田中庸介の詩の仕事

Poetry Works by Yosuke Tanaka

Tama River, Octover '08

12/7/08




みかん狩

みかん園の入口は
県道のトンネルを背にいただいて
吠えないから余計に恐ろしい、
くらい眼をした犬がつながれている。
丘の農園は家族経営で
男っぽい顔の娘さんのライトバンと
蛍光イエローのベストを着たお父さん
のマイクロバスが東海道線の駅前から
お客さんたちを運んでくる、

みかんは自由に食べてくださいねえ
つかんで回すともぎとれますから
それからほれ、お土産のみかんは
こちらで用意して
人数分だけ袋に入れときましょうか
皮ですか、
皮だったらそこいら辺、地面に投げておいて

うっそりと植えられているみかんの林、
その林をかきわけかきわけ入っていくと
枝がぴんと跳ねて顔をひっかく、
みかんの実(重い、)が頭にごんごん、
邪魔になる、通せんぼ、
うるさい、大入道、許せ、ゆるさない
ゆるさないんだから、あっ石垣。石垣の向こうにも
こっちにもみかんがある、落ちたらけがをする
崖とジャングルだ、緑のみかんの樹に
あきらかに、オレンジのみかんがごんごん実って
丘の斜面に散開して。散開して。

今の時期はワセですよね、
品種はえーと三種類、にぎわっています。
南向きの、ということは太平洋を一望する
丘の斜面
だんだんと高くなっていく急斜面に
石垣を組んで
栽培される。クリスマスツリーの星みたいに
オレンジ色のみかんの実が、遠目にもはっきりと
ちかちか光っている。

寝不足のときには頭がよく働かない、
同じ樹でも、陽の当たり方でずいぶん実の色に
差があるみたい。黄色いほど甘いのよ。緑色だとまだまだ
すっぱいよ。みかん太郎は枝の先端でよくよく熟し、
だいだい色に漲っていた。全身でみかんの樹に抱きつくように、
両腕で抱きしめるように強く引きよせ、
みかん太郎をもぎ取った。

皮と身との間にくっついているところがある、
そこに指をいれ、無理やりはがして
皮をむく。皮は
肥料になるから木の根方へ返そう。
すじを取ったり袋を剥いたりしないで、
二つ割りにして、そのまま口へ放り込め。
そして残りを放り込め。
ちかちかちかちか、
ぎゅぎゅっとみかん太郎をつかんで回すと
するどい香りが鼻をつき刺す。
ごっつい南風が吹いて葉がふれ合って、
バーベキューの煙が吹き上げている。
みかん猫が二つ、コンクリートの上でまるまる太って。
真鶴岬を遊覧船がまわる、
そして帰っていく。

海のように、海の波のように、
寄せてはまた返す
運命のみかん狩り。口にほおばって
も一つ余計に欲張って。あとになって
何といわれてもいい、
もうぎらぎらと心の底まで精油にまみれ、
黄金のみかん太郎とたわむれよう。


(「ミて」91号)


▼2008年の詩の仕事

出版

詩集『スウィートな群青の夢』(未知谷)、こちら

『葛西琢也先生御定年記念文集』(私家版)伊藤氏貴、大高未貴、池田友子各氏と共著[制作]

詩誌「妃」14号[編集・制作]

詩「夏の河」英訳小冊子(私家版)[写真=川端知江]

作品

現代詩手帖8月号「怒り」9行

ミて103号「夏の河」89行

妃14号「武蔵野」159行

アンソロジー

東京ポエトリー・フェスティバル2008アンソロジー[詩「アフリカ」および英訳]

現代詩年鑑2009(思潮社)[詩「雪形」]

詩誌「Revolver」(ベルギー)136号[ヤン・ローレンス氏による詩「今日、電話をかけて」蘭訳/伊藤比呂美「道行き」共訳]、こちら

評論・エッセイ

ににん33号・連載「わたしの茂吉ノート」第12回「耳掻きの自然(一)」14枚

ににん32号・連載「わたしの茂吉ノート」第11回「白熱する精神(二)」14枚

ににん31号・連載「わたしの茂吉ノート」第10回「白熱する精神(一)」14枚

ににん30号・連載「わたしの茂吉ノート」第9回「すこんとつながる(二)」14枚

「まだわからない、心のふるさとへ」沼津市庄司美術館・太田宗平展画賛(エクリュの森)2枚

山崎方代歌集『右左口』一首評、歌誌「弦」5号(富山市)2枚

自作朗読

天童大人氏プロデュース「La Voix des poetes」(4月、8月ギャルリー東京ユマニテ)

東京ポエトリーフェスティバル2008招待朗読(11月明治大学、ヤン・ローレンス氏協力)、こちら

作品提供

あなんじゅぱす「アフリカ」(2008「旅人かへらず」所収) [作品提供、ひらたよーこ氏作曲、こちら]


