98年世界選手権観戦記・決勝ラウンド

「快進撃なおも続く」(5-8位決定戦第1試合)
「唖然とするしかない」(準決勝第1試合)
「またしても涙をのむ」(準決勝第2試合)
「見よこれが世界のエースだ」(5-8位決定戦第2試合)
「新・世界のセッター誕生」(5-6位決定戦)
「名セッター花道を飾れず」(3位決定戦)
「厳しい現実」(7-8位決定戦)
「女王完勝とハプニングと」(決勝)
各チーム講評と勝手にランキング
各賞講評
チーム別集計(非公式)
全日本雑感
女子
男子
共通の問題
Notice: 「連続得点」には、失点をしない間に得点を続けること(つまりサイドアウトがあってもよい)を指す場合と、サイドアウトなしに純粋に得点が続くことを指す場合がある。この観戦記では、連続得点という表現は、特に但し書きがない限り、後者のサイドアウトなしに得点が続くという意味で使うことにする。


「快進撃なおも続く」(5-8位決定戦第1試合)

この試合、私はイタリア有利と予想していた。しかし、第1セット序盤は、イタリアにアタックのミスあるいはネットタッチ、さらにオランダのサービスエースなどで、意外にもオランダが5-0とリードした。しかし、そこからはイタリアがチームとしての完成度の違いを見せつける。オランダの反則とスターレンスのアタックミスで3連続得点、同点とする。さらに、イタリア16番メロのサーブでオランダが崩れ、ミスが次々出る。5連続得点であっけなくイタリアが逆転。このセットはイタリアペースのまま、最後はレフェリンクのアタックがアウトして15-7でイタリアが取る。

第2セットは予想以上のイタリアの一方的なペースとなる。小刻みに加点し6-0となった後、リニエーリのサービスでオランダをまた崩し、4連続得点で10-0。前のセットの終盤から数えると実にイタリアの15点連取。最後は2連続ブロック得点で、イタリアの15-4。

第3セットも中盤まではイタリアリードで進む。オランダの単調な攻撃はイタリアのブロックの格好の餌食となる。しかし、イタリア9-4リードでレフェリンクにサービスエースが出たあたりから次第にオランダに流れが傾く。この後レフェリンクがサービスミスするまで3連続得点。イタリアも2点を追加するも、次のスターレンスがサービスエース。このサーブ順で、相手のミスもあり4連続得点、同点に追いつく。この後はイタリアがまた2点リードを奪う。しかし、オランダもスターレンスが再度サービスエースを奪うなどで同点。さらに、リニエーリのアタックミス。オランダが14-13で先にセットポイントを迎えた。オランダの応援のほうがやや多く、しかもこれまでイタリアの一方的展開だったため静まりがちだった場内が、この試合初めて盛り上がった。チャンスボールは何度かあった。しかし、ダイレクトスパイクがアウトしたり、セッターのトスが悪くアタッカーが打てなかったりで、そのチャンスを逃す。そしてミフコバのアタックで同点とされ、流れはイタリアへ。最後はトグットのサービスをレシーブミスしてジ・エンド。

スタメンおよびサーブ順(特記なき限り第1セット)
イタリア: 7 カッチャトーリ → 2 リニエーリ → 4 レッジェーリ → 16 メロ → 12 ピッチニーニ → 9 ガラストリ
オランダ: 15 フィッセル → 14 フレデルス → 3 ユールマン → 7 マコフチャック → 12 レフェリンク → 13 スターレンス

1998/11/11 10:30-
Osaka Municipal Central Gym.

      ITA - NED
        3 - 0
1st    15 -  7      21 min.  0-5 10-6 12-7
2nd    15 -  4      18 min.  5-0 10-0 12-2
3rd    16 - 14      29 min.  5-3 10-7 12-11
Total  46 - 25  1 h. 8 min.

平日の午前中ということもあり、場内は世界選手権決勝ラウンドとは思えない人の少なさ。アリーナはそこそこ人が入っているが、スタンドにはほとんど観客がいない。公式記録によるとこの試合の観客は1300人となっているけれども、どう見てもそんなにいたとは思えない。全部で500人もいただろうか。

勝った瞬間、イタリアチームは韓国戦勝利の時と同様の大騒ぎ。あのチームは勝ったときはいつもそうなのだろうか。

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「唖然とするしかない」(準決勝第1試合)

この試合、正直なところ、ロシア有利と踏んでいたしロシアに勝ってほしいと思っていた。準決勝ラウンドまでの中国はあまり出来がよいとは思われなかったし、もし中国とキューバで決勝なら、九分九厘キューバが勝つと思われたからである。

しかし、試合は全く予想外の展開となった。
あまりにもすごい勝ち方で、「あれ、あれ、あれ」と思っている間に試合が終わってしまった。

第1セットの序盤は競っていたけれども、ロシアのつなぎのミス、中国1番LAI Yawenのサービスエースで中国が3連続得点し7-3となったあたりからは一方的な中国ペースとなる。セットの終盤、10-4中国リードからは、QIU Aihuaにアタックとブロック、さらにソコロワでサイドアウトを取りに行って2度アウトと、あっという間に4連続得点で中国セットポイント。ソコロワのブロックで一度はしのいだけれども、最後はWU Yongmeiに決められ、予想外の一方的展開で中国が取る。

第2セットも中国の一方的な展開となる。ロシアはアタックを打ってもブロックにワンタッチを取られ、レシーブで拾われ、逆に決められ得点できず、アタックのミスがことごとく失点につながるという救いがたい状態。このセットだけでアタックのミスによる失点は7点。

第3セットはこれまでのセット以上に中国の一方的なペースで試合が進む。このセット6人目のサーバーの2番LI Yanのサーブで、ロシアにつなぎのミスが出てから崩壊状態となり、アタックを拾われて決め返され、WU Yongmeiに2連続ブロックを食らい、無理にコースを狙えばアウト、実に中国の7連続得点。サイドアウト4回の後中国がまた3連続得点で、10分もたたないうちに12-1となってしまった。
しかし、モロゾワのサービスエースが入ったあたりから、流れがしばらくロシアに傾いた。アタックが中国のブロックにかからなくなった。しかし時すでに遅し。9-13まで追い上げたものの、そこで12番QIU Aihuaのサービスエースを食らい流れは中国へ。最後はQIU Aihuaにブロックで止められて決した。

一つ感じたのは、ロシアはあれほど攻撃が単調なチームかな、ということ。オープン攻撃の割合が異常に多く、コンビネーションはほとんどない。これでは中国の守備を破るのは難しい。第3セット1-12までは、「これではブルガリアのほうが十倍くらいましだぞ」と言いたくなるほどの有様だった。
ただし、この日は、アルタモノワ・ゴディナの両エースだけでなく、ティーシェンコやソコロワを使うパターンにも中国のブロックがよくついていた。しかし、これも一人でアタックを打ったのでは中国相手に決めるのは難しい。例えば、ティーシェンコとモロゾワの二人が同時に動けば、中国も守るのは難しくなる。

スタメンおよびサーブ順
ロシア: 8 アルタモノワ → 10 バシレフスカヤ → 9 ティーシェンコ → 6 ゴディナ → 2 モロゾワ → 5 ソコロワ
中国: 5 WU Yongmei→ 7 HE Qi → 11 SUN Yue → 1 LAI Yawen → 12 QIU Aihua → 2 LI Yan

1998/11/11 13:00-
Osaka Municipal Central Gym.

      RUS - CHN
        0 - 3
1st     4 - 15      21 min.  3-5 4-10 4-12
2nd     4 - 15      22 min.  1-5 3-10 3-12
3rd     9 - 15      24 min.  1-5 1-10 1-12
Total  17 - 45  1 h. 7 min.

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「またしても涙をのむ」(準決勝第2試合)

ここ数年、四強の一角といわれるまで躍進したブラジル。その最大の立て役者が、世界最高のセッターといわれるフェルナンダ・ベンツリーニであることは疑いもない。そのフェルナンダが今大会を最後に引退を表明、ブラジルにとっては金メダルのラストチャンスとも言える大会となった。そして、そのブラジルの前にまたしてもキューバが立ちふさがった。

全体にサイドアウトが多く粘りあいの展開。5日間17試合の観戦ツアーの中では最長の試合となった。

第1セット、序盤は予想通り攻撃力に勝るキューバが少しずつ抜けだし5-1。ルイザのアタックミスで5-2となってからは、試合の動きがほとんど止まる。5-2から5-3までサイドアウト実に14回、5-3から6-3までサイドアウト11回。しかし、6-4キューバリードからは試合が一気に動く。14番のフェルナンデスのアタック3発で3連続得点。サイドアウト2回の後、ブラジルの反則、バロスのアタックアウトで一気に11-4となる。両チーム1点ずつ加え、モーゼのブロックが出てからはブラジルが反撃。ディアスのアタック、キューバのミスで4連続得点、12-9。しかし、ブラジルはこれ以上差を縮めることができず、最後は13-10からモーゼのアタックアウト、さらにブロックを食らいキューバが2連続得点で15-10。

第2セットは序盤になんとバロスが3連続サービスエースをたたき込む。この後、モーゼ、ディアスにもサービスエースが出て、ブラジルが1-8と大きくリード。この後キューバはルイスを投入するけれども、このセットは流れは変わらず。3-8から長いサイドアウトの繰り返しの後、ブラジルがディアスのアタックによる2点とキューバのアタックミスで3連続得点。このセットは結局4-15と一方的にブラジルが取る。

第3セットは序盤3-3から、コスタのサービスエースで一気に流れがキューバに傾く。連続でブロック、さらにアゲロのアタック。ブラジルはたまらずタイムアウトを取るが、フェルナンデスのアタックでさらに1点追加され、モーゼのアタックでようやく止める。キューバの合計5連続得点。9-4となった後、ブラジルが3連続得点で一気に2点差までつめるが、キューバもすぐに3連続得点で突き放す。そして、ここから試合の流れがほとんど止まる。1点が入るまでにサイドアウトが10回以上繰り返される。この極めて遅い流れの中、キューバが14-9で最初のセットポイントを迎えるけれども、ここからブラジルも粘りに粘る。この後14-10となってから実にセットポイント8回、14-11となってから1回、都合10回のセットポイントをキューバは逃す。しかし、抜群の攻撃力で簡単にサイドアウトを取れるキューバ相手に、いかんせん5点差は重すぎた。最後はバロスのアタックミスでキューバに15点目が入る。

