■ 仕掛人藤枝梅安 (梅安冬時雨) ■

 「鰯曇」


「森田屋の仕掛けが終れば、おれには何処にも義理やしがらみが残らなくなる。早く、この仕掛けを片づけてしまい、さっぱりとしたい」


 「師走の闇」


「殺ることは殺る。それが仕掛人としての、おれのつとめだ。だが、兄のことは別だよ。兄は兄だ。おれはおれさ。いちいち、兄の敵を討つとか、うらみをはらすとか、そんなことにこだわっては却って仕掛けの邪魔になる」


 「為斎・浅井新之助」


「あの先生は、実にどうも大したお人だと、私にもわかるねえ。小杉さん」
「何しろ、備前岡山三十一万石の池田候が気に入れられて、十年も下屋敷で住まわせておくお方だからね」
「ふうん……」
「八十五歳におなりだそうな」


 「左の腕」


「剣を捨てたらどうじゃ、わしのように」
「は……」
「できぬか。できぬことはあるまい」
「私ごとき、つたない男でも、剣は心のよりどころなのでございます」


 「襲撃」


「もう一年か……そろそろ、こちらの仕掛けをしてもいいころだ」 「いつでもようござんすよ」
(絶筆)


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