日が暮れた頃、ニコモが戻った。「こっちですこっちです」「ん」ガイガーが反応。「メシか」「南海岸に夫婦ガ崎というのがあります。燈台のある岬だそうです。運がよければ雷竜太に逢えるそうです」「りゅうらいたに逢ってもショーガアルマーニ」と、あくびまじりに選外。「じゃなくて雷竜太ですよ、らいりゅうた。コモドオオトカゲの名前です」「雷竜、タマゴ盗まない」突然振り向いてトリケラの奥さん。「で、でも、そういう名前なんですよ。さあ行きましょう行きましょう」「しかたないなぁ。行くかぁ」と、またあくびまじりに選外がつぶやいたとき。回転子が「ちょっと待って。何か聞こえる」

「わしにも聞こえたぞ」茶碗風呂から上がりながらアイボール先生が同意した。「ふん。俺にも聞こえてきたぞ」と、ガイガーが全身にひっついた砂を叩き落としながら言った。「あのゴロゴロいってるのは何だ?」すでに太陽は沈み、不気味な静けさ。先ほどまで続いていた微かな虫の鳴き声も、ぴたりと止んでしまっている。その沈黙の中に、太古からの呼び声ともつかぬ唸り声がろんろんと響きわたる。「来ました」と、静かにトリケラの奥さんが言った。「私の敵が来ました」

「では闘いなさい。わしらは避難するから」アイボールは、ぷるぷると体を震わせて「ねずみ男、その岩の陰に隠れるのぢゃ」「お、おれも隠れよう」「私も」ネズミ男も、間淵夫婦もサッサと岩陰に隠れてしまった。ひとり悠然と敵を待つトリケラ夫人。まぎれもない大型肉食動物の唸り声が迫る。
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©Kunio Yoshikawa 1996,2004