第100題 「国籍条項撤廃運動」考
「公務員に朝鮮人がなって何で悪いんだ。外国人だからといって排除するのはおかしい。警察官や自衛隊に朝鮮人が入ったって何の不都合があるというのか。市役所の外国人登録事務も朝鮮人がやったっていいじゃないか。」
これは公務員採用の国籍条項撤廃運動をしていた民闘連(民族差別と闘う連絡協議会―後に在日コリアン人権協会と改称)の在日活動家に、公務員といっても警察や自衛隊、税務署、海上保安庁、入国管理局といった所もあるし、市役所でも外国人登録事務がある、すべての国籍条項撤廃はおかしいのではないか、と私が問うたのの対し、反論されたものである。彼の論理がそのままいけば、
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外国人にパスポートや外国人登録証を見せろと命令できる警察官や入国審査官、
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朝鮮総連を破防法団体として監視する公安調査庁、
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毎日君が代とともに日の丸を掲げる自衛隊員、
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密入国者等に国外退去・強制送還を命令し執行する裁判官や収容所・入国管理局、
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天皇家の世話をする宮内庁、
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学校で日の丸掲揚と君が代斉唱を命令する文部省や教育委員会・校長、
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帰化を担当する法務局、
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日本国民にパスポートを発行する旅券事務所、
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毎朝公共建物に日の丸を掲揚する市役所‥‥
こういったところの公務員に外国人がなってもいいんだ、ということになってしまう。国籍条項撤廃運動をする彼は公務員が国民の奉仕者だという幻想のみで運動しており、本来は権力の手先であるという本質的なところを見ようとする視点がない。
また民闘連は天皇制こそが民族差別だと主張したことがある。公務員は日本国憲法を遵守する義務があるが、そこには天皇制が明記されている。つまり天皇制に反対する民闘連は、天皇制を含む憲法を守るべき公務員に、朝鮮人を積極的に就職させようとしたのである。
公務員の国籍条項撤廃運動というのは大きな矛盾を抱えており、私はこの矛盾を言っていたのであるが、民闘連では誰も取り合わなかった。
民族差別と闘う運動はその論理に明白な矛盾があるのに、それを明らかにして議論することのない運動であった。今はどうなっているのであろうか。
(追記)
自費出版『「民族差別と闘う」には疑問がある』(1993年)の一節の再録。