69 「参政権要求運動」考

最終目標は国政参政権

 Hさんは「在日朝鮮人が日本に暮らし、帰国しないで(外国籍のまま)地方参政権を持つようなありかたがあってもいいんじゃないか」とおっしゃっています。これは地方自治体については定住外国人にも参政権を与えてもいいという趣旨と思います。

 しかし在日朝鮮人で参政権要求の運動を担っている人はそうではありません。徐龍達氏(桃山学院大学教授)は「とりあえず地方参政権を実現したうえで国政参政権を考えよ。」と主張しておられますし、在日党の党首の李英和氏(関西大学助教授)は「地方参政権と国政参政権を分けて要求するのは前代未聞、参政権という概念が生まれた時から国政への参政権と地方参政権というのはセット」と主張しています。つまり最終目標は国政参政権であるという考えを明確にしています。Hさんは「地方参政権ぐらいはいい」と思っていても、運動側は「地方参政権では不十分だ。国会議員選挙も参加させよ。」といっているのです。そして今の法制度上、国会議員は日本の総理大臣を選ぶことになっているのですから、彼らの主張は日本の最高責任者決定に関与するということになります。従って非常にスゴイものです。

外国人は本国の参政権がある

 ところで外国人はたとえ定住していても本国の参政権を有しています。フランス人は大使館や領事館に届け出ると本国の大統領選挙に投票できるそうですし、海外に居住する日本人も同様です。

ただし在日韓国人の場合は今のところ本国の参政権はありませんが、彼らが本国に帰国するとすぐさま大統領選挙や国会議員選挙に投票あるいは立候補することができます。実際に在日が帰国して韓国の国会議員になられた方はおられます(権逸氏など)。つまり在日は韓国の参政権を潜在的に有していることになります。また北朝鮮の場合、国会に相当するのが人民会議、国会議員に相当するのが代議員ですが、北朝鮮を祖国とする在日はこの代議員に立候補することが建前上可能です。現在在日のままで北朝鮮の代議員になっておられる方は6人(1990年ごろに聞いた話)だそうです。

 つまり在日は韓国の参政権を潜在的に有し、あるいは北朝鮮の参政権を現実的に有しているということになりますが、その彼らが日本の参政権を得ようとすることは、やはり疑問が出てくるのではないですか。彼らは日本に同化されてしまって、韓国・北朝鮮を祖国とする外国人であるという自分の客観的立場を自覚できなくなっている、という私の考えは誤りではないと思います。

地方自治体は権力機構

 ところでHさんは「住民自治の視点から地方参政権があっていい。」とおっしゃっています。しかし地方自治体は住民自治の組織ではなく権力機構の一つです。それは町内会やマンション管理組合のような自治組織ではなく、国家権力機構の分業組織の一つであるということです。自治体を「住民自治の視点」のみから見ることは大きな疑問です。従ってこの視点から地方参政権を考えるのには、私は賛成しかねるところです。問題点は日本の権力機構の意思決定に外国人を参加させることが妥当かどうかということと思います。

地方参政権の中身

 次に在日外国人に地方参政権を与えてもよいと考えたとしても、その中身が問題です。すべての地方参政権(市町村議会議員、市町村長、都道府県議会議員、知事の選挙権と被選挙権)なのか、それともその一部なのか。もし被選挙権含めてすべての地方参政権としたら、外国人の知事さんが誕生することがありえることになります。前述のように外国人は本国の参政権を潜在的あるいは現実的に有しているので、極端に言えば北朝鮮の代議員兼知事というのが法律上はあり得るということになります。果たして知事の持つ権限や職務からしてそれは妥当なものかどうか議論しなくてはなりません。またもし一部の地方参政権だけ認めようとするのなら、なぜ一部であって全部でないのかを明らかにする必要があります。

参政権要求はダメもと

 在日の参政権要求は煮詰めねばならない課題が多いのですが、運動の側がその課題をきっちり勉強して説得力のある主張を作ろうという姿勢は感じられません。ダメでもともと、何でもいいからとりあえず要求しておこう、理屈はそのうちに考えればいい、というような安易な考えがあるように思えるのです。

 

(追記)

 10年程前にミニコミ誌で書いたものの再録。地方参政権容認論のHさんへの反論です。一部加筆訂正。

 

(追記)

「嫌韓流」考

1、『マンガ嫌韓流』が話題になりました。私自身はこういう類のものを好まないのですが、話題になっているので購読し、さらにこの本について『嫌韓流の真実』(宝島社)というものが出ましたので、これも購読しました。
 『真実』27頁上段に、石倉雅子という三世の方が、これについて
気になったのは在日韓国人が韓国での選挙権を『潜在的に認められている』という記述です。調べてみたら、そんなことはありませんでした。
として、『マンガ』の作者(山野車輪)は在日を分かっていないと批判したところがあります。
 これは『マンガ』の187頁下段にある
光一も韓国に戻れば選挙に参加できるし立候補だってできるんだぜ」「実際在日韓国人が帰国して韓国の国会議員になった例もあるし」「つまり在日韓国・朝鮮人は潜在的に本国の参政権を有しているのだから
というせりふのことと思われます。
 そしてこれは、おそらく拙論第69題のなかの
ただし在日韓国人の場合は今のところ本国の参政権はありませんが、彼らが本国に帰国するとすぐさま大統領選挙や国会議員選挙に投票あるいは立候補することができます。実際に在日が帰国して韓国の国会議員になられた方はおられます(権逸氏など)。つまり在日は韓国の参政権を潜在的に有していることになります。
をほぼそのまま使ったものと思われます。
 つまり拙論を山野氏(『マンガ』)がほぼそのまま利用し、これについて石倉さん(『真実』)が「そんなことはない」と否定した、ということになります。しかし、どこがどう間違っているのか、彼女は記していません。


2、在日韓国人は日本の永住権を持ったまま韓国に帰国しても、それは一時帰国に過ぎませんので住民登録ができず、従って選挙権はありません。つまり日本の永住権を放棄しなければ、参政権を得ることができません。逆にこの手続きを取りさえすれば、参政権を得ます。これは単に手続き上のことで得られる権利です。拙論ではこのことを「在日韓国人は韓国の参政権を潜在的に有している」と表現しました。
 彼女はおそらく、在日のまま(永住権を放棄しないまま)では帰国しても参政権はない、という事実を勘違いして否定されたものと推測します。
 在日は所定の手続き(永住権の放棄と住民登録)さえすれば、権利として参政権を取得できます。
 なおかつて在日が帰国して韓国の国会議員を務められたのは、民団団長であった権逸氏です。

http://mindan.org/shinbun/010620/topic/topic_m.htm

2005年10月29日記)

 

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