裏の説得学
The rear negotiate theory


概 説

 人は一生のうちに、何人の人間と出会いという“縁(人生におけて影響力を有する人間関係の形成)”を結ぶでしょうか?
一期一会の縁を含めても、せいぜい5千人ほどであると云われています(もちろん相互信頼を形成しない単なる顔見知りは含みません)。この限られた縁すべてが、自分の人生を豊かに色づかせる良縁であれば、人生薔薇色のごとく何の悩みもなく、安らかな終焉を迎えることができるでしょう。

 しかし、実際の人の出合いは、若いうちは特に半数以上が、相手にとって都合のよい関係での縁だったりします。また、仮初めの良縁ほど、後に相手にのみ都合のよい、専ら他人の欲求を満たす道具のごとく利用される悪縁だったりもします。そして、紛争(価値の対立・葛藤)という火種が一旦生じたならば、この乾燥した関係性である悪縁は、一揆の業火の藁床となるでしょう。それが、世代を超えた民族的ないし宗教的な遺恨であったりするならば、その業火は、不特定多数の人の命をも飲み込む戦争となり、絶えず燃えつづけ、まさに人類の不幸として降りかかることになってしまいます。
 このような危険性を含む“灰色的縁”を改善し、また“悪縁”を解き断ち切り[紛争予防学]、また、発生してしまった争いを可及的に小さい段階で、その火元を消火・沈静する[紛争救済学]のが、紛争処理のための説得理論であり『裏の説得学』です。

 身近な遺恨として近年、ストーカー犯罪が巷を賑わせています。この社会現象が発生した温床として、自分にとって価値のなくなった縁(交際)を直ちに断ち切りたいという弱さ(煩雑さは正当事由とはならない)から、突然に且つ一方的に「別れ」を告げ、縁切りをする方が多く見受られます[紛争分析学]が、これは大変危険な行為で、『愛情のないところに犯罪はない。愛は人を犯罪に導く』という犯罪学での格言の示すところからも、一度つくられた信頼や愛情という縁(結び目)を一方に残したままにすると、その腫瘍は変質し、歪んだ憎悪となってしまいます。マスコミ等が不安を先導している所為もあって、ストーカーという何の制御もできない偶然的対外的恐怖が常に存在するかのごとく一般に思われていますが、恐怖の萌芽(被害の原因)は対内的な自分自身にあることを知るべきでしょう。相手の心情を敬わない自己中心的な態度は、結果として自らに帰ってきます。

 このような紛争予防学をも含む「裏の説得学」は、紛争の発露たる人の信頼や愛情の歪み(心の病理化)を分析し、その遺恨を断絶することなく悪性化した人間関係の絡みを、的確な言葉や態度により解きほどくという「縁解き理論」を中核としています。


< 基礎理論 >


裏の説得学における四つの要素

(J) 説得者の要因 → 対内的洞察 [自己認識]

  1. アイデンティティとしての不変の人格形容
  2. 環境により可変な性格態様 ⇒ 意思により制御可能な性格態様の範囲

(K) 被説得者の要因 → 対外的洞察 [他者認識]

  1. アイデンティティとしての不変の人格形容 ⇒ トラウマ・コンプレックスの把握
  2. 環境により可変な性格態様 ⇒ 特定条件と可変性格の対応関係・受響度の把握

(L) 説得環境 → 場所・時間・回数・タイミング [集中と錯乱]

  1. 思考神経の敏化 (膿出し) →弛緩のための内ベクトル [接触]
  2. 思考神経の鈍化 (時間の効果=傷の乾燥)→再固結化を防止するための外ベクトル [隔離]