第4セットは、序盤はキューバのミスにも助けられブラジルが5-1とリード。しかしそこからはキューバが徐々に追い上げる時間となった。ルイスのアタックで2点目、3,4点目はトレスのブロック。さらに、ルイスがアタックを突き刺しついに6-5と逆転、バロスのアタックミスで7-5。しかし、ブラジルもバロスのアタックとブロックなどですぐに3得点、逆転。ルイスのブロックとサービスエースで9-8とキューバがまた逆転。そしてその後、モーゼ、サングラード、ネグロンと、次々とアタックをふかしてしまう。4連続失点で、致命的な5点差がついた。結局この差をこのままに、最後はルイザのブロックで15-10。キューバが順当に決勝に進出、ブラジルはキューバという厚い壁の前にまたしても涙をのんだ。

両チームに力の差がそれほどあったとは思われないけれども、ブラジルに致命的なところでアタックミスが出てしまった。もちろんキューバにもミスはあるし、総数としてはむしろキューバのほうが多い。しかし肝心の場面ではきっちりと決めていた。

スタメンおよびサーブ順
キューバ: 14 フェルナンデス → 2 コスタ → 8 ベル → 10 トレス → 12 アゲロ → 1 ルイザ
ブラジル: 10 ディアス → 5 コネリー → 8 バロス → 2 モーゼ → 13 サングラード → 14 ベンツリーニ

1998/11/11 15:30-
Osaka Municipal Central Gym.

      CUB - BRA
        3 - 1
1st    15 - 10      31 min.  5-1 10-4 12-5
2nd     4 - 15      25 min.  1-5 3-10 3-12
3rd    15 - 11      35 min.  5-3 10-7 12-7
4th    15 - 10      30 min.  1-5 10-8 12-8
Total  49 - 46  2 h. 1 min.

試合が終わった直後、キューバの選手たちが歓声を上げ飛び上がり、そしてコートの中で輪になった。まだ世界一になったわけではないのに。それだけ苦しい試合だったのだろう。

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「見よこれが世界のエースだ」(5-8位決定戦第2試合)

私としては、クロアチアには6位以上を取ってほしいと思っていた。実際、ベスト8に進出さえできれば6位以上はほぼ確実だろうという計算もあった。しかし、これまでアジアのチームとの対戦は見たことがないので、どのような感じになるのかつかみがたいものがあった。しかし、鹿児島でのアジア諸国との3連戦では、中国のみならず韓国にもフルセットで敗戦、さらにタイにもセットカウントはストレートながら苦戦を強いられた。キリロワがおそらく使えないという状況で、この試合に勝てるかどうかはやはり非常に不安だった。

第1セット前半は佐々木が踏んばり、クロアチアにアタックミスが多かったこともあり、クロアチアが今ひとつ流れに乗り切れないという感じで一進一退の展開。バーバラのバックアタックで6-6と追いついた後、ブロックを次々と食らい、さらに佐々木のバックアタック、シドレンコのアタックミスで5連続失点。6-11と苦しい展開となる。しかし、これで簡単にあきらめないのが今大会のクロアチアである。クロアチアはこのような苦しいセットを何度となくものにしてきている。そうでなければこの大阪の会場にクロアチアチームはいない。そして、ここでついにバーバラが覚醒した。
日本のサーブ権からバックアタックを2発突き刺し1点返す。11-8で日本のサーブ権から、さらにバックアタック2発、2点差までつめる。12-9日本サーブ権から、またしてもアタック2発。この後満永のアタックがアウトして1点差になる。サイドアウトを繰り返した後、クロアチアのサーブ権の場面でバーバラがバックアタックを決めついに同点。この後、クロアチアの14点目もバーバラのバックアタック。最後は多治見のアタックがアウトしてクロアチアが15-13でこのセットを取る。

圧巻は第2セット序盤だった。日本が1点を先制してからサイドアウトを繰り返し、バーバラのアタックでサーブ権はクロアチアへ。バーバラのサーブとなった。まずサービスエース1発。そしてバックアタック、バックからフェイント、その後サービスエース2連発。驚異の5連続得点である。5点全てがバーバラ自身の得点なのだから!
このとき、この日のクロアチアは絶対負けないと確信できた。今日のバーバラには、神様が入っている。
この後はクロアチアにブロックも次々出るようになり、全く一方的なクロアチアのペース。7-2からバーバラとクズマニッチがそれぞれアタックとブロックで得点、4連続得点。最後はチェブキナのサービスエースで15-4。バーバラは第2セットの10点目までに実に15点を得点した。

第3セットは、日本のアタックミスや反則、チェブキナのアタックやブロックなどで、早々に6-1とクロアチアリード、余裕の展開となる。バーバラ以外の選手にトスを回しても簡単に決まる。セッターリヒテンシュタインもツーアタックを決めてみたり、クズマニッチとレトでコンビネーション攻撃をするなど、今までの試合がうそのようなさえわたりぶり。13-5までクロアチアのリードが広がる。この後、クロアチアのアタックが拾われるようになり、最後は大懸が決めるというパターンで、13-9まで追い上げられる。しかしそれが何度も続けて成功するものではない。その大懸のアタックがアウトして14点目。最後はリヒテンシュタインにブロックが出て、クロアチアが完勝をおさめた。

私自身、日本にこれほど楽に勝てるとは全く予想していなかった。クロアチアにとっては、この世界選手権で最も一方的な勝利である。予選ラウンドのタイとの試合は9,13,10で、しかも第1セット途中でクロアチアはキリロワを投入し第2セット以降も出ずっぱりだった。つまり、タイはそれだけクロアチアをあせらせる試合をしたのだ。この試合はそこにさえ至らなかった。
この日の全日本は、私から見てもあまり元気がなかっただろうか?アタックのミスもサーブのミスも多かった。特に大貫にサーブミスが多かったのは、クロアチアとしては大助かりである。サーブレシーブがおちおち見ていられないほど悪いクロアチアにとって、何より怖いのが大貫のジャンプサーブだからだ。
日本の試合を見ていた人によると、この日の日本選手は息が上がっていて動きが鈍かったという。しかし、どうしてバーバラを相手にして、そのような言葉が出てくるのか。ただでさえ、バーバラと日本チームのエースでは負担が全く違う。バーバラはチームのアタックの半分を一人で打たなくてはならないのだ。しかも、日本はこの日の前まで、6試合で19セット。きつい試合といえば第1セット17-16までもつれたロシア戦くらいで、それ以外は楽勝か完敗かどちらかである。クロアチアは6試合で日本より6セットも多い25セット。フルセットの試合が3試合に、フルセット同然の厳しい3-1の試合が1試合。楽勝の試合など、ここまで1試合もない。

この試合の全日本選手のインタビューでは、バーバラ以外の選手が意外と打ってきたのでとまどった、というような言葉が出てきた。しかし、いかにクロアチアがバーバラのワンマンチームでバーバラ以外はどうしようもなくトロい*といっても、チームのアタックのうちバーバラが打っているのはおよそ半分で、その割合はこの試合でも同じである。つまり、残りの半分は他の選手が打っているのである。サーブカットがきっちり返ればバーバラを使わなくてもクズマニッチあるいはチェブキナを使うこともあるし、あるいは得点を取りに行くときにシドレンコを使うこともありうる。まさか100%バーバラが打ってくると思っていたわけではあるまい。このあたりをどう考えていたのか、疑問が残る。
* シドレンコは本当に目も当てられないほどトロいが・・・トスが回るたびに目をつむりたくなるほどである。ブロックがつかれたら簡単にシャットされそうだし、バックから打たせた日には「フニャ」とした感じのボールしか打てない。よくアウトするし、コートに入っていても簡単に拾われてしまう。決定率はドベ2から5ポイント差で断然の最下位。まともなチームだったらここまでひどければ交代が出ると思うのだが、スタメン≒全戦力のこのチームにはいくら決まらなかろうがアウトしようが交代できる控え選手などいない。

一方、この日のクロアチアは誰が打ってもよし、ブロックもさえわたり、最も恐ろしいサーブレシーブの崩れもなかった。誰もがよい出来だった。私にとっては、これほど気持ちのよい勝ち方はなかった。
日本と対戦したことで、クロアチアは日程的にはこの日が夜6時半から、翌日のイタリア戦が朝10時半からという最悪の日程となってしまった。しかし、それでも日本と対戦できたことはすばらしいことである。最高のパフォーマンスのクロアチアのチームが、全国にゴールデンタイムで放送されたからだ。このような機会はまずあるものではない。そしてそれによって、クロアチアのファンまたはクロアチア選手のファンは確実に増えている。私自身そのような手応えを感じる。これは私としても本当に大きな喜びである。

そして、この日のバーバラはまさに鬼神であった。
見たまえ。世界のエースとは、このような選手のことを言うのだ。

スタメンおよびサーブ順
日本: 6 大貫 → 13 佐々木 → 5 江藤 → 11 満永 → 12 大懸 → 1 多治見
クロアチア: 10 リヒテンシュタイン → 7 クズマニッチ → 8 イエリッチ → 1 レト → 11 チェブキナ → 3 シドレンコ

1998/11/11 18:30-
Osaka Municipal Central Gym.

      JPN - CRO
        0 - 3
1st    13 - 15       28 min.  5-4 10-6 12-9
2nd     5 - 15       19 min.  0-5 2-10 3-12
3rd     9 - 15       23 min.  1-5 3-10 5-12
Total  27 - 45  1 h. 10 min.

