「私だって、人斬りのあなたと一緒に、この暑い、人気もない畑道を歩いて行こうというのですよ。」
「世の中の人間の多くは、うわべだけで人の値うちをはかってしまうゆえ、な」
「なれど、これからも、おのれでおのれに気をつけいよ」 「は……?」 「お前の躰の底にねむっているなまぐさい女の血、にな」
(ともかく……いますこし、さぐりを入れようとしているうちに感づかれ、引きさらわれたのであろう。ばかなやつめ。なぜ……なぜ、おれに早くから知らせておかなかったのか……)
「すでに、長谷川平蔵様はおれたちのことを見通していなさる。覚悟してくれ。おれも腹を切るつもりだ」
「あっ……て、てめえは彦……」 「いまは、長谷川平蔵さま御手の者だよ、安くあつかってもらうめえ」
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