表の説得学
The front negotiate theory


概 説

 人は出生の時点から、自己以外の人格と関わって生きていくことになります。それは、新生児〜乳児〜幼児前期ぐらいまで、自己の意思とは全く関係なく、親との人格形成環境を無条件に甘受して成長していき、幼児後期から児童期に入るころには、自我の発達とともに、「友達(同価値性の共有者)」を選択して、親との関係性を格としながらも、自己の人格形成環境を整えようと活動し始めます。つまり、この頃から自分にとって不利益・マイナスとなる人間関係・環境を嫌い避ける意思を持ち始めるということです。これは、自分を中心とした物事の善し悪しを判断できる能力がついたということですから、言葉や態度といった意味的行動による理性への得の働きかけが可能となる年齢といえます。ちなみに、催眠術は実年齢に関係なく、常に1から3歳児の無意識の自我をのみ対象にする技術ですから、ある意味において、人形相手の卑怯な技術とも言えるでしょう。

  さて、人は肉体的には弱い動物ですから、自分の知らない動物・事物に対しては、本能的生来的に警戒心をもって、避ける意思・態度を示します。これは、極めて当然の現象・人間行動でしょう。そこで、その警戒心を解き、相手にとって得な存在であると理解させるには、まず以って必須の態度変容=説得技術として「自己開示」が要求されます。しかし、この自己開示という行動表現をするに際して、十分に気をつけなければならないことがあります。それは、相手の心理状態や人格形容を分析把握できているだけでは足りず、自分自身の人格形容をもしっかり把握できており、且つ、その発現たる性格表現もコントロール[自己演出]できなければならないということです。これを敢えて公式化してみるならば、【表の説得成功=対外的洞察力+対内的洞察力+相性・適合性の分析力+自己演出能力】となります。これらの内のどの要素を欠いても、見ず知らずの他人の信頼を得るという人格の売り込みたる説得は成功しません。そして、この説得技術論を実践するには、かなりの自己研磨(人格的成熟)を要求されます。それは、説得学の対象する人格が、成人として成熟している自立した人間を内容としていて、人格的に未熟な従属した人間を主に想定していないからです。それは、強迫や欺罔が未熟な人間に対しては、かなりの効果(従属性の助長)があるが、成熟した人間に対しては、目的とは反対に作用するということからも容易に想像がつくでしょう。
  また、ビジネスの社会では「目的は手段を正当化する」といわれることがありますが、幾ら相手の得という正当な目的にもとづいて、説得行動をおこしたとしても、言葉や態度の伝達手段が卑劣・粗暴であったりしたならば、そこで形成された信頼関係は、仮初めの一時的・仮定的な脆弱なものとなったり、また逆に、誤解されて猜疑心を助長する結果にもなってしまいます。正当な目的をもつというだけでなく、その手段たる意思の伝え方も誠実であるということが、愛情の土台たりうる信頼を形成するには不可欠であります。詐欺師が、悪しき目的のもとに他人を一時的に説得できるのは、より悪しき手段を用いて、その目的の不当性をカモフラージュして、見えなくさせているからです。真の信頼や愛情は、長い時間をかけて漸く大きく実らせることができるものです。直ぐに壊れてしまう手段では、とても人格形成への彫刻手段たりえないことを十分に留意しておいてください。

  相手の人格形成に深く入り込み、その生き方・考え方を換えさせるほどの説得=態度変容には、相手の得(為)という「正当な目的に基づいて、誠実に言葉や態度を尽くす」ことが唯一絶対的な手法であり、他人の真の信頼を得るという「表の説得術」の王道たる原則であります。簡単ではないからこそ、価値(意味)がある。放っておけば、直ぐに脆く壊れかけてしまうもの。だからこそ、常に相互の信頼関係維持の努力が重要な意味をもつ。こんな扱い難く重要な人的関係性を対象とするのが『表の説得学』です。そして、「表の説得学」における技術論では、時間と労力を要する基本技術論のみが積極的効果として有効で、特殊技術論は信頼形成過程での病理を抑え、または治癒する程度のものでしかないことを知っておいてください。


< 基礎理論 >


表の説得学における三つの要素

(T) 説得者の要因 → 対内的洞察 [自己認識]

1. アイデンティティとしての不変の人格形容
2. 環境により可変な性格態様 ⇒ 意思により制御可能な性格態様の範囲

(U) 被説得者の要因 → 対外的洞察 [他者認識]

1. アイデンティティとしての不変の人格形容 ⇒ トラウマ・コンプレックスの把握
2. 環境により可変な性格態様 ⇒ 特定条件と可変性格の対応関係・受響度の把握

※ 人の人格形容は八割方、その外見(視覚+聴覚)情報から得ることができる。特に、目は心を写す鏡といえる。後の一割五分は、問診誘導により外的情報に顕わせる。また、指・唇・手足などの末端情報は、現況の興奮や緊張度を示す程度のもので、真偽を判断する意味的情報とは成り得ない(末端の副交感神経は、訓練や経験により、人為的に調整されるから)。

(V) 説得環境 → 場所・時間・回数・タイミング [集中と錯乱]

1. 思考神経の非鈍化(長期記憶への定着化)=洗脳等の非倫理的手法の排除


表の説得学における二つの視点[人的鎖りの結び目]

