65在日一世の家庭内暴力

 

 「うちのお母ちゃん、毎日お父ちゃんに殴られてた。血が天井につくぐらい殴ったこともある。ほんまやで。今でもその跡があるんやで。」

 

 「父親は母親をしょっちゅう殴っていた。それも棒で殴るんや。お膳をひっくり返すのもしょっちゅうやった。僕が高校の時、二階の階段の上から母親めがけてテレビ投げたことがあった。そのとき僕もさすがに、ええかげんにやめろや、と父親をとめたら、ひっくり返ってしまった。それから父親はおとなしくなって、殴ることはなくなった。僕のいない時に殴ることはあったみたいやけど。」

 

 「あそこの主人はええ人やったで。一回もヨメさん殴ったことないんや。ほんまにヨメさん大事にしてた。うちらの国では珍しいで。」

 

 これらは在日一世のおられる家庭の状況を聞いた時の一コマである。

 在日一世の家庭内暴力(夫による妻への暴力)はすさまじいもので、日常的に在日と接しない日本人にはちょっと想像ができないものがあると思う。

 数年前に殴られたために今なお足を引きずっているという一世の女性を見たことがあった。また昔頭を殴られたところが今も凹んでいるという話を聞いたことがあったし、髪の毛を掴んで振り回したためにそれがすべて抜けてしまい、大きく禿げてしまったという女性の話も聞いた。

 ただし上述のように、全く暴力のない家もなくはない。しかしそれがあまりに目立つくらいに、在日一世の家庭といえばすぐに暴力をイメージしてしまう。今はさすがに一世もお歳を召しておられるので、派手な暴力を聞くことはなくなった。

 日本という厳しい差別社会での苦労、悔しい思いを妻にぶつけているのだ、という解説を読んだことがある。日本という異国の地で、本来安息の場であるべき家庭で繰り返される夫の側の妻への感情の爆発は、はたしてそのような解説で済むものなのかどうか。

 総じて在日一世の女性たちは夫の暴力だけでなく、日本社会における民族差別、同胞社会における女性差別、文盲、貧乏、不安定な仕事と生活、夫の酒乱や博打、女遊び‥‥‥と何重もの苦労を生き抜いてきた。

 

(追記)

 拙著『「民族差別を闘う」には疑問がある』の一節の再録。一部改変。

 近頃はDVとか言って、日本の家庭内暴力が問題になっています。しかし私事の狭い昔の見聞ですが、こういった日本人の例よりも在日一世の家庭内暴力ははるかに激しく日常的なものでした。そしてこれが何ら問題にならない時代であったということです。

 ところで話は飛びますが、スウェーデンのアンナ・リンド外相を殺害した犯人のミハイロビッチは両親がセルビアからの移民で、父親がかなり激しい家庭内暴力を繰り返していました。このことについて「移民社会に蔓延する家庭内暴力」(2004120日付け毎日新聞)と評価されています。

 在日朝鮮人も元々は移民ですから、同じような傾向を持っていたと言えるかも知れません。そして日本に同化するとともに、それが減少してきたということなのでしょうか。

この問題をどう調査・分析すればいいのか、先行研究が管見では見当たりません。どなたかご存知であれば、お教えください。

 

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