(M) 歪み・腫瘍の大きさ・性質 →信頼・愛情の形成過程における病理化原因と発病時期の特定

  1. 説得者からの造影と実体ギャップの認識
  2. 被説得者からの造影と実体ギャップの認識


裏の説得学における一つの視点 [人的鎖りの解き目

(C) 無価値性の共有認識 /ジョイント・オフ


対面・相対説得による縁解き理論

 二当事者者の対面で行われる具体的な相対説得は、単純モデルとして、表裏説得学の原型といえる。


一つの視点・目的への二つの基本説得術の効用原理

  1. 外的影響力を完全に遮断する環境での直接説得 [(→C)]

     基本的に悪性化した歪み・腫瘍を確知したならば、歪み・腫瘍をこれ以上さらに悪性化させないために、被説得者の環境を可及的に保全しなければならない。この場合、被説得者自身も、通常は自己の腫瘍・病理 (理性の喪失)の存在を知っていても、他の良好な信頼関係(自分の価値を認めてくれる他の人間関係)を揺がしてこれらも壊れてしまうのを怖れて、自己の腫瘍・病理の存在をそれらの他の者には知らせたりはしない。
     そして、当事者である説得者は、歪み・腫瘍の蜂起以前での、接触パターンに変動を与えずに、被説得者の病理についての「唯一の秘密の共有者」であることを認識させる必要がある。それにより、形式上はその腫瘍・病理について二当事者間に“閉鎖された環境”を設定することができる。ただ注意すべきは、歪みを大きくさせないための“楔”を被説得者自身の衰弱している人格に打ち付けるため、それを抜く「秘密の漏洩」は間接説得の着手直前まで、厳しく慎まなければならない。被説得者の人格にできるだけ傷を残さずに、出会う以前の関係性に戻す(C相互無価値化)には、影響力を利用しない直接説得だけで説得活動を完結することが望ましい。

  2. 外的影響力を最大限に利用する環境での間接説得 [(→C)]

     どんなに悪性化して人の心を失っても、通り魔のごとく社会全部の構成員すべてを敵視することは希です。通常は、なんらかの社会的要因との関係性を維持しようとします。それが、家族や親友であったり、仕事や趣味であったりします。
     つまり、自暴自棄となり、もはや社会的構成員として生きていく意思を本当に失っていない限り、人格形成に必要な根や葉が枯れかけてはいるが機能しているから、それらへ栄養を与える (影響効果の原因刺激)により、まず以って、理性を失っている心理状態を沈静化させる間接説得[影響効果関係への楔づけ(将来的にも切れることの恐怖から痛みの視点がずれる)]をすることが必要です。
     だからと言って決して、精神科医のごとく薬物(精神安定剤)によって理性の回復を謀ってはいけません。なぜならば、薬は人格を支える幹に、単に松葉杖をあてがうにすぎず、健全な人格形容への回復には却って弊害となってしまうからです。人の機能とは不思議なもので、負荷を架けられることにより強くなる。それは筋肉も人格もいっしょなのです。
     しかしながら、腫瘍の発達・悪性化を停止させたとはいえ、未だ信頼や愛情が歪んで被説得者の人格に複雑に絡んでいることには変わりないので、次いで、腫瘍のなかの膿を抜くように絡みを緩める“ガス抜き”のための間接説得を行います。
     これには歪み絡むでいく過程を逆にフィードバックさせていく手法や、偏重し盲目となっている被説得者の価値判断能力が、客観的な判断ができる健全な状態になるように、真実情報を操作することなく全て与える手法などを用います。そこでの伝達・説得方法は、信頼を失っている者ではなく、未だ信頼を保持している者や事物(生きている影響力)をバイパスとして利用する間接説得となります。
     あとは、時間の効用(痛みの忘却)により、憎悪が本来の愛情(自己犠牲)に戻れば、相手の真の幸せを考え、そして自分の幸せをも考えられるようになります。そして、これから将来の人生設計において、当該関係性が、相互に無価値(C)であることが互いの幸せにもなることを誠に認識できたら、説得活動は終わります。