▼2007年の詩の仕事

評論・エッセイ

ににん29号・連載「わたしの茂吉ノート」第8回「すこんとつながる(一)」14枚

ににん29号・エッセイ「『わたしの茂吉ノート』を書くにあたって」2.5枚

ににん28号・連載「わたしの茂吉ノート」第7回「清冽な水(二)」14枚

短歌往来9月号「カタルシスとその新しさー江田浩司と中村幸一の新作について」25枚

ににん27号・連載「わたしの茂吉ノート」第6回「清冽な水(一)」14枚

現代詩手帖6月号「岡井隆、わが一首」一首選

現代詩手帖4月号「中原中也とわたし」3.5枚

北冬005号「ファクチュアルな現在へ!」2.5枚

ににん26号・連載「わたしの茂吉ノート」第5回「夕暮れの鰻(二)」14枚

レクチャー

さまよえる歌人の会「若手歌人に贈る<現代詩>入門講座ー喩法と象徴詩」10月

自作朗読

天童大人氏プロデュース「詩人の肉聲を聴く!ポエトリーヴォイスサーキット」

(3月ギャラリーアートポイント、4月ギャルリー東京ユマニテ、10月、12月ストライプハウスギャラリー)

作品提供

「湖、」for「目から耳へ」by 後藤國彦+川村龍俊@中国茶芸館Blue-T(東京・下高井戸)11月、こちら


▼2006年の詩の仕事

作品

ミて91号「みかん狩」71行

讀賣新聞9月19日夕刊文化欄「すいか」29行

季刊「健康」2006春号「春の駅」20行

座談会

短歌ヴァーサス9号「短歌朗読は進化できるか?」荻原裕幸×田中庸介×田中槐、こちら

評論

ににん25号・連載「わたしの茂吉ノート」第4回「夕暮れの鰻(一)」12枚

ににん24号・連載「わたしの茂吉ノート」第3回「『むらむら』のゆくえ」11枚

ににん23号・連載「わたしの茂吉ノート」第2回「松花江の白い泡」11枚

ににん22号・連載「わたしの茂吉ノート」第1回「偉大なる素人」10枚

紀行

山の本58号・連載完結「五合目のいなりずし」第16回「なだらかに立ち上がる」12枚

山の本57号・連載「五合目のいなりずし」第15回「ことばを生ける」12枚

山の本56号・連載「五合目のいなりずし」第14回「天使に出会う」12枚

山の本55号・連載「五合目のいなりずし」第13回「バイケイソウに会いに」12枚

エッセイ

図書8月号(岩波書店)「ごつごつと疾風のように」10枚、こちら

岡井隆全歌集2(思潮社)月報「あざやかな重さ」3枚(再録)

短歌誌 pool 4号外部評「勇気と力」13枚、こちら

作品提供

ひらたよーこ「あなんじゅぱす」海外遠征ライブ6月、10月・パリ/「アフリカ」、こちら

自作朗読

クロコダイル朗読会(原宿、浜江順子氏プロデュース、10月)


▼ 2005年以前の詩の仕事はこちら


▼ これまでの主な詩の仕事

出した本

詩集『スウィートな群青の夢』(2008、未知谷)こちら

詩集『山が見える日に、』(1999、思潮社) [第5回中原中也賞候補作]、こちら

かかわった本

詩誌「妃」1-12号(1989-1992)/13号(2005)/14号(2008) [編集・制作]

『葛西琢也先生御定年記念文集』(2008、私家版)[参加・制作]

石川美南歌集『砂の降る教室』(2003、風媒社) [批評会パネリスト、レジメこちら]

佐藤りえ歌集『フラジャイル』(2003、風媒社) [五首選その他、こちら]

『エディフィカーレ・リターンズ』(2003、トランスアート) [エッセイを掲載、こちら]

錦見映理子歌集『ガーデニア・ガーデン』(2003、本阿弥書店) [帯文、こちら]

飯田有子歌集『林檎貫通式』(2001、ブックパーク) [批評会パネリスト、こちら]

枡野浩一編著『ガムテープで風邪が治る 水戸浩一遺書詩集』(2001、新風舎) [附録座談会、こちら]

山岡広幸小詩集『なないろ。』(1999、私家版) [編集・制作、こちら]

高岡淳四詩集『おやじは山を下れるか?』(1999、思潮社) [編集、こちら]

かかわった作品

太田宗平展(2008、沼津市庄司美術館)[画賛、こちら]

あなんじゅぱす「アフリカ」(2008「旅人かへらず」所収) [作品提供、ひらたよーこ氏作曲、こちら]

トラフ建築設計「ブーリアン」(2007) [建築インテリア、JCDデザインアワード2007金賞

日経アーキテクチャー商空間アワード2007グランプリ、施主側監修、こちら]

生命誌記念館/東京シネマ新社「体を支える運び屋さん」(2005) [ビデオ19分、第47回科学技術映像祭文科大臣賞他、協力]

あなんじゅぱす「オフ、」(2001「ことばをうたう」所収) [作品提供、ひらたよーこ氏作曲、こちら]

声の同人誌 [朗読テキスト提供、こちら]


連絡先

yosuke(-at-)tanaka.email.ne.jp

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