(A) 同価値性の共有による親和化/ロット・ローボール

(B) 反価値性の尊敬による神仏化/レアー・ハイボール


対面・相対説得(二つの人格関係の形成・調整)理論

二当事者者の対面で行われる具体的な相対説得は、単純モデルとして、表裏説得学の原型といえる。


二つの基本説得術と二つの視点との相関原理

  1. 外的影響力を可及的に遮断する環境での直接説得 [原則(B)・例外(A)]

     説得者において、説得効果の因果情報を支配できるから、被説得者の心理変化に即応して、プランニング(根回し準備)をせずに、説得行動を決定でき、比較的短期間に信頼の獲得が可能となる。

  2. 外的影響力を適宜利用できる環境での間接説得 [原則(A)・例外(B)]

     他者の既信頼性[外的説得要因=影響力]を利用・援助する間接説得は、説得者において、被説得者の影響力環境に対して、ディープリサーチ(根回し調査)をしたうえで、プランニング(根回し準備=説得効果の停止条件設定/最良効果のためのタイミング予約や信頼形成の歪み・腫瘍化の防護予約など)をしなければならず、その説得効果の因果情報を支配しにくい。しかし、長期の適宜修正による説得活動の効用として、強固な信頼醸成を可能とする。


責任力と説得技法の量的態様

 責任力(自己拘束能力≒人格的成熟度)のレベルにより、説得技術の手法・強弱・長短が決まる。

(イ)生理的区別/男性に対する説得[論理的一貫性(過去→将来フロー思考)、競争からの達成感(自力性)]・女性に対する説得[非論理的情(現在のみのストック思考)、不安からの安定感(他力性)]
(ロ)世代的区別/戦後復興期→団塊期→バブル体験期→バブル未体験期
(ハ)職業的区別/第一次産業・第二次産業・第三次産業・フリター無職・学生


集団・絶対説得(三者間との人格関係の形成・調整)理論

 個人以上の影響力をもつほどの集団は、その内部的結合を維持するために一個の集団意思を形成している。そこでの説得で注意すべきは、その集団意思形成の系統(主従)関係を乱さずに、説得行動を完結することにある。
 また、個人レベルの影響力しかない烏合の群集に対する説得においては、予め目的・対象を限定する黙示的集団を形成させる群集操作をした上で、抽象人を相手とする絶対説得を行う。つまり、二人以上の集団や群集を相手に行われる説得も、基本的に単純モデルとして扱うことができる。


直接説得術と二つの集団環境および二つの視点との相関原理

  1. アップステップ環境での直接説得 [(B)→(A)]

     集団結束力の強い集団では、主従系統関係が厳格で、外部的接触は権威性レベルにより決定される。従って、通常の非認知的な接触者は、ローアンダーからのステップを余儀なくされる。しかし、説得者は、集団意思を具体化できるトップと対等な信頼関係を形成しなければならないから、浮遊的なアンダーとの接触は、プロセスステップだけの必要最小限に止めなければならない。アンダーとの対等な信頼形成と固結化は、トップとの主従関係を発生させる危険性がある。

  2. ダウンステップ環境での直接説得 [(A)→(B)]

     集団結束力の弱い集団では、主従系統関係が曖昧なため、その分トップとの外部的接触は容易であるが、説得活動の完結までそのトップが集団意思の具体化できる実質的地位を保持しているかは懐疑的である。従って、集団全体へ説得効果が波及しているかを説得者自ら、確認および操作しなければならない。この場合、トップ交友による権威性ラベリングは、段階的に外して常に同レベルでの直接説得を繰り返すことになる。


組織力(集団意思決定力)と説得技法の量的態様

集団意思の決定力(団体結束力≒組織的成熟度)のレベルにより、説得技術の手法・強弱・長短が決まる。

(イ)業種・団暦的区別
(ロ)地域・文化的区別
(ハ)宗教・民族的区別/一神教の一様性>多神教の多様性>無神教の浮遊性


「縁結び理論」の作用関係図


< 応用理論 >


群集心理操作による応用アッシュ理論


< 基本技術論 >


直接説得術(態度変容学の基本)

 説得者が、自己の説得活動とその効果情報を正確に把握するために、不測の障害となる外的影響力を可及的に遮断する環境のもとに、または、そのような環境を整備(事前プラニング)して行う説得術をいう。

[信頼のビニールハウス培養法]
→信頼や愛情の育成を管理しやすいが、不測の外的影響力に脆いという危険性を孕む。


間接説得術(影響効果学の基本)

 説得者自身の説得活動の他に、被説得者の影響力環境に対して、プランニング(根回し調査)をしたうえで、信頼形成効果を発生させる条件づけを設定整備したり、被説得者と既に信頼関係を形成しているもの[者・物・事象]を利用する説得術をいう。

[信頼の自然管理培養法]
→信頼や愛情の育成管理は困難であるが、不測の外的影響力に対しても急変的な信頼幻滅は生じ難いという安定性がある。


< 特殊技術論 >


仮装人格説得術(相性の擦りあわせ)

仮想環境説得術(タイミングの演出・創出)

別人格変容説得術(復縁の技術)

サブマリン説得術(理性への潜入術⇔無意識の自我へ作用させる催眠術とは異なる)





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