歪曲汚濁度 と説得技法の量的態様

 歪み・絡みの形態 (強さ・複雑さ)により、説得技術の手法・強弱・長短・回数・タイミングが決まる。

(イ) 具体的な対個人信頼の歪み /家族・知人
(ロ) 抽象的な対社会信頼の歪み /事件・事故・災害


集団・絶対説得による縁解き理論

 人の結合体たる集団は、他の集団と区別をされてその社会的存在を維持するために、集団としての対外的接触 (代表)機関を、明示または黙示的に設置する特性がある。
 それで、対等な対外的接触関係を形成するために、一個の集団意思を形成するための階級的意思決定機関を内部に明示ないし黙示的に保有・設定している。集団としての結束性が健全に機能しているときは、その階級的意思決定プロセスでの反対少数意思に対しても、尊重と寛容の吸収力があるから「異端の個の排除」という集団行動は見られない[民主主義の健全性]。
 しかし、集団的結束力ないし代表機関でもある個人の崇拝力が異常に強くなりすぎて、可塑性のない集団意思決定機関になってしまったり、また逆に、集団的結束力が集団の特性を失うほどに脆弱であれば、集団の責任なき個人構成員が、自己の意思決定動機・内容を、同レベルの責任なき“積極的発言者”に委ね迎合するような突発的で短絡的な集団意思決定機関になってしまう。
 このような状況化での「個の排除」に対しては、まず以って、集団意思決定機関内での「異端たる個」への価値認識を無価値なものにする絶対説得をし、階級的決定プロセスでの障害性をなくす。
 次いで余力があれば、集団・組織としての健全性を回復する絶対説得を謀ることになる。


二つの集団環境に対する二つの基本説得術の相関原理と一つの視点・目的

  1. 独占・寡占的意思決定環境での直接説得 [(→C)]
     分裂・分離による均衡化/反価値指摘の対象移動

  2. 偶発的意思決定環境での間接説得 [(→C)]
     統合による必然化・責任の顕在化/反価値指摘の自己矛盾


組織力(集団意思決定力)と説得技法の量的態様

 集団意思決定機関の内部的統合支配力 (組織的成熟度≒構成員の団体結束力+構成員の対外的責任力)のレベルにより、説得技術の手法・強弱・長短が決まる。

(イ)業種・団暦的区別
(ロ)地域・文化的区別
(ハ)宗教・民族的区別/一神教の一様性>多神教の多様性>無神教の浮遊性


「縁解き理論」の作用関係図


< 応用理論 >


ガス抜き理論

楔づけ理論

ディテエイル照明理論

自己神仏化理論


< 基本技術論 >


直接説得術(態度変容学の基本)

 信頼や愛情の歪み・腫瘍がそれほど悪性化していない段階において、人格的外皮 (被説得者の社会的役割機能=社会的信用)を保全したままで、憎悪の膿・ガス抜きや誤解の是正のために、説得者が全人格をもって、直接的だがソフトに言葉や態度を尽くす説得術をいう。歪みの原因が説得者にある場合、直接説得活動の効力が期待できるのは、説得活動の対象たる歪み・腫瘍の存在を被説得者の他の信頼関係に認知されていない期間内であることに注意すること。

[腫瘍の内科的治療]
→説得に時間と労力を要するが、被説得者の完全な社会復帰には望ましい手法


間接説得術(影響効果学の基本)

 信頼や愛情の歪み・腫瘍がかなり悪性化してしまった段階において、単一方向での直接説得活動だけで、その歪みの進行を停止させることができない場合に、被説得者の影響効力環境を利用する間接的だがハードな説得活動行為をいう。

[腫瘍の外科的治療]
→少なからず被説得者の人格形容に傷を残すため、説得活動における事前・事後のプランニングが重要な意味をもつ。


< 特殊技術論 >


仮装人格説得術

別人格変容説得術(絶縁の技術)

ショック反用術(対象の無価値化)

権威懐柔術(楔の神仏化)





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