『道化師』I Pagliacci の粗筋


登場人物:

カニオ:旅回り一座の座長(劇中劇/パリアッチョ役)
ネッダ:カニオの妻、女優(劇中劇/コロンビーナ役)
トニオ:道化役者(劇中劇/タッデーオ役)
ペッペ:道化役者(劇中劇/アレッキーノ役)
シルヴィオ:村の若者

 

プロローグ:

 トニオ役の歌手が観客の皆様へご挨拶を申し上げる。舞台上の出来事は作り物とお思いでしょうが、そうでもないのです。役者だって人間なんです。道化役者のみすぼらしい外見ではなく、その心をおくみとり下さい。それでは始まり始まり。

 

第1幕:

 8月15日、聖母昇天祭の祝日、村に旅回りの道化芝居一座がやって来た。今夜ここで待ちに待った芝居が上演されるのだ。村人は総出で出迎える。

 村人の飲みに行こうという誘いに、座長カニオと一座の役者ペッペは二つ返事で受けるが、道化役者トニオはまだ支度があるので残ると言う。それを聞いた村人は、それはカニオの妻で女優のネッダに言いよるつもりだと、カニオに冗談を言う。それを聞いたカニオは突然怒り出す。芝居の上では確かにそうだが、現実にそんなことが起こったら、結果は芝居とはまるで違うことになる、と凄むので、ネッダは不安に駆られる。

 祈りの時間になって、村人達は皆教会へ行ってしまった。

 一人残ったネッダは、自由へあこがれ、幼い日母が歌ってくれた「鳥の歌」を歌う。

 そこへ、道化役者トニオが現われる。自分が醜いのはわかっているが、ネッダが好きだ、愛していると切々と語る。相手にしないネッダ。しかし、興が乗ってきたのか、ネッダはトニオをからかい始める。からかわれたことが解ったトニオは怒り、俺の女になれと襲い掛かる。ネッダはそばにあった鞭でトニオをしたたか打ちのめす。憔悴したトニオは、必ず仕返ししてやると言い残しその場を去って行く。

 村の若者シルヴィオが現われる。ネッダはこのシルヴィオと愛し合っているのだ。二人は愛の歌を歌い、駆け落ちの約束をする。そこへトニオが戻ってきてその光景を見るや、座長カニオへ知らせに走る。そんなこととは知らない二人は、愛の余韻に浸っている。ネッダ「今夜からずっとあなたのものよ」。

 突然、トニオに先導されたカニオが飛び出してくる。間一髪暗闇に隠れて逃げるシルヴィオ。取り乱すネッダ。狂乱の体で逃げた男を追うカニオ。誇らしげに笑うトニオ。憎々しげにトニオに対峙するネッダ。

 取り逃がして戻ってきたカニオが、憤怒の形相でネッダに詰めよる。あまりの激しさに、ペッペが止めに入るが収まらぬカニオ。トニオが一計を案じる。ここは収まったふりをして芝居の支度をしましょう。そうすれば男は必ず芝居を見に来るでしょう。欺くのです。その言葉に成す術もなく従うカニオ。絶唱「衣装を付けろ」。

 

第2幕:

 開幕の時間が迫り、村人達が集まってくる。その中にはシルヴィオの姿も見える。木戸銭を集めながら、気を付けるようにと、そっと耳打ちするネッダ。

 芝居が始まる。

 ここは、パリアッチョ(座長カニオが扮する)の家。旦那の帰りが遅いのを喜んでいるのはパリアッチョの妻コロンビーナ(ネッダが扮する)。実はコロンビーナは浮気をしていて、相手はアレッキーノ(ペッペが扮する)という若者。今日もこれからアレッキーノがやってくる予定だ。ところが、食事の買い物へお使いに出した下男でウスノロのタッデーオ(トニオが扮する)がまだ帰ってこない。やきもきしていると、遠くからアレッキーノの歌う「セレナータ」が聞こえてきた。安心するコロンビーナ。

 そこへ、下男のタッデーオがお使いから戻ってきた。このタッデーオ、実は奥様のコロンビーナに気があって、いつか物にしてやろうと、ウスノロながらいつも考えている。今日は旦那が留守。この機会を逃すものか。あの手この手を使って迫るが、コロンビーナにはさっぱり相手にしてもらえない。

 アレッキーノが登場。二人が恋人同士だと知ったタッデーオは、二人を祝福し、終わるまで外で待つことにする。

 二人っきりになったコロンビーナとアレッキーノは、眠り薬で旦那のパリアッチョを眠らせて、駆け落ちしようと相談を始める。

 タッデーオが血相を変えて飛び込んで来る。パリアッチョが突然帰って来たのだ。何もかも知っているらしい。武器を捜してるぞ。

 アレッキーノは窓から帰って行く。別れ際のコロンビーナの台詞は「今夜からずっとあなたのものよ」

 袖で出番を待つパリアッチョ、いやカニオはその言葉にはっとする。先程暗がりの中で聞いた言葉と同じだ。怒りが再び込み上げてくるが、今は芝居をしなければならない。気を取り直すと、舞台に登場する。待ってましたと観客から拍手が起こる。

 男が居ただろう。いえ、居ません。酔ってるの。嘘を付くな。ここにいたのは下男のタッデーオよ。いいから男の名前を言え。・・・カニオの中で虚構と現実の区別が曖昧になってくる。突然カニオの中で爆発が起きる。「もうパリアッチョではない」。その迫真の演技に観客は大喝采。しかしそれは演技ではなかった。ついに自制心を失ったカニオの手に握られていたのは一本のナイフ。男の名前を言えという言葉とともに、ナイフはネッダの胸に突き立てられた。パニックに陥る観客。シルヴィオ助けて。最後の力を振り絞るネッダ。ネッダ、叫び声とと共に舞台に駆け寄るシルヴィオ。お前だったのか、よく来たな。ネッダの血を吸ったナイフはそのままシルヴィオの胸へ突き刺さる。

 茫然とナイフを落とし立ちすくむカニオ。

 トニオは観客に向かい「喜劇は終わりました」と挨拶。オーケストラの悲痛な叫びのうちに、幕。

 
 

少し解説です:

 最後の「喜劇は終わりました」という台詞は、通常、カニオが言う場合が多いのですが、本来はトニオの台詞です。ソンツォーニョ社のヴォーカルスコア、および、ドーヴァーのフルスコアでもトニオと指定されています。

 カニオが言う習慣になったのは、主役のカニオを歌う歌手が、自分でオペラを締めたいという要求があるためでしょう。または演出家により、トニオよりもカニオが言った方が劇的効果が出ると考えてのことでしょうか。

 1907年に録音された、作曲者レオンカヴァッロ自身が監修した全曲録音でも、すでに、カニオが言っています。レオンカヴァッロも認めていたわけです。しかし、彼はスコアを変更することはしなかったのです。


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