99題 二院制の意義

参議院のあり方

参議院の性格について、良識の府とか衆議院のチェック機能なのに今はそれを失い「第二衆議院」と化したなどと言われている。ここから二院制の意義がなくなっているとして、参議院の廃止あるいは本来の参議院の役割を果たせ、などの意見が出てくる。

 

二院制の略史

 ところで二院制がなぜあるのかについて、これらの見解にはかなりの誤解がある。議会の歴史を簡単に概説する。

 議会はヨーロッパで国王を輔弼して国家の意思を議論する身分機関として始まった。本音で言えば、王の勝手なことはさせないという考えであった。この当初は僧侶・聖職者と貴族との二つの議会であった。このうち前者の僧侶らの議会は早くから機能を失った。替わって出てきたのが「市民」と呼ばれる職人・商人たちの第三議会である。

 中世欧州において貴族からなる議会と市民からなる議会との二つの議会の出現が、二院制の原点である。貴族議会はのちに「上院」「貴族院」「参議院」となり、第三議会=市民議会はのちに「下院」「衆議院」となる。

 両者はその出身身分や階級の違いだけでなく、役割を異にしていた。貴族議会は国家の「統治と外交」を担当し、市民議会は国内の「利害調整」を担当したのである。

 分かりやすく言えば、前者は政治制度のあり方やどの国と同盟するかなどを議論する場であり、後者は地域・業界の利益代表として様々な要求を行なって、その利害調整を議論する場である。

 別に言えば、前者は聖的、後者は俗的なのである。あるいは前者は国家の政治的建前、後者は国民の経済的本音ともいえる。

 

日本の二院制

 日本の参議院・衆議院も欧州のこの流れを受け継いでいる。

 

・天皇陛下の国会挨拶は参議院で行ない、衆議院では行なわない、

・参議院は半数改選なので空白がないが、衆議院は解散すると選挙によって次の議員が決まるまで空白がある、

    議員の立候補できる年齢が参議院は30歳、衆議院は25歳である‥‥

 

といった違いは、上述のようにかつての「統治・外交」を担当する貴族議会と「利害調整」を担当する市民議会の違いの歴史から説明できる。そしてなぜ二院制であって三院制でないのか、単にチェック機能だけなら裁判所のように三院制でもいいわけであるがそうでないのは何故か、をも説明できる。つまり二院制には積極的な意味があったのである。

従って参議院は良識の府とか衆議院のチェックとかではなく、本来は国家の統治・外交について議論する場だったのである。ところが参議院の前身である貴族院は早くからその役割を十分に果たせず、そしてそれは戦後の参議院も同様であった。一方の衆議院は利害調整だけでなく統治・外交を議論する場ともなっている。従って両院の違いが見えなくなってきた。ここから参議院不要説が生まれるところとなってしまったのである。

 二院制はその歴史を踏まえると、「統治・外交」と「利害調整」という本来の役割分担に戻るべきだと思っているのだが、どうであろうか。それとも時代の流れとして一院制に移行するのだろうか。

 

(追記)

 かなり以前のレポート原稿。お蔵入りであったのものを引っ張り出してきました。両院の役割分担を考察したのはいいとしても、大雑把かつ抽象的で、リアリティに欠けます。批判に耐えないのは当然ですが、問題提起として公開してみました。

 

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