この日の結果は、F組から上がったチームが実に4戦全勝。F組のレベルの高さを証明する形になった。準決勝ラウンドF組は、第1シード・第2シード以外のチームも「隠れシード」ばかり、その激戦区を勝ち抜いてきたチームが強いのは当たり前である。キューバ・中国・韓国・イタリア・クロアチア・ブルガリア、日本が戦ったら全部負ける可能性も決して少なくない。

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「新・世界のセッター誕生」(5-6位決定戦)

キリロワは使える状態でないだろうし、この試合はクロアチアにとって厳しい試合となることは予想された。そして案の定、第1セットからイタリアにブロックが次々出る。リニエーリやメロを中心にアタックも次々決まり、あっという間に8-2イタリアリードとなる。この後クロアチアにブロックが出て8-5となるけれども、その後はまたしてもイタリアのペースで、ピッチニーニ中心に面白いようにアタックを決められる。クロアチアのほうはバーバラのバックアタックがたまに決まる程度、相手のアタックミスで2点を返しただけで、15-7でイタリアが第1セットを取る。

第2セットの序盤は、4-3から、バーバラがサービスエースとバックアタックを決めて6-3とクロアチアがリードした。アタックミスなどで6-7と逆転されるものの、ここでバーバラのブロックが2発連続で出て8-7と再逆転する。しかし、競り合っていたのもここまで。リニエーリ、ガラストリなどにブロックが出て、それがことごとくイタリアの得点となる。最後はメロのアタックで15-10でイタリアが2セット連取。

第3セットはこれまでの2セットに輪をかけてイタリアの一方的ペースとなり、セット開始から、それぞれサイドアウト2回はさみ、イタリアが3連続得点、2連続得点、3連続得点、2連続得点。2回目のテクニカルタイムアウトまでクロアチアは1点も取れない。この後は、相手のミスも出たためクロアチアが反撃するものの、これほど大差がついてからではどうしようもない。最後はやはりブロックを食らって終わり。

勝利のあと、イタリアチームはまたまた大騒ぎ。そのあと、監督の胴上げまで行われた。

勝負だけを考えるなら、クロアチアにとって、キューバ戦をストレートで落としたのは痛かった。このためにイタリアにセット率で上をいかれ、11日が日本戦に。11日が夜6時半から、12日が朝10時半からという最悪の日程になってしまった。
しかし、そうでなくてもキリロワを使わないとまずイタリアには勝てないだろう。(この日もクロアチアはセッターリヒテンシュタインで通した)

イタリアのブロックはこの日もさえわたっていた一方、イタリアのスピードある攻撃にクロアチアのブロックはほとんどついていけなかった。さらに、かろうじて上がったと思われるボールでも、イタリアは確実にアタッカーが打てるまでつながってしまう。そしてこれをクロアチアはほとんど拾えない。
しかし、この試合はクロアチアにとって、もはや勝てなくてもよい試合だったのかもしれない。クロアチアの大会前の目標はベスト8だった。それはすでに果たしており、そのもう一段上の6位以上も確保していた。この試合でたとえ1点もとれなくても、バーバラの最多得点で賞金獲得も揺るがない。

この大会前、イタリアはなぜ強いのかわからないチームだった。キューバの驚異的な攻撃力はいうまでもないとして、ロシアには現在世界のエースといわれるアルタモノワとゴディナがいる。ブラジルには世界一のセッターのフェルナンダ。中国・韓国は守りで世界一といわれる。クロアチアには世界一のエースであるバーバラとかつて世界一と言われたセッターキリロワ。日本にも、レシーブとサーブレシーブで世界一の津雲・大懸がいる。しかし、イタリアに、世界の・・・と言われる選手は思い浮かばない。
そのイタリアがここまで躍進した最大の理由は、間違いなくセッターにある。かろうじてレシーブしたボールでもアタッカーが完璧に打てる場所にきっちりと上げられるので、対戦しているチームとしては実にたまったものではない。また、サーブカットが返れば、このチームはサイドアウトをいとも簡単に取る。それも、正確で速いトス回しがあるからできることである。うまくてしかもかわいいセッター、マウリツィア・カッチャトーリ。フェルナンダ引退で世界のセッターはやや寂しくなると思われたけれども、そこにセッターの星が現れた。

スタメンおよびサーブ順
クロアチア: 10 リヒテンシュタイン → 7 クズマニッチ → 8 イエリッチ → 1 レト → 11 チェブキナ → 3 シドレンコ
イタリア: 7 カッチャトーリ → 2 リニエーリ → 4 レッジェーリ → 16 メロ → 12 ピッチニーニ → 9 ガラストリ

1998/11/12 10:30-
Osaka Municipal Central Gym.

      ITA - CRO
        3 - 0
1st    15 -  7      19 min.  5-2 10-5 12-5
2nd    15 - 10      29 min.  3-5 10-8 12-8
3rd    15 -  8      20 min.  5-0 10-0 12-4
Total  45 - 25  1 h. 8 min.

「クロアチア私設応援団(?)」は大阪にも出現。なんと、鹿児島から応援を続けているとのことである。上には上がいるものである。ちなみに、この応援団と私とは別人である(勘違いされている方がいるようなので。ずっと声を出して応援を続けていたら、試合経過のメモを取れるはずがない。)。
しかも、さらに度肝を抜かれたことに、この応援団は日本戦もずっと、「クロアチア、クロアチア、おっ!」と応援を続けていた。
(テレビには映っただろうか?そんなはずはないか。)

この大会、最多得点はもちろん圧倒的な差で取ったものの、バーバラの調子としてはよくなかったと思う。本来のバーバラだったのは11日の日本戦だけである。福岡のイタリア戦およびブルガリア戦でいずれも20本以上のブロックを食らったのは明らかに多すぎる。もちろん、この全てがバーバラのアタックを止めたものではないけれども、少なく見ても6割くらいはバーバラが止められたものである。ブロックで立て続けにシャットされたなら、アタックのタイミング、コース、スピードなどを変化させて、ブロックに当てて相手のコートに落とすなりブロックアウトにするなりできなければ、世界のエースとは言えない。今大会、アタック得点87に対し、アタックミスとブロックで止められたことによる失点が76と、ほとんど変わらない。これはかなり深刻な状態である。
しかし、バーバラは他チームのエースとは格段に厳しい条件の中で試合をしており、その点は考慮しなければならない。クロアチアにはバーバラの代わりになるエースもなく、コンビネーションもほとんどない。相手にとってはバーバラだけマークしていればよい。さらに、今大会はキリロワがまともに使えず、控えセッターのリヒテンシュタインのトスはぶれることが非常に多い。キューバあるいはロシアのエースにしても、このようなチームでプレーをすれば、まず現在のような成績は残せないだろう。しかも今大会クロアチアが戦った相手は、キューバ、中国、イタリア(2試合)、韓国、ブルガリア、日本、タイと、ほとんどが格上または互角の相手であり、楽に勝てる相手はタイくらいである。

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「名セッター有終の美を飾れず」(3位決定戦)

この試合は、監督が監督だけに、壮絶な怒鳴り合いとなった(笑)。ブラジルの応援団が「ワウワウワウ〜」と、カルポリ監督が怒鳴っているのを茶化す場面もあり。

第1セット序盤は、アルタモノワに2連続サービスエース、さらにゴディナ、ティーシェンコのアタックでロシアが5連続得点。なんとローテーション全くなしでテクニカルタイムアウトを迎える。その後、モロゾワにも2連続サービスエース。8-1と前半はロシアがリードする。しかし、その後少しずつブラジルが追い上げる。ゴディナのアタックミス、モーゼのアタック、バロスのブロックで3連続得点、9-8と1点差に迫る。アルタモノワ、ゴディナのアタックなどで12-8と離されるものの、シルバの連続アタック得点、さらにロシアのオーバーネットなどで4連続得点、ついに12-12の同点。いったんはゴディナのバックアタックで13-12とロシアリードするも、ブラジルはブロックで再度同点。そしてロシアのアタックのミスで14点目、15点目が入り、逆転でブラジルがこのセットを取る。

第2セットは、2-1ロシアリードから2連続得点→サイドアウト2回→4連続得点で、一気に8-1と大きくロシアがリード。前半だけでゴディナがアタックで4得点の活躍。後半にはロシアにブロックが次々と出て、終始ロシアペースで進む。最後はまたしてもゴディナのアタックで15-6。

第3セットは終盤まで追いつ追われつ、息つまる接戦が続く。サイドアウトが多く長いセットとなる。ブラジルが開始直後に2点を先制し、中盤まではロシアが追い上げてはブラジルが逃げるという展開が続く。7-7からアルタモノワのバックアタックで、このセット初めてロシアがリード。アルタモノワがブロックやサーブでも得点し、12-9とロシアのリードが次第に広がる。ブラジルも12-11まで追い上げたけれども、そこでロシアにブロック、さらにシルバ、モーゼが痛恨の連続アタックミス。3連続得点でロシアが15-11。

第4セットは、中盤まではロシアにほとんどブロックが出ず、またロシアにアタックミスが相次ぎ、それがことごとく失点につながる。ブラジルが大きくリードする。4-11ブラジルリードからサイドアウト11回を繰り返すが、その後得点したのはブラジル、このときはフルセット突入は間違いなしかと思った。しかし、ゴディナのバックアタックが決まって5点目を返した後、セッターをバシレフスカヤからショカノワに交代。これが当たり、アルタモノワの2連続アタック得点、さらにモーゼのアタックミスで8-12。ブラジル、たまらずタイムアウト。バロスのアタックでブラジルサイドアウトの後、ロシアはバシレフスカヤを戻す。これがまた正解。ブラジルはブロックで13点目を入れるものの、流れは止まらなかった。サイドアウト→3連続得点→サイドアウト2回→3連続得点。あっという間に点差が縮まり、ブラジルのアタックライン踏み越しで逆に14-13とロシアマッチポイント。一度はモーゼのアタックでしのいだものの、ゴディナのアタックで2度目のマッチポイント、そして最後はアルタモノワのバックアタックが豪快に突き刺さりロシアの銅メダルを決めた。

試合全体としては、ロシアの攻撃力がわずかに上回ったか。ブラジルは、この日も痛恨の場面でアタックミスが続けて出てしまった。
ベンツリーニはこの大会を最後に引退すると言われている。世界一といわれ続けた名セッターの世界大会最後となるであろう試合を、ブラジルは白星で飾ることができなかった。

スタメンおよびサーブ順
ロシア: 8 アルタモノワ → 10 バシレフスカヤ → 9 ティーシェンコ → 6 ゴディナ → 2 モロゾワ → 5 ソコロワ
ブラジル: 14 ベンツリーニ → 10 ディアス → 5 コネリー → 8 バロス → 2 モーゼ → 13 サングラード

1998/11/12 13:00-
Osaka Municipal Central Gym.

      RUS - BRA
        3 - 1
1st    13 - 15       28 min.  5-0 10-8 12-8
2nd    15 -  6       21 min.  5-1 10-4 12-4
3rd    15 - 11       33 min.  3-5 10-8 12-9
4th    15 - 13       30 min.  2-5 3-10 4-12
Total  58 - 45  1 h. 52 min.

この試合、最前列に筋金の数本入った(?)ロシアファンが一人いて、「アルタモノワ銅メダルはいけるぞがんばれ!」などと叫び続けていた。(クロアチア施設応援団とは違い、それとわかる服装をしていたわけではない。)彼も松本からずっと応援を続けていたのだろうか?

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「厳しい現実」(7-8位決定戦)

前日にキリロワ抜きのクロアチアに一方的に敗れた日本。しかし、ほとんどのファンは、オランダには勝てると信じていた。私もオランダにはまず勝てるだろうと予想していた。

しかし、試合はやや予想外の展開で始まる。どうも流れに乗れそうで乗れない日本。相手の攻撃を拾って逆に決め返すという日本の形が出ていながら、3連続アタックアウトであっけなく同点にしてしまう。日本の一方的展開になってもあまり面白くないけれども、序盤から予想外の接戦になる。相手のアタックミスで6-4と日本がリードしながら、オランダにブロック、さらに佐々木のアタックミス、スターレンスにねじ込まれ3連続得点で逆転。この後もオランダが点を加え、スターレンスのサービスエースで10-6。オランダ11-7リードで、日本は多治見に代えて鈴木を投入。このすぐ後に鈴木がアタックで得点、選手交代が当たった。さらに相手にアタックミスが出て、佐々木のアタックで11-11の同点。しかしここで、江藤のアタックがアウトですぐにオランダに12点目をやってしまう。この後佐々木のアタックで再度同点に追いつくも、その後はフィッセル、ユールマン、最後はレフェリンクのアタックで15-12。第1セットはオランダが取る。

第2セットはうって変わって日本の一方的展開となる。日本はオランダのアタックをほとんど拾い、ブロックでのポイントも次々出た。セット中盤には、満永のサーブで崩し、テクニカルタイムアウト・オランダの選手交代・タイムアウトをはさみ、それでも止まらない6連続得点。13-1と大きくリードした。このセットはこのまま15-3で日本が取った。

日本がまともなチームなら、これで流れに乗りそうなものである。しかしこの日の日本はこれでも勢いに乗れない。第3セットは始終オランダがリードする。セット中盤、スターレンスとレフェリンクのアタック、江藤と佐々木のアタックミスでオランダが4連続得点、これで11-4まで差が開く。12-5となった後、ようやく日本も反撃。佐々木と江藤のアタックでまず2連続得点、サイドアウトの後相手にミスも出て3連続得点で、12-10まで追い上げる。しかしここで佐々木がサーブミス。その直後にオランダがブロックで得点し流れは完全に切れる。最後は2連続得点で、オランダが15-10でこのセットを取る。

第4セットは、序盤2-1日本リードから、フィッセルにブロックを食らい同点、さらにサイドアウト2回の後同じフィッセルのサーブで日本が崩れる。フィッセルのサービスエースに、レフェリンクのバックアタック、ユールマン、ブルスマのアタックで4連続得点。あっという間に6-2オランダリードとなる。この後もオランダのアタックを止められず、差は広がる一方である。このセットは日本のブロックがほとんど役に立っていない。これではレシーブするのも苦しい。日本はサーブ権は取るものの、オランダはサイドアウトを容易に取ってしまうため、日本はなかなか得点できない。9-4オランダリードのときに日本は大懸に代え熊前を投入するが、流れは変わらない。最後はブルスマにアタックを決められ15-8。

これには驚いた。いかに強い全日本にこだわりはないと言っても・・・。
最も悲観し憤怒していた人すら、3-2でオランダが勝つだろうと言っていた試合である。その最悪の予想すら下回る惨敗である。

この日はオランダにサーブレシーブのミスが少なかった。それがおそらくオランダ最大の勝因である。
第3セット以降は、サーブカットがきっちり返ったときに5番ブルスマ、15番フィッセルあたりをほとんど止められなくなった。そうなると、この二人のどちらかをおとりで動かしておいて実際に打つのは他のエース、というコンビも多くなった。(これも代々木の試合から比べれば大きな進歩!)こうなると止めるのも受けるのも容易ではなくなってしまう。
また、3番ユールマン、13番スターレンスといったあたりのエースも、代々木の試合では前にブロックがつかれると浮かしたりネットにかけたりミスを連発していたのに、ブロックをうまく利用して日本コートに落としたりブロックをかわして打つことができていた。

一方、日本について言えば、流れに乗れそうなところでミスが出て、自ら勢いを止めてしまうのが目立った。また、第1セットにアタックのミスが多すぎた。オランダの9点目までで、アタックミスで献上した点は5点。お互いサイドアウトの確実性が高くセットが極端に長くなった場合は(例えば準決勝福岡のイタリア対韓国戦)、結果的に相手のアタックミスでしか点が入らないという状況になる場合もあるけれども、15分そこそこの間でこれは多すぎる(オランダは同じ間にアタックミスでの失点は1)。そして、よけいなミスを連発したことで、決めなければいけないときに弱気になってフェイントを繰り返し、これが拾われて逆に相手に強打されるというシーンが目立った。

この敗戦は、全く言い訳はできない。日本は五輪のあと主力がほとんど変わっているけれどもオランダもそうである。オランダなど、スタメンのほとんどが20歳前後の選手である。

もう少し詳しくは全日本雑感としてまとめて書くけれども、この先2年間によほどレベルアップしなければ、シドニー五輪は出場さえ厳しい。あるいは、シドニー五輪は捨ててでも、またゼロから新たなチーム作りを考えるのか。決断が迫られる。
この試合は、その厳しい現実をはっきりと示してくれたものだと受け取ることにしたい。

スタメンおよびサーブ順
日本: 6 大貫 → 13 佐々木 → 5 江藤 → 11 満永 → 12 大懸 → 1 多治見
オランダ: 5 ブルスマ → 12 レフェリンク → 13 スターレンス → 15 フィッセル → 14 フレデルス → 3 ユールマン

1998/11/12 15:30-
Osaka Municipal Central Gym.

      JPN - NED
        1 - 3
1st    12 - 15       28 min.  5-4 6-10 11-12
2nd    15 -  3       20 min.  5-1 10-1 12-1
3rd    10 - 15       24 min.  3-5 4-10 5-12
4th     8 - 15       31 min.  2-5 4-10 5-12
Total  45 - 48  1 h. 43 min.

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「女王完勝とハプニングと」(決勝)

いよいよ決勝。長いツアーもこれで最後の試合となってしまった。

第1セットは、果たして、キューバが猛烈なラッシュをかける。中国は、キューバのサービスミス以外ではサイドアウトすら取れない時間がしばらく続いた。5分ほどで7-0キューバリードとなる。この後中国も3連続得点するけれども、キューバもすぐに4連続得点。このセットはキューバが一方的に15-4と取る。この間、わずか17分。

しかし、第2セットに入り、中国がようやく目を覚ます。決勝にふさわしい最高レベルの試合、息詰まる熱戦となる。キューバにミスがでたこともあり、序盤中国が4-2とリード。キューバはいったん5-4と逆転するものの、WU Yongmeiのアタックなどで逆転、さらにコスタが連続でアタックをミスして8-5と中国リード。このあたりで、ついにキューバはルイス投入。会場の興奮はさらに高まる。この後ルイザのアタックで1点返し、さらにキューバが3連続得点、キューバが逆転。この後は12-11中国リードまで両チームが2点刻みで得点する。キューバはルイスのアタックで同点とした後、ベルのアタック、トレスのブロックで14-12とし、最初のセットポイント。しかし、中国はそれをSUN Yueのバックアタックでしのぎ、さらにSUN Yueのアタック得点、LI Yanのサービスエースで同点。デュースとなる。サイドアウトの後、キューバ・ベルのサーブとなった。それを中国が珍しくレシーブミスしてエースとしてしまい、キューバが再度セットポイント。今度は、ベルのサーブは中国レシーバーの頭上を越えエンドライン際に。
入っている!?
ベルの2連続サービスエースで、このもつれたセットをキューバがものにした。

第3セットは序盤から中国がリードを奪う。とにかくキューバのアタックに対しブロックでワンタッチを取り、レシーブで拾い、セット序盤はほとんど決めさせなかった。キューバのアタックミスや反則も多く、一時9-3まで中国のリードが広がる。この後、10-7まで追い上げられた後、SUN Yueのアタック得点とフェルナンデスのスパイクアウトで、12-7となる。しかしここから中国はSUN Yue以外ほとんど決まらない状態になり、キューバが徐々に追い上げる。サイドアウトをはさみながら2点を返し、さらにルイスのバックアタック、中国の反則で2連続得点、1点差まで追い上げる。この後サイドアウト2回で、中国にとっては悪夢の「ベルのサービス」を迎えた。ここでトレスにブロックが出て、ついに同点。ベルのサービスはなおも続く。そして、サーブは前のセットを決めた得点と同じコースに・・・。
入ってる、入ってる、入ってる!
ついにキューバが逆転。次のサーブで、またしても中国のサーブレシーブが乱れた。直接キューバのコートに返ってしまい、トレスが容赦なくダイレクトスパイクを決める。ついにキューバのチャンピオンシップポイント。(バレーボールではこのような言い方はあまりしないかな。テニスではよく使う表現。これをチャンピオンシップポイントと呼ばずしてなんと呼ぶ。)
ここで、ベルのサーブは、先のセットの16点目、このセットの13点目のビデオテープを見ているかのごとく、レシーバーの頭上を越えてエンドライン際に・・・。
入ってるよ!!
ラインジャッジが赤い旗を振り下ろした。
何ともあっけない幕切れであった。

スタメンおよびサーブ順
キューバ: 14 フェルナンデス → 2 コスタ → 8 ベル → 10 トレス → 12 アゲロ → 1 ルイザ
中国: 12 QIU Aihua → 2 LI Yan → 5 WU Yongmei→ 7 HE Qi → 11 SUN Yue → 1 LAI Yawen

1998/11/12 18:30-
Osaka Municipal Central Gym.

      CUB - CHN
        3 - 0
1st    15 -  4       17 min.  5-0 10-3 12-4
2nd    16 - 14       31 min.  5-4 9-10 11-12
3rd    15 - 12       30 min.  2-5 6-10 7-12
Total  46 - 30  1 h. 18 min.

この試合は、例によって在日の中国人によると思われる大応援団が編成されたけれども、その一方で、タイムアウトなどではそれにも負けないほどのキューバコールがわき起こった。その主体は女子中学生(または高校生)。もちろん日本人である。

さて、観戦ツアー中最大のハプニング(私にとって)はこの決勝戦の第2セットに起こった。私の座っている目の前の座席ロシアの選手4人ほどが腰掛けたのである。そして、私の斜め後ろに座ったのは、まぎれもなくゴディナとリューバ(ソコロワ)!!
これには驚いた。世界選手権の決勝なのに、その試合すら吹き飛んでしまうほど驚いた。
これでサインをもらわないという手はないだろう!!
というわけで、タイムアウトあるいはセット間の時間を利用し、ロシアの選手6人のサインと、ソコロワとゴディナの写真をゲットしたのである。私の座っている場所から通路を下った場所には、他のロシアの選手が座っており、時間があればその選手たちのサインももらったり写真を撮ったりしたかった。しかし、キューバがストレートで試合を終わらせてしまったため、それはできなかった。


夢のように、あっという間に過ぎた1週間だった。

この大会も終わってみればキューバの圧勝。大会8試合で落としたセットはわずか2セットしかない。男女通じて初となる三大大会6連覇の偉業を達成、未踏の領域に突入した。現在に至るキューバの黄金時代が始まった時期のメンバーのうち現在もスタメンで出ているのはベルだけであり、世代交代も着々と進んでいる。キューバの黄金時代は第二期に入ったと見ることができ、当分このチームを女王の座から蹴落とすことのできるチームが出現するとは思えない。
このチームに転機が訪れるとすれば、ミレーヤ・ルイスが身体能力の限界に達し本当にプレーが全くできなくなるときかもしれない。今大会ではスタメン出場こそなかったものの、いわば「スーパーサブ」的起用で相手に押されたときには必ず交代出場。困ったときにはまだまだルイス頼みである。

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各チーム講評と勝手にランキング

1位: キューバ
高さとパワーがあるだけではなく、変幻自在の攻撃を持ち、さらにレシーブとつなぎもよいこのチームは、一頭抜けたトップにあることは疑いようもない。わずかながら隙が見られるのは、高さとブロックのあるチームと対戦するとき。その意味でロシアとの試合は絶対に実現してほしかった。

2位タイ: 中国
大会前半はいまいちと思われたけれども、イタリア、ブルガリア、ロシア戦と、落としてはならない試合での集中は見事。長丁場の国際大会での戦い方を熟知している。この大会を通じて若手のQIU Aihuaが活躍し、将来にわたり非常に明るい材料となっている。しかし、キューバには歯が立たない。

2位タイ: ロシア
準決勝の中国戦は惨敗だったけれども、打倒キューバの一番手にあることには変わりはないだろう。まだ非常に若く成長途上のチームであり、攻撃力の強さともろさが同居する。このチームの最大の弱点はやはりセッターだろう。

4位: ブラジル
他の四強相手に、よい試合はするのだけれども、セットの終盤でアタックミスが連続して出たのが試合を落とす大きな要因となってしまった。
ベンツリーニ引退で力が落ちるのは避けられないだろう。さらに、スタメン全員が25歳を越えているなど、ほかの主力選手も高齢化が進んでいる。近い将来総入れ替えは必至と思われ、そうなると四強の一角から転落するおそれもある。地元開催となる次回の世界選手権を目標にするなら、今から新しいチーム作りに取りかからないと間に合わない。

5位タイ: イタリア
よくまとまったチームで欠けたところがない。全体としてミスが非常に少なく、粘りもある。この点ではむしろアジアのバレーに近い(ブルガリア・クロアチアなどが相手だとそれがよりはっきりする。)。このチームの粘り強さは、セッターのカッチャトーリの存在が非常に大きい。最近日本がこのチームに勝てないのは、何となく納得できる。粘り強く大崩れしないチームを日本が非常に苦手とするのは、97年まで続いた韓国戦17連敗からもうかがい知れるところである。ブロックは高さはないけれども読みとタイミングが非常によく、相手の攻撃が単調になれば極めて高い確率で止めてくる。
このバレーは、格下の相手なら完全に翻弄することができ、取りこぼしはまずないと思われる。しかし、現在のところ、四強相手では抵抗することも難しいと感じられる。
このチームは完成度は高く年齢を意識させないけれども、実はスタメン平均年齢21歳という断然若いチーム。まだまだ今後の成長も期待でき、四強を追う一番手の地位を確立するのは時間の問題であろう。

5位タイ: クロアチア
ベストメンバーでけが人がなければもっと上を狙えるチームだが、バーバラ以外のスタメンがほとんどけがを抱えており、特にキリロワをまともに使えない状態では、6位はよしとしなければなるまい。大当たりすれば四強も脅かせるアタックとブロックがある一方で、サーブレシーブの悪さは目も当てられないほど。サーブレシーブの改善が最も重要な課題だが、このチームにはそれ以前にしなくてはならないことがある。
お願いだから、世界大会の前に、けが人を出さないでくれ。
一度でいいから、バーバラを世界の女王にしてやってくれ。
もともと旧ユーゴの女子バレーは世界大会の実績はほぼ皆無である。バーバラに続く若手の成長は依然として見られないため、現在の力を維持できるのはせいぜいシドニー五輪までであろう。このチームに残された時間はもはや少ない。

7位: 韓国
予選ラウンドで中国とクロアチアをフルセットの激闘の末下したのは見事だったけれども、そのため体力を使い果たしたのか、準決勝ラウンドではいいところがなかった。粘って相手のミスを待つバレーは相変わらずだが、ブルガリアには守備網を完全に破られ、イタリア戦では自力で得点する手段がなさ過ぎた。

8位: ブルガリア
このチームも高さで勝負する典型的ヨーロッパバレーのチームである。スーパーエースのゼトバは、名前を知っているファンも少ないだろうが、決して侮るべからざる決定力がある*。さらに、ロシア・クロアチア・オランダなどと比べるとコンビネーションを多用し攻撃に幅がある。実際、このチームのアタック決定率は6試合平均46.8%と極めて高い。つなぎも決して悪くはなく、これはセッターの技量で上回っているのが大きな要因と思われる。このチームも最大の課題はサーブレシーブ、それさえ崩れなければイタリア・クロアチアまでとは互角以上に戦える。
* 6試合で144/291、決定率49.5%、アタック得点47。6試合終了時点でこれだけ数と率のそろった選手は他に誰一人いない。アルタモノワ・ゴディナに対しては率でも数でも完全に上回る。これより決定数が多いのはバーバラだけだが、決定率ではバーバラは3ポイント近く低い。
今回の世界選手権では順位は11位に終わったけれども、久しぶりの出場となった世界選手権でここまでやれたということは大きな自信となるだろう。年齢的にはほぼ完成されたチームだが、国際大会の経験という面ではまだまだ伸びる余地がある。

9位タイ: オランダ
まだまだ攻撃が単調で守備にも問題があり、セッターも未熟。しかし大型チームだけに型にはまったときの攻撃は豪快である。まだジュニアに毛が生えた程度の極めて若く経験の少ないチームだけに、今後の成長が期待できる。この大会期間中だけでも、大阪の決勝ラウンドでは成長の跡が見られた。

9位タイ: 日本

不明: アメリカ
予選最大の激戦区に入ってしまった(イタリア、ブルガリアは「隠れシード」と言ってもよいチーム)不運はあったとはいえ、ここまで弱くなっているとは全く予想できなかった。わずか5ヶ月前のBCV杯では、日本、イタリアと互角に戦っていた。しかし、7月の日米対抗で1勝4敗、8月のワールドグランプリで全敗と、まさに崖から転落するかのようである。
登録メンバーの中には、モニク・アダムス、ダニエル・スコットといった海外のリーグで活躍している選手もいるのに、試合で使った形跡はない。ユニバに毛が生えたようなチーム。これでは勝てないのも不思議はない。

番外: ケニア
ほほえましい相手。セットの終盤になり点差が開くほど、点を取るごとに、いやサイドアウトを取ったときでさえ、踊って走り回って大喜びする。この雰囲気の良さは大したものである。見ている側としても、対日本戦は全くのワンサイドゲームだったにもかかわらず、気分の悪いものは全く残らなかった。
この陽気なアクションには、戦術的にも大きな意味がある。一つは、雰囲気的に自分のチームのペースに巻き込んでしまうこと。もう一つは、会場の観客を味方につけられることである。
95年ワールドカップ、ケニア対エジプトの記録に、"Kenya held a party at Maishima Arena."とある。これはまさにそのこと。この試合は、ケニアの三大大会唯一の勝利である。このチームが三大大会で勝ったときにはいったいどんな騒ぎになるだろうか。
しかしこのチームの選手たちが、今大会の予選ラウンド、ペルーとフルセットの激戦に敗れた後、涙を流していた。
付表: 上位8チームのスタメン平均
チーム 年齢 身長 スパイクジャンプ ブロックジャンプ
キューバ 23.5 180.5 326.0 314.3
中国 24.0 182.7 312.5 298.7
ロシア 22.0 188.3 308.8 302.5
ブラジル 27.7 183.0 302.7 288.0
イタリア 21.0 182.5 306.3 280.8
クロアチア 27.7 186.2 305.8 291.2
オランダ 22.0 183.2 299.7 288.0
日本 23.8 178.8 306.5 290.5
スタメンは基本的にこの世界選手権のスタメンにしたがい次のように仮定している。ただし、クロアチアについてはセッターはリヒテンシュタインでなくキリロワとして計算している。年齢は月以下を考慮していない。

キューバ: 1 ルイザ、2 コスタ、8 ベル、10 トレス、12 アゲロ、14 フェルナンデス

中国: 1 LAI Yawen, 2 LI Yan, 5 WU Yongmei, 7 HE Qi, 11 SUN Yue, 12 QIU Aihua

ロシア: 2 モロゾワ、5 ソコロワ、6 ゴディナ、8 アルタモノワ、9 ティーシェンコ、10 バシレフスカヤ

ブラジル: 2 モーゼ、5 コネリー、8 バロス、10 ディアス、13 サングラード、14 ベンツリーニ

イタリア: 2 リニエーリ、4 レッジェーリ、7 カッチャトーリ、9 ガラストリ、12 ピッチニーニ、16 メロ

クロアチア: 1 レト、3 シドレンコ、7 クズマニッチ、8 イエリッチ、11 チェブキナ、12 キリロワ

オランダ: 3 ユールマン、5 ブルスマ、12 レフェリンク、13 スターレンス、14 フレデルス、15 フィッセル

日本: 1 多治見、5 江藤、6 大貫、11 満永、12 大懸、13 佐々木

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各賞講評

Best Scorer
この部門についてはもともと大本命がいて、そのチームがベスト8進出さえすれば他の選手が取る可能性はほぼなくなる。ただでさえこの選手に頼る割合が段違いに高いのに、フルセット3試合にフルセット同然の3-1の試合が1度。もはや無敵状態。

Best Spiker
このパターンに持ち込まれたらほぼ終わり、というセンター線の速攻を持つチームは何チームかあるけれども、やはりキューバのフェルナンデスが一番凶悪。

Best Blocker
これも順当である。トレスは凶悪すぎる。しかし、そのトレスがいる割に、キューバのブロック総数は多くないのは意外。

Best Server
サービスエースはうまいチームからはどう頑張ってもそう簡単に取れるものではないので、実はサーブレシーブの下手なチームから稼いだ選手の勝ち。稼ぎやすい相手は、ペルー、ケニア、ドミニカ、そしてクロアチア。ケニア相手にレフェリンクと大貫が壮絶なサービスエース合戦を展開したが、最終的にはペルーとケニア相手に10発稼いだレフェリンクの勝ち。トレスもクロアチア相手に7発たたき込んだが及ばず。(なんか間違ってないか)

Best Digger, Best Receiver
これは日本の津雲が本命といえる部門だが、それでも二部門獲得は見事。リベロという歴史の浅いポジションの先駆者として大きな足跡を残している。

Best Setter
イタリア躍進を祝う実にタイムリーなカッチャトーリの受賞。このタイトルはセットアップの成功数をもとに決めるものであり、いくらうまいトスを上げてもアタッカーが決めてくれなければExcellentはつかない。したがって、必ずしも実際に見て「上手だ」というのとは一致しないこともありうる。しかし、カッチャトーリは私の見る限り実際うまい。フェルナンダが引退、キリロワが力尽きた後の世界のセッターはカッチャトーリではないだろうか。

Most Fashionable Uniform Team
セクシーユニフォーム推進キャンペーン中 by Ruben Acosta。一番乗りのチームにはご褒美あり。従わないチームには罰金もあり。
それはちょっと筋が違うのでは。マスメディアに変に騒ぎ立てる格好のネタを提供しているだけのような気がする。(騒ぐほうも騒ぐほうだが)それこそセクハラだと訴えられたらどうするつもりなのだろう。このあたりに対する感覚の鈍さは度し難いものがある。

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チーム別集計(非公式)

Caution!
この集計は私が手元で計算したものであり、公式に発表されたものではありません。計算誤りなどがある可能性もあります。また、予選ラウンドのキューバ対アメリカの試合の集計が出ていないため、キューバおよび総計のうち*印のついた数字ははこの試合を除いて計算した仮のものです。以上あらかじめご了承ください。

Attack

Rank Team Hits Successes Blocked Succ. % Blocked %
1 CUB 1136 601 64* 52.90 6.34*
2 BRA 964 477 79 49.48 8.20
3 RUS 964 456 65 47.30 6.74
4 CHN 1222 536 67 43.86 5.48
5 ITA 1147 497 77 43.33 6.71
6 CRO 1250 534 107 42.72 8.56
7 NED 948 393 90 41.46 9.49
8 JPN 1122 430 90 38.32 8.02
Total 8753 3924 639* 44.83 7.41*

アタックの決定率ではキューバが断然トップ。しかも、守りの堅い中国・韓国との3試合を含めてこの差なのだから驚きである。というか、見た印象としては、キューバのアタックはどのチームが相手であろうと関係ない。ついでブラジル、ロシアと続く。これは試合を見た印象ともほぼ一致するだろう。日本は、やはりというか、断然の最下位。

この集計では、アタックの決定率のほかに、アタックのうまさを表す指標の一つとして、「アタックがブロックされた割合」を考えることにする。ブロックはほぼ全てがアタックを止めるものであるから、アタックを打った本数に比べブロックされた割合が少なければ、アタックの威力とは別にそれだけうまくブロックをかわして打つことができていることになる。
この割合が断然低いのが中国。中国は決定率では他の四強に比べ大きく劣るが、攻撃の多彩さ、うまさによってその差がかなり相殺されていることがわかる。キューバも6%台前半の低い値、ついでイタリア・ロシアが6.7%程度である。逆に、極度にブロックされる率が高いのがクロアチアとオランダ。この両チームはいずれもエース中心の単調なトス回しが多く、コンビネーションもほとんどない。それではエースの攻撃力がいくら高くてもブロックするのも容易である。

Block

Rank Team Nb.
Set
Opp.
Attack
Successes Avg.
by Set
Shut %
1 RUS 26 1055 121 4.65 11.47
2 ITA 26 1102 116 4.46 10.53
3 CRO 31 1286 123 3.97 9.56
4 JPN 26 1103 99 3.81 8.98
5 BRA 26 992 95 3.65 9.58
6 CUB 26 971* 95 3.65 8.86*
7 CHN 28 1246 102 3.64 8.19
8 NED 25 958 69 2.76 7.20
Total 214 8713* 820 3.83 9.31*

現在では、ブロックの評価はセットあたりの成功数で行うのが主流になっているけれども、これは、セットが長引けば当然数字が多くなるという問題がある。ブロックはほとんど全てアタックを止めるものであるから、アタックを打たれた本数に対するブロックの成功率は、チームのブロック力を示すのに極めて妥当な数値であると考えられる。それを試算してみたのが"Shut %"であり、"Opp. Attack"の数字がアタックを打たれた本数を表す。
この「シャット率」でも断然のトップはロシア。次いで高いのがイタリアである。セットあたりで見るとブラジル・キューバ・中国はほぼ同じ数字になるけれども、この「シャット率」で見るとブラジルはクロアチアをもわずかに上回り、キューバは日本を少し下回る程度、一方中国はこの両チームに比べ非常に低い。中国のブロックの数はアタックを受けた本数が多いため自然に増えたもので、ブロック力はそれほどないことがわかる。断然の最下位はオランダ。身長は高くても到達点の高い選手が少ないうえ、読みも悪い。
イタリアはクロアチア・オランダ・ブルガリアという簡単にシャットできるチームと多く当たっているので、この数字は多少差し引いて考えるべきであろう。それでも、上位8チームの中で最も若くしかもブロックの高さが断然低いチームがこれだけ多くのブロックを決めていることは、十分驚異に値する。

Serve

Rank Team Nb.
Set
Hits Successes Avg.
by Set
Succ. %
1 CUB 26 943 58 2.23 6.15
2 JPN 26 793 52 2.00 6.56
3 NED 25 685 48 1.92 7.01
4 RUS 26 833 44 1.69 5.28
5 BRA 26 819 39 1.50 4.76
6 ITA 26 826 38 1.46 4.60
7 CHN 28 875 38 1.36 4.34
8 CRO 31 905 32 1.03 3.54
Total 214 6679 349 1.63 5.23

サーブについても最近はセット当たりで集計することが多いようだが、これは勝ちの多いチームに圧倒的に有利である。多く勝っているチームは、当然、サーブを打った回数も多いからである。また、これもセットが長くなれば当然数が増えると考えられる。そのため、サーブについては得点率もあわせて考えるのが妥当である。セット当たりサーブ得点ではキューバが最も多いけれども、キューバは8戦全勝失セットわずか2の圧倒的強さで、サーブを打った回数もそれだけ多いからエースも自然に増える。そのため、得点率は必ずしも高くない。

しかしながら、この数字を直接比較することは無理がある。単純な総当たりリーグ戦あるいはそれに近い形の大会なら数字を直接比較してもよいけれども、今回の世界選手権の場合、チームによって対戦した相手が全く違う。ケニア・ドミニカ・ペルー・オランダ・クロアチアと、サーブレシーブの悪い相手とばかり当たったチームと、サーブレシーブの堅いアジアのチームと多く対戦したチームの数字を同列に比較することはできない。
そのため、日本・オランダの数字は相当に引き下げて考えるのが妥当であり、サーブの威力が最も強いのはやはりキューバ。決勝の中国戦で合計9発のエース、しかもセット終盤でサービスエースを連発し中国にとどめを刺したのは、記憶に新しいところである。逆に韓国・中国・日本と堅いチームとの対戦ばかりでサービスエースを稼げる相手はせいぜいブルガリアというクロアチアについては、この数字は相当引き上げてやる必要がある。それにしてもセット当たり1.03発、得点率3.54%で断然の最下位とは、サーブが弱すぎる。このチームがサーブで守りに入っていてはいけない。

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全日本雑感

女子

何をもって世界に対抗しようとするのかはっきりしない。ひたすら拾いまくってセッターにつなぎエースが決める、という構想があるのだろうが、セッターもエースも「こけている」。だから、これからどのようなチームにしたいのかが伝わってこない。

私としては(当然クロアチアの応援)、ボールが「日本の打つ人」に回っても全然怖くなかった。満永に回ったほうが十倍くらいいやである。一番怖いのが大懸。私は全日本が弱くてもかまわないという人間だが、それでも何か間違っている、と思う。
大懸はサーブレシーブあるいはスパイクレシーブでもチームの要なのだから、この選手が最も決定力があるというのでは問題がある。彼女のブロックアウトの技術は捨てがたいものがあるけれども、「イクちゃんは守りに専念させる!」というくらい、ほかに決定力のあるアタッカーが出てこなければ、世界を相手にするのは難しい。あとは、満永にもっと積極的にトスを回してもよいと思う。鈴木の出場機会ももっと増やしていい。江藤がブロックで役に立っていなければ森山の起用も考えるべきである。打ってもなかなか決まらない上ミスも多いエース(?)をどうして使い続けているのか。全体に、選手交代を早くし、その時点その時点で調子のよい選手をもっと使うべきである。今大会の戦い方は、スタメンに固執しすぎである。飛び抜けた力のある選手はいないのだから、12人全員で戦うべきである。

日本女子は、拾うことについては世界でも断然のトップにある。しかし、それを攻撃に結びつけられていない。つまり、世界に通用するセッターの養成が最重要課題であろう。世界のエースといわれるバーバラやアルでさえ、まともなトスが上がるか上がらないかでアタックの威力が全然違ってくる(トスが低い、ネットに近すぎる→シャットされた、というシーンをツアー中何度見たことか。)。まして、アタッカー本来の力として劣る日本にとっては、どれだけ速く正確なトスを上げられるかということが生命線だと言ってもよい。

前に試合をしたときより相手が強くなっていたとき、あるいは試合中でも相手が戦術を変えてきたときに、いかに素早く適切な対処ができるか。この点について強く疑問を感じたのが、決勝ラウンドのオランダ戦だった。
予選ラウンドでストレート勝ちしたことで、簡単に勝てる相手という油断はなかったか。代々木の試合は現場で見たわけではないからわからない。しかし、少なくとも私がテレビで見る限り、代々木では日本はほぼ完璧な試合をしていた。ということは逆に、少しミスが出たり気が抜けたりすれば、オランダにつけいられる余地はあるということである。
一方、代々木のオランダと大阪のオランダは違うチーム、とは言い過ぎとしても、準決勝リーグ・決勝トーナメントの4試合で成長したのは間違いない。オランダのチームは編成してわずか7週間(予選リーグ時点で6週間)というけれども、経験の浅いチームほど、成長するのも速い。
ブルガリアもそうだったと思う。あのチームは年齢的には若くないけれども国際大会の経験はほとんどないチームである。最初のイタリア戦はストレート負け。しかし、次の試合ではキューバからなんと1セットを奪う。そしてアメリカをストレートで粉砕。その後、クロアチアとほとんど互角の戦いをして、さらに韓国に完勝をおさめた。中国にも前半激しく食い下がった。この経過を振り返ってみると、試合を重ねるごとに強くなっていったことがうかがえる。これは数字面でも表れており、予選ラウンド3試合でサービスエースを食らった率は8%をこえるという驚異的な悪さだった。しかし、準決勝ラウンド3試合ではこの割合が4%台後半と、クロアチア・オランダを上回るまでに改善されていた。

今大会を通じて、世界はどんどん強くなっているとはっきり感じた。イタリアにはこの2年間で追いつかれ完全に追い越されてしまった。ブルガリアも今や完全に同格以上、サーブで崩せなければ日本に勝機はおそらくないであろう。オランダもこの後順調に成長すれば2年先にはかなわない相手になっているおそれがある。今大会では予選ラウンドで敗退してしまったドイツ、アメリカなども、若いチームだけに2年もたてば刮目して見なければならない。

クロアチア、ブルガリア、オランダ(ドイツ相手でも多分)あたりに勝つ最も効果的な方法は、サーブで崩すことである。これができれば一気に大量の連続得点も可能である。逆に、サーブで崩せなければ、決勝ラウンドのオランダ戦でもそうだったように、常に後手後手に回り苦しい展開となる可能性が高い。しかし、来年以降はサイドアウト制からラリーポイント制に移行する。ラリーポイント制においては、ミスがそのまま失点となるため、サーブで冒険ができなくなり、サーブで崩すことは今ほど期待できない。
今大会ではまだまだリベロを活用しているチームは少ないけれども、リベロの活用で一歩先んじているのは実は日本である。これは数字的にも、津雲のBest Digger, Best Receiverの二部門賞獲得に表れている。しかし、しばらくすればこの点でのアドバンテージもなくなるだろう。

欧州諸国は、外国のプロリーグに選手を積極的に送り込んでいる。例えばオランダにせよクロアチアにせよブルガリアにせよ、スタメン選手のほとんどはイタリアまたはブラジルのリーグでプレーしている。他国の選手が世界のトップ選手の集まるリーグにどんどん入って腕を磨いているというのに、日本だけが鎖国などしていいのか。それでシドニー五輪に出場できるのか。
アメリカはともかくとしても、イタリアかクロアチアのどちらか、ブルガリア、オランダ、ドイツなどは、シドニー五輪の世界最終予選に出てくることが予想される。そうなれば、このあたりのチームに全部負けるかもしれない。もちろん、最終予選より前にアジア予選で出場を決めてしまえばそれにこしたことはないけれども、韓国との分の悪さを考えたらそれも難しい。中国がワールドカップでオリンピック出場を決められず、大陸予選に回るようなことがあれば最悪である。(ワールドカップ3位までのチームは、自動的に翌年のオリンピックの出場も決まる。現状ではワールドカップ3強はキューバ、ロシア、中国でほぼ決まりだと思うが。ベンツリーニがいないブラジルは戦力的に相当落ちるだろう。)FIVBによれば、最終予選は8チームで行われ、そのうち上位3チームがオリンピック出場である。ということは、前回最終予選と同じ総当たり1回戦と仮定して、めどとしては2敗までである。
これは決して容易なことではない。最終予選に回ったら前回と違って必ずや厳しい試合の連続となるだろう。最終予選に回るということは、予選ラウンド3連勝の韓国でさえ沈んだ激戦の福岡準決勝ラウンドに日本が入ることと考えてもよい(もちろん、キューバ・中国はいるはずがないが。)。その福岡準決勝ラウンド、そして決勝ラウンドと17試合を見て、危機感は非常に強い。協会と強化委員会の危機感の欠乏に対し危機感を感じている。

何か悲観的な話ばかり書いているけれども、8位という結果以上に(しかし実質的には10位程度と見るべき)、これから強くなるという予感がしないのである。

女子は試合内容としても、ファンを興奮させる試合が少なかったような気がする。弱いチームにいくらストレートで勝っても盛り上がらない。一方、格上の相手には完敗ばかりである。実力の近いチームに勝っていく、あるいは格上の相手に食らいつくから興奮できるのである。興奮できた試合といえば、第1セット17-16でとったロシア戦(しかし第2セット以降は一方的に完敗)くらいだろうか。予選ラウンドのオランダ戦もよかった。しかし、盛り上がる試合がこれだけでは、人気低迷の歯止めにもならない。

世界選手権は女子大会が終わった後男子大会が行われた。日本男子の試合を見ると、勝敗とか順位とかは別として、男子のほうが(日本)女子よりよくやっていると思うのは私だけだろうか。しかし、そのように感じられるのは、一方では、男子については世界と力の差があることを現実として受け入れているからでもある。つまり、女子バレーについてはまだ世界との差がこれだけ開いたという事実を受け入れることができていないということである。我々ファンとしても、まず、現時点における世界との差を素直に認めるところから始めなくてはならないのではないか。

しかし、2年あればどれだけチームが変わるかわからない。それを最もよく示しているのはやはりイタリアである。アトランタ五輪最終予選当時、イタリアは日本とは全く勝負にならないような弱いチームだった。3セットで日本から5点しか取れなかったという。そのチームが2年で日本を完全に追い越した。今日本とイタリアが試合をしたら、おそらく八分二分くらいでイタリアのほうが勝つだろう。実際、日本はイタリアに連敗中である。

体格あるいは本来の運動能力面では、イタリアは日本とそれほど差があるとは思われない。この世界選手権のイタリアのスタメン選手のほとんどは、身長は180cm台前半、最高到達点で見ても300〜310cm程度と、日本代表と同程度である。ブロックジャンプにいたっては日本よりも10cmも低い。そのことからすれば、日本でもできないはずはない。

イタリアリーグの昨シーズンの個人技術集計を見ると、特にアタックおよびサイドアタッカーの上位は完全に外国人選手ばかりで、現在のイタリアの代表選手はほとんど10位以下である。ブロックおよびセンタープレイヤーの部門でも外国人選手の数は少なくない。このあたりの事情も、日本と大差はない。(むしろ昨シーズンのイタリアリーグ女子は、ポーランドのドロタ・シュヴェニヴィチがアタックランキングトップになったことからもうかがえるように、世界に名だたる選手は特にレギュラーシーズンには少なかった。)

それではなぜイタリアは四強に次ぐ勢力になったのか。今大会で日本との差として感じたのは次の2点である。一つはブロック。高さを考えれば日本のブロックも悪くはないけれども、それに比べてもイタリアのブロックは格段に読みとタイミングがよい。特にバーバラ対策はまさしく完璧だった。これはおそらく指導者の力量の差だろう。そしてもっと大きいのがセッターの巧拙。イタリアの場合レシーブされたボールのほとんどがアタッカーが100%打てる位置に上がる。一方日本はいくら拾ってもなかなか有効打につながらない。

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男子

惜しい試合を続けながら勝てなかった原因としては、はっきり言って経験不足に尽きると思う。このチームになってから、ワールドリーグにも参加しないなど、国際試合をいっさい行わず、海外遠征と合宿を繰り返してきた。これは寺廻監督自身の望んだことであるけれども、そのために、国際試合で勝つためにはどうしたらよいのかというその詰めの部分、理屈でない部分の経験ができなかった。セットで10点を越えたあたりから点が止まる、最終セットでミスが出る。そして1点があまりにも遠かったキューバ戦。全て同じことだと思う。

一度戦った相手が戦術を変えてきたときの対処の遅れという問題は、男子の戦いでも露呈された。男子準決勝ラウンドでの韓国戦。このときの韓国は、予選ラウンドとの韓国とは違うチームだった。真鍋の速いトス回しを研究して、それに対応するブロックをしていた。また、全日本のサーブレシーブが弱いことを見抜き、サーブで攻めてきた。カナダも同じく、サーブレシーブの弱点をついてきた。少なくとも1セットを取られた時点では、これに対応する選手交代ができていなければならなかった。2セットを取られてから手を打つのでは遅すぎる。
女子の決勝ラウンドオランダ戦は、勝っても負けても7位と8位の違いしかなかったし、この試合に負けたことによって事態の深刻さが露呈されたという点ではむしろ負けてよかったとも言えるかもしれない。男子の韓国戦はこれとは全く違う試合だった。この試合に負けたら、決勝ラウンド進出の望みはほぼ絶たれるという試合である。

