破産する未来                                   

 「正直言って、政治家が心配するのは次の世代より次の選挙の方だ。目の前に大きな危機が訪れない限り、彼らは襟を正そうとはしない。それこそ正気の沙汰とは思えないだろうが、できれば早い時期に経済が危機的状況に陥るのを待つしか、我々に望みはない。現政権が明らかに、できるだけ早くその日が来るよう『最善』を尽くしている。減税を三回も行い、メディケア給付を大幅に増やす法案を採択し、裁量的支出を増やした。この過程で彼らはブードゥー経済学の無効性を実証した。債権トレーダーたちは気づき始めたようだ。長期金利は少しずつ上昇し、ドルは下がり出した。金利がアメリカの財政状態を反映して二桁に到達すれば、政治家はその結末に気づき、恐ろしい見通しを打ち消すために改革に乗り出すだろう。もちろん改革とは、歴代の無責任な政府が過去にやってきたようなインフレ昂進策、すなわち、ドル紙幣の増刷だ。」 (「破産する未来」R・J・コトリコフ/S・バーンズ:日本経済新聞社)


 「破産する未来」はアメリカでのベビー・ブーマーがリタイアを迎える中で、「世代会計」が明らかにしたアメリカ経済の破綻を救う進路を示した著書です。日本の財政状況はアメリカよりはるかに悪く、国家の潜在的債務はすでに1000兆円を超えていると言われている。しかし、この状況を危機的状況として政治家は取り上げたがらず、未来永劫に日本経済は正常な状態を維持し続けられるように国民には思わせている。我々国民はこれを信じてよいものだろうか。
 日本のベビー・ブーマー達が退職するときに支払われる退職金の原資はどのような形で保有されているのだろうか、基金がそれらを債券や株式で保有されているとすれば、彼らがリタイアし始める2007年以降、それを現金化することを迫られて債券や株の暴落は起こらないのだろうか。国債の暴落が起これば、金利で国はたちまち債務不履行になるのではないだろうか。そんな心配をしなくても良いのだろうか。
 衆院選挙が郵政民営化を廻って行われている。政権与党は郵政民営化は改革の本丸と位置づけ、それの可否を問うものだと言う。郵政民営化によって何が起こるのかは明らかでない。改革に賛成か、反対かを叫ぶだけで進路と行く先の明確な姿は見えてこない。郵貯、簡保の資金300兆円が市場に流れ出し、経済が活性化されると喧伝されているが、この大部分は国債や財投債になってどこかに使われて仕舞っており、保全されてはいないと思うのだが、果たして言われるように流動化される資金なのだろうか。日本銀行が紙幣を増刷し、この資金の肩代わりをしなければ資金は市場に流れないのではと思うのだ。国は借金を返すあてがあるとはとても思えないのだが。


 「人は水に溺れても水の高さが口に達する瞬間まで生きている」とコトリコフは言っている。大量のマネーに浸かっている日本は、まさに現在、この「溺れる直前」に近い状況にあるのではないか。巨額な政府の請求書(巨額な既存ならびに将来債務)とこの大量の日銀マネーの存在を考えれば、現在のデフレ水位が、いつか近い将来、「口に達する」インフレ水位に変わるのは必至ではないか。むろん、政治が覚醒し、規律や道義が蘇れば話は別なのではあるが・・・・・」。(斉藤精一郎 同書解説)


 物事は楽観視して今を過ごすより、悲観的にみて対応を考えた方が正解とおもえるのだが、我々に今出来ることは国民の金融資産1400兆円が紙くずにならないことを願うだけだ。