第1回 初めてのビール造り
1.ビール造りを思い立った

 7月のある日、ビールを造ろうと思い立った。実は、これには前史がある。
 もともと、前田俊彦編『どぶろくをつくろう』、笹野好太郎著『趣味の酒つくり』などを読んで、酒造りについての多少の知識はあった。試みたこともある。市販のブドウジュース、パインジュースなどに製菓用のイーストを入れて、ワインを作ってみた。まずかった。酵母が悪かったのか、熟成が足りなかったのか、たぶん両方だと思うが、そんなわけで続かなかった。
 ところが先日、池袋で買い物をしていて、ふと思い出した。そういえば、東急ハンズには手作りビールの材料を売っていたはずだ。ビールはキットが充実しているので、おいしいのが出来ると読んだことがある。行ってみた。見つかった。
 モルト缶、ホップペレット、酵母、発酵容器、比重計、打栓器、これらをひととおりまとめたキットなどがたくさん売られている。よし、やろう。こうしてビール造りを始めることにしたのである。
 キットには10リットル用と20リットル用がある。私のビール消費量からいえば、当然20リットル用を選ぶべきである。しかし最初から20リットルを腐造させたのでは、打撃が大きい。それに瓶も足りない。そこで最初は、手持ちのペットボトルで少量を試作することにし、とりあえず8リットル用のモルト(1300円)を買って帰った。マニュアル通りに作れば、歩留まりを9割として、これで大瓶11本分ほど作れることになる。原価は1本あたり118円である。大瓶の標準価格は320円、酒税を除いても175円ほどだから、いかに安いかが分かる。しかも今回は小型の缶を買ったので、これでもかなり割高なのだ。
 モルト缶には酵母が付いてくる。余談だが、モルト缶には日本語のラベルが貼ってあって、「英文説明書に記されている300グラムの砂糖を添加する方法では、5%のアルコールで生じてしまい、酒税法違反になります。ご注意下さい。」と記されていた(笑)。

2.仕込みと第1次発酵

 今回使ったモルトは、ニュージーランド製の"Lager"である。もっともこれは、ラガー味というだけで、正確な名称ではあるまい。何しろ発酵温度の上限が32度と明記されている。真夏に作るには最適と思って選んだのである。
 まず、鍋でお湯を沸かし、そこにモルト缶の中身を入れて煮る。モルトは褐色の水飴のようなものだが、ホップが入っているので、なめると苦みがある。ここで砂糖を添加。標準は300グラムとのことだが、今回は総量を少なくすることを考えて200グラムにとどめた。しばらく煮たら、鍋ごと水につけて温度を下げる。
 今回発酵容器に使うのは、梅酒を作るのに使った焼酎「純」の2.7リットル入りペットボトル2個、そしてウーロン茶の2リットル入りペットボトルである。この容量を考えれば、仕込みは6リットルが限度である。それだけ今回は、標準よりモルト比率を高くすることになる。ペットボトルは消毒しておく必要がある。今回は消毒用のアルコールがなかったので、手元にあった35%の焼酎を使った。いいかげんだなぁ(笑)。
 水は、水道水を浄水器でろ過したものを使う。本来はもっといい水を使いたいところだが、それでは原価が2倍近くになってしまう。ペットボトルにまず3分の1ほどの水を入れ、モルトを追加し、さらに水を追加して分量にする。温度が高すぎないのを確かめて、酵母を添加。紙コップで蓋をし、後は待つだけである。
 翌日帰宅すると、液面が泡で覆われていた。発酵は順調のようである。色は普通のビールよりやや濃いめ。酵母が液中で活動しているので、全体が濁っている。

3.瓶詰めと第2次発酵

 5日後、泡は完全に消え、ペットボトルの内面を立ち上る泡もめっきり減った。底には酵母が沈み、液全体が透明になってきた。比重計がないので断定はできないが、発酵終了である。
 瓶詰めをする。この日のためにせっせと飲んだオランダビール、Grolsch----繰り返し使える蓋付きの瓶に入っていて、自家醸造する人の間ではよく使われている----の瓶を念入りに洗い、さらに内側をアルコールで洗浄、瓶の口と蓋の部分には消毒用アルコールを噴霧器で吹き付けて滅菌する。そこへ二次発酵用の砂糖を1本あたり2.5グラムほど入れる。次に、やはり滅菌したビニールホースを使って、サイホン方式で発酵容器から液を移す。11本でちょうどいっぱいになった。栓をして放置しておけば、追加した砂糖が酵母によって発酵し、炭酸ガスが生じて、泡の出るビールになるわけである。

4.試飲

 こうした瓶詰めしたビールは、普通2週間以上熟成させることになっている。しかしそれまで待つほど、私は気が長くない。瓶詰めして5日後、友人を自宅に招いて2本を試飲した。
 色はやはり濃いめ、泡立ちは市販のビールほどではないにしても、かなり豊かである。味は、やや酸味が強く、苦みは充分だが、色から想像するよりさっぱりしている。友人いわく「ドライビールみたい」。おいおい、それはないだろ(笑)。
 熟成が進めば、もっと美味しくなるはず。しばらく待って、また味見の結果を報告しましょう。おっと、次の本格的なビール造りのために、Grolschをせっせと飲まなきゃ。何しろ20リットル仕込むには瓶が40本以上必要なんだから。(1998.8.3)

 瓶詰めして12日目、2回目の試飲をする。今日は友人が二人、試飲に参加してくれた(たまたま別の用で来たのに、飲ませただけだが)。あいかわらずやや酸味が強いが、果実のようないい酸味になったようだ。苦みもまろやかになった。十分飲めるけど、まだ市販ビールに勝ったとはいえないな。ゲストの二人は、美味しいと言っていた。もっとも、自作にしては、という意味だと思うが。(1998.8.9)

 仕込みから24日目、3回目の試飲をする。期待したほど味の変化がない。2回目の試飲の時とほぼ同じ感じ。ま、最初だから、こんなもんですかね。けっこう試飲していたので、残るはあと3本のみ。(1998.8.20)

 仕込みからちょうど1ヶ月。味に変化はない。ともかく基本的に酸味が強く、すぐ飽きが来そうな味だ。結局、第1作は、なんとかビールができた、というところでしょう。(1998.8.29)

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