このチームの第一の課題はサーブレシーブだろう。サーブレシーブで崩されて失点、という場面が多すぎる。それも、セットの終盤あるいは最終セットという勝負のかかった場面で、それを何度見たことだろうか。もともと攻撃力の劣る日本が、守りで崩れていては勝負になるはずがない。今回のメンバーは、普段サーブレシーブをしていない選手が多すぎると思う。サーブレシーブのできる選手をもっと多く入れるべきであろう。国内のリーグではスーパーエースでサーブレシーブをしていない選手に、いきなりやれといってもできるわけがない。

準決勝ラウンドを全敗で終えた後、荻野主将が自ら記者を集めて協会や監督の方針を強く批判したという記事が朝日新聞に掲載された。極めて異例の事態だろう。彼は4年前の世界選手権、そして優勝したアジア大会にけがのために出場できなかった。この後もけがの繰り返しで、今大会は痛み止めを打ちながら「スーパーサブ」的な出場だった。全日本に選ばれるのも今大会が最後だろう。そのような覚悟があって、この会見を行ったにちがいない。記事によると、批判の内容は、

などである。

果たしてこの批判がどの程度当たっているかは私には判断できない。(しかし、サーブレシーブのできる選手を入れるべきという点については、全く同感と思う。)しかし、少なくとも、これだけの気概を持って批判のできる選手がいるということはよいことではないだろうか。史上最低の成績に終わった直後にこのような批判をすれば、惨敗の腹いせに言っていると受け取られかねないことなど、百も承知だと思う。それでも、批判があればそれは大会の直後に言わなければならない。大会が終わって時間が経てば経つほど言いにくくなる。
女子については、選手全員が萎縮しているのではないかと感じる。この世界選手権直前のフジ系列・プロ野球ニュースでの特集で、遠慮しあって言いたいことも言えないということが出てきた。また、男子チームの荻野主将は、選手とスタッフとのパイプ役という最も難しく嫌われる役目を果たしていた。しかし、今の女子チームに、この役目ができる選手がいるだろうか。女子チームについては、リーダーシップのとれる選手がいないという問題もしばしば指摘される。チームをがんがん引っ張っていけるような選手がいない。

チームの方向性(特に来年以降のラリーポイント制への対応)という点では、男子は女子よりもはるかにはっきりとしたものを感じ取ることができた。ラリーポイント制においては、サーブミスがそのまま失点になる。そのため、現在よりサーブが弱くなり、それに伴いサーブレシーブがセッターに返る確率は今より高くなり、それゆえブロックの重要性が今以上に高まると予想される。その観点から、ブロックで強豪国をも苦しめることができたのは、非常に大きな成果である。

今回男子の戦い方でもう一つ評価できるのは、12人全員で戦うという方針を貫いたことである。相手チームおよび戦術を研究しそれを選手起用に結びつけるという点ではなお不十分であるけれども、それでも女子に比べればはるかにましである。選手交代が成功し流れを変えた場面も度々あった。

この大会での結果は15位タイという最悪のものに終わってしまったけれども、女子のチームよりも光は見える。どのようなバレーボールをしたいのかが伝わってくる。現在の方向性を続けていけば今よりももっと上にいけるという期待はできる。

3セットで5点くらいしか取れずに負けても、フルセットで負けても、試合結果としては同じ負けである。しかし、バレーボールの人気という観点では、両者の意味は全く違う。格上相手に男子チームがこれだけ惜しい試合を続けたことにより、間違いなく日本男子のファンは増えただろう。さらに、質の高い試合、競り合った試合を続けたことは、単に日本男子のファンではなくバレーボールという競技そのもののファンをも増やすことにつながる。

この男子大会で気がついたことは、世界のエースと呼ばれる選手は身長はそれほど大きくないことである。パスカル、ジャーニ、グルビッチ・ウラジミル、ゴドイフィリョ、ビテンコートなど、いずれも190cm台前半または半ばで、日本のエースとも体格的にはほとんど同じである。とすれば、世界のエースと日本のエースとの差はやはり身体能力の鍛え方の面が大きいだろう。ブラジルチームは、大会期間中も筋力トレーニングを行い、そのために体育館を探したという。

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共通の問題

この地元開催の世界選手権で、全日本は男女とも惨敗した。男子は史上最低の15位タイ。女子も史上最低タイの8位、しかも、準決勝ラウンドで組み合わせに恵まれたことを考えれば、実質的な順位は10位前後である。
沈んだのは日本だけではない。男子では、中国・韓国もそろって準決勝ラウンドで敗退。アジアの国が世界選手権に参加するようになって初めて、1カ国も12位以内に進出できないという、アジア全体として史上最悪の結果となった。女子でも、韓国はこれも三大大会史上最悪の9位タイに終わった。中国は結果だけ見れば準優勝という立派なものだが、その内容はあまりほめられたものではない。クロアチアにフルセットまで粘られたうえ、韓国にはフルセットの末敗戦(しかもこの試合、韓国はエースのチャン・ユンヒをけがで欠いていたのである。)。2度のキューバとの対戦はいずれもストレートで敗れている。つまりアジア全体が地盤沈下しているのである。
一方底上げが目立つのがヨーロッパである。女子においては、イタリアが2年間で四強に次ぐ勢力へと大躍進、ブルガリアもこの2年で大きく成長した姿を見せた。クロアチア・オランダもベスト8をキープしている。男子では、新興勢力ユーゴが完全に四強の一角を占めるに至り、ロシアにも復活の息吹が感じられる。さらに、スペインもパスカルのワンマンチームを脱しつつある。

この変動の大きな要因は、アジア諸国の鎖国同然の体制にあると思われる。欧米諸国は、外国のプロリーグに積極的に選手を送り出している(特に東欧にそのような国が多い)。外国で高いレベルのプロリーグでもまれることで、高いレベルの技術を身につけることもでき、あるいは修羅場の経験もできる。しかし、日本(そしてアジア諸国)はこの流れに完全に遅れてしまった。それどころか、日本は、国内のVリーグの外国人選手も禁止(当面第6回は女子のみ禁止?)しようとしている。

このような趣旨の記事が朝日新聞に掲載されるのとほぼ時を同じくして、もと富士フィルムに所属し日本人男子として初めて今シーズンからイタリアのプロリーグに移籍した清水選手がニュースステーションで特集された。その特集では、外国のプロリーグで腕を試したいという夢を持っていた清水選手が、知り合いの運動用品店の店長に相談し、その店長がアメリカのバレーボールのエージェント(代理人)ティム・ケリー氏に清水選手を紹介、ケリー氏が入団テストツアーを手配し、イタリアのエージェントにバトンタッチして、清水選手がイタリアのチームに入団内定するという経緯が紹介された。ティム・ケリー氏は、この世界選手権にも来日し、朝日新聞の記事(98/11/26)でも紹介された。
しかし、プロリーグが盛んなイタリア・ブラジルなどを除けば、バレーボールはまだまだマイナースポーツである。そのため選手とチームを結びつけ契約を成立させるエージェントも数が少なく、ボランティアに近い状態である。(ケリー氏の言うには、エージェントとして受け取る報酬より出費のほうが多いとのことである。)また、日本の選手が外国のリーグに移籍するにはもう一つ大きな障壁がある。現時点では、全日本に選出されるには日本のチームに所属していなくてはならないからである。現在では、野球のメジャーリーグで活躍する日本人選手が次第に増えており、サッカーでもイタリアのセリエAで中田選手が大きな活躍をしている。バレーボール選手でも、チャンスがあればと思っている選手は少なくないはずである。しかし、その夢をかなえるには非常に難しい環境になっているのが現状である。

この不況の中で、チームの休廃部により、能力がありながらバレーボールを続けられない選手が出てくることは今後も避けられないだろう。その観点からも、選手が積極的に外国のプロリーグで腕を磨けるような環境を整えるべきである。


また、男子準決勝リーグが終了した翌日の朝日新聞には、「上質の声援こそ競技の力に」というタイトルで、次のような内容の記事が掲載された。

女子に続き日本男子も世界選手権最悪の順位となったが、試合会場にそのような雰囲気はなく、相変わらずの大歓声。
元サッカー日本代表の水沼貴史氏は、この応援に対し、「熱心だけど、重みは感じられない」との感想。勝っても内容によっては罵声を浴びせられるような競技の常識からすれば、負けた選手に笑顔で手を振る心理はわかりにくい。
その記事では、この後、セリンジャー監督(発言当時はオランダ男子代表監督)の話を引用している。
「私がオランダのファンやマスコミにお願いしたのは、技術や作戦の面から勝敗を考えてほしいということ。そういう批評は選手にも有益だ」

私もそのような技術的な見方ができるようなファンになりたいと思っているし、そのために生の試合観戦もしている。今から思うと、前回(第4回)のVリーグでは全くどうしようもない記事を書いていたと思う。その点は深く反省している。

しかしながら、そのようなファンは降って湧いてくるものではない。育てるものである。そして、現在の協会あるいは強化委員会のやり方には、全日本のチーム自体の強化という面でも方向性が見えないことが多いけれども、ファンの育成という観点でも方向性が見えない。
私がネット上で存じ上げているファンの方々、ふだんからお世話になっている方々は、十数年来あるいは二十年来のファンという方が多い。そのようなファンの多くは、それぞれに鋭い視点と意見を持っている方である。しかし、90年代の新規のファンで、そのような技術的な見方のできる人がいったいどれだけいるだろうか?

バレーボールという競技そのもののファンでなければ、技術的な見方などできない。そして、他のページの記事の繰り返しにもなるけれども、そのような「本物のファン」を育てるためには、いかに質の高いプレーを多く見てもらうか、これに尽きると私は考えている。これ以外の方法などない。日本の国内リーグから外国人選手を締め出すとは、これに全く逆行するものである。
この観点からは、現在の世界大会放送のあり方も根本的に変える必要がある。


結局鎖国反対のキャンペーンのごとくなってしまった。しかし、考えれば考えるほど、外国人選手の締め出しは、全日本の強化という観点からもありとあらゆる意味で逆行するのではないかと思われてくるのである。

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