく新しい理論をつくり、それを党の指導理論にするか、今大きな分かれ道に立っている。もちろん後者の道しか日本共産党の生きる道はない。


3.スッピンお気軽主義 森まゆみ(日経新聞 2001.8.15)

 「色町の人は昼から塗りませんねん。昼おうたら子守みたいな顔してはるけど、夕方からは女や。化粧品のびんかて、腐らんようにややこしいものいっぱい入ってまんがな。それより顔洗うて何もつけん方がよろし。ねえちゃん、気楽が一番でっせ」 人生波風いろいろあったろう。それでもスッピンお気楽義。これが長生きの秘決と教わった。


2.高齢期の生と性(朝日新聞 2002.2.19)

 「人生で一番大切なのは愛情。恋人がほしいねえ」。痴ほう高齢者が暮らす首都圏のグループホーム。10畳ほどの自室で、正さん(91)がしみじみと語り始めた。正さんはいま、職員の雪ちゃんに心を寄せ、夜、ミルクコーヒを飲みながら語り合うのが楽しみだ。「90になったら達観して生きやすくなるかと思ってたけど、70代と変わらない。本当の恋を一度もしたことがないのは、さみしいねえ」職員のノートにまで「結婚できない? 不可?」と熱い思いを書きこむ。





1.困り果てたとき「寝るに限る」 椎名IBM会長(朝日新聞1998.5.15)

 椎名IBM会長 都立高校教壇に・・・・・最後には演壇から降り、質問にも一つひとつ丁寧に答えた。「どうしても切り抜けられない困難に出あったとき、どうしますか」との問いには、「別のことを考えたり、仲間や家族に相談したりすると、よい考えが浮かぶことがある」とアドバイス。「それでもどうしようもないときは、二、三日何にも考えずに寝るに限る」と独特のべらんめえ口調で軽妙に応じた。






井口昭彦
Eメール・アドレス:gx4a-igc@asahi-net.or